微風の蒼賢
世の中は栄枯盛衰であり。それは『モンスター』といえども例外ではありません。
かつては時たま出現していたものの。『ゾンビハザード』によって、完全にシェアを奪われた。
怪獣には稀に、昭和怪人モチーフとして、定期的に登場していましたが。栽培農家の方や料理人によって、かつての能力を封印され滅ぼされてしまった。
今後、おそらく特撮での出番はなく。マイナーなホラーの脇役・ウィルスの代役としてのみ登場する。
『キノコ』のモンスターは、そういうあつかいになっていると愚考します。
〔『アルケミックホイール』によって少量の薬草部位から、たくさん『薬効』を抽出する。
『薬草採取』を行った、その場で薬草が新鮮なうちに『薬効』を抽出してしまう〕
アヤメが出した、その依頼は正直うまくいかなかった。
下級シャドウと並の冒険者では、あらゆる面で実力差が大きい・・・という理由もある。
だが最大の理由は冒険者の心構えだろう。
ただでさえシャドウと比べ、冒険者たちの『薬草採取』を行う経験が低いのに加え。冒険者たちにとって『怪物退治』こそ、稼ぎ頭の依頼であり。『薬草採取』は見習い・ロートルの冒険者が行うものというイメージがある。
これではアヤメの望む〔植生を破壊せず、効率よく『薬草採取+薬効の抽出』を行う〕、という流れを作るのは難しいでしょう。
〔まあ、それは根気よく考えるとして・・まずは冒険者に『余録』を渡さないと〕
それぞれの冒険者が欲しがりそうな『薬』を調合する。傷薬・虫除けに薫香油を、冒険者が持ち帰った『薬効素材』を使って調合していく。
満足のいく依頼結果では無いとはいえ〔失敗したら報酬ゼロだ〕、というのでは“欲深な冒険者ギルド”と同レベルでしょう。かと言って成功もしていない依頼に、報酬全額を払っては侮られてしまう。
だからアヤメは『抽出した薬効』の分量・成分の結果が目に見える、様々な安い『薬』を調合し。『余録』の形で渡していった。
「あのー~アヤメ様?。そろそろ、次の予定時間がせまっている次第でございますが~:~」
「なにを言っているの?まだ日暮れまでは、時間があるでしょう」
「「「・・~:・」」」
「・・・そうでございますね~」
下級シャドウたちは何のために解体所の一画を借りたと思っているのか。邪魔が入らない作業場所を確保するためであり。いずれは解体所のとなりに『(薬草にとどまらない)植物の調合+加工所』を建設させる。
そのためのささやかな宣伝広報をするために、料金を払って借りたのだ。短時間で終わらせるなど、もったいない。
そもそも準備運動の『調合』は終わったばかりだ。本番の『練丹』はこれからになる。
冒険者ギルドから離れた建物の裏。そこでは二人の冒険者が、頭を悩ませていた。
「おい・・・もらったこの『魔術薬』、どうすればいいんだ?」
「報酬としてもらったんだ。〔好きに使っていい〕、ということだろう」
「そりゃ、そうだけどよぉ・・・高く売れそうな感じはするんだが、これは売っていいものなのか?」
「・・・止めたほうがいいだろう」
「だよなぁ・・・」
お偉いシャドウ様が『駄賃』のつもりで、様々な『薬』を冒険者たちに渡し。『少量の高級薬』を得た賢い冒険者たちは、そのあつかいを計りかねていた。
理由は一つ、この世界が物騒で非情だから。
高額品の値段は『素材+加工の技術料+諸々の護衛料金』となっており。人の命を左右する『高級薬』は当然、この高額品に該当する。
そして平和な国なら高額品を売る、『店舗』の警備さえ強化すればいいのだろうが。『悪徳の都ウァーテル』が裏社会を牛耳っていた。“他人の命がパンに見える”などとささやかれる、物騒な国々において。
『素材』を採取した冒険者は帰り道から、“山賊の待ち伏せ”に対する警戒が必須となり。薬師・鍛冶師たち技術職の『所在』に関してすら、『情報料』を払わねばならない。そうして作られた『高級品』が店舗に並ぶ頃には、『護衛料』が加算に追加を重ね。
地主・下級貴族たちが、それらを得るためには増税をかける。『蓄え』を放出して、経済的な隙をさらす。あるいは“奴隷売買”などの裏稼業に協力して、“臨時収入”を得るしかない。
要するに盗賊ギルドに協力し続けるしかないとも言える。
「『魔術薬』を売りさばいたら、出所を尋ねられ・・・」
〔盗賊ギルドに協力し続けるか・:・・〕
〔シャドウの姐御に“盗賊の同類”あつかいされて、始末されるか・:・・・〕
〔〔冒険者ギルドなんぞ、当てにならないしな~ー~〕〕
どちらにしてもロクな事にならないだろう。
普通の冒険者ならば〔珍しい薬を手に入れた、ラッキー!〕、ぐらいに考えて早急に使い切るべきなのだろうが。
「そこの冒険者様。ふところにお持ちの『薬瓶』を、私にお売りいただけないでしょうか?」
「「・・・-:~・-」」
魔力持ちであることを隠そうともしない、御令嬢?の貴族様?:?が冒険者二人の前に立ちはだかる。
否、C.V.様は礼儀正しく話しかけているのだろう。だが冒険者二人の生存本能が怯え震え、モンスターを勝手に連想しているにすぎないのだが。
「どうかよろしくお願い申し上げます」
当然、彼らに選択肢などあろうはずも無く。高価な宝石を得るという臨時収入で、二人は高い酒を飲んで眠りについた。
『アルケミックホイール?』という術式がある。回転筒の『遠心分離』によって、『薬効』と不純物を分離させる『術式』なのですが。この『術式』はまだまだ未完成です。
例えば植物の『薬効』だが。同一部位に2種類以上の『薬効』を持つ場合、『アルケミックホイール』でその分離はできない。『錬金輪術』は比重の違う、『軽い薬効』と『重い不純物』を分離するだけであり。『軽い薬効のある植物液』の中に2種類以上の『薬効成分』があっても、その分離はできないのだ。
他にも『植物素材』をきざみ、すり潰す。そういう手間をかけてから、素材を回転筒に投入しないと『遠心分離』はできない。
「C.V.様なら『魔術』で植物素材のすり潰しは可能でしょうし。私たちシャドウも軽い『身体強化』で植物をきざむことはできる」
だけど他の依頼と同時に『薬草採取』を行う冒険者が、モンスターの領域でさらに『植物のすり潰し』を行うのは危険が高く。そもそも『薬品調合』の基礎すら知らない冒険者では、細かい『薬草』の選別を行うのは難しいでしょう。
「やはり『遠心分離筒』だけを渡して楽をする。植生を保ちつつ『薬効成分』を効率よく得るには、相応の『対価』が必要ということね」
「「「「・・・・っ」」」」「「・^・っ!?」」「「「・・-:-っ!!」」」「なっ!?」
言の葉をつぶやきつつ、アヤメは魔力を高めていく。壁・床などの大質量にそって吹く『風属性の二歩』を越えて。
四大属性の中で、最優の感知能力を持つ『風属性の三歩』を踏みだし。
「『アルケミックホイール』を筒ではなく、『魔術円陣』で拡大化しつつ起動・:・
続けて『風属性の三歩』を用い、『積層魔術円』を構築し『薬効』の濾過を行う!」
感知能力に優れた『風属性』。だがその『感知能力』は感覚的なものであり。『射程・速さ』には優れているものの、情報の『分析』をまともにしていない。
〔放出した『風の魔力』が捕捉したモノの情報を入手する〕・・・こんなざっくばらんな『感知』では、『感知能力ナシ』の脳筋にしか通用しないでしょう。
だから『鑑定能力』のないアヤメでも、こういう鑑定モドキを行使できる。
『風は鳴り唄い、三大を奏で 風火は熱して冷まし、流転せよ
風水は匂い薫り、方位を示し 天地の竜声は、万象を覆い透す
秘蹟の虹よ 風精の肌に刹那の影を表わせ 静嵐霊晶!!』
風属性によって『感知』を行う。それは『受動』ならば音・温度に香りの感知を行い。聴覚・触覚に嗅覚の『三感覚』を網羅できる。
しかし『感知能力者』同士の戦いや、『賢者の石』を錬成するにあたって。獣の劣化版な『感覚』の数だけそろえた程度のものが通用するわけがない。
〔音波の探査、冷熱の変化、極微量の匂い粒子を捕捉しつつ。小雷で炙り、魔力で錬成を行う〕
風・大気の中にある『音・温度変化・香り』、それぞれを精査し錬成する『魔術円』を展開し、アヤメはそれらを積み重ね『筒状』にする。
それらは冒険者たちが集めた『薬草』を解析し、『濾過』を行う『魔導球』と成り。最奥・深部に凝縮された魔力によって、|『薬効』を結晶化させた《霊薬を作った》。
「「「「「「「「「・・:・・・っ`」」」」」」」」」
「・・・・・あの~、アヤメ様?それはいったい、なんでございましょう?」
「見て、感じて、わからない?」
「「「「「「「「「「・`・・・・・」」」」」」」」」」
沈黙する部下と冒険者たちに、アヤメはゆっくりと告げる。
「『薬草』の採りすぎで植生を踏みにじり。“暴行亜人”に草花を貪り喰わせ。冒険者ギルドの不手際によって台無しにされてきた『お宝』の一つ。
『蒼賢の石』と呼ばれるモノよ」
「「「「・;・`・・~・」」」」「「「「「「『蒼賢の石』・・・」」」」」」
シャドウ4人の何か言いたそうな表情を無視して、アヤメは『思考加速』に入る。
かくして都市ナーガムと、その周辺は“嵐(人災)”が吹き荒れることになった。
某国民的RPGに登場する〔甘い息を吐く人面キノコ〕。それが私のイメージする『キノコモンスター』です。
そして『毒キノコ』は昭和怪人のモチーフとして、それなりに登場しているようでした。
今でこそ『ゾンビハザード』が村~世界を席巻する作品が多いですが。かつては妖樹・キノコモンスターが無数に生えて町を占領したり。
〔キノコモンスターが人を襲い、次々と人々をキノコ人間へと変えていく。菌を着床させて、人をキノコが生える原木状態にする〕という類の話があり。その貪欲さ不気味さは、『アンデット』に勝るとも劣らないものでした。
しかしそういう『凶悪キノコモンスター』は令和どころか平成にも登場していない。せいぜい『キノコ兵士・妖精』という感じに登場して、ヒーローの敵ではない。
キノコ怪人は昭和の古いモンスターと化しています。何故か?
理由はトラウマな風評被害をもたらすから。『マタンゴ』というキノコホラーを観た人は、怖くてキノコ料理を食べれなくなったとか。その被害がどれほど広がったか知りませんが。
農家・料理人としては〔ふざけるな〕、としか言いようがない。リアルなキノコ栽培・キノコ料理を貶め妨害するもの。
それが『凶悪なキノコ怪人』であり。世相を読み、配慮のできる皆さんは〔『キノコ怪人』を適切に封印なさった〕、と推測します。




