微風と廻る円盤
幕末、江戸幕府の『資産』に関して、私は首をかしげることがあります。
純真な子供なら〔へ~、すごいな!〕と感動するのでしょうが。性根の曲がった“オトナ”としては、あの『資産』が大量に残っていたことを信じられない。
その『資産』とは、老中『松平定信』が貯めるよう命じた。飢饉対策に米を蓄え、インフラ整備に積み立てた『資金』です。歴史では明治時代になっても残っており、東京の町作りに使われたとのこと。
しかし『松平定信』が老中として権力を握っていた時ならば、まともに活用されたでしょうが。
彼を失脚させた十一代将軍家斉はぜいたくが好きであり。家斉がもちいた幕臣の性格・所業はおして知るべしです。
そういう連中が積み立てられた『資金』を横領もせず、使い潰さない。そんな奇跡がはたしてあるのでしょうか。
世の中には『カルチャーギャップ』というモノが有り。〔命を賭けて名誉を守る〕、などと言う者とつきあう際には、『カルチャーショック』が開戦の火蓋になることすらある。
そのため異邦人・別階級や『ヴァルキリー』と接する時には〔【寛容】こそが美徳〕、という空気を構築するのは必須であり。特に立場の弱いシャドウ一族にとって、戦闘力より〔【寛容】の雰囲気作り〕こそ重要という状況は珍しくなく。
それはシャドウの侍女頭を務める、アヤメとて例外ではない。それに失敗すればこういうことになる。
「『チャクラムアーム×4』+:-・・っ!」
「・・・っ」
四方から『魔力の戦輪』が殺到する。上中上下から角度をつけて『チャクラム』×4がアヤメを包囲し、その死角からマイアが一突きをうかがう。
「くっ・・ー『双竜爪』!」
それに対しアヤメは『地伏の風刃』を無数に放ち、マイアの接近を牽制しつつ。体捌きで、何とか『チャクラム』の包囲から逃れようとする。
得意の『旋風閃(加速の身体強化)』を使えば、包囲網から逃れることはたやすい。だがそれをすれば加速を停止させた瞬間を、マイアの凶手に突かれるか。
『:(●)^:~』
「・・・:っーー~ー」
マイアの『感知能力』によって、『旋風閃』の機動を観測・記録されてしまう。
それは『旋風閃』を使う、大半のシャドウがC.V.に機動を読まれてしまうリスクの発生であり。侍女頭のアヤメとして、絶対に看過できないことだ。
「ならばっ・::っ」
「っ!?」
アヤメは受け身を取りつつ地に伏せる。そうしてほこりまみれになることを承知で、床を転がり続けた。
『双竜爪』の乱舞する床を、『風刃耐性』を解除して転がり続け。肩口と前髪が切り裂かれる。
「正気かっ!?そんなことを`・」
「っ・『旋風閃(影)!』」
動揺したマイアの隙をついて、加速動作にアヤメは入る・・・と見せかけ『影』で『感知能力』を覆い妨げ。その刹那に、アヤメは放たれた矢のように飛んだ。
「・・!?:!『チャクラム・-』」
『遅いっ・!』
『言霊』と共にすり抜けざまの掌打を打つ。その感触からダメージが通っていないと確信し、アヤメは素速く体を入れ替え。
「-:・:」
「なっ!?」
背中でマイアの身体を優しくずらす。衝撃を与えないよう押し出し。
『複数のチャクラム』が戻り回収する場に、半瞬タイミングをずらした移動をマイアに強制した。
「このっ・・・」
「ーーッ走踏」
そうしてアヤメはマイアの機動力を奪うことに成功した。
「それで・・・私はどんな不始末をしたと言うのかしら?」
「〔大規模な魔術・儀式を行った者には、ある程度の時間をおいて接しなければならない。
不用意に近づく者は、儀式後の消耗した術者を狙う。刺客と見られても文句は言えない〕、というマナーがC.V.にはある。
そして『ダークタービュランス』を発動し、消耗している私の射程内に貴女は入ってしまった」
〔だから大規模な魔術の使用条件を満たす誓約のため、封印していた『飛翔する戦輪』を使い。
C.V.マイアは正当な理由で、アヤメを攻撃した〕
「・・・・・ー^~ー」
穴だらけなマイアの主張に、アヤメは冷めた視線を向ける。
身を守る正当防衛をふりかざすなら〔『魔力結界』なら配慮もするが、術の『射程』など知るか!〕〔そもそも『封印』が解けたばかりの『飛翔する戦輪』を(試し切りに)使うな!〕、とアヤメは言いたい。
そもそも“殺気を飛ばす、『感知・解析』を行う”といった不審行動をアヤメが行ったならともかく。
『特効』持ちの“賊頭目”を始末したアヤメは、【護衛対象】の身を案じつつも距離を取っており。『ダークタービュランス』の発動・詠唱後にも気を配っていた。
そんなアヤメに対して、『チャクラム×4』で先制攻撃を行ってきた。C.V.マイアに対し、アヤメは怒っていいはずだが。
「悪かった。シャドウの礼節を考慮すれば、日を改めて『試し』を行うべきだったのだろうが。
イリス様より〔段階をとばしてでも、早期に『魔術能力』を貴方たちに伝授する〕、よう命じられていた。それで無礼を承知で、『チャクラム』の一端を教える資格の有無を、試させてもらった。
護衛の礼も含めて、シャドウの希望を可能な限り聞こう」
「それはありがたいわね」
口ではそう言いつつも、胸中でアヤメはため息をついた。C.V.マナー・武人の意地と魔術師の主義が混ざりあい、変成している。
〔そんなカルチャーギャップは面倒くさい〕、と。
「それでどんな『魔術能力』を希望する?
シャドウの身体能力なら『戦輪体術』をすすめるが・・・」
「いえ、戦闘関連の『戦輪』はけっこうよ。というか既存の『チャクラム』は求めない」
『チャクラムアーム』はシャドウの言葉だと、『戦輪専用の念動手』となる。端的に『念動手』を使えなければ、上っ面を真似るだけになってしまい。
シャドウ一族に『念動手』を使える者がいない以上、『チャクラムアーム』の技を教えられても“小手先の技”を知るだけで終わってしまう。一族の利益にはまったくならない。
「だったら貴女は何を求める?」
「私が欲するのは仮の名付で『錬金輪術』の術式を完成させる。そのための援助を、まずはお願いしたい」
「『アルケミックホイール』・・・『遠心分離の術式』を今さら求める・・わけではないか」
様々な『錬金術』の道具に加え、拠点に行けば『魔力炉』『魔女の釜』を当たりまえに所持している。そんなC.V.にとって、今さら『遠心分離』など初歩の『錬金術』なのだろうが。
「シャドウ一族にとって、まずは『錬金輪術』を会得するのが重要です。
その後、世俗の利権を私たちがもらい。神秘の素材を聖賢の御方様に献上いたします」
「大きく出たな・・・」
「せっかくのチャンスですから」
〔そして密偵狩りのC.V.には、退場してもらう〕
こうしてアヤメによる先人の真似、あるいは盲点をつく企画が始まった。
“浪費家のトップ・佞臣”たちが、失脚した『松平定信』の積み立てた『資金』に手を出さない。まるで〔清廉な“悪代官”がいます〕というホラ話を聞いているようです。
加えて幕末の時代、政情不安になり。軍資金はいくらあってもたりない状態です。そんな徳川幕府の存亡がかかっている非常時に、その『資産』を放置することなどあり得るのでしょうか?
忠実でまともな幕臣でも〔非常時だから、白河公の貯めた『資産』を使うのもやむなし。薩長を撃退したら返せばいい〕、とは考えなかったのでしょうか?
そして明治政府・・正確には薩長連合の軍勢ですが、彼らは〔『松平定信』の積立金を使って、東京の町作りをした〕、などと発表したのでしょう?
〔負けた徳川家の財産は全て没収する。さあ東京の町作りをするぞ!〕、というのが普通だと愚考します。
江戸幕府の奸臣・賢臣の両方に加え。明治政府までもが『白河公(松平定信)の積み立てた資産』を正しく、当初の目的どおりに使い。それを明らかにしている。
〔二度の偶然は無い〕と某スナイパーも言ってますが。いくら何でも『白河公の積立金』に関する歴史は奇跡の連続であり、不自然すぎると愚考します。
そのため〔徳川家の埋蔵金を、『白河公の積立金』に偽装したのでは?〕、という妄想を私はしています。
そもそも『白河公の積立金』は、『天領』という江戸幕府の直轄領から集められた。全国各地にある『天領』から集められたものであり。本当に誠実な運用をするなら『東京の町作り』だけに使うのはNGなわけで。
『徳川家の埋蔵金』を発見・運用することを偽装する。幕末の血の気が多い連中が、埋蔵金探しという破壊活動を行わないよう。
『白河公の積立金(=徳川家の埋蔵金)』で東京の町作りだけをしたのかな~・・と私は妄想しています。