25.セイバーフォトン 3
戦闘を左右する魔術・異能を二つに分類するとしたら、どのように分類するでしょう。
私は強化と障害の2種類だと愚考します。自らの力を高める強化か、敵を無力化する封印術こそ、戦闘の鍵となりうる。
『魔術師』ではない者の感性・偏見からすると、遠距離からの『攻撃魔術』は戦闘と呼べるものではない。攻城戦を行う雑兵を、城壁の上から突いて転落させるようなものだと考えています。攻城戦という戦闘には違いありませんが、防衛側の兵士はたいした褒美をもらえない。
それが戦場・世間の評価であり。『攻撃魔術』を放つ術士も同様だと、愚考します。
盗賊ギルドの戦力が、イリスと名乗る剣姫によって蹂躙されていく。
それを目の当たりにしながらも。前衛たちの背後で督戦隊を率いる、ザレスは手を出しかねていた。
「クソッ!雑魚どもが‥小娘一人の足止めもできんのか」
口では悪態をつきながら。『魔術』が交錯する戦闘経験のあるザレスは、それが限りなく不可能に近いと理解していた。
人間は『視覚』に依存した生き物である。よって『視覚』を翻弄され、さえぎられるということは。それに依存した心身も翻弄され、妨害され続けるのも同然になるということだ。
『セイバーフォトン』
「ちくしょう、またっ!」「「ーー:^/*」」「囲めっ!囲むんだ!」
いくら強くても四方八方を囲めば、周囲からの攻撃に対応するのは困難になるというもの。数回はなんとかさばけても。軽傷・疲労の蓄積は大きくなり、いづれは敗れる。だから一人で大勢を相手にする時は、包囲を完成させない位置取りが必須条件だ。
「うわっ!?」「邪魔だっ、どけっ」
「うるせぇ、貴様こそどきやがぁぁぁ‼」「「「ひぃ*ぃ‼」」」
しかし今のところ包囲網が完成する様子はない。『セイバーフォトン』とやらは敵の目を完全につぶす閃光ではないようだ。だがタメが少なく小娘の剣が止まるタイムラグというものがない。
おそらく片目をくらませるか、錯覚をおこさせて攻撃の狙いをそらす。その隙に間断なく『斬撃』をたたきこんでいるのだろう。
それはザレスの切り札を放つ隙もないということだった。正門で戦った『情報は得ている』が、魔剣の類でも致命傷を与えられるかはかなり厳しい。うまくやれば『下位竜』を屠る威力を持つ切り札だが、一発限りの『大技』でもある。
「外したか」などというセリフは破滅への一歩だ。手柄は横取りされ、督戦隊を率いて雑魚を見せしめに殺した責任をとらされるだろう。そんな行く末はまっぴらごめんだった。
そんなザレスに聞き覚えのある声がかけられる。
「おいおい旦那。苦戦しているようじゃねえか」
それは援軍であると同時に刻限を伝える死神でもあった。
「・・・・・ッ!」
戦場の空気が変わる。イリスがそう感じた時には周囲の空気が澱み始めていた。
『アルゴスゴールド・フォトンライン』
それに対しイリスは用意していた感知能力を発動させる。
百眼の巨人『アルゴス』。監視者でもあった巨人の能力を劣化再現する。そのイメージによって周囲から次々と警戒網となる『光線』が放たれていく。
その発信源は『セイバーフォトン』によって攻撃された、兵隊たちの眼球だ。人間は誰もが魔力を持つ。そのため誰もが神の“生贄”に成りうるし。怪物たちのエサとして、極上の部類に入る。
そんな人間に『発光術式』の発信源と化す、呪縛をかけるのはたやすい。特に『発光の魔術』を蔑んだり。魔術と認識してない無防備な連中に、『術式』を付与するのは極めて容易だ。
『拡散・収束後に結界構築・・・・・ウルカとサキラの二人に接続』
『フォトンワードを発動』
〈イリス様、いかがなされました?〉
〈・・・・・〉
それぞれ問いかけ、緊張による沈黙をする。シャドウ二人の反応は分かれたが、その胸中は一致しており。ここが勝負所だと理解しているのだろう。
そんなウルカとサキラ二人にイリスは指示を出す。
〈本気ですかマスター⁉〉
〈何もこのようなところでなされずとも。いえ、できれば永久に秘匿していただきたいのですが〉
側付きの身分にそぐわぬ暴言が、シャドウ二人から飛び出す。だがそれらは『フォトンワード』によって行われ。熟練者でも一定の角度から見なければ、解読できない『秘匿通信』だ。よって彼女たちの暴言を咎める者はいない。
同時にその諫言を聞き入れる者もいなかったが。
もちろん城壁を守る兵士がいなければ、籠城などできるはずがありません。にもかかわらず戦功はゼロに近い。
“それなりに安全なところから一方的に攻撃する兵士は、たいした苦労もないだろう”という考えのためでしょう。
少なくないマジックユーザーはこの考えによってタダ働きなうえに、一方的に攻撃できるバケモノとして恐れられます。歪んでいく者は少なくないでしょう。
それを覆すには、大勢が魔術を評価して期待するような国を作る。思想教育(洗脳はダメ絶対)をするしかないのかもしれません。




