乱気流の陰で:ダークタービュランス
『徳川家の埋蔵金』という、夢のある話を数年ごとに聞きます。あるいは豊臣家・天草四郎に海賊など、日本には様々な埋蔵金伝説があります。
しかし私はそれらを探す気は欠片もありません。その理由は法律・税金などにより。6割以上の確率で利益にならないと推測しているから。
そして残り4割の理由として。明治維新をなした、志士・役人たちが普通に有能だから。
もし幕末の時代に日本と同程度の人口・領地のある国で、維新のような権力移行が起きたなら。流血・死者の数は一つ、最悪二つは桁が違っていたと推測しており。
(流血の)革命ではなく、一応『維新』の名称がついた政権交代?だからです。
『魔薬』の効力で、自らの身体を変成し。6級C.V.マイアへの『特効』を得た賊の頭目を侍女頭のアヤメは始末する。
それは勇者物語なら〔危難の際に、救援が来た〕、という『お話』の山場になるだろう。
しかしアヤメがマイアの救援に来た。来られたのは、ある者の補助があったからだ。
「これで満足かしら、『シャルミナ・ヴァイ・ローヴェル』様」
『お手数をかけました、アヤメ殿。それと私に様付けする必要はございません。
私は魔王にはべる、しがないC.V.の一人です。敬称は不要でお願いします』
アヤメの呼びかけに、建物の影がゆらぐ。そうして魔力が放出されると、瞬時に『鎧の影絵』が投影された。そして『兜』の部分に女性の顔が浮かび上がる。
「・・・・・っ」
『“盗聴”の心配はございません。「ダークタービュランス」により、「ソロモンゴールド」の回線が破壊されており。そんな「魔力震」の中で、(人が)「念話」を使うのは不可能です』
マイアが発動させた『闇の乱気流』が行おうとしたこと。
それはイセリナ様の『魔導王の黄金』によって形成された、『結界・魔力網』を撤去すること。
【穏便】に『ソロモンゴールド』を停止させるため。『闇属性の魔力嵐』で、『光属性の魔力網』の崩壊点を押すことだ。
人間の感覚からすると〔便利な大魔導を、こんなに早く停止する決断をする。素速く撤去するなんて・・・(非常識すぎる)〕、と思うが。
イセリナ様は『予測演算』によって、ある程度の未来を見通せる。
早く決断し『ソロモンゴールド』を迅速に処理することに、メリットを見出したのだろう。
そしてアヤメはマイアの護衛をイリス様に命じられ、ここにいるわけだが。
〔これほどのC.V.がいたなんて・・・私の護衛など不要でしょう〕
シャルミナ・ヴァイ・ローヴェル:『本体』は漆黒のフルプレートという『暗黒騎士』の装備をまとい。同時に強大な『闇属性』の魔力を自在に操る。
実力的には現状のイリス様より強く。『魔王』か『堕ちた勇者』だと、シャドウ一族は確信したが。
残念ながら彼女は『魔王』の側室にすぎず。シャルミナも弱くはないが、トップ二人とは隔絶した実力差があるらしい。さらに彼女と同格の戦力を持つメンバーは、複数人いるとのこと。
〔もし私がしくじれば、そういう側室C.V.が来訪する。シャルミナ様の実力行使で、今回の件を解決するでしょう〕
そうなればシャドウ一族はお払い箱になってしまう。少なくとも、今までと同様の待遇は望めない。
アヤメの胸中に冷たい風が吹きすさび。
『アヤメさん。マイアを守ってくださり、ありがとうございました。
さすがはイリス様が推薦なさった人材です。これでマイアの望みもかなうでしょう』
「過分なお褒めの言葉をありがとうございます。
私は与えられた任務をこなしただけにすぎません」
シャルミナから任務成功の言質をもらい、アヤメは安堵で胸をなでおろす。
一瞬だけ。
『アヤメさんには、引き続きマイアのことをよろしくお願いいたします。
強がってはいますが、本来の彼女は護られるべきC.V.でした。
イリス様の【本業】にも関わることですので、ご助力ください』
「‥非才の身ですが、微力を尽くさせていただきます」
わずかな間を置き、アヤメは表情筋を操作して平静を取り繕う。
そして胸中で思考を済ませ。短期決戦の賭けに出ることにした。
「何じゃこりゃァァーーー^ーー‼!」
陰気な闇の魔力が漂う、地下の神殿において。その陰気を吹き飛ばすような、怒声が放たれた。
「何事だっ!」「ズムスト司教っ?」「いったい、何が・・・ッ⁉」「これはっ!?」
ズムストの声を耳にして、配下の信徒が集まる。
そこには巨大な祭壇があり。敬虔な信徒の祈りと“生贄の怨嗟”が集束する、偉大なゾルマ神の聖地なのだが。
『フォトンワード・^:^・ウィプス・・ライティング・・ー~-/`・フォトンコード!!』
「「「・:--!?」」」「なぁっ!!」「これはっ!?」「・・?;+??」
そこでは信じられないこと。ゾルマ教徒にとって〔勇者の襲来より〕あってはならないことが起こっていた。
闇を司るゾルマ神の祭壇に、忌まわしい“光の魔力”が乱舞する。それは聖地の汚染であり、ズムストたち教徒の信仰を否定する“呪いの具現”であった。
「いったい、どうすればっ・・」
「うろたえるなァァっ!!」
「「「「「・・ッ!!!」」」」」
「ここはゾルマ神の聖地であり信仰の中心だ!穢らわしい“光属性”が侵入したなら、返り討ちにすればいい。
祈りを捧げよっ!生贄の血と臓物を供え、我らが神を讃えるのだ!」
「「「「「「「「「「「ハハァッ・・!」」」」」」」」」」」
ズムストの号令に従い、信徒たちが動きだす。結界をはりなおし、魔力と祈りを『祭壇』に捧げ。
そうしてありったけの生贄を捧げるべく、牢獄の鍵を開けて・・・
「「「Gyァーーーーー*:*!」」」
身の毛もよだつ断末魔の絶叫が響いた。
「何事だっ!」
苦しめ弱らせた生贄どもの声ではない。
だが記憶にある信徒の声とは、明らかに異なる叫びが放たれ。
一瞬、皆の注意がそれた時に、それは起こった。
『飛び交う戦輪よ 大地に刻み、進撃する戦車の片輪たちよ`+--:・・^~
一時、その刃を休め眠り/:]- 鞘なき蔵でdその輪を次なる戦に備えまて=-:・
-----ーーーーー:*ダークタービュランス!』
『闇属性の魔力』・・・なのにゾルマ神どころか、他の邪神とも異なる魔力が聖地に侵入してくる。その『闇』は忌まわしい“光”の魔術を切り裂き。
「「「オオッ・・!」」」
「ーー・・・(違うっ!)」
我が物顔で聖地の蹂躙を開始した。『円盤』が飛び交い、転がり走り、魔力を絡め取り込んでいく。それは明らかな敵対行動であり。
“光側の勇者”が『隠者』に見える、ゾルマ神への冒涜だった。
「“背教者”かっ!おのれ涜神の徒がぁぁーー、許さんっ!!」
「言い残したいことは、ソレだけですか?」
「「「「・;+・・ッ・・*」」」」「何者dッ*」「「ギyッ、ガハッ!;!」」
生贄を貯めておいた、牢獄側の壁が破壊される。
バラバラになったナニかと赤い液体が飛来するも。それらはゾルマ神の供物になることなく、『暗黒球体』へと凝縮されていき。
「せっかく得られたチャンスですし。
余計な穢れは(彼女に)欠片も触れないようにしないと」
「貴様は・:?いったい・・・」
『デッドリーノヴァ』
「「「「「・*ー*」」」」」
悲鳴・断末魔の声すらのみ込む『渦』が、ズムストの視界を覆い尽くす。
「こんn/・」
そしてゾルマ神の聖地は『怨念』すら残せず消滅し。
『光属性の大魔導』の解除と撤去が、その後は【穏便】に進められた。
ネタバレ説明:ダークタービュランスについて
マイアの『魔術能力』ではなく。理論上は誰でも使えるはずの、『大魔導』が『ダークタービュランス』の正体です。
もっとも使用条件が、マイアの『魔術能力』に制限をかけること。イセリナの『魔導能力』を解除・撤去できるよう、互いに『暗号術式』を仕掛け。
あげくにC.V.シャルミナが、邪教の拠点に潜り?こみ。『生贄』と“狂信者”のすり替えを行っていたという。
事実上の6級C.V.たちが、容赦なく“邪教”をすり潰しにいった『魔導儀式』です。
もっともその効果は地味であり。
『闇属性の魔力』を強くする。『街道・霊脈』や“情報を盗んだ賊”を利用して張り巡らせた、『魔導結界・魔力網』に侵蝕して破壊する。
『ソロモンゴールド』を完全に認識している、イセリナたちはともかく。マイアを含め、大半の者が正確な『効果』に気付くこと無く。
『ダークタービュランス』は発動し、その役目を終えています。
たくさんあるどこかの『邪教徒』たちは〔『闇属性の魔力』が高まった〕、などと喜んでいますが。真実を知ったらどうなるかは、ご想像にお任せします。
明治政府で権力を握った者たち。彼らは諸外国と比較すれば、流血を抑えた権力移行を成し遂げました。
その有能な役人たちが、『徳川埋蔵金』という膨大な資産を見逃す。そんなマヌケなことを、やらかすでしょうか?
降伏した15代将軍という、情報源がおり。『廃藩置県』はまだにしても、諸大名の横槍が入らない。それどころか役職・お家の存続を取引材料にして、日本中の人材に埋蔵金探しを協力させられる。
これだけの条件がそろい。個人・数人のトレジャーハンターに、埋蔵金探しで後れをとってしまう。怪盗3世、相手ならともかく。
幕末~明治の激動を生き抜いた人々が、そんな失態を冒すとは思えないのです。