金輝の罠:ソロモンゴールド
たくさんいそうでいない。いたとしてもネームバリューが低い。日本の『亡霊武者』はそういう妖怪?・怨霊だと愚考します。
その理由はいくつかあるのでしょうが。一番の理由は『亡霊武者』の存在が、敵味方双方にとって迷惑だからだではないでしょうか。
『亡霊武者』にとって、敵勢力の武将なら。恐ろしい、不死身の怪物であることに加え。
内外から〔卑劣な手段で討ち取ったから、亡霊武者が出現した〕・・・と後ろ指をさされ続ける。
生前の『亡霊武者』が所属していた、味方の勢力ならば。〔亡霊武者の無念をはらすため。再度、戦をしかけて仇を討つべし〕・・・などという。和睦や戦略を台無しにする、精神論がふりかざされる。
あるいは〔供養のお布施が足りない。見殺しにした。指揮が下手くそだった〕・・・という感じに、やはり後ろ指をさされる。
こんな風に『亡霊武者』は敵味方を問わず、迷惑な汚名をばらまくため。メジャーになる前に、キッチリ供養したと推測します。
『呪術』により密談を行う『火蛇蒼鍾』によって、有意義な話し合いを行い。
その最後にイセリナは〔ソロモンゴールドをどう思うか〕という質問を、侍女シャドウに投げかける。
その返答は〔『魔術能力』こそ至上だ〕と考えるC.V.には思いつかない。受け入れられないであろう〔魔術能力の休止・刷新を行ってはいかがでしょう〕というものだった。
〔何というか。シャドウは大丈夫なのでしょうね〕
カヤノの話を聞き、イセリナはまず失礼な感想を抱いた。
〔カヤノ殿は呪い呪われる、『呪術』への適正に欠ける〕・・・と。
確かに彼女の『呪術』を使うセンスや理解力は、非凡だろう。他のシャドウたちが『魔術』の初歩を会得するのを横目に、ほぼ独力で『呪術使い』に成った。それは〔優れた才覚がある〕と言える。
〔だけどカヤノ殿は他人を呪うことにむいていない〕
本人は〔他人を呪っている〕・:・つもりらしいが。
〔『誘導術式』を灼いたら、『呪詛』を返しなさい。敵の『呪術』を暴走させて、呪い返しなさい〕・^・とイセリナは言いたい。
というか部下の『呪術師』だったら、厳命していた。中途半端の生兵法など、自殺行為でしかないのだから。
そもそもイセリナの『魔術能力』が、財貨・情報を盗み奪う“者”たちから情報を抜き取ってしまう。
そういう『魔術と呪術の混合能力』にしたのは、一人でも多くの賊(特に詐欺師)をなぶり殺しにする。財貨を奪い、プライドを貶め、処刑を行い続ける。そのための情報収集を行うためだ。
復讐は終わったのに、血の味を覚えて殺しを続ける。永遠に効率的に“賊”を殺し続ける“殺人狂”に等しい。『ソロモンゴールド』はそういうイセリナの意思が込められており。
〔ソロモンゴールドをどう思うか〕という、言霊でカヤノ殿に対し『呪詛返し?』ができてしまう。イセリナに利益をもたらす休養・『魔術能力』の更新をススめてしまった。
イセリナにとって、そんな『緋蛇蒼鐘』は善良すぎる『呪術??能力』としか言いようがない。
『盗賊ギルド』の拠点の一つ。裏社会の中でも、さらに昏い。奈落の領域に、スクモワ教祖の大音声が響き渡る。
「時は来た!今こそ、我らが神の復活する時っ、祝福の時だ!!」
「「「「「「「「「「・・^:^・ーー」」」」」」」」」」
ゾラス教の聖地である墳墓には、数多の遺体と『呪力』が蓄えられ。『神』の復活・降臨の儀式は、着々と進められていた。そのために必要な人員・物資に熱気は充分であり。
かつては中規模の教団にすぎなかった、ゾラス教の面影などかけらも無い。
「『神』の導きに感謝を・・そして運命の時を早めた、“魔女”たちには慈悲をくれてやろう。
我らが『神』に一生、奉仕を行う栄誉を!死後もその魂を削り尽くす名誉を、与えよう!!」
「「「・・^`--っ!」」」「「「容赦なき鉄槌の一撃を!」」」「「「「思い知れっ・・」」」」
ゾラス教が急拡大した理由。それはかつての悪徳の都ウァーテルが、C.V.イリスの軍団によって滅ぼされ。逆襲を企てた、反攻作戦が頓挫したから。
卑劣な“邪法魔術”によって、滅ぼされた『組織』の残党を吸収したからだ。
「しかし“偽りの正義”が栄えるはずも無い。尊い犠牲により、我らは逆襲の一手を得た!!
魔女イセリナがふるう『古代王の黄金』の禁術!それを解く、『秘術』を我らが神は下賜なされたのだ」
「「「「「オオッ!!」」」」」「「「偉大なるゾラス神よ・:・」」」「「早くっ、早く御力をっ`・;」」
『解呪』の魔術では、『ソロモンゴールド』の『刻印』を解くことはできない。だがゾラス神の『聖なる御力』ならば話は別だ。同系統の『呪力』なら、密度の濃いほうが勝るのが道理というもの。
よってこの聖地でゾラス神の『洗礼』を施すことにより。『ソロモンゴールド』の“邪悪な印”など、たちどころに消滅し。
当然、『ソロモンゴールド』の“ヒカリ”に犯された財貨も、教団の資産と成る。
「偉大なるゾラス神よ・:・その御手にて“邪悪の光”を晩餐の卓へと誘いたまえ・:-
『スペルイーター』」
「「「「「グォオ`;・---」」」」」「「「「「Gyア*:ぶッ!?」」」」」
教祖スクモワの手から放たれた『呪力』が、聖地に集った者たちを覆い尽くす。その『呪力』は未熟な信徒の性根を清め。ゾラス神への信仰が足りない者たちから、相応の『魔力・生命力』を吸い取った。
「これで洗礼は為された。これからはゾラス神に永遠の忠誠を誓い・・・」
「「これはっ!;」」「おいっ!」「「「・:~;!!*?」」」
「「「「目がっ、目がぁ**!」」」」
スクモワの説法を遮って、信徒たちが騒ぎ出す。彼らの目は『金色』の輝きを放ち。
「なっ!?・:**ギっーー”*」
スクモワの視界が『金色』に染まっていく。
違う、これはスクモワ自身の『目』も『金色』に染まって・!?;--
「うっゎ、イセリナも容赦ないねーー~。
ボクに任せれば『ソロモンゴールド』を、この強制力で使う必要も無いのに・^:」
「それを言うなら。この程度の“邪教徒”ごとき、イリス様が出陣なさる必要性こそ皆無でしょう」
「やー~、ちょっと扇奈たちの【家族】を“のぞき見”している、“連中”を確認したくてね。
大元を押さえれば、『術式干渉』で、対処しやすいでしょ//」
緩いセリフとは裏腹な、濃密な殺気が聖地を侵蝕していく。
そう感じた時、スクモワに残された『視界』がクルくると回り。意識の端でナニかの断末魔が響いて消えていった。
『魔導王の黄金』という『魔導能力』がある。不当な手段で情報・財貨の所有権を移動させた者たちに対し、情報の抜き取りを行う。“賊・詐欺師”連中を、無意識に情報提供を行わせる『使い魔』に変える『呪い』をばらまく。
“盗賊ギルド”などの裏組織を、崩壊させるための『魔導能力』であり。
「危ないところでしたっ・`・」
カヤノの心胆を寒からしめた『魔導能力』だ。
山砦の宝物庫にあった財貨をいじくり。財宝に仕掛けられた『ソロモンゴールド』の『楔・呪牙』に対し、カヤノは探りを入れ。そうして『楔』を感知し、『火円蛇』で捕捉したのだが。
その『楔』は下手な『吸血鬼の牙』よりタチが悪い。『楔』の効果は小さな『目印』をつけるだけに過ぎないが。イセリナ様の射程に入ると、情報を抜き取る『呪いの傷痕』と化してしまう。
しかも『ソロモンゴールド』に囚われた者は、『傷痕』に気付くことなく。気付いても『解呪』は困難でしょう。
何故なら『傷痕』自体は極めて小さく。解呪できても、『腫瘍』のように欠片があれば復活してしまう。
カヤノがそれに気付き、解呪できたのは運がよかったにすぎず。『蒼鍾火蛇』という多重呪術の深みで、分体の『楔』がはじかれたから。
「私は(蛇のように)匂いの微粒子を感知できる。その感知をくぐり抜けたなんて・・・」
嗅覚ではなく。増設した『味覚』を使えるカヤノは、毒見役も兼ねており。それなりに探知には自信があったのだが。
イセリナ様の『ソロモンゴールド』は、その上をいっている。『火蛇蒼鍾』⇔『蒼鍾火蛇』の移行で凝縮された『呪力』により、今回は幸運にも解呪できたが。
「同じ手が通じる可能性は無いでしょう。それに『ソロモンゴールドの罠』を考えると・・・うっかり報告もできないですわ」
『ソロモンゴールドの罠』:それは『魔導王の黄金』に関しての『情報』を収集すると発動する。カヤノが今のところ知るかぎりでは、イセリナ様の配下から『ソロモンゴールド』を聞きだそうとすると。
シャレにならない『呪縛』をかけられてしまう。ほぼ詰んでしまう『呪縛』がかけられるようだが。カヤノにできたのは、『探り』を中止して『呪縛』から逃げ出すことだけであり。
『ソロモンゴールド』に対して、シャドウ一族は関わらないよう徹底する。それは、事実上、イセリナ様への敗北宣言だが。『罠』にかかるよりはマシなはず。
そのためなら、カヤノは手段を選ぶ気はなかった。
さらに『亡霊武者』が迷惑なのは、武将だけではありません。身分の低い足軽や、落ち武者狩りをする地侍。そして戦場の遺体から鎧・装備をはいで売り買いしていた者にいたるまで。
『亡霊武者』が出現すると、身分の低い者たちの生活が脅かされる。
〔呪われた『鎧』なぞ、二束三文だろう。
首級をあげ手柄をたてても、祟られてはたまらない〕
迷信の信じられた時代、このぐらいは当たり前でしょう。
さらに骨肉の争いが珍しくない。病・飢えなど『死』が近くにあり、『人柱』などの因習もあった。
そうすると〔亡霊武者を鎮めるため、イケニエをささげよう〕・・とか普通にやりかねない。
さすがに迷信・暴力にあふれた戦国時代でも、キャパオーバーでしょう。そのため『亡霊武者』の伝承があっても拡散しないようにする。生きている血族・縁がある者に、風評被害が出ないよう。
『亡霊武者』の話は、暗黙の了解で、封印されたと愚考します。