密談の火蛇
『北斗七星』のモチーフの一つである『柄杓』。それは人類文明を形成する【キーアイテム】だった。(ギリシャ神話を除外した)黄道十二星座の各種文化はもとより。
〔人類は『火』を使うことで、文明を発達させた〕のが通説となっていますが。私は柄杓で『水』をくみ、蓄え活用した。『柄杓』から始まり、『杯・水瓶』と道具を発展させ。
他の生物が、自らの身体能力・水場からのみ水分補給をする中で。人間だけが『柄杓』をはじめとする道具で、『水』を摂取し活用するようになった。
その名残が〔『北斗七星』がかたどる『柄杓』かな~〕と愚考します。神話のないテキトウ推測ですけど。
〔火をおこすより、水の確保が無人島生活で大事なら(生存に必要なら)。『火=原初の文明』の学説に対し、疑問を抱いてももいいのでは?〕・・・などと考えます。
常人の魔術素人でも、『触媒・知識』がある程度そろっていれば『術』を使える。下手な魔術士よりも、『呪術』は長射程・長時間の術を使用可能にしてしまう。
その術理は多岐に渡るのでしょうけど。カヤノのイメージする『呪術』は『粘着する魔力』だ。
一般の『魔術』は、個人の『容量・才能』に入る分だけの『魔力』を消費して、行使される。
それに対し『呪術』は『容量・才能』から、あふれ出る量の『呪力』を行使する。『容量』からあふれても、『呪力』は『才能』に粘りこびりつき、大量の『歪んだ魔力』を行使させる。『才能・精神』を歪め、未来を閉ざすリスクを伴おうと。
『呪術』は周囲の『瘴気』を取り込み。類似した『歪んだ魔力』と共鳴して、自らの『呪術』にまきこむ。
それにより『呪術』は長射程・長時間の術を発動しうる。ある意味、拡張・肥大化した『キャパシティ』を満たすため、(詠唱をしてない常日頃から)『精神的苦痛』を蓄え続ける。
ある面において、『呪術』が『魔術』を圧倒してしまう。カヤノがイメージする術理はこんな感じだ。
『緋蛇蒼鐘』によって、カヤノはイセリナ様に密談を仕掛ける。人に不幸をもたらす『呪術』で、内緒話を行う『緋蛇蒼鐘』を察知できる者は極めて稀であり。
その密談の場でカヤノは『金輝の呪力』を提示した。
『それで、何が望みかしら?』
『仰る意味がわかりません。私は建設的な話し合いを求めています』
降参の意を示すイセリナ様に対し、カヤノは対等な話し合いの継続を求める。
イセリナ様からすれば〔『|情報を抜き取る魔術能力』の秘密を暴かれた〕
加えて〔シャドウ一族を呪縛した『ソロモンゴールド』を解除された・・可能性が高い〕、と推察し。
〔この場で穏便に済ませるならば〕カヤノに降参し、たいていの要求を受け入れる。手切れ金に等しい、要求の受け入れをする・・という意思を示したのだろう。
しかしカヤノが望むのは、はした金や権力争いの勝利などではない。
『建設的な話し合い・・・ね。それでシャドウ一族に〈ソロモンゴールド〉をかけていたことを不問にすると言うの?』
『私にイセリナ様を裁く権限などございません。
そもそも聖賢の御方様に、拾われた人間一族が侍るなど。お身内の方々は、さぞや心配なさっていたでしょう。
その不満を除いてくださった魔除けの御力を、厭うことなどございません』
聖賢の御方様と瓜二つの容姿を持つ、イセリナ・ルベイリー様が存在する。それは聖賢様に家族、ないし血族がいることを示しており。何より聖賢様の人望・実力で、孤独のコミュ障などということはあり得ない。
カオスヴァルキリーの家族想い・情念の深さっぷりの欠片でも知っていれば。
『ソロモンゴールド』はそれらの『風除け』としか言い様がなく。
カヤノにとって本命の願いを考えれば、くだらない外交などしている場合ではない。
『貴女の言いたいことはわかったわ。それでどういう〈話し合い〉をする気かしら』
『そうですね・・・まずは〈ソロモンゴールド〉についてオハナシしとうございます』
『魔導能力について?』
『はい。魔導の王であり、〈魔術〉と〈呪術〉の境界があいまいだった秘蹟を行使する大賢者。
かの魔導王は50をこえる〈魔神〉たちを使役したととのこと。かの〈魔神〉たちの多くは現在・過去と未来を見通す。
いわば【情報】に精通していた。
痕跡を解析・偵察と諜報そして予測と想像を大軍勢を指揮して行った。
それら〈魔神〉を従える魔導王は、さらに【情報】を集めることに優れておられました』
『それは貴女の買いかぶりすぎというものよ。
かの魔神たちは確かに【情報】を集めることに優れていたけど。狩猟・海や軍事など、各々の〈魔神〉が得意とする分野でしか、〈情報収集〉はできていない。
それに情報弱者の只人たちは、〈過去の記録〉を持つ者を〈過去視〉を使える者と勘違いしていたわ』
『なるほど。それでしたらかの魔導王は〈魔神〉たちの情報をやり取りする。
絶大な魔力ではなく、【情報】を効率よく、かつ的確に伝達することにより。〈魔神〉やその勢力と〈契約〉を結んでいた・・ということでございましょうか?』
『私のソロモンゴールドではそうなるわ』
とりとめの無い会話・:・と言うのは無理がある。“盗賊ギルド”の情報網・資金源に関する、秘密のほとんどを抜き取った『魔導能力』について。カヤノとイセリナ様は言の刃をふるいあう。
それは緊張を呼び、不審と恐怖の連なりを想起させていく。
『なるほど。それなら〈魔神〉たちは過去・現在と未来を見通す・・と伝えられていても。見通すのが得意な〈刻〉があり。過去・現在と未来を等しく全知できた〈魔神〉はいなさそうですわね』
『その可能性が高いわ。いたとしても星形の異形で、〈刻〉の情報を正確に伝えられなかった/理解されなかった』
『そうですか・・では私たちも余人には伝えられない/理解されないオハナシをいたしましょう
〈蒼鐘緋蛇〉』
偉大な魔導王、理不尽な〈魔神〉たちを愚弄するに等しい。秘密を暴き、カヤノたちのレベルにまで貶める。無礼な言霊であり、反則的な権能に抗う言の葉でもある。
それらは秘匿会話を行う呪術『緋蛇蒼鐘』に、さらなる澱みをもたらしていき。
より深い秘密のやり取りを行う、『蒼鐘緋蛇』を発動させた。
「これが『蒼鐘緋蛇』か。『魔導』ではないけど、強度は『魔導』を超えているわね」
「あまり時間はございません。手短にオハナシをさせていただきます」
『緋蛇蒼鐘』で作った密談の場は、『念話』とは違う。『呪術』による伝導線を作り。それを通して膨大な情報をやり取りする。
それらの情報は〔本命の密談〕を隠すため、偽装情報の濁流なのだが。『聴覚情報』以外の五感に作用するイメージを『呪力』で送り。『信号』でやり取りすることも、一応は可能だ。
それによりカヤノはイセリナ様に『蒼鐘緋蛇』を発動する段取りを行い。
「姫長様と陸戦師団長のイセリナ様は、かつて聖賢様の『アルゴスドゥーム』を封じられたとか」
「そんなことをよく知っている・・貴女ほどの呪術師なら察知できて当然でしょうね」
「その時の偉業を、再び成していただきたいのでございます。
イリス様に逆らい、意を曲げる。イリス様が都市ウァーテルから、『お隠れ』になるのを妨げていただきたいのです」
まあ実際のところ。神話アイテムに無い。宗教の神具にあったとしても、マイナーな『柄杓』の重要性を説くのは厳しいです。
『お粥を作って食べた。ケルト神話ダグザの棍棒はスプーンの形だった。それが柄杓だった』これはさすがに無理があるでしょう。
あとは日本版の〔『船幽霊』が柄杓を求める。その際、穴の空いた柄杓を渡さないと。海水をすくって船を沈められてしまう〕という伝承を拡大解釈して。
〔水が重要な船乗りにとって、『柄杓』も重要な道具だった〕と主張する。〔寺社に柄杓があるのは、神聖な水に直接手で触れないようにするため〕という感じに。柄杓の重要性をアピールするのがせいぜいです。
古代遺跡から『柄杓』の遺物でも発見されないかぎり。〔『火』こそ人類文明の礎だ〕という説はくつがえらないでしょう。




