お静かな重騎士
海外よりはるかに多くの伝承がある、日本の『火の妖怪』。私はそれらが誕生した理由として、遺体を弔う『火葬』の影響があった。
疫病を防いだり、野獣に人間の味を覚えさせないため。迷信もあったとは思いますが、社会全体を守るため『火葬』を行い。それが『鬼火』や『火の妖怪』になったと愚考します。
ただし世の中は世知辛いもの。遺体を燃やす薪代はタダではなく。埋葬のため穴を掘るのも一苦労です。加えて、性悪の“宗教屋”もいたでしょう。
そのため〔お布施を払って、埋葬しないと『鬼火』が出るぞ〕みたいなことを言って、お金を出させた連中もいたと愚考します。
それがどの程度、適正価格だったのか。これ以上、推測するのは“中傷”になるので、この話はここまでとします。
〔山賊のアジトを壊滅させて、利権を得る〕予定で、シャドウ一族は作戦行動を行うものの。
『魔術設備』で防備を固めた山砦は、予想外の戦力で待ち伏せしていた。
もっとも初手の『旋天弓陣』『旋矢』の攻撃で、兵力の大半と指揮官が討ち取られてしまい。大勢は早々に決したと言える。
その後、ユリネや汐斗たちが精兵シーフ部隊によって襲撃をかけられるものの。一般的な『水術』とは異なる、『渦流閃』『魔竜鬼』他によって連中を返り討ちにした。
シャドウ一族の山砦攻略を大まかに記すと、上記のようになり。
かくして扇奈たちの戦いは〔山砦を攻略した〕という伝令を送った後に、イセリナ・ルベイリーが派遣されてから始まる。
ウァーテル文官のトップであり、主に財務を取り仕切る。シャドウ一族にとって対立派閥の『陸戦師団』を率いる、イセリナが元山砦にやって来て。
それから〔同格の相手との【戦い】が始まった〕と言うべきだろう。
〔おうちに帰るまでが遠足です〕という言葉があるとか。子供に〔気を抜くな〕と指導する言葉であり、いい大人には関係のないハナシだと考える者は多い。
間違っている。
都市ウァーテルで事実上の文官トップを務める、C.V.イセリナからすれば。〔おうちに帰る~〕の標語は、あらゆる事に適用するべきであり。
「それでは山砦攻略の【論功行賞】を行いましょう」
「・・・いいでしょう。受けて立つわ」
イセリナと扇奈の間で、火花が飛び交う。
「「「「「「「「「「・:・-・・」」」」」」」」」」
にもかかわらず部下達は固唾をのんで見守るばかり。イセリナと扇奈の『会談』にあるまじき、視線の交錯をいさめるでもなく。
“二大魔獣”の争いを、息を潜めてやり過ごそうとする。首をすくめて沈黙する重騎士・シャドウたちは、まるで無力な小動物のようだった。
〔こんなことで、論功行賞を乗り切れるのかしら〕
内心でため息をつきつつ、イセリナは人材育成の不備を認識する。
〔“略奪暴行”をしない。民草に優しくする。仲間内で権力争いをしない。自分の欠点を認め、他人の優れたところを認める〕
どれも美徳だが。生き馬の目を抜く『商売・外交』の世界ではつけ込まれかねない弱点になり得る。
特に戦争において、戦人・戦争種族たるもの・・・
〔【論功行賞】が終わるまでが、戦の一段落です(終わりではない)〕
・・・とイセリナは声を大にして言いたい。
戦に勝利することは、重要で命がけだ。ただしその後の『論功行賞』をしくじると、せっかくの勝利が台無しになりかねない。ひどい時には、仮にも勝利した『将軍都』が滅亡する発端になったこともあるとか。
イセリナにとって『論功行賞』は完全に戦場であり。シャドウたちを喜ばせ、満足感を与えて、穏便にお引き取り願う。そのためにいくつもの任務をこなし、困難を乗り越えて・・・・・
〔・・・姉上様が、行えば簡単に丸く収まるのでは?〕
・・・疑問は棚に上げて、シャドウ一族の扇奈と話をつける必要があった。
7級光属性のC.V.イセリナ・ルベイリー様。イセリナ団長閣下に仕える『陸戦師団』は、特殊な騎士団だ。
『文官』『財務大臣』としての面が強い、イセリナ様に仕えている私兵集団であり。
『騎士団』を名乗るものの、基本的に騎乗しない。馬車を運用し、身体強化による持久走で移動を行う。つまり歩兵メインの戦士団だ。
そして何より特殊なのは、〔カオスヴァルキリーのイセリナ様に仕える、人間男性の集団〕ということ。
良く勘違いされるが。シャドウ一族の姫長様は、強大な魔力を持っていても人間であり。C.V.としての地位はなく。C.V.情報に許可無く接することは許されていない。
一方イセリナ団長は〔7級光属性のC.V.〕という地位と権限を持っており。情報はもちろん、C.V.様の資産・供給網を利用できる。
そのためイセリナ団長に仕える秘書官セクレトも、C.V.様の『ルール・文化』を知ることが可能であり。そうして得た知見から、出た結論は一つ。
〔シャドウ一族(特に男)と争っている場合ではない!〕・・・ということだ。
セクレトも組織の一員として、他勢力を圧倒することで陸戦師団の権勢を高めたい。秘書官という文官よりの将官として、〔出世をしたい〕という野望がある。
しかしその権力争いをするにあたって、〔シャドウ一族と派閥争いを行う〕というのは悪手だ。
その理由はC.V.の絶対的なルール〔目には目を。やられたら、同程度にやり返す〕の存在がある。本来は異種族・多文化種族であるC.V.様が、迅速に派閥間の争いごとに決着をつけるため。わかりやすい共通ルールとして採用されたものだ。
〔まあ実際のところ。戦争種族であるC.V.様が争いに決着をつける時には、『決闘』の勝敗で決めることが多いらしい〕
〔・・そうだろうな(あの気性の激しさでは、決闘での裁決が打倒だろう)〕
〔そして同程度にやり返すは、異種族交流の際に多用されるようになった〕
〔異種族交流・・・C.V.様の伴侶を選ぶ時か。だがそれが我ら陸戦師団に何の関係がある?〕
セクレトの問いに対し。既にC.V.様との婚約が決まったシャドウは、“知りたくない真実”を暴露した。
〔本来、貴族様ではないオレ達シャドウ・重騎士たちは『自由恋愛』を許されている〕
〔・・:^・まあ、そうだな(シャドウに恋愛の自由なんてあったのか?)〕
〔だから(女系種族の)C.V.様が気に入った、異性を見出しても。一人で普通の求愛を行う〕
(ウソつけ)
セクレトは口を閉ざし。取引きを持ちかけたシャドウの話を聞くことを優先した。
〔しかしシャドウと重騎士が、愚かしい派閥争いをやらかす。上の意見対立ならともかく。
下っ端どうしで、角突き合わせる醜態をさらせば。
高確率でC.V.様の派閥争いに、【求愛】が適用されかねない〕
〔ちょっと待て・・〕
シャドウの言ってる意味がわからない。そもそも争いの決着を早期・迅速につける。そのために決闘による裁定があるのではないか。
それが何故、〔求愛を決闘代わりにする〕という話になるのだろう。
〔C.V.様の婚姻文化において、『ハーレム』が公認なのは知っているな?〕
〔知識としてだけは、知っている〕
〔そのハーレムだが、本来は人間にも配慮されており。C.V.様は個々人で、求愛を行い。
野郎が気に入ったC.V.様たちだけで、ハーレムを築く〕
(・・・・・そんなことが可能なのか?)
武力・魔術だけならともかく。知識・経済力にその他諸々において、C.V.様が人間に勝ることをセクレトたち重騎士は思い知っている。
ここで優先されるのは、強者の意向であり。絶対強者である聖賢女王様にお仕えしている、シャドウ・重騎士たちは逃げることも不可能だ。
〔何を想像しているか予想はつくが。C.V.との自由恋愛は“カマキリの交尾”ではない。
互いに安らぎ、求め合う関係の時もある〕
生存と尊厳をかけて、争う時もありそうな言い方だ。
〔しかし仮にも聖賢の御方様に仕える配下が、不毛な派閥争いをした。
派閥争いが、能力向上のために必要なことだ・・・とオレ達が考えている。そんな風にC.V.様が判断されば、“派閥争いを行いつつの求愛”が始まりかねない〕
〔・-;~・・〕
それは恐ろしい可能性だ。たった一人でもも丁寧に対応することが必須の婚約において。いきなり派閥に属する複数C.V.が、肉食獣と化してやって来る。
もちろんセクレトは〔自分こそハーレムの中心に選ばれる“ユウシャ”だ〕などという妄想はしていない。
しかし伝え聞く遙和様お一人の話から考えても。近所・公私の両面でハーレムなど勘弁してほしい。最低限、一人ずつな『自由恋愛』の体裁を取ってもらいたい・・・取ってください。
〔そういうわけで、不毛な派閥争いは(C.V.様たちが暴走する)百害あって一利なしだ〕
〔全くもって異論は無い〕
〔可能な限り、互いを尊重する。やむを得ず反目するにしても、安易に感情をぶつけない。
会議でにらみ合いをするのは、禁止ということで〕
〔承知した。互いに協力して、この難局を乗り越えよう〕
こうして重騎士とシャドウ半数による、極秘同盟が成立した。
江戸時代まで日本は『土葬』が主流でしたが。その手間をかけられない者は、『火葬』する必要があり。現代技術な『火葬場』の高温炉どころか、密閉空間すらない。屋外で薪を集めるのも、一苦労だったなら。
それは『人魂』『火の妖怪』も出たでしょう。
とはいえ日本における『火の妖怪』はそれだけにとどまらない。熱の無い、朝靄に映った光・『煙』や『妖霧』なども、『火の妖怪』としてあつかわれ。
さらに私が『火の妖怪』候補として、怪しんでいるのは『松明』です。
物騒な戦国時代の前後。盗賊・闇商人や忍者などが、移動する時に『松明』を持ち歩く。連中は他人の目を避けて、移動するわけですが。未知の土地で道に迷ったり、足を踏み外さないよう。『提灯』『松明』などの灯りを持ち歩きます。
そして手練れの忍者ならば、うまく灯りを隠しつつ道を照らせるでしょうが。ゴロツキ・新米の闇商人たちに、そんな技量があるはずもなく。土地の人々はそういう灯りに気付いても〔厄介事はごめんだ〕と無視をした。
とはいえ人の口に戸は立てられず。そういうのが半端に伝わり『火の妖怪』になったと愚考します。




