青色の酒場~惑わしの水甲:水甲装
かつて日本に棲息して、絶滅した『ニホンオオカミ』について。
〔『ニホンオオカミ』は人を襲ったか、否か?〕
この質問に答えられる人は、まずいないでしょう。絶滅した獣について調べるには、過去の『資料』を精査するか。恐竜のように『化石』を解析するしかなく。
どちらもロクに無い『ニホンオオカミ』が人食いの獣か、否か調べるのは困難でしょう。
ただし血の味を覚えた草食の『熊』が、人食い熊と化すことがあるとのこと。
ならば血の味を覚えた『狼』も人を襲うようになる。飢えた『オオカミ』が、行き倒れ・戦死者の肉で飢えを満たしたなら。
人間の脅威となり得る、恐ろしい『狼』が出現する可能性もあると愚考します。
汐斗たち男性シャドウの『魔力量』は低い。そのため『怪霧鐘』などの術式を、事前に用意しておき。その後に『渦流閃』を時間差で発動して、〔二つの術式を同時に使っているぞ(すごいだろう)〕
そんな三文芝居で、汐斗は自らの力をアピールしている。魔力を見透かせる、『感知』ができるC.V.様の前では〔汗顔の至り〕であり。
驚いた者の不意をつき。優勢の流れに乗って、何とか生き残っている。それが汐斗の現状だ。
ただし今回はそれが幸運を引き寄せた。
『・・シャっ!』
「:・っ^」
ナニかの攻撃を、汐斗は紙一重でかわす。
それを可能としたのは、勘や幸運などというものではなく。『感知術式』を兼ねる『怪霧鐘』の残りカスが揺らぎ、かろうじて異常を察知できたためだ。
『水甲装!』
誰何の声をあげつつ、汐斗は背中に隠し持つ『水妖盾』を取り出す。そこにわずかに残った魔力を流し、何とか『水甲装』の術式を展開した。
『っ!?』
『水妖盾』を目の当たりにしたであろう、敵の動揺を汐斗は察する。
何故なら現状の『水妖盾』は、透明な水面のようであり。構えた汐斗が透けた水中にいるかのように、『水妖盾』の表面に姿が映っているからだ。
『『『シャぁアッーー!』』』
だがその動揺も、わずか数秒を数えて終わる。『透けている(ような)盾』に驚きはしたものの、脆い『ガラスの盾』だと判断したのか。
殺気とともに、空中から刺客たちの姿がにじみ出てくる。それらは魔力切れに近い汐斗にとって、充分に脅威であり。
受け身の防御で相対するには厄介な。汐斗にとって、未知の攻撃手段をふるってくるのは想像に難くない。
『推敲(水甲)装』
『『『・`ッ?』』』
だから汐斗は『水妖盾』に頼る。かつて戦友のC.V.から贈られた、『水妖魔杖』に等しいそれの効果を活かし。汐斗は生き残るための、戦いを始めた。
『フェイント』というのは虚実の妙だ。『虚』で惑わし、敵の思考・感覚に負荷をかける。『虚』によって判断を誤らせ。『実』の攻撃を『奇襲』に変えて、何倍にも威力を高める。
そんな『フェイント』は刺客のカリウス達にとって、『攻撃』と一体化した技だった。
『水甲装』
「くっ、またっ・・」「・:-`っ」「オノれぇッ!」
だが標的のシャドウは『虚実』を『防御』に多用してくる。
透けて持ち手が見える『水妖の盾』を、“失敗作”と嘲笑できたのは最初だけであり。水面のごとく揺れ、波紋をを見せる『盾』の表面から刺客たちは目を離せない。
カリウスたちは汐斗と、『盾』に映るシャドウの変化に翻弄されていた。
「ひるむなっ!『盾』から透けて?見える像は無視しろっ。
単なる『盾兵』を相手にするつもりで・:/**;っ」
「・・・『水甲装』」
「「ヒッ!」」「っ!?」「ウワァーーっ;`+*」
普通の『盾兵』は人を屠る剛拳を放たない。攻撃手段はせいぜいワンパターンの『シールドバッシュ』ぐらいであり。
挟撃されないよう、位置取りを行う。刺客の自分たちより、機動性に長けていたり。
『盾』の“妖術”で、闇の世界で生きる者たちを幻惑したり・;`っ!?
「・・ーー」
「kコっ/*」
「「・`;--っ」」「・・・!」「ヤ//っ」
唐突にカリウスの呼吸が止まる。身体は宙に浮き上がるのに、感覚は冷え重くなっていく。
『*甲^:』
そしてカリウスの意識は、永遠に昏いところに沈んでいった。
「貴様っーーー!!」「「「シュッ:」」」「`:+;!」
命を捨てる訓練を受けた刺客たちが、汐斗に憎悪の視線を向けてくる。
人は未知に恐怖し。思い通りにいかなければ激高する。ましてそれらは、仲間の死体が増える中で発生するのだ。
少しぐらい感情を露わにするのも仕方ないだろう。
『水甲装』
「またっ・・」
水面がゆらぐように、『水妖盾』の表面が波打ち。汐斗の『水甲装』を何倍にも増幅する。
そうして汐斗の姿を、『水底に沈んだ』ように暗く。『波紋のできた水面に映るように』バラバラの姿に変え。時には『水面に浮かぶ油のように』歪め伸ばし。
汐斗を『混沌の怪物』へと加工していく。
「惑わされるなっ!『幻』だっ・・『水術』で姿をいじっているだけの“妖術”にまど`ッ/*」
「・:・っ!」
真実を叫ぶ刺客に、汐斗は掌底を放つ。左手指に内臓をかき回す衝撃を感じた。
こちらは包囲され、捕虜護送の殿を務めているのだ。声出しで、隙を見せた者は容赦なく狩らせてもらう。
「今だっ!」「「「・:`--ー!」」」
その必殺の一撃を放った直後を、隙ととらえたのだろう。たちまち複数人が殺到してきて。
『水甲装』
「「「「っ!?;・`」」」」
『水甲装』の惑わしによって、連携のタイミングを崩す。
自らの命を矢玉に替える暗殺者でも、(強化薬などで)鋭くなる感覚には限度があり。まして感覚を共有し、かけ算の連携を成すのは極めて困難だ。
そして『水甲装』は、魔力で構成された『幻』を投影する幻術とは異なり。汐斗の『映像』を変成させる、『水の膜』を展開する術式にすぎない。
そのため『視る』角度によって、『映像』もだいぶ異なり。連携を行うメンバーの判断・行動もズレができる。それは実戦において、致命的な隙と化すのだ。
〔つまり上手なウソが、ほとんど真実で構成され。偽りは一欠片しかないように。
汐斗様の『水甲装』も実体の存在が見えている。だけど『水の膜』に映る、わずかな『虚影』によって敵を惑わすのですね!〕
〔そんな上等なものではない。ただ『分身の術』を使う魔力がない。そんなオレが敵の攻撃を誘導するために、手妻を使っただけだ〕
〔そんなこと無い・・そんなことは無いです!!〕
かつて『水妖盾』を贈ってくれた、C.V.のセリフがよぎる。賞賛の言葉とは裏腹に、彼女は短時間でこの『水甲装』に対応してきた。
「よし、見切った・・・一気に仕留めるぞ!」
「「「「「「・・オォッ!」」」」」」
そして、この刺客達も彼女に劣るが、近しい能力?を持っているらしい。後方に控え、汐斗の『観察』に集中していた術者が号令をかける。
それに従い、刺客たちが陣形を整え。魔力を高め、『異形の刃』を取り出し、必殺の構えを取り。
決戦の始まりを、殺気によって雄弁に告げた。
呑気なことである。
『水甲装』
「「っ!?」」「なぁっ!?」「「・・`--!」」「;^/・!?*」
少し『水の膜』をいじって、汐斗は『水甲装』にアレンジを行う。それを視て動揺いちじるしい前衛を、『盾撃』ではじき飛ばした。
「ぐっ!?」「「・・;!\..!*」」「ばっ..`*ぁ」
はじき飛ばされた前衛が、飛び道具を構えた中衛にぶつかり、巻き込む。構えを崩され、必殺の意思を乱された。戦場において無力な存在に、墜ちる連鎖に巻き込み。
『走踏』
「「ギャ*`・;」」
倒れた連中を汐斗は一切の容赦なく、蹴り踏み砕く。『高速機動』の『走踏』の劣化模倣とはいえ。威力だけはある踏み蹴り砕くの『足技』が、残った刺客の半数以上を蹂躙した。
「あ、アァ、あ:・ーーっ」「・・;`!?ーーっ」
「コレを視たキサマ等を生かしておくわけにはいかない。悪く思うな」
「ま・`;*」「ギゃ`*ぅ」
呆然となった連中を、取り抑えることも容易だが。汐斗は刺客たちの口封じを、徹底的に行った。
『水甲装』の『水の膜』を鏡面・水鏡と化し。汐斗自身の代わりに、相対する刺客の『映像』を変成させただけ。『山怪』『(霧)船幽霊』モドキを投影した、『水甲装』のアレンジなのだが。
〔混沌の似姿でもあるまいし。そんなに驚くほどのモノじゃないだろう〕
〔『水中視力』・・『霧中視力』を理解なさっている汐斗様ならそうなのでしょうけど。
『霧の影』を知らない、やましいコトがある賊にとって。『自分の影』が一番怖いと聞いたことがあります〕
〔そんなものか〕
〔あのっ!その『切り札』・:『妙技』を私にご教授いただけないでしょうか!些少の前払いとして、この『水妖盾』を進呈します!〕
〔おいおい、この程度、タダで教えてやるぞ〕
〔〔それはダメです〕〕
かつてのやり取りを、汐斗はふと思い出し。
それから先に行かせた仲間に合流すべく、移動を開始した。
ネタバレ説明:『水甲装』について
『水甲装』は〔水術のラウンドシールド(片手持ち)を展開する〕術式です。
その効果は汐斗が単独で展開したもの。『水妖盾』を使って発動したものでは、大きく異なり。
汐斗の魔力だけで発動すると、『水塊の防具』『使い捨ての装甲』という面が強く。『怪霧鐘』の準備をするため、〔敵の装備を濡らす〕ことに使われます。
一方、『水妖盾』を発動体にした場合、〔ウソつきの幻術〕を多用する。本体の汐斗が姿を現しつつ。『水妖盾』には〔汐斗の映像を加工した、『幻像』が投影〕されます。汐斗が全く移動しなければ、単なる水のレリーフにすぎませんが。
シャドウの拳士として、汐斗は『歩法』を使うわけで。ただでさえ捌き・回避が巧みな汐斗が、『幻像』によって敵の『視覚』を惑わす。『フェイント』を仕掛け、『水妖盾』に敵の注意を引きつけ続ける。
回避タンクならぬ、『幻惑タンク』を務めるための『水妖盾』です。
まあ実際のところ、『推敲』・試作段階の技であり。シャドウ仲間とでは、『幻惑タンク』以前に『タンク』との連携が研究されていない。
そもそも汐斗自身が〔『水妖盾』『幻惑タンク』はサブスキル〕という考えであり。
『渦流閃』の身体強化で、『格闘・拳打』の技量を高めることを重視している。
そのため今回のように〔魔力切れに近く、道具の力に頼るしかない〕という時ぐらいしか、出番がありません。
もっとも汐斗が戦友だと思っている、C.V.の意見は知りません。
術者の映像を盾の表面に『加工』して、ミスディレクションを行う『術式』にとどまらず。『山怪』『霧に舟影が映るタイプの船幽霊』を魔術盾によって流用する。
魔力量があり、高度な魔術文明があるC.V.の世界において。汐斗のアレンジが、どのように評価されるか。本人は〔贈られた『水妖盾』を大事にしよう。術の秘密を守ろう〕としか考えていません。
日本に棲息する『獣』たちが、血の味を覚える。遺体を食べて『人食い妖怪』に等しい、怪物になるなど悪夢でしかありません。他にも遺体を腐らせて、“疫病”が広まったら最悪です。
そして、それを防ぐためには『埋葬』を行う必要があり。〔敵味方〕などと言っている場合ではない。貧しい人々でも遺体を処分できる、『火葬』を行うのは必須事項だと愚考しており。
私はその名残が、日本の様々な『鬼火』・『火の妖怪』にあると妄想します。
そう推測した理由として、日本の『火の妖怪』は海外のそれと比べかなり多い。しかも『死霊』を由来とする『怪火』が多く。『死霊系』か微妙な『怪火』も、『目』がありナニかを訴えるかもしれない。
『灯火』『魔術』や『ブレス』など。術者・怪異に使われている『妖火』が主流の海外と、日本の『火の妖怪』はかなり異なると愚考します。