青色の酒場~凍結魔術
かつて『雷』は『神鳴り』と言っても過言ではない。『強大な神』の具現であり、『神威』の咆哮とも言える。人の力が全く及ばない、天災でした。
しかし戦国時代になり、〔『雷』の権威はわずかながら下がったのでは?〕と愚考します。
何故なら『雷』にどれほど莫大なエネルギーがあろうと。『洪水・飢饉』や“戦火”がもたらす被害に比べれば、微々たるものに過ぎず。そうなると祈り・祀ってお祓いをする『神格』も、『豊穣・戦勝』に関連するほうが盛んになってしまう。
実際、『雷神』から日本人が連想するのは、雷太鼓をたたく『鬼神』であり。『風神』とセットに近い、天界での位は低い『神様』です。
古代倭国の平定に力をふるった、『武御雷』の神を『雷神』として連想する。そんな日本人が、現代にどれほどいるでしょう?
『怪霧鐘』の妖霧で、感知や『視力低下』を行い。『水甲装』によって、敵の攻撃を防ぎ。そうして『渦流閃』で強化した身体で攻撃する。
それが汐斗というシャドウの戦い方だ。『防御系』の術者であり、『勇者』のような華など無い。
実際、山砦に突入しても〔敵の司令官を討ち取る・捕らえる〕などという、功績はあげられず。
姫長の扇奈様が既に『旋天弓陣』で倒していた、指揮官・側近たちを回収し。それを部下に運搬させつつ、口封じ?を行う『隠行部隊』を撃破しただけだ。何の手柄も立てていない。
そのため少しばかり、点数稼ぎを行う必要がある。
「まずは・:・『怪霧鐘』」
先程まで指揮官たちがいた、山砦の司令所に汐斗は戻る。そうして『感知の術式《怪霧鐘》』を発動して、司令所を詳細に調べる。
司令所の構造や足跡の有無。設備のわずかな『摩耗』を調べ上げ、この司令所でどんな操作を行っていたのか。汐斗はその手がかりを探していき。
「うん、さっぱりわからんな」
魔術学者・技術者でもない汐斗が、初見の『魔術設備』について知識の蓄えなどあるはずもなく。
魔力を高めて『怪霧鐘』による走査を行っても、設備の使用方法などわかるはずもなかった。
かつてC.V.様の拠点で、汐斗たちは過ごしたことがあるものの。やはり生活空間と『防衛拠点』の山砦では勝手が違う。
汐斗が都合よく山砦のお宝を得るのは不可能だろう。
「ならばオレにできることをするだけだ」
山砦の『魔術設備』は汐斗の理解が及ぶところではない。
ただし急造の早さ優先で建造されたからだろう。穴とはいかずとも、雑な感じの施設だ。
「『設備』の摩耗したところ。『指の脂』がついているところを走査する」
人がよく移動して『足跡』がついている。『指の脂』がついたばかりのところは、先程の戦闘で使った『設備』を操作するところだろう。
汐斗はそれらに目星をつけ、水筒の水を軽くかけた。
『仕掛けを蝕む水滴よ わずかな冷気と共に、封鎖の鍵と化せ 氷鍵!』
そうして軽い『封印』を施す。精密な仕掛けを、一時的に凍らせ『氷』でふさぐだけ。児戯に等しい『封印』にすぎない。
だが汐斗の魔力量では複数箇所に、強い『封印』をかけることはできない。おそらく山砦の『迎撃設備』だった可能性の高い操作盤を、この『氷鍵』で封印するのが精一杯だ。一時的に『迎撃設備』の暴発・再起動を防げればいい。
「さて本命は、と・・・」
汐斗は箱形の『魔術装置』に対し、短刀の刃をわずかに突き立てる。そうしてつけた刃の傷から『怪霧鐘』を『魔術装置』の中に侵入させ。霧状の『感知術式』で、魔力の流れを解析していき。
「・・・・っ」
汐斗は予想していたモノを感知する。沸騰する寸前の水のようであり、『鉄砲水』のようにせき止められた『魔力』のうごめき。おそらく『自爆機構』と呼ばれるモノだろうが。
「悪いが、凍らせてもらう。
『現有魔力の9割を材料に 凍結の可能性を腕と化し 唯一つの氷刃をここに現せ 一凍刃』」
汐斗の魔力を全て注ぎ込み、魔力による『強制干渉』を行う。一応、『詠唱』らしきモノは行っているが、それにたいした効果はない。
仮にも『水属性』の術者でありながら、水以外を凍らせる『凍結魔術』を断念する。その『誓約』が、汐斗に分不相応の力をふるわせた。
設備・城砦の『自爆機構』のみ限定で、『凍らせ封印』を行う。『爆発の罠』を解除するシーフと同レベルな、しがない力だ。
とはいえ『自爆機構』を完全に解除、及び除去できる御方を呼ぶ時間は稼げる。そうすれば『魔術装置』のある、この山砦から色々なお宝をゆっくり根こそぎ運び出せるだろう。
「その手柄をもって、オレは勇馬様の下に・・・彼女に求愛する権利をいただく」
水色髪の優しい歌姫C.V.。(扇奈様の弟君である)勇馬様に従って訪れた、C.V.の隠れ里で一目惚れした。彼女と【平穏】に生きるために、必ず功績をあげてみせる。
その決意と共に、汐斗は魔力を注ぎ続けた。
「『氷鍵』×3」
山砦の『自爆機構』を『一凍刃』で封じてから。汐斗は『魔術装置』を操作する、本陣?・司令所に入る扉に『氷の鍵』をかけていく。
鍵穴にあわせた『鍵型の氷』をはめこみ。鍵をさせないよう、鍵開けができないよう、鍵穴を『魔術の氷』で封じうめる。
さらに扉と壁・床の隙間に水をたらし、それらを凍らせ。扉の開閉も封じてしまう。
安易に扉を封じた『氷』を溶かそうとしても。ただの火では『氷鍵』はとけず。強すぎる熱では『扉・鍵穴』まで壊すだろう。
自然崇拝の気が強く。悪く言えば、自然に執着しすぎて、文明を受け入れない。そういう『水属性』の術者も、文明に結びついた『氷鍵』は受け入れがたく。解除は容易なことではない。
「まあ、オレより強力な(水属性の)術者ぐらい、いくらでもいるか」
とりあえず魔導師団長のクララ様なら、造作も無く『氷鍵』を解けるはずだ。
そう考えた汐斗は、捕虜を移送する者たちを追うべくきびすを返し。
『・・・シャっ!』
「:・っ^」
ナニかの攻撃を、紙一重でかわした。
『雷神』の威光が下がる。これは平安時代に既に起こっていると、愚考します。
『鵺』『鬼』や『怨霊』など。『雷』と共に現れるのは、『怪異』が圧倒的に多くなってしまい。複数の『天津神』が『雷』を操っても。
無数の『怪異』と共に鳴り響く、『雷』の物量・ネームバリューに押されてしまい。さらに戦火が広がれば、敵勢力の信仰する『雷神』は『怪異』へと貶められていった。
そしてとどめとなるのが忍者の『天気予報』です。建築・農業に戦場など、様々な場面で『天気』の情報は重要であり。
極論、敵の情報を調べても、金で動く“密偵”あつかいですが。『天気予報』を行えれば、千里眼を持つ侮れない導師となれる。ならばいつか『天気予報』を行うことを望み、天気の『情報』を蓄える忍者もいたでしょう。
すると気付くのです。〔雷より洪水のほうが恐ろしい災害だ〕〔雷より風雨のほうが、様々な影響を与える〕〔雷を予測する暇があったら、風雨について知るべき〕
こんな感じに、『雷』の地位は下降していき。それに伴い『雷』の神格も、『雨の神様』に押されていった。『雷様』として〔子供を脅かす鬼・妖怪になった〕と愚考します。