お粗末な旋天
『四角い大凧に乗る忍者』と言われ、皆さんは何を連想するでしょう?
〔飛翔の術のほうが、はるかに便利だろう〕〔大昔の忍者は、大凧に乗っていたそうだ〕
〔下から丸見えなのに加え。大凧をあげるところが無防備になる〕〔創作の忍術だろう〕
色々と意見はあるでしょう。なお私の場合は、最近まで〔大凧に乗るなど古い〕・・・と考えていた。それどころか忘却していたような。
もっと言うと〔大凧をあげて、忍者が乗り込むより。カラスの群れを飼い慣らして、運んでもらったほうがいい〕と考えていました。
山林から利益を得るため。姫長の扇奈を始めとした、シャドウ一族は秘かに進軍するも。
邪教の『予知?』によって進軍は察知されており。『魔術装置』を始めとした、様々な兵器を満載した『山砦』が急造されていた。
もっとも所詮は“賊”の悪あがきにすぎず。扇奈に付き従うシャドウの戦力により、『山砦』は半日たらずで落とされてしまい。
むしろ『山砦』を陥落させたことで、シャドウ一族はいくつか余録を得られそうだった。
「・・:・-・・」
「扇奈様・・・姫長たるもの、もっと落ち着いてくださいませ」
「わかっているわよ、カヤノ」
侍女シャドウの一員であるカヤノの言葉に、扇奈は平静を取り繕う。呼吸を整え、脱力しつつも身体の中心に芯を通す。そうして『大王』のごとき、不動の座位を取った。
「・・・・・(扇奈様はいつから、そんな『大王』の座り方をなさっているのですか?)」
『緋色』の視線が半眼で、扇奈に向けられる。それに気付かぬふりをしつつ、扇奈は求めるモノが来るのを待ち続け。
「ご報告申し上げます、姫長様!」
「っ!!」
「先方の部隊が山砦の最深部に到達し、制圧をほぼ完了させたとのこと!
このまま残敵の掃討を行います!」
「よしっ、よくやった」
伝令の知らせに、扇奈は胸中で〔第一段階を達成〕とつぶやく。そうして頬が緩むのを、かろうじて抑え。
「誰が最深部に到達したのかしら?」
カヤノにセリフを先取りされる。侍女シャドウとしては、扇奈が安易に感情を露わにする。
〔この件を気にしている〕と、知られたくない。そういう配慮から、伝令とのやり取りに割り込んだのだろう。
そう理解していても、扇奈は一瞬まぶたをひくつかせる。
「ハハッ、汐斗殿が一番乗りとのことです」
「^・^:・・〔よしっ〕」
扇奈は静かにこぶしを握る。そのまま祝盃をあげたいところだが。
物事は慎重、かつ確実に進めなければならない。姫長として歓喜の感情を抑え、コトを成すための段取りを組み立てる。
扇奈とその側近たちは、今回の山砦攻略で余録を得ようとしていた。
その余録とは『水属性シャドウ』たちの【功績】である。
『風属性』のシャドウ。そう言えるほどの実力も無いくせに、派閥を築く“老人”共の声は大きく。弟の勇馬をシャドウの頭領(傀儡)に据えようとしたり。
『風属性』以外の術を使うシャドウの評価を下げて。“閑職”に追いやろうと、表裏双方から工作を行ってくる。
そんなしがらみを断ち切りたい扇奈たちにとって、イリス様の〔ウァーテル攻略〕は渡りに船であり。彼女たちはウァーテルに活動拠点を移して、『隠れ里』とは距離をおいている。
〔先方は『旋風閃』を使えるシャドウにお任せください〕
〔そうだね。任せるよ〕
しかし普通に戦闘を行っていれば、加速強化を使える『風属性シャドウ』が活躍する流れは変わることなく。
一族を率いる姫長としては、ユリネ以外の水属性シャドウも引き立てたい。役職・利権を与え。
できればイリス様の『認識変動』をかけていただき才能を伸ばしたい。
そもそも港がある商都ウァーテルに、『水属性C.V.』が来訪するのは確定事項であり。
既にアン・グリュールヴという『人魚?C.V.』が滞在している。
そんな彼女たちに対し、〔シャドウ一族は風属性がメインであり。水属性シャドウは閑職に追いやって冷遇しています〕
こんなアホな事をのたまう。愚劣な人事を行っていると、C.V.に見られればどうなるか。
老人共は〔不利益があっても、一族の独立を保つ〕などと甘いことを言っている。
しかし扇奈たち若手幹部の意見は、完全に一致しており。
〔公平感のある人事で、C.V.との外交が丸く収まるなら。小細工を弄してでも、汐斗には絶対に出世してもらう。
そもそも情愛に狂ったC.V.の理性など、全く信用できない。アン殿がおとなしいうちに、汐斗を引き立てるのは必須事項だ〕
四凶刃の一人が強く主張したことにより。汐斗を出世させるため〔わかりやすい功績をあげさせる〕機会を、扇奈たちはうかがい続け。今回の山砦攻略はそのチャンスだった。
〔狭い山砦の内部では、(壁に激突する危険があって)『旋風閃』の速さが活かせない〕
〔地下水路に侵入を試みる。また“ゴキブリ”が走る下水に、汚染する企てがある(かもしれない)。だから山砦攻略にオレはついて行けない。イヤー^~残念、ザンネンだ〕
こういうやり取り・根回しによって、四凶刃の藤次は留守番となり。
〔そういうことなら・・この機会に一般人が地下水路の清掃を行える、『手順』を作りなさい〕
〔・・・・・えっ〕
〔お返事は?〕
〔喜んでやらせていただきます、姐さん!〕
こういうやり取りが交わされ。山砦の内部へ突入するのは、ある程度の防御力を持つ汐斗に決定した。
まあ藤次には、少し美味い『酒』でも都合すればいいだろう。
「しかも汐斗殿は山砦の総指揮官を捕らえたとのこと。さすがは姫長様でございます」
「・・・(?)造作もないことよ」
大将を捕縛したのは、間違いなく汐斗のはず。
それなのに扇奈が賞賛されるのは、どういうことだろう?そんな扇奈の疑問を代弁して、侍女が伝令に問いかける。
「山砦の守将を捕らえたのは、汐斗殿でしょう。それなのに何故、ここにいる姫長様の功績になっているのかしら?」
「はっ。汐斗殿が砦の最深部に到達したときには、既に敵大将及び側近たちは昏倒しており。
動けない者どもを、汐斗殿は拘束したとのこと。
さすがは姫長様の『旋天弓陣』でございます!」
「「・・・-・」」
カヤノの視線による問いかけに、扇奈は素早く返答する。近しい主従の間で『光術信号』を使うまでもない。互いに気配で会話をかわし。
〔『旋天弓陣』に山砦の戦闘員を、無力化する力などないわ。間違って殺すことはあっても。
突入した汐斗たちを巻き込む、『死の空間』を山砦内部に作れるわけないでしょう〕
〔・・・でしょうね。ということは、汐斗殿が忖度した。功績を貴女に譲ったのかしら〕
〔ハァッ!?何でそんなことを・・・〕
〔勇馬様を追い出した・・・ということになっている姫長の権力を維持するためだと推測するわ〕
〔余計なことをっ!〕
〔汐斗様は外交のことなど知らない。知らされていない。
それに勇馬様が創設する予定だった親衛隊の候補だったから・・・〕
愚弟の意向を受けて、姫長の扇奈を手助けし功績を譲る。そんな忠義?を尽くしたのかもしれない。
〔だからって今っ!この時に!ソレをやるっ!?〕
はっきり迷惑である。せっかくの作戦・外交が台無しになったと言いたい。
しかしカヤノはため息まじりに告げる。
〔[犬は飼い主に、強兵は勇将に似る]と言うわ。貴女が『旋風閃』を部下たちに会得させるため、それなりに消耗したことを彼らは察している。老人どもと違ってね〕
そもそも汐斗が単独で、『功績』を扇奈に譲ることは難しい。小隊メンバーや中級シャドウたちも、大なり小なり協力している。いわば今回のことは、ほぼ一族の総意だろう。
「あの・:姫長様?」
〔時間切れよ〕
「ーー・報告、御苦労。下がって待機を命じる!」
「ハハァっ!!」
不審か、不安によるものか。表情を暗くしてうかがう伝令に退出を、扇奈は命じながら。
次なる報賞を都合する『策』を考えるべく、記憶の棚を開けていき。
隣で紅い舌が、唇を湿らせたことに気付かなかった。
しかし忍者が諜報活動を行うにあたり。敵拠点を調べる際に、『建築技術』を修得している間者の有用性を考えると。
『大凧』をあげて、『風向き・風の強さ』を調べる。『天気予測』を成功すれば、値千金の『情報』になると愚考します。
極論、いつ下剋上されるか知れたものではない。“ボス猿武将”の個人情報など調べている場合ではないと考えます。
単純に戦の際、〔天気を予測できれば有利になる〕というのもありますが。
それ以上に〔高い建物を作った。『天守閣』を建てたら、強風で建物が傷み。維持整備の『費用』がシャレにならない。財政を傾かせる〕・・・などということを避けるため。
『大凧』を飛ばして、『風の情報を得る』のは重要だと愚考します。
もっとも戦国時代の『山城』は森に囲まれており。『風』などそれほど重要ではない・・・という可能性も充分、あり得ますけど。




