水蛇の姉妹~渦流閃
先週、『日本の城』番組を見て、思いついたことが一つ。
〔高所にある城の中心部から、低所外側の入り組んだ通路に鉄砲を撃てる。籠城戦に備え、そのように城は建造されている〕・・・とのことですが。
戦国時代ならともかく。太平の世である江戸時代に、そんなものを作る。移動しにくい防御施設を造るのは、不便なのでは?・・・と愚考して。
〔矢玉の代わりに、矢文・メモを投げたら。近道を通るように、早く情報を伝達できるのでは?〕・・・という。しょ~もないことを妄想しました。
“盗賊ギルド”の・・おそらくはそこに所属する、邪教の『予知』によってシャドウの行動は読まれ。魔術装置が持ち込まれた山砦が急造されるも。
姫長の扇奈様に、付け焼き刃の魔術が通じるはずもなく。兄上の編み出した『旋矢』も、それなりに援護を行い。山砦と伏兵の“魔薬の蟲人兵”はたちまち壊滅状態となる。
とはいえ“盗賊ギルド”の構成からして、それらは主力ではなく。
侍女シャドウであるユリネは一人、荒事担当の密偵たちに囲まれていた。
「「「「「KYuぁアアアアア--;^;^`~」」」」」
「思い知ったかっ!」「フッ・・」「観念するがいい!」「「「・:・・ーー」」」
先程までともに戦っていた『水の分け身』が断末魔をあげ。それらは完全に水たまりへと還っている。
ユリネが水魔術で作った『分身』たちには、『霊糸』で編んだ装束を着せており。『分身』が討たれても、『霊糸装束』のダメージが少なければ。『水の分け身』は復活して襲いかかる。
〔水死体みたい/かなあ/ですわ/だなあ/でヤダ/・・・ゲフンゴフン〕
正直な身内からは、散々な感想をもらった。それなりに手間をかけた『水の分け身』だが、今回の戦闘で再生することはもうない。
「侍女のユリネ!貴様が水属性の術者ということは、知れ渡っている。
その術がいつまでも通じると・・対策を取られないと思ったか!」
「まあそれはそうよね。『封魔の護符・水』・・・まさか密偵ごときに、安売りされるとは思わなかったわ」
「おとなしく縛につけ!降参するならそれなりの待遇を・・・」
おきまりな降伏の宣告を、密偵の頭は投げかけてくるが。
ソレを訳せば〔貴様が隠し持っている、『魔薬』を出せ〕・・となる。
『水の浄化』の術式を販売・広める任務を、ユリネは失敗したものの。行く先々で『魔薬』の貯蔵庫・製造場所を、ユリネたちは壊滅させ。
そこにいた人員は一人も逃すことなく。『魔薬』を水路・地面にぶちまけて、周囲を汚染する失策を犯すことも一切ない。
シャドウとして、侍女として、何より姉として。
〔『魔薬』で汚染された環境を浄化するために、『浄化術式』を買ってください〕
そんな“自作自演”という下劣行為を、水那に教える気などユリネには無い。アジトは完全に破壊し、『魔薬』は然るべき所へ持ち帰った。
「そんなに『魔薬』が欲しいのかしら?
アレで“魔薬兵”を作っても、弱兵にしかならないけど・・・」
「ッ!?・:黙れっ、余計な口を開くなっ!!」
「ちょっ・・バっ:・・」
ユリネの下手な鎌掛けに、リーダーらしき者がわかりやすく答えを怒鳴る。どうやら〔本当のこと〕を言われて傷ついたようだが。聖賢様の配下は“魔薬兵”への対策法を共有しており。弱兵どころか。
〔コストを浪費して暴行亜人を作る。賊の頭脳陣はエセインテリだ〕という意見で一致している。
その理由として・・・
〔魔薬兵は温度・室温が変わると大きく動揺する〕
〔大半がカナヅチで、水に沈めればいい〕
〔身体能力が上がっても、身体を動かす修練が足りていない〕
〔単なる暴力はともかく、感覚器が過敏で『目くらまし』に惑わされる〕
〔体型がバラバラで、無駄に自意識過剰だ。集団戦はオーク以下なのでは?〕
・・・大まかにはこんなところだが。研究以前に、撃破するたびに短所が露呈してくる有様で。
現状、指揮官は兵員たちに〔油断しないよう〕戒めることが重要となり。
幹部は〔“魔薬兵”の血・体液が病毒をまき散らす触媒になるのでは?〕と警戒を続けている。
はっきり言って、異形なだけの“魔薬兵”に驚く下級シャドウなどいない。
「それでも“魔薬”にこだわるなんて・・・別の悪用方法か、政治でもからんだのかしら?」
「その口を、これ以上開くな!」「「「「「・:---!」」」」」
密偵たちがユリネの口をふさぐべく、殺到してくる。『身体強化』と修練で研ぎ澄まされた動きは鋭く。“魔薬兵”などより、はるかに厄介だ。
もし『封魔の護符・水』によって『水術』を封じたと思っていなかったら。もう少しぐらいは、苦戦したかもしれない。
『渦流閃』
魔術の呪文・詠唱を封じる際に、『空気の震動を封じて、音を封じ、詠唱を封じる』魔術がある。
しかし『術者の声を封じ』たとしても、息・呼吸を止める。窒息死させることは不可能であり。つまり単なる『魔術封じ』では、被術者の身体にまで干渉できない。
それは『身体強化』の術を封じることはできないことを意味する。加えて『身体強化』から派生する魔術も、封じることは不可能ということだ。
「ガカッ・:*」「ゴッ!?・:ギィ*^*」
ユリネの両手から、それぞれ掌底が放たれる。その掌底は撫でるようであり。左右の掌からほぼ同時に放たれたため、威力も分散している。
そんな『柔拳』が、人体の芯を破砕した。
「おのれっ、まだそんな力がっ!」「距離を維持しろ!飛び道具で削ってから・:ッ!?」
賊が指示を出してる途中で、ユリネはあっさり包囲から抜け出る。氷上を滑るように、水上を走るのと同様の速さで駆け。
「ギャP・;/*!!」「「「**:--」」」
駆け抜けざま、ユリネはさらに数人の刺客を葬る。それは通常の『旋風閃』ではあり得ない、剛力で打ちのめされており。まるで無防備に大金鎚の直撃を受けたかのようだった。
「ひるむなっ!」「往生際の悪い・・」「「・・:・・ーー!」」
ユリネの『魔力』にかかる負荷が増大する。『魔力』を放出する穴をふさぐように。『魔力』を練る呼吸を圧迫するように。
『結界』が、『束縛』の呪術が複数種類、ユリネへとからみつく。それは『蛇』のように噛みつき、からみつき、ユリネを丸呑みにしよう試み。
「くだらないわね・・『渦流閃』!」
「「「「「・・ッ!?」」」」」
砕かれ、裂かれ、打ちのめされた。
『蛇』のような魔術・武術は、かつてのユリネが目指したものであり。現在は水那に進呈した、ユリネの『半生・経験』でもある。正直、未練が全くないと言えばウソになるが。
「『蛇』の技は、散々研究しつくしている。今さら盗賊の“長虫”“邪法”にひるむと思った?」
「チッ、もう捕らえる必要はない。殺せぇっ!」
殺気のこもった凶刃がユリネに迫る。地獄の修練をくぐり抜け、実戦で鍛えられ、研がれた。
聖賢様、扇奈様、侍女頭たちと比べ、どうしようもなく鈍重で拙い刃がゆっくりとせまり。
『渦流対閃』
「「「「「「「「「「-/:ゴォ*っ」」」」」」」」」」
ハラワタの“水分”をかき回されて悶絶した。
『渦流閃』は魔力によって細胞の『水分』を強化する。『旋風閃』のように呼吸・血流をメインに、身体を活性化する。まっとうな『身体強化』とは異なる。
異形に変わらずとも、『水蛇人間』と化す禁術を使っていると言っても過言ではない。
よって敵対者の体細胞を、勝手に強化したり。強化の反動でハラワタをかき回す。
かき回し渦巻く“体液”を、荒事担当の密偵たちの体内にとどめることも。理不尽な『魔力』を行使すれば可能であり。
「どんなつもりで『魔薬』をあつかったのか知らないけど。
〔『魔薬』に関わる者たちは容赦なく殲滅せよ〕と命じられている。悪く思わないでね」
「「「「「「「「「「\!・**:--!?*」」」」」」」」」」
苦しみ悶える頭目とおぼしき者の腹に、ユリネはそっと掌をそえる。
さらに『封魔の護符・水』の効果が切れた空間に、再び『水の分体』を具現化させ。その手も密偵全員の腹部にあてさせる。
「弾けろ・・『渦流対閃』」
再び放たれた『禁術』によって、悲鳴があがることはなく。
ユリネは次の標的を求めて、昏い森のしじまへと駆けだした。
〔天守閣に人は住んでいなかった〕・・・というのは知っていますが。遊ばせておくには天守閣つきの城は、もったいなさすぎる建物です。安土城のように、家臣・客人を招いたり。殿様の権威を示すため、行事儀式の類を行ったでしょう。
そんな中で〔忘れ物をした〕〔人が倒れた〕他の緊急事態が発生した際。半ば迷路な、お城の通路を爆走するのは滑稽というか。事態を知らせるため走る武士は必死なわけですが、色々空回りすると思うのです。
そこで城の要所に配置している警備の者に、『緊急事態』のリレーをさせる。矢玉を放つ窓・狭間?を使って伝書を行う・・・というのはいかがでしょう。
入り組んだ城の通路、迎撃用の窓・仕掛けを見て。そんなコメディを妄想しました。