旋天と旋矢:臥龍息
ギリシャ神話の巨人『サイクロプス』。それは不思議な身体部位をもつ巨人だと愚考します。
その身体部位とは頭頂に鎮座する『一本角』のこと。
『大地母神ガイア』の子である上位、『海神ポセイドン』の系譜である下位『サイクロプス』のどちらにも生えている。ゲーム・コミックに登場する脳筋モンスターにまで『小ぶりな角』は生えていますが。
私はこの『一本角』がどんな効果・役目や由来を持つか。聞いたこと見たこともありません。頭突きの一つすらしたこともない。
それなのに経験値モンスターにまで、一本角が生えていることは多い。不思議だな~と思うのです。
世の中には理不尽や『詐欺』というものが存在し。
扇奈様の『旋天弓陣』もその一つだろうと、下級シャドウのタクマは考える。
山なり・放物線を描く『矢』の軌道を、『風術』でコントロールする。従来の『曲射』と、『風術』の飛び道具をそらす魔術を掛け合わせた。
要は足して劣化コピーして、単に障害物を越える。そんな『弓術?』がタクマの『旋矢』だ。
一方で扇奈様が9割9分編み出した。『旋矢』を参考にしたと、姫長が仰る『旋天弓陣』の魔導。端的に言って比べるのもおこがましい。『飛び道具』のくくりで、投げナイフと『広域魔術』を一緒くたにするようなものだ。
「撃ち方やめっ・:呼吸を整えろ、『狙撃』用意だ!」
「「「「「「「「「「・:・---了解!!」」」」」」」」」」
そんな現実をタクマは申し上げたのに・・何故かシャドウの弓兵隊長を任じられていた。
真昼の空を『夕日』に変える。太陽光線の『色』を、術式によって『朱色』限定で通す・*?
そんな大魔導も扇奈様にとっては、小手調べの一つにすぎない。よってタクマは山賊の見張りを射抜いた程度で、戦果を誇ることもできず。
即座に次の標的へと、狙いを定める。
「これは・・・」
「フン・・“賊”にしては、よく考えていると言うべきかしら」
山砦の『結界』にはじかれた。『結界』の魔力を浪費させ、手の内をさらさせ。山砦を囲む森に拡散していった。
『旋天弓陣』によって撃ち出された魔術は、『水分子』の集合体であり。陽光の朱色を帯びたそれは、〔森に拡散して終わり〕ではない。
森に潜む悪意に反応し、空気と一緒にソレの呼吸器へと吸い込まれていく。朱色から藍色に変わった『水分子』が、伏兵を暴き。兵種までをもつまびらかにする。
「山砦に収まるはずの無い、大量の兵員と“魔薬”を蓄え。それをこんな風に使うとはね。
“浅知恵”と罵ることはやめておくべきかしら」
〔心底、軽蔑するけれど〕
扇奈様が侮蔑の視線を投げるモノ。それは地中に潜った、『蟲』の兵であり。“魔薬”によって人間の思考を終わらせられた、“生ける屍”たちだ。
軍勢を動かすにあたって、『補給』は急所・重要な問題だ。〔『補給』を絶つ=勝利〕と言っても、過言ではなく。〔『補給』の維持=軍団を維持〕と考える軍師も多い。
そこで〔『補給』がほとんど必要ない。絶食しても長く生きられる、『蟲』の力を“魔薬”で得よう〕とでも考えたのか。山砦を囲む森からは、たくさんの〔不自然な『呼吸』〕が感知されたとのこと。
ソレにどんな悲劇や“非道”があったのか。タクマの知るところではない。タクマがすべきことは、この一戦に勝利するため全力をつくすことのみだ。
「狙撃準備、完了でございます。お下知を!」
「狙い・・討てっ!!」
「「「「「「「「「「--・:--『旋矢』!」」」」」」」」」」
猛禽のごとく『矢』が飛翔していく。それらは高空へといったん舞い上がり。
扇奈様が掌握した、山砦の『上空』を通り過ぎて急加速していく。
「『鳶目』『風翼』・:『雷爪矢』!」
「その『術式』を借りる・・『魔鏡閃影』-:-『雷爪矢群』!!」
山砦の防壁の役目を担う、森林に無数の矢が降り注ぐ。その『矢』には、派手な『雷光・雷鳴』の神威は無い。
ただ無音の断末魔が響き。〔地面がわずかにゆれた〕とタクマは感じた。
「『魔術装置』の復旧を急げっ・・モタモタするな!」
「了解ですっ^・`」
山砦の最奥にある司令室。そこでティルミード将軍は敗戦の予感にさいなまれていた。
莫大な犠牲を払い、急ピッチで山砦を築いた。『契約』をかわすことで『予知』の情報を得て、“卑賤の集団”が来襲することを知った。その情報に賭けた。
それもこれも故国を復活させるため。表裏を司る者で軍事部門の地位を得るため、功績をあげる。そのためにティルミードは、あらゆるモノを代償に捧げてきた。
「こうなれば『蟲人兵』を起こすしか・・・」
「それはっ・・」
「お待ちください、将軍!『砦の魔眼』が再生します。まずはそれで状況の確認をっ・・!?」
「・・・:^-ー;っ!?」
魔術装置に映ったモノ。それは“真昼の夕日”よりおぞましい、“蛇の両目”だった。
ティルミードはかろうじて悲鳴を飲み込み、指揮官の威厳を保つのに成功するも。
「そんなっ!?『炉』の魔力が尽きます--;+*-!」「防御の結界がっ・・消えてっ;^*!!」
「ミドラス隊長!・・応えてくださいっ!」「ヒィッ・:;!?」「来るなっ、来ルナァーーアア*」
山砦の『機能』を動かす『炉』が停止する。次々と山砦の『防衛機能』が止まり、配下の隊長が“音信不通”になっていく。
それはかつて籠城のすえに滅ぼされた、首都の最期を思い起こさせ。
「このっ、悪趣味な蛇、へっ・ヘぇ・・*」「おいっ、ドうxしぃ?シだ^!・?」
「・・/\!」
ティルミードの手足である、側近たちがろれつの回らないセリフを垂れ流す。だがそれを叱責しようにも、ティルミード自身の頭脳がハタらか無い!?どうしてっ・・!?ドウし手・;・?
「バカなっ、風の魔術には対策ヲっ・!?トリでには大麻っ、対魔マ・・・--**」
頭の中で『鐘の音』がうるさく鳴る。ソれなのに周囲の音は聞こえナクなり。
ただ脅威と敗北の確信のみが、ティルミードの心身を侵蝕していった。
『旋矢』という術式がある。下級シャドウのタクマが編み出した。山なりに飛ぶ曲射の『矢』を、『風術』で操り命中率を高める。『弓術』・『風術』の複合技・・・ということになっている。
しかし扇奈の考えでは複合技ではなく、『連携技』だ。射手と術者の後衛二人が『弓術』・『風術』を分担して『旋矢』を放つ。あるいは前衛で近接戦闘を行っている者が、『風術』の照準のみ肩代わりする。
そうやって『旋矢』の技を鍛えていけば、シャドウの不得手な魔術戦闘もこなせるようになり。C.V.イセリナの後塵を拝することもなくなる。
そのために、魔術装置を持ち込んだ“急造山塞”を速やかに陥落させ。『旋矢』の有用性を、まず一族の者に示さねばならない。
そしてその計画は完成しつつある。
『緋蛇鳴巣』
侍女シャドウのカヤノが練った『呪力』が、魔術装置の欠点に牙を突き立てる。
いかに強固な防壁があろうと、周囲の情報収集を行う『目』があり。“魔薬の蟲人兵”を操る『指令』を出す『口』がある。
さらに切り札として、『広域殲滅魔術』を放つ装置まであるのだとか。
「つぎはぎ要塞に、生兵法の守備戦・・そんな穴だらけが通じると思っているのかしら」
「仰る通りでございます」
完全にシャドウ一族を侮っている。ならば徹底的に思い知らせなければならない。
そんな扇奈とカヤノの意をくみ、『呪力の蛇』が要塞の隙間にかみつき、潜り込む。
それは山塞からすればわずかな隙だろう。
だが旋天属性の扇奈にとって、充分に致命の一手をうてる“大穴”であり。
『等しく命を支え、育む自由なる風よ 一時、略奪の徒から恵みを奪え
火は燃えず 水は温まることなく 地は魔鐘を響かせ 翼なき風を疾く、呼びこめ 臥龍息』
扇奈の詠唱によって山塞周囲の風に、『魔力付与』が行われる。それはたいしたことのない『エンチャント』であり。扇奈が優先的に『風』を操るだけの魔術にすぎない。
実際、屋外ではまったく効果をあらわさない術式だ。
〔ただし空気がこもる屋内は地獄になるけど〕
屋内は密閉され空気が滞留する。たいていの風属性にとっては不利な空間も、『旋天』にとっては干渉し放題な空間であり。
『魔力付与』によって停滞する空気は、賊の肺・呼吸器に酸素を運ばぶことを放棄する。
都市ウァーテル攻略の門前でのみ行われた。薄い空気による高山病の悪夢が、山要の守備兵に襲いかかるのだ。
「そちらも手段を選んでいないのだし。まさか卑怯とは言わないわよね」
扇奈のつぶやきに応える者はおらず。やがて山塞の機能は停止していった。
ネタバレ説明:『臥龍息』
上記のとおり。空気に『魔力付与』を行い、扇奈がそれを所有権を主張することで。屋内限定で空気中の『酸素』に干渉する。通常の呼吸では『肺』に酸素を取り込めない、疑似的な『薄い空気』を作る術式です。
事実上『即死』呪文に近いですが。あくまで格下の敵を殲滅する効果しかありません。
〔拠点の奥だから安全に、一方的に攻撃できる〕・・と考える非戦闘員を窒息させる術式にすぎず。
魔術の『仮面』を装備すれば簡単に防げる。もしくは全身から『生体魔力』を放出できるレベルなら。最下級の星鎧一人で、一室の『薄い空気』を平常の空気に戻せます。
もっとも扇奈の本領は遠距離攻撃ではなく。『臥龍息』は器用貧乏に編み出した、術式の一つにすぎません。本来は〔牽制になれば儲けもの〕という程度であり。
今回は魔力のゴリ押し。山砦の魔術装置を利用することで、効果が増大した。
呪術が得意?な侍女シャドウと連携したから、例外的に威力が増幅しただけです。
『単眼巨人』という解釈のとおり。『サイクロプス』にとって最重要なのは『一つ目』であり、次が頑強な肉体でしょう。『一本角』のついてない『サイクロプス』はいくらでもいます。
しかしそうやって『一本角』を無視・切り捨てるのはもったいないと愚考します。
そもそもギリシャ神話・西欧文明の異形で、『角を持っている』=『牛・鹿の二本角』を持っているに等しく。
『ユニコーン』の角は“男性器”と見る俗説もあるとか。さすがにそれは『ユニコーンの旗・紋章』をもつ『貴族家』に失礼というか。敵対者の中傷だと考えます。
ともかく『サイクロプスの角』は貴重であり。色々と想像する余地があります。
1)カトプレパス=カバと同様に、サイクロプス=サイの伝言ゲームがあった。
2)山の頂上で強風などによって、植物が育たず。『地肌』が向きだしになる。それが『角』とみられた。
3)上記とは逆に、山の頂上に一本の目立つ高い木が生えており。それが『角』と見なされた。
4)『フェイスガード付きの兜』をつけた強力な戦士を恐れた。ギリシャ神話の兜は『オープンフェイス』が主流であり。顔を覆う『フェイスガード』は不気味なため、角付き恐ろしい『サイクロプス』が想像された。
少し考えただけで、このぐらいあります。あくまで私のテキトウ妄想ですが。
『サイクロプス』に何故かついている角の由来が判明するまで。このプチ幻想を楽しみます。




