22.剣の燐光
世の中には様々な『魔剣』があります。その中で人気がいまいちの『魔剣』は何でしょう?
私が連想するのは『刀身が見えなくなる』魔術の剣です。「不意打ち用の刃」「暗殺者がふるう剣」というイメージがつきまとう。『不可視の剣』は“闇討ちの剣”いう、ロクでもない連想をすることもあります。
しかし『不可視の剣』にはそういう側面もありますが。それは他の『魔術剣』、剣術の類も同様でしょう。あらゆる実戦武術は、敵の不意をつく術技を内包します。そして同門以外の者にとって、大半の『魔術』は“暗殺”に流用できるわけで。
それにたいていの『不可視の剣』は[見えない]ことに執心しすぎて、成長性など他のことが疎かになる。敵を惑わし圧力をかけて、〔心理戦を行う〕という狡猾さにすら欠けてる。
極論、陰で『不可視の刃』を維持するため、必死に努力し続けねばならない。『不可視』の術技を維持しつつ。敵・観覧者の『感知』について、情報を集め対策を練り続け。『不可視』の秘密を守るため、情報戦を行い。他人に心を許すこともできない。
特攻の魔術・苦労人の幻術士=『不可視の魔術剣』をふるう者。そんな連想をしてしまいます。
悪徳の都ウァーテルは、幾度も戦火をくぐりぬけており。その都市には当然、防衛設備が設けられている。
その一つが、侵入者を迷わせる入り組んだ道だ。政庁が都市の中心部にあると周知されていても。その場所に正門からまっすぐ行くことは、不可能な経路になっており。
よって正門を突破した敵兵は迷路に惑わされ、時間・体力の浪費は避けられない。
本来ならば。
「「ハァッ!」」
「『術式干渉』私たち三人の『身体強化』を、さらに増幅して発動する」
しかしイリスは身体強化に特化したタイプの戦争種族であり。シャドウ一族であるウルカ、サキラの二人にとって、家屋による迷路は障害になりえない。
「追えっ!逃がすなっ!」「待てっ!待ちやがれえっ!」
跳躍によって壁を飛び越える。瞬時に屋根への跳び・降りが可能なイリスたちにとって。『路地』というものは〔一般人が使う地図上の単語〕でしかない。
何故なら都市の移動中に、行き止まりがあるならば。跳んで屋根の上を走れば、『行き止まり』は移動の妨げになりえない。
「逃げるなっ!卑怯者めがぁ」「オンナとはいえ戦士。ならばとどまって戦えっ!」
「「・・・ハァ」」
むしろ迷路に苦しんでいるのは都市ウァーテル、で活動している“盗賊ギルド”の連中であり。
〔腕自慢の用心棒とはいえ、必ずしも脚力にまで優れているわけではない〕・・という事実を知らしめていた。
もちろん足が速い標的を襲う時は、シーフ連中が囲んで足止めしたり。袋小路に誘導するなりして、荒事担当の到着を待つのが定番だろう。
しかし跳躍力にも秀でるイリスとシャドウたちに、その戦法は通じない。普通に包囲網を飛び越えるばかりか。長距離用のスローペースで走っているつもりで、盗賊たちを余裕で振り切ってしまう。
「『身体強化』の増幅を停止っと」
「・・・いかがいたしましょう?イリス様」
「ご命令いただければ、私たちで(賊を)始末いたしますが」
そもそも包囲・誘導のどちらも成功していおらず。魔力の温存を決めたイリスに対して、ウルカとサキラは盗賊たちの殲滅を提案してくる。
それほど彼女たちとシーフ共の間には、埋められない実力差が横たわっており。
所詮はギルドの組織力に頼り切ったチンピラ集団でしかない。素人を襲う暴力は持っていても、野生の獣ほどの身体能力もなく。
そして現在、ウァーテルに侵入しているシャドウたちは、最下級でも人食いモンスターを倒す戦闘力・機動性を持つ。
追いつくことすらできず、肩で息をしている盗賊集団など敵ではなかった。
「そういうわけにもいかないよ。悪徳都市とはいえ軽薄・脳筋だけしかいない・・などということはあり得ないからね」
暴力担当や軍師気取りの“詐欺師”はどうでもいい。とはいえ住民・世間の目というものがある。
あまりに怪物じみた戦闘力を披露すれば、『魔王の軍勢』扱いされかねない。それはこの先の統治・外交に、莫大な不利益をもたらす。
「しょうがないから、政庁に行く通りで捕捉されたように偽装しよう。
ゆっくり走って、追っ手と剣を交えれば。シーフの包囲網も完成するだろう」
「「かしこまりました、イリス様」」
本来、敵に包囲されるなど愚策の極み。ドラゴン級の怪物でなければ許されない自殺行為である。
だが世界には『ドラゴン』を圧倒する理不尽が存在し。
そのことをウルカとサキラは、幸か不幸か日常的に目の当たりにしていた。
『『剣燐』』
無礼者が“アサシンもどき”などと揶揄する。軽量・敏捷性に優れる、シャドウ一族の『魔力』は本業の魔術師に劣る。そんな一族の中でも、中級レベルのウルカとサキラの『魔力量』は、せいぜい下級魔術師と同等といったところだ。
『剣燐』×4
当然、使える『術式』も相応のものとなる。『剣燐』の言霊で発動した『術式』は、無力で幻術の範疇に入らない瞬きの光であり。ただ金色に近い『灯・燐光』を無数に乱舞させるものだ。
よって三人を包囲しようと、群がるゴロツキがひるんだのは一瞬でしかなく。仮にも悪徳都市の戦力である連中は、『魔術の光』に嫌悪こそすれ。攻撃の手をゆるめることはなかった。
「ひるむな野郎どもっ!小娘相手にびびってんじゃねえ!!
腰抜けの烙印を押されたくなかったら一気にかかれ!」
そうやって盗賊のリーダー格が部下に発破をかけるも。猛々しいセリフとは裏腹に、その顔面は内心の焦燥を悟られまいとガンバっていた。
「くそがっ・・いったいどうなってやがる!」
シーフのリーダーが焦っている。その原因はウァーテル都市内部の最新情報が、まともに入ってこないためだろう。
腰抜けの槍使いが、正門から突破を仕掛けた聖賢の御方様のことを伝え。それから一時間と経たず、町の各所で騒ぎが起こっており。その状況・理由が指揮をとるリーダーにまで伝わってこない。
報告をすべき、足が速い伝令役からは音沙汰なく。様子を見に行かせた、副長も帰ってこないというありさま。
「腰抜けはいらねえ、無能は殺す!それが嫌なら小娘どもの足を止めろ。
俺様がとどめを刺したら、身ぐるみはくれてやるぞ!!」
凶暴性が丸出しのセリフを吐いているが。シーフリーダーの表情は、不穏な『予測』によって歪みつつあった。
何故なら襲撃者である、シャドウたちは隠れる気がないから。
これ見よがしに『魔術の信号弾』が曇天に打ち上げられ。襲撃をかけたシャドウが健在で、防衛側のシーフ連中が敗北し続けていることを表し。そんな『信号弾』の光が盗賊・用心棒の倒れふした不様を照らし出している。
「このアバズレどもがっ!」「「「--ーっ!」」」「死ねぇ、死にやがれぇ!」
「「無礼者」」
怒声をあげて、何とかイリス様の注意をひこうと“賊”共があがく。それに冷たい視線を向けつつ、ウルカとサキラは連中の迎撃を行う。
瞬く光の群れにすぎない『剣燐』は、単体ならば『発光』のアレンジにすぎない。
だがウルカとサキラそれぞれの『双剣』と共に舞い踊り。二人が舞う拍子を『視覚的』にも増幅していく。『双剣』の舞いが拡大し、『光の帳』が二人の動作を一部隠す。
「「「「・:/*ッ!」」」」「このっ、このぉ/;!?」「見えないっ!このっ:!魔女めガァ*」
戦いの流れは完全にウルカたちのモノとなる。
人間とは『視覚』に依存した生き物であり。自覚しているより、はるかに多くの『錯覚』『見間違い』を行っている。
そして平時なら勘違いで済む『錯覚』も、戦闘では致命的な『幻惑』と化し。
盗賊ギルドのメンバーを次々屠る、死の渦が廻る。廻り続ける。
無論、盗賊ギルドの中でも荒事担当の者たちが、無策ということはない。
「ウオオォォーー-ッ!!」
巨漢の力自慢が『大斧』を振り回す。防御できない範囲攻撃が、辺りをなぎ払い。雄叫びはサキラたちのリズムを乱し、否定する『呪文』のようだ。
「フッ」
「ハゴッ⁉」
そしてウルカの大振りな両足蹴りをカウンターでくらった。
「ひるむなっ!まとまっ*/⁉」
「うるさいわよ」
その反対側ではサキラが投擲した刃が、シーフリーダーの『眼球』とその奥を容赦なく貫く。
「頭ぁっ!?」「「「・・--+!?」」」「ひっ、ヒィい:ア・/*」
本来なら『投げナイフ』への警戒ぐらい、シーフたちも行っている。
しかし『剣燐』の舞は、〔『双剣』の演武だ〕という固定観念を観客に与えた。あるいは『聖剣の爆光撃』などという、伝承を夢想したのかもしれない。
そんな『剣燐』に没頭した連中の不意をつくなど、造作もないことであり。
ウルカが『体術』で接近戦を行う時は、サキラが飛び道具を投げて牽制する。
サキラが『光術』と同時にナイフを投擲する際は、ウルカが身を盾にしてそれを隠す。
そんな『連携・演武』を盗賊たちが理解するころには、無傷で立っているシーフはおらず。『剣燐』の光は倒れふす者たちにも降り注ぎ。
その光景にひるんだ援軍団に対し、シャドウ二人は己の武器・武術をふるい続けた。
ネタバレ説明:『剣燐』
この『発光魔術』のアレンジが、『灯』の範疇におさまっているには条件がある。それは術者のシャドウが、無力で棒立ちになっていることだ。
戦いとは観察・予測の連続である。それらを怠り間違えれば即、敗北だ。よって『剣燐』がウルカの身体を局所的に覆えば、挙動の前兆が見えず。逆に『剣燐』が拡散すれば注意をひかれ、サキラのフェイント・投げナイフを見切るどころではなくなる。
かくしてゴロツキ連中は単なる『浮遊する光』の群れに翻弄され、数の有利を生かせなかった。
それを無様と言うなかれ。人間は視覚に『依存』した生き物である。武術の達人ならともかく。ゴロツキや後衛職では、気配を感知するどころか『聴覚』を研ぎ澄まし。その感覚を『視覚』の代わりにする度胸もない。
そんな連中に『剣燐』による、光の乱舞が展開されればどうなるか。最低でも霧や砂嵐の中で戦うようなもの。
実際には『剣燐』を操っているウルカからは丸見え。演出を担っているサキラの攻撃は、過剰威力に見えてしまい。『剣燐』を刃と誤認して、完全に徒労の回避をする。
これでは勝負になるはずがなかった。
“詐欺”・『フェイント』のコツは、〔虚実を織り交ぜること〕だそうです。完全に見えない刃をふるう剣術者は、〔馬鹿正直に刀身を隠しているだけの、下手なウソツキ〕ではないでしょうか。
それでは高コストなわりに戦果が期待できない。デメリットに振り回され。“ウソツキ”の悪名に苦しみながら、(征服大王に)色々とバレて見透かされている。
『裸に近い王様』なのかもしれません。




