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旋天弓陣

 ギリシャ神話の『オデッセア』に登場する『サイクロプス』たち。海神ポセイドンの系譜に連なる、『単眼巨人サイクロプス』たちは〔旅人を襲う人食い巨人だ〕そうです。


 しかし私はこの話しを疑っている。敵対する宗教信者の“誹謗中傷”だと愚考します。


 何故なら古代の命の軽い世界において。旅とは危険極まりない、命がけの行為であり。まっとうな人々は普通、旅などしません。

 夜逃げの引っ越し、戦火から逃れ焼き出されて移動する人々はいるでしょう。ですがそういう人は『難民』と言うのであって、旅人とは言いません。


 では西洋文化で『下位のサイクロプス』たちが襲っていた旅人の正体は何か?私は“盗賊”だと愚考します。古代世界で官憲が都市をまたいで、犯罪者を追うことはまずありません。だから“盗賊”は都市をまたいで“高飛び()”をすれば、逃れられる確率が高いわけで。


 〔そういう“盗賊”は怪物に喰われるぞ。食われてしまえ〕

  そういう人々の願いが、『旅人を襲うサイクロプス』を作ったと思うのです。

 材木・まきの利権を得るため。その他にもいくつか目的を果たすため。

 シャドウを束ねる扇奈は、山賊たちを殲滅する作戦に取りかかる。



 「どうだった?」


 「“賊”はこちらの作戦を察知している模様です。当初の作戦では、こちらの損害もバカにならないかと」


 扇奈は下級シャドウ数十人と中級シャドウ五名を引き連れ、山賊の拠点を襲撃しようとするも。

 そこで待ち受けていたのは、賊の拠点ではまずあり得ない。鉄壁の防備が固められた山砦だった。


 「森に仕掛けられた『罠』や『防御施設』も厄介ですが。短期間のうちに、これだけの砦を築くなど、“山賊”風情にできることではありません。


  おそらく人員も精鋭に入れ替わっているかと」


 「邪教の『神託』か、魔術による『遠見』か・・・どちらにしても厄介ね」



 マスター(イリス様)が戒めている『魔術による感知』も、“盗賊ギルド”の構成組織は使い放題なのだろう。そして邪教・狂信者の『予言チート』は、マスターでも侮れない厄介なチカラだ。


 おおかた今回もそれらのチカラで“のぞき見”をしたのだろう。もし密偵を使った情報収集を行ったのなら、C.V.イセリナが察知するはずだが・・・



「今は山賊壊滅の任務に集中すべき時・・・第二作戦を発動する!」


 「「「「了解!」」」」「承知しました」


 「タクマ、貴男の『術式』を借り受けるわよ」


 「光栄でございます」


 タクマの『術式』。その名を『旋矢』という。空に向けて矢を射かけ、山なりの軌道を描く矢によって標的を射抜く。そんな落下する『矢』を風術で操り、狙撃を行うというのが一つ。


 もう一つの『旋矢』は風の護りを味方にかけ。狙撃で味方を誤射しないようにする。援護射撃によって、高速移動するシャドウを“誤射”しないよう。『風の護り』を味方にかけるのと、セットにした弓射の術だ。


 『戦の始まりを告げる、かぶらの矢よ  旋天の鈴を鳴らし


  知識の盗人、愚劣な策士たちに  迷宮と恐慌の嵐をもたらせ  旋天弓陣!!』


 賊たちのこもる山砦と、その上空に『旋天の魔力』をこめた矢が複数放たれる。それは風属性を主として、地水火光(闇)の他属性をも操る。膨大な魔力が込められた、『災いの矢』であり。


 「カヤノ、ユリネと水那には私の護衛を命じる。霧葉と桐恵は賊の退路を断て!


  そして汐斗は皆を率いて山砦に突入せよ。

  中級・・シャドウとしての力を、存分に発揮するがいい」


 「「「かしこまりました姫長」」」「「承知っ・・」」「かならずや、姫長様に勝利を!」


 かくして山賊殲滅の作戦が始まった。






 「来たか・・・」


 莫大な資金・資材と人員を消費・・して、急造された山砦。その最奥で指揮をとる、将軍ティルミードは静かにつぶやく。

 魔術装置の映像には、偵察のシャドウ一族が映っており。その機動力はティルミードの知る、兵種・モンスターのいずれも凌駕りょうがしている。


 「しかしこの山砦を落とすことなど不可能というもの。そのための準備は完了している」


 遠目にもわかる堅固な山砦に加え。そこに至る森は入り組んだ『迷路』となっており。機動力を封じ、体力を浪費させる様々な『罠』が設置されている。

 致死性の『罠』をあえて少なく設置して、シャドウたちを誘い込み。山砦にたどり着いたところで、『魔薬による蟲兵』で迎撃するのだ。


 それは表裏を司る者(盗賊ギルド)による秩序が再生する先触れであり。ティルミードの故郷である、亡国が復活する英雄譚の幕開けだ。


 「情報を得た者こそが、勝者となる。それを怠った貴様等に・・^:!?」


 独白を続けようとした、ティルミードの視界が朱く染まる。魔術装置に映る空が『夕日の朱』へと急変し、それら朱色が山砦に降り注ぎ。


 「防御結界を緊急で発動せよ!!」


 「ハハッ・:!」


 間一髪でティルミードの指示が間に合う。山砦を魔力の円蓋ドームが覆い、降り注ぐ『朱色』を完全にはじく。


 「やったかっ!?」


 「バカ者っ・・現状をよく見ろ!」


 喜ぶ部下にティルミードは罵声をとばす。その言葉が終わらぬうちに、はじかれた『朱色』が拡散していき。山砦を囲む森の木々を、『紅色』で侵蝕していく。


 「これはっ!?」


 『・・旋天弓陣』


 「なっ・・・」「「「「「・・:`;^\ーー~!?」」」」」


 砦の最奥、本陣でありティルミードの玉座を兼ねる大部屋に『声』が響く。物理魔術の両面で防備が固められた。山砦の頭脳と心臓を兼ねる要所に、聞きたくない『声』が送られる。


 それは故郷の国が滅びた日の弔鐘ドゥームを、ティルミードに思い起こさせ。

 

 その感傷にひたる間もなく、魔術装置の映像は『藍色』に染められる森を映し出していった。






 シャドウ一族のタクマが編み出した『旋矢の術式』。

 その要諦ようていの半分は空へと射かけられ、山なりの軌道をえがき『降下してくる矢』を風術で操作コントロールする。『矢の落下』で威力をつけ、『風術』によって的に当てるという。いわば奇異邪道の『弓術?』だ。


 そしてそれを参考にした、扇奈の『旋天弓陣』は魔術を打ち上げ、降下・急襲(コントロール)する『魔導』となる。


 一例として、空に『魔力の水分子』を打ち上げ、広域散布することにより。太陽光の『|赤色・朱色』のみを通す。真昼に『夕日・朱色』の空を具現化するという怪現象ショーを引き起こし。

 続けて打ち上げた『魔術の水分子』を降下させて、『朱色の幻影矢イツワリ』を山砦に急襲させる。はじかれた『水分子』に太陽光の『青色』を通過させて、『緑色の森』と『空の青色』を混ぜた『藍色』に染める。


 そんな『まやかし』の青空劇場セットを展開することも可能だ。


 「・・・:っ!!」「・・--!?」『^`/\`^」


 「『旋矢群』・・放てぇーーー!」


 「「「「「「「「「「応っ!」」」」」」」」」」


 もっとも実体のある『矢の雨』を降らせれば、『劇場』は凄惨な戦場へと変じる。


 その『変化』を推し進めるため、扇奈はさらに魔導の力を解放し続け。


 『急^弓^給・:--及^究^吸陣/:・球^臼^泣--ーー-旋天九陣!!』


 急々で弓術への魔力供給する。山砦の結界に及び究明し、魔力吸収を行う。

 そして球状結界を投じ、砦の防壁をすり潰し、敗北の涙を流させる。


 九連旋風の『結界球』が、投石器から放たれる『大石』ごとく山砦の防壁を震わせ。


 「今っ、カヤノ!!」


 「お任せをっ・・・」


 火属性の侍女シャドウ(カヤノ)が、扇奈の『旋風九陣』にその力を流し込む。


 それは精神負荷を伴った魔力であり、忌まわしく歪んだ『呪いの力』だ。本来なら乱用など、もってのほかだが。


 「『邪法・禁術』との相対ならば、私の『緋蛇ノロイ』にお任せください。

  

  『穢れ、ねじれ、不幸をむ欲の皮よ  緋蛇の巣窟に潜りて惑い  


   永く遠く 渇きの焦土を這い進みなさい   緋蛇鳴巣!』」


 カヤノの『呪言』が発動し、扇奈の旋風に一条の『紅い線』が流れて消える。


 その先には山砦の自慢であろう、“魔術装置の水晶体”が輝いており。

 白色の輝きはゆっくり確実に、にごった血の色に染まっていった。

 トロイア戦争で、『英雄オデュッセウス』はギリシャ軍の知恵袋と言えるでしょう。


 その〔『オデュッセウス一行』は島に流れ着いて、『サイクロプス』に捕らわれ殺されかけた。だから海神系譜の『サイクロプス』は凶悪だ〕と考える人は多いはずです。

 しかしこのエピソードこそ、『サイクロプス』の正当性を示していると考えます。


 一つは『オデュッセウス一行』はトロイア戦争で暴虐のかぎりを行った“海賊”であり。その言葉は信用できない。

 そもそも“山賊・海賊”がモノを盗んだ場合、古代世界なら死刑であり。実際、『オデュッセウス』自身も、故郷で財産を狙った連中を皆殺しにしてます。家畜を盗み食った『オデュッセウス』たちが、古代の法にのっとり『サイクロプス』に殺されるのは当然だということ。


 そしてもう一つ。島の『サイクロプスたち(・・)』は羊の群れを育てている。

 “海賊ども(オデュッセウス)”が群れにまぎれて逃げられるほど、たくさんの羊を育てています。


 その羊たちこそ『サイクロプス』の主食であり。『島』の限られた草原・牧草地で羊を育てる『サイクロプス』たちは、それを可能とする計画性・知性があったと思うのです。

 少なくともトロイアを破壊した“海賊”どもに、“蛮族巨人”あつかいされるいわれはない。


 だからこそ『一番大きなサイクロプス(ポリュペーモス)』は、父親の『海神ポセイドン』に泣きついて、報復を願うという。怪物・勇士に大人なら、とてもできない祈願を行った。

 完全に被害者だから、報復を願えた(・・)と愚考します。

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