旋天と会議
西洋では『地母神ガイア』の子である単眼巨人を上位。『海神ポセイドン』の子である単眼巨人と、その仲間を下位あつかい・・・どころか旅人を襲う、人食い巨人あつかいしています。
しかし私はこの下位サイクロプスのあつかいに、反対します。
血統・能力的に上位サイクロプスの地位はゆるがないにしても。下位サイクロプスが“人食い巨人”にまで貶められるのは、いかがなものでしょう。
そもそもサイクロプスが害した、『英雄オデュッセウス』とその一行ですが。奴等はトロイアの都市を破壊しつくした“凶悪海賊”であり。自衛・武勲に海神都市の仇討ちなど、複数の理由により。海神の眷属たちが、海賊集団を攻撃するのは当然のことです。
それを“人食い巨人”あつかいするのは、誹謗中傷だと愚考しました。
山賊、それは最低の“凶賊集団”だ。
“海賊”ならば命がけの航海を、生き抜くため。規律・計画性があり、船員同士の仲間意識もある。そのため『契約』を守れば、取引きする可能性もゼロではない。
無論、凶悪・悪辣な“海賊集団”も山ほどいるが。その大半は〔まともに航海をしていない〕連中であり。水夫に航海を押しつけ、船に乗りこんだ“侵略・略奪の集団”でしょう。
海に生き、海で死ぬ覚悟のある海賊水軍とは、明確に異なる集団です。もちろん殺しに膿んだ海賊が、性根を腐らせることも少なくはないけど。
一方の山賊は〔他人の命が、食料にしか見えない〕ケダモノ連中であり。危険な航海をしなくていいため、“不潔”で規律もゆるい。
〔山での暮らしが退屈だから、息抜きのため町で遊ぶ〕などというのは、額に汗して働く民草をなめきった戯言であり。
〔山で退屈すると、欲望をもてあまし。暴力や他者で色欲を満たすため、暴走する。そのため町でガス抜きを行う必要がある〕・・・という。はっきり言って、暴行亜人と同レベルな連中だ。
王の器がある者は、そんな“山賊”たちをも取り込み。外交の達者な文官は、そんな“山賊”たちとも交渉を行うのでしょう。
しかしシャドウを束ねる扇奈にそんな器はなく。C.V.イセリナは〔流通を阻害する“山賊”は、餓死・傷病で亡くなる者たちを、増加させる疫病神だ〕という持論を持つ。
「それじゃあ山賊狩りの作戦を立てようか。『光術図書』」
何より都市ウァーテルを支配するマスターは、“山賊”たちを蛇蝎のごとく嫌っており。忠誠を誓った配下としては、その一点で“山賊”の極刑は確定している。
そんなマスター配下の幹部が集う、作戦会議が始まった。
「地図を参考に、立体地形図を『構築』してと。
植生は『緑光』で、生体情報は人を『赤光』・モンスターは『橙光』で表示する」
『魔術陣』の応用で展開された光術地図に、次々と情報を示す『光点』が追加されていく。
〔他人のプライバシーを安易にのぞき見しない。『透視・遠見術式』の使用には、慎重になれ〕
マスターは常々そう仰り、配下・親族(C.V.)を戒めている。
だがそれは〔情報弱者のバカになれ〕と言っているわけではなく。
〔『メドゥーサの邪眼』・『月女神の裸身』をのぞき見て、破滅しないために。
恐怖と悔恨の無惨な死を回避するため、安易な『感知術式』を禁じる〕・・・と仰っている。
そのためまっとうな人々のプライバシーを暴くことはしない。
ただしそれ以外の知識・資料は貪欲に収集するし。他人のプライバシーをあさる『情報屋』“のぞき魔”と、彼らから情報を得る連中たち。そいつ等の秘密は容赦なく、奪い解析し蹂躙する。
それによりマスターこそが、『聖賢』の名にふさわしい知見を持ち。
その知見によって、情報の結晶兼図書とでも言うべきモノが構築されていく。
「・/`+:-.:ポン・・・3っと」
膨大な情報を記載しながら、閲覧もしやすい。そんな『光術地図』が三つに増殖し、情報の変化を表示していく。半年・三ヶ月前と『現状』における都市ウァーテル周辺の状況が示され。
マスターの双眸から、冷たい殺気が放たれた。
「子供の数が減ってるね」
「「「「「・・・ーーッ」」」」」
「安直に政治システムを変えることは避け。奴隷商人は“必要悪”だからと認めた。
その結果がコレかぁ・・・」
軍師・宰相の賢者たちにとって、『人口・生産力』は極めて重要であり。聖賢様も合法・非合法な手段に『魔術能力』も交え。多角的かつ貪欲に『戸籍情報』を収集している。
その結果、“盗賊ギルド”が独占していた、富の分配には成功しているものの。山村・農村には不自然な人口減が見られ。
会議場には、冷たく威圧する怒気が荒れ狂った。
「・・・:+/」「・・・ーー^」「^`・・・~」
会議の参加者である幹部たちは、ためらいなく魔術抵抗力を高める。
〔“盗賊ギルド”にとって、ウァーテル占領は大嵐の『変革』です〕
そんな正論を言える状況ではない。現在、求められるのはマスターの激情を鎮める『解決策』のみであり。
それを言うべきは、この会議を開く『提案?』を行った扇奈だろう。
「ご安心くださいマスター。私に考えがございます!」
「何かな?扇奈」
「これを機会に徹底的な山賊の殲滅を行う。たとえ街道で追い剥ぎ行為をせずとも。拠点・裏街道を集団で利用した時点で、討伐を行うことを提案いたします」
扇奈の提案に対し、マスターはわずかに首をかしげ思案する。
扇奈の言っていることは“関所破りの裏街道を使うことを禁ずる”“不穏分子の集会を禁じる”という。どこかの領主・国家も行っていることにすぎない。
それは〔自由な移動・集まりを禁じる〕という、強権的な法の施行であり。山野での採取や冒険者たちの自由な移動を妨げる。
〔魔術・武術で自由な移動を行うC.V.やシャドウばかり、ずるくて不公平だ〕と反発される。
今まで見逃していたことを取り締まり。益々、各種コストがかかる“失策”なるかもしれない。
「「「「「・・・・・」」」」」
「皆さんの懸念は理解しております。
そこで街道から外れた場所で、取り締まりを行うのと並行し。山林から燃料や建築資材を伐採する。
都市はもちろん、村落に燃料・資材を流通させる。一大事業を提案いたします!」
かつて極東では『材木の特需』を見込んで、“放火まで行われた”というウワサがある。
さすがにそんな凶行・愚行はしないが。スラムの雇用・様々な問題解決のため、材木・薪を入手できるようにするのは有用であり。
〔木々を伐採する場所・ルートを、賊にウロウロされるのは迷惑極まりない〕
そういう大義名分で、山賊の取り締まりを厳しくする。追い剥ぎをしなくとも、『居る』だけで殲滅する。そういう強攻策を行う建前を、『材木利権』の分配によって押し通すのだ。
「イセリナ!予測演算をまとめて」
「かしこまりました、姉上」
「扇奈は兵を編成して。足りないなら、他の部署からも援軍を求めなさい」
「全て、マスターの御心のままに」
〔『材木利権』は他の者にも分配しなさい。ただしその采配は貴女が行っていい〕
マスターの許可をいただき、扇奈は一族を飛躍させるべく動きだした。
同時に少しだけ思う。
〔山を浄化して、河川と海をきれいにする。そうしてアヤメの好きなお魚を獲る計画が、どうしてこうなったのだろう〕・・・と。
こうして墓まで持って行く秘密は増殖した。
『大航海時代』に活躍した船乗りを、『英雄』あつかいする西洋文明にとって。『オデュッセウス』はそんな船乗りたちの先駆けであり、英雄なのでしょう。
しかし戦国時代に宣教師・海賊集団に侵略されかかった、日本生まれとしては。『オデュッセウス』は良くて『奸雄』の、“悪辣海賊”にすぎません。
そして『オデュッセウス』が主人公の物語で、敵役サイクロプスの名誉が守られるはずもなく。主人公に嘲笑された『サイクロプス』は、誹謗中傷の憂き目にあった。
それが下位サイクロプスの実態だと思うのです。




