微風の乾き
ギリシャ神話で上位の『サイクロプス』は巨人神とも言える、存在であり。
『大地母神ガイア』の直系子孫であり。『雷』関連の名を持ち。『鍛冶』に関わり。
さらに武勇伝どころか、争い・飲食の話すら聞かない。(人食いをするのは、島暮らしの下位サイクロプス)
これらを総合して連想すると。上位サイクロプスは、『巨木』をモチーフにした神格だと妄想します。
そして特徴的なサイクロプスの『単眼』も、〈木の洞〉が変化したものと推測します。
バロール・カトプレパスのように『魔眼』ではない、『単眼』のサイクロプスの説明としてはいかがでしょう?そして、体色は某RPGサイクロプスの緑を推します。
古代世界のある領域において。『戦女神』と『海神』。二柱の神が、ある町の領有をめぐって争い。
その争いは、二柱の神が提示した二つの贈り物。『オリーブの樹』『塩水のわく泉』を住民たちが審査するという方法で行われたとか。
そして現在の都市ウァーテル。そこでは6級C.V.のアンと侍女頭のアヤメ二人は、そんな神々の争いを真似て。
穏健で建設的な『外交』として、『贈り物』の競い合いをすることになり。
「何故ですアヤメ様っ!どうしてっ・・・オレが責任を取るべきでしょう!!」
「私が上司として、部下の失敗をフォローすべき。そう判断したから動いた。
ただ、それだけのことよ」
「ですがっ!」
侍女たちを束ね、姫長様の側近をアヤメは務めている。そんな彼女を四凶刃より、上の身分と考えている者は多く。
そんなアヤメが、下級シャドウの不手際を尻ぬぐいした。〔アン様に頭を下げた〕と考えたフォルカが、アヤメに半狂乱になってかみついていた。
彼としては〔この愚か者がっ!!〕と叱責されたい。
娼婦たちが“賊”に口封じされかねない。〔歓楽街で情報収集を行った〕件に続く、失態をしたと考え。自害も辞さないくらい、追い詰められてしまい。
アヤメにかみつくという。本末転倒をやらかしていることを、認識できていなかった。
そんなフォルカに、アヤメは平静な口調で語りかける。
「確かにアン様が『溶解液』を使って調理した魚に、ドン引きしたのは礼節に欠けるわね」
「だったら・・!」
「だけどそれは二人しかいない、密室で行われたこと。衆目の前で“恥”をさらしてはいないし。
何よりアン様に間違った情報を伝えたわけでもないわ」
「・・・ッ」
『強酸』で魚の骨だけを溶かし。その後に骨ごと『酸』を中和し、『旨味』にして魚の身に戻す。
そんな『錬金モドキ』の料理を、フォルカが平気で食べたらどうなるか。
大勢の前で、『奇術』が行われるだけなら御の字。『強酸』による“惨事”が起きれば、大事な命が失われることになる。
何よりアン様が〔後ろ指を指される〕事態になれば、シャドウ一族にとって大きな損失になり。
間接・将来的に救える命が失われかねない。
「そもそもアン様はこのようなことでつけ込む、“ヤクザ者”ではないわ。
そして貴様が騒ぐと大事なC.V.様に余計な気をつかわせてしまう。
だから今までどおりにふるまいなさい」
「かしこまりました」
「それでもいたたまれなというなら・・・『干し魚』の料理を作る。『干し魚』を活かす方法を提案しなさい。それが教導を行っているアン様への、何よりのお礼となるでしょう」
「っ・・すぐに取りかかります!」
こうしてフォルカは、アヤメの前を下がっていった。
『騎士道』それは尊いモノです。
おそらくアウトローの大半は〔『騎士道』など実戦の役に立たない〕〔命より“騎士道”を優先させる、狂気の道だ〕と考えるでしょう。
確かにそういう面があることを、否定できません。
ただしそれは〔全ての毒は有害で、良薬にならない〕と言っているに等しく。
〔(アウトローのくせに)潔癖で、善良なカワイイ考え〕と申し上げたい。
「何故なら『騎士道』を守れば、『利権』が得られるから」
〔命をかけて『騎士道』を守る〕→〔命がけで『契約』を守る〕→〔必死になって約束を守る〕→→〔武力を持っていても、それをふるって『契約』を破ることはしない〕→〔取引きを結び、互いに利権・利益を得る相手にふさわしい〕
文官・商人たちが計算して、『騎士』という戦力を得るため。無意識に〔賢い“賊”より、おバカな『騎士』のほうが安全だ。安易に暴力をふるわない〕と考えるのか。
賢者にはほど遠い、アヤメの理解が及ぶところではない。
「はっきりしているのは、シャドウ一族を存続・発展させるため。『利権』が必要だということ」
政敵の宰相が稼いだ資産で養われる、現状を打破するため。
『錬金系』の術式を使う。戦闘以外で活躍する、シャドウたちの才能を伸ばすため。
そして何よりシャドウ一族を、略奪を行う狂戦士にしたくない。弱者を探し、狩り続ける『獣』で終わらせないために。
アン様との競合にかこつけ、アヤメは『利権』を作ることにした。
「そのためには・・・誰か!」
「お呼びでございますか、アヤメ様」
「これを装着して、感想を私に聞かせなさい」
「この『紐』をですか?何処に着ければ・・どのように使えばいいのでしょう」
中途半端な長さの『紐』を渡され、侍女見習いのシャドウが首をかしげる。
それに対し、アヤメは無茶ぶりを行った。
「『髪留め』以外なら、どこでもいいわ。とりあえず靴紐がお勧めだけど・・・私達の『靴』に靴紐はないし。
使用方法の考察も含めて、試着を命じる」
「かしこまりました。期間はいつまででしょう?」
そうしていくつかやり取りをかわし。アヤメは次の試着者を求めて移動した。
そうして数日が過ぎ・・・
「アヤメ・・貴女はいったい何を考えているのかしら」
「何って・・もちろん(シャドウ)一族に富をもたらす、『利権』を作っているところよ」
侍女頭は姫長の扇奈様に呼び出されていた。遠慮のない意見交換がなされる、二人だけの部屋。
そこでは珍しく扇奈のほうが、アヤメに忠告を行っていた。
「そうなの?私が聞いた話では、〔アン・グリュールブ殿と『贈り物』の競合をする〕と聞いているのだけど」
「もちろん、それも勝ちにいくわ。だから三種類の『風属性アイテム?』を作り。その中で一番、優れた物を競合の『贈り物』にするのよ」
アヤメが作った『風属性アイテム?』は三つ。
1)微風を発し続ける『紐』。『靴紐』として使えば、『靴』に風の護りを付与し。洗った『靴』を吊るせば、微風を送って『靴』をかわかす。
2)微風を発する『網』の窓。虫除けの効果があり、一定範囲の湿気をはじく。
3)大規模な換気を行う『部屋』。冷暖房の効果はなく。あくまで『風術』の鍛錬に役立つ。
「・・・ハァ」
「そのため息は何かしら、扇奈」
「頼りになる側近・副官も兼ねる影武者が残念なことへのため息よ」
「・・・っ・・」
「三種全てが『干し魚』を作る。その加工に有用な、道具・施設となっているのは明白でしょう」
1)魚を吊るす『紐』2)『干し魚』を乾かす『網』戸?板・版?
「そして極めつけは換気を行う、『風術結界』の部屋。私には〔『干し魚』の生産工場に使ってください〕という声が、聞こえるのだけど」
「それはっ・・・」
「普通にアン様に売り込む。投資・提供するのが駄目な理由・・・・・もしかしてシーフ連中が“放火”を行うことを恐れているのかしら?」
「・:・っ!?」
『逆火』という現象がある。気圧の変化・火の素が流入するなどして、大火が発生する。火炎の制御が暴走してしまう現象であり。
3)の『空調部屋』に細工をされれば。『空調部屋』を『火箱』と化して、大火が引き起こされるかもしれない。
「杞憂よアヤメ。そんなことを言っていたら、暖炉や魔術も使えないわ」
「そうかしら。私達・・・というよりイリス様は盗賊ギルドに勝ち過ぎている。
追い詰められた連中が、放火の暴挙に出る可能性を無視はできないわ」
「だからアン殿との競合にかこつけて、彼女に『換気の部屋』を譲ると言うの?確かに水属性C.V.のアン殿なら、防火対策もぬかりはないでしょうけど。
気に入らない‥気に入らないわね!」
「ちょっと・・扇奈っ⁉」
不機嫌な表情を作って、扇奈は席を立つ。それは幼馴染どうしの、気安いやり取りを打ち切り。姫長と侍女シャドウというそれぞれの役目に戻るという宣言でもある。
そこまでして、扇奈はアヤメに自らの内心を隠した。
〔不機嫌〕などという生ぬるい感情ではなく。自他に対して、激怒の暴嵐が渦巻くのを押し隠して。
扇奈はそれを叩きつける、準備に入った。
上位サイクロプスの『単眼』は木の洞がモチーフ・・・と妄想しますが。それでは胴体のどこかに『単眼』ができてしまう。頭ではなく、下手をすると背中に『単眼』がある怪奇になりかねません。
何より神代の上位『サイクロプス』としては、かっこ悪い。しまらないでしょう。
そこで巨木の先端・樹上に重なるように輝く。『星』『月』の輝きが『単眼』になった、というのはどうでしょう。
それならサイクロプスたちを虐待した。毒父神な『ウラヌス』の系譜にも連なります。
なお私は上位『サイクロプス』の単眼が、〔鍛冶による負傷〕という説には反対します。理由は二つあり。
一つは他の鍛冶に関わる神・妖精や職人たちは隻眼になっていない。それなのに『サイクロプス』だけ単眼になるというのは、不公平すぎる。
もう一つは『サイクロプス』たちが、『大地母神ガイア』の長男であること。『大神ゼウス』より年長の巨人であり。そんな大古に火傷するような、鍛冶があったでしょうか?もっと魔法的な『神具鍛造』を行っており。
火傷が理由の単眼は、上位『サイクロプス』を愚弄していると考えます。