青色の酒場~迷走のテーブル
私が『資料』を疑うようになった。作者の意向・信教によって『情報』がアレンジされる。そう考えたのはある『ギリシャ神話』のシリーズを読んでからです。
星鎧の『戦女神アテナ』を“愚かな女神”あつかいするのをはじめ。ギリシャ神話の神々を殺戮を行う、“愚劣な神”と記していました。
かなり〔イラッ〕ときましたが。そんな本でもマイナーな神話を紹介しており。『星座』にからまないギリシャ神話を知るのに、大いに役立ったと認めるしかありません。
まあ〔時代背景を考えろ〕〔どっかの神のほうが、ひどい戦争を引き起こした〕とは思いますが。
その中でも〔『サイクロプス』の神話は貴重だ〕と愚考しました。
スラムの住民・子供たちを雇い。水属性C.V.のアンは『干し魚』の生産に取りかかる。
それは海水に漬けた『塩漬け魚』とは、似て異なる。美味しく成る『干し魚』であり。
『塩』『燃料』が高価なスラムにおいて、促成で作られる。さらにアンの魔術が無ければ完成しない。
戦争種族C.V.らしい“詐術”を織り交ぜた、製造工程で作られた『干し魚』だった。
「まずは皆さんの協力で『干し魚』ができたことに感謝の言葉を。ありがとうございます」
「「「・・・・・」」」
「それでは、お約束の給金を払わせていただきます。こちらをどうぞ」
「「「「「・・^:^ーー・・・」」」」」
アンの『謝辞』より、労働への報酬が嬉しい。そんな人々の心情に、苦笑を浮かべつつも。
C.V.アンは彼ら・彼女たちが望み、喜び、求めるものを配っていく。
「わっ・・・」「おおっ!?」「・・-^+^・・・」
喜ぶ従業員たち。だが戦争種族C.V.として、アンは厳しいことを言わなければならない。
「喜んでくれているところ、すみません。ですが二つほど言っておくことがあります」
「えっ・・?」「「「「「・・・・・ッ」」」」」
「一つは〔帰り道には、気をつけてください〕ということ。C.V.たちは“シーフ”と仲が悪く、従業員であるあなた達も狙われかねません。
戸締まりはしっかりと。お酒の飲み過ぎ、夜道の一人歩きは気をつけてください」
「「「「「「「「‘--`・・・・・」」」」」」」」
冷や水を浴びせる、アンの言葉によって従業員たちから笑顔が消えていく。だが懐具合が温かい者を狙うのは、“シーフ”の常道であり。犯罪をこの世から消滅させるなど、不可能というもの。
〔冷や水を浴びせ〕従業員の安全を確保できるなら、アンは容赦なく言の刃をふるう。
そしてアンはさらに追撃を行った。
「さらに『干し魚』の売却先は(シャドウ一族と)決まっており。当面の利益を確保できるでしょう。とはいえ類似品の『干し魚』を作られれば、取引先を奪われるリスクが常につきまといます。
そこで皆さんには『干し魚』の味を覚えてもらう。『干し魚』の品質維持・向上のため、スキルを会得してもらいます」
「「「「「「「「「・・・ーーーーっ!!」」」」」」」」
アンの浴びせた冷や水により、寒くなった心が回復する間もなく。『スキル会得』の労働・試練が課される。そんな容赦ない雇い主アンの言葉に、誰もが表情を引きつらせていき。
「それじゃあ、いただきましょう。恵みに感謝を!」
「「「「「「:・/`・・」」」」」」
「食べないのですか?美味しいですよ」
作業に使われている大きなテーブルに、二つの皿が並べられ。そこには『干し魚』を使った料理が三種類出されていた。
シチュー皿には、ちぎった『干し魚』ときざみ野菜の入ったスープ。
そしてもう一つの平皿には『パン』と『小魚の焼き串』が一つずつのせられていた。
「姐さん、これは?」
「皆さんに造ってもらった『干し魚』で三種類の料理をつくってみました。
スープは戻した水ごと野菜を煮て作りました。『パン』にのせているのは、細切れにした『干し魚』にキノコ・野草を練り込んだ『ジャム?』のようなもの。
『小魚の焼き串』は甘味がつくよう、『水飴』をぬった自信作です」
「ハア・・・」「「「「「恵みに感謝を・:?」」」」」「「いただきます・・」」
アンの説明を聞いてから、みんなが食事をはじめる。
スープをおっかなびっくりすすり。『お魚ジャム?』の苦みに、子供たちが顔をしかめたり。逆に甘味の『小魚の焼き串』に、年輩の男性が首をかしげていた。
みんな黙って食事を行い。美味いかまずいかの反応はない。そんな彼らに、水入りのコップを置いてから、アンは語りかける。
「いかかでしょう。私なりに『干し魚』を使って、料理をしてみました。
お味はいかがでしょう?」
「「「・・・・・」」」「「「美味しかった・・」」」
「けっこうしょっぱい・:・」「おいっ!」「甘いのがよかった・・・」
「そうですか。まだまだ、改良すべき点は多いですね」
オイルや油脂の多い実を併用して、塩味を和らげるか。あるいは『干し魚』の料理が重なり続いたため、塩気が強くなった。この際、予算・調理道具に制限をかけず『ミルク・卵』や『香辛料』をもっと使うべきだったか。あるいは『干し魚』を仕上げる時のように、料理にも魔術を使うべきか。
そんな思案をしていたアンに、年輩の従業員が質問してくる。
「店長さん。いったいどういうつもりで、この料理を出したんだい?」
「先程、言ったでしょう。『干し魚』の品質維持・向上のためスキルを覚えてもらうと。
そのために皆さんには私の調理した『干し魚』を食べてもらいました。
そうしてどんな料理にすれば『干し魚』が美味しくなるか。他のどの料理と合うのか。
どんな職の人々が食べ、どんな状況で好まれ。何より『干し魚』の塩味に、追加する味付けはどれが適しているのか。
皆さんには料理の技法を修めて、私に教えていただきたいのです」
「「「「「「「「「・・・--・・・」」」」」」」」
妙な沈黙が落ちた。
「あの~、皆さん?」
「まぎらわしい・・」「ホッ・・」「そりゃあなっ!」
「もちろん、姐さんを信じていたさっ!」「ウソをつくな」
「そんなこったろうと思ったよ・・」
「・・・・・?」
みんなの言葉にアンは首をかしげる。そんな彼女の瞳に『魔術の光』が映った。
『アン様。この者たちは〔スキルを覚えないと、せっかくの職を失う〕と考えたのではないでしょうか』
『・・・ハアッ!?そんな“蛮行”をするはずないでしょう!』
『ですが[災厄]が来襲すれば、彼らを置いてきぼりになさるのでは?』
『当然でしょう。[災厄]の討伐・対処こそ私達C.V.の存在意義です。
そもそも私が戦わなければ、皆さんも殺されてしまう』
人肉の味を覚えた、強大なモンスター。人の痛苦こそ、最大の娯楽とする魔人。
あるいは魔力を帯び、未知の理不尽と化した怪魔精霊など。
これらの跳梁を許せば、世界はともかく都市・国家の滅亡は確実であり。それはC.V.たちにとっても、滅びの遠因になる。
『そこは(シャドウを除いた)民草と言って欲しいです。
とはいえアン様がお隠れになることに、従業員たちは不安を抱いています。
どうか言動には十分にご注意ください』
『光』と『水』の術式をそれぞれ使って、素早く秘かに会話を行う。
アンとしては自分が戦場に行った後のことも考え、手を打っているつもりだが。
それらで従業員のみんなは安心できないのだろう。アンはこっそりため息をつき。
「料理のスキルが苦手なら、別のことで『干し魚』に貢献してください。
催しお祭りの情報。焼肉などの他のりょうりについて。燃料事情や『人魚姫の歌』を考えるのもいいでしょう。
皆さんの力に期待します!・・・とはいえ今日はめでたい初給金の日。
夕方は各自、自由にすごしてください」
「「「「「「「「ハイ、アン姐さん!」」」」」」」」
とりあえず問題の先送り。時間稼ぎのセリフを、それらしく言ってのけた
『サイクロプス』某RPGゲームの怪力モンスターで初めて知った。
その時は〔一つ目入道の西洋版かな~〕というイメージを抱いたモンスターです。
それが『大地母神ガイア』直径の子供であり。監禁・虐待されたり。鍛冶に関わり、八つ当たりで殺されたりと。かなり理不尽な境遇の『巨人神格』だと思いました。
なお八つ当たりで『サイクロプス』『ヘカトンケイル』を殺したのは、多芸の『アポロン神』とのことですが。これを“偉そうに”非難できる、神様・人々がどれほどいるでしょう。
『鍛冶を司る神格』を“醜い神”としてあつかう。ろくに報酬を払ず、踏み倒そうとしたり。鍛冶を行う存在を、妖精どころか“性悪小人”に凋落させる。極めつけは『金属文明』で国力を左右しかねない、鍛冶師を“いないモノ”としていいようにこき使う。
あまり『アポロン神』を偉そうに非難できない。そういう文明は多いと愚考します。