青色の酒場~干し魚を作ろう・仮
海魔鳥『セイレーン』で推したいのは冠をつけているタイプです。妖怪事典や7海将にも登場した。
『ハーピー』とはわかりやすく異なる外見・冠を持つ『セイレーン』。
だけど冠かぶった『セイレーン』には弱点があります。一つは検索してもすぐに出てこない、マイナーな点。物語の挿絵や、西洋画にはまず出てこない。西洋では認められてない感じがすること。
伝承のモンスターなのでネームバリューは大事です。
もう一つは特徴のある冠について。ギリシャ神話の神々・英雄はほとんど『冠』をかぶらない。かぶっているのは『兜』や『オリーブの枝葉』であり。
ギリシャ神話の怪物なのに、セイレーンは余所の神話の雰囲気がある。そんな愚考をしています。
夢の無い話をしましょう。この世で最も大量にある『毒液』『毒水』とは何でしょうか?
砂漠の毒泉や酸性の湖。人によって様々な意見があるのでしょうが。
C.V.アンの考えは大海を満たす『海水』こそ、この世で最も大量にある『毒水』だ。
もちろん水属性で海棲C.V.のアンにとって、『海水』は潤いで、家であり、着衣に等しい。食事を育て、もたらす畑であり。倉庫を兼ねる、台所でもある。
しかしアンの想い人である汐斗様にとって、『海水』は母なる海を構成するエレメントであり。同時に飲めばたちまち渇きに苦しむ。致命の渇き・脱水症状をもたらす『毒水』でもある。
「この問題は的確かつ早急に、解決しなければなりません」
異種族・東方の妖怪と結ばれた人間は、大半が破局している。それを〔他山の石〕として、アンは活かさなければならない。
間違っても〔『海鳥』のように海水を飲める身体に改造する〕など論外だ。汐斗様は描き直しが可能な“落書き”や、再改造を行っていい『造魔』ではない。
アンの英雄であり、教導する賢者を兼ねる。
アンに欲望をぶつけ、生殺与奪の権を預けてもいいマスターなのだ。
そうでなければ『メロウトライアル』などという、【魔性の術理】を使ったりはしない。
もちろん〔ウナギの川上りのように、『身体改造』したから愛してください〕・・などと少し重いセリフ言って、重荷になる気はないが。
ヒトの夫婦を真似て。胃袋をつかみ、資金源になって、互いにサポートしあう。
かけがえのないパートナーと成るのだ。
そのためには『干し魚』を完成させることが必須でしょう。『干し魚』の生産・販売を行うことで、一大利権を生み出し。同時に『海』のC.V.文化を浸透させていく。
そんなアンの願望を叶えるため、『干し魚』に関わる人々。特に子供たちには絶対に幸せになってもらいます。
「それではこれから、美味しい『干し魚』の作り方を皆さんに教えます」
「「「「「ハァーーーイッ!!」」」」」「「「「「・・・はいっ!」」」」」
先日、魔力混じりの『唄』で聴衆を軽く魅了し。さらに孤児たちを(漁・狩猟の技能で)半ば操ったアンは、“不届き”な孤児院を乗っ取り。スラムの住民を雇い、小さな群れのボスになっていた。
その際、『干し魚』でスープを作って、彼らの胃袋をつかんだり。“人買い”とつながった孤児院長・“その他”には永久に退場してもらったが。
6級C.V.のアンにとって〔カナヅチを渦潮に沈めた〕に等しく。
ソンナコトより、『干し魚』の生産方法を教える。この教室を成功させるほうがはるかに困難だった。
「それではまず、尋ねます。『干し魚』を作るため、最も大事なものは何でしょうか?」
「「「「「綺麗な水!」」」」」
「はい、正解です」
かつての悪徳の都ウァーテルにおいて。住民はどぶ川の悪臭に嗅覚をマヒさせ。地下水路はネズミ・アブラ虫(G)の巣窟と化し、汚濁を海に流し続けた。そんな海に『毒魚』が増え、まともな『塩』がとれるはずもなく。
住民たちは食料流通を握る“盗賊ギルド”に支配されたあげく。地下水路の暴食生物にまで貪られ、使い潰される日々を送っていた。
「綺麗な海水・海中で、美味しい魚が増え育ち。あらゆる料理の素となる『塩』が製造されます。
『干し魚』に限らず、美味しいご飯を食べるため。綺麗な水が流れるようにしましょう」
「「「「「ハイ、先生!」」」」」
ゴミ・汚物の投げ捨ては厳禁ということです。
実際のところ。『アルケミックライト』の術式を使ったり。邪教の使徒やら魔将を退治しつつ、連中に“穢れ”をおしつけ消滅させるなど。イリス様たちは、チートな浄化術式を使っているが。
『干し魚』を作るための教室で、そんな暴露をしてもしょうがない。
「そして『干し魚』の作り方ですが。お魚をちゃんと料理することです」
「「「・・?^?」」」
〔魚を塩水につけて、日に干す〕その方法で、アンの『干し魚』は作れない。それで作れるのは『塩漬け魚』『保存食』の類であり。雇用を産み出す商品にはならない。
「昔々、気の強いお姫様が言いました。〔この世で最も美味しいのは『塩』です〕・・と」
そんなお姫様を周囲の知将・猛将たちは“物知らず”と笑い。後日、『塩』無しの大御馳走を彼らは食べさせられ。その味気なさ・まずさに殿方たちは悶絶したとか。
笑い話・女傑のエピソードとしてはオモシロイでしょう。
「だけど『干し魚』を作る、私達にとって。全く笑えないオハナシです」
高級で、値段の高い『塩』がなくては、美味しい『干し魚』が作れない。そんな『塩』を買う資金などなく。『塩』を作る時間も、得る伝手もあるはずが無い。
「そんなっ!」「・・・;^+`;」「グスッ・・‘;--ーー」
「だけど安心してください!みんなでお魚を料理すれば、美味しいのが作れます!!」
お魚を開きにして、臭みの素となる部位を取り除く。加えてお魚を漬ける『海水』も、最小限の『調整』を行い。『干し魚』を生産するため専用の『海水』を用意する。
これらの工程だけでも、『塩漬け魚』とは一線を画す『干し魚』ができるだろう。
まあ当分の間は、アンが魔術で仕上げを行う。魚に適量の『塩』が浸透した瞬間を見計らい。
『付与魔術』をかけて、『干し魚』が最高に美味しい状態を保つ。最初はそういう錬金?『干し魚』を売りさばき。
資金と信用を得てから、アンの『魔術関与』を減らしていく。
「オイラ、料理なんてしたこと無いけど・・・」
「大丈夫!料理ができなくとも、仕事はいくらでもあります」
「計算もできないし、歌もうまくない。腕っぷしだって・・・・・」
そう言って涙ぐむ子供たちに、アンは重要な役目を割り振った。
「それではこれから『干し魚』を作ります。皆さん用意はいいですか?」
「「「はい、店長!」」」「「「・・・ッ」」」「「「は~い!!」」」
アンが『干し魚』を生産する目的は三つ。
一つはスラムで『雇用』を作り、穏健な拠点を構築する。
二つ目は『魚』を食べる文化を広め、海棲C.V.に親しみをもってもらう。
そして三つ目は汐斗様を想うC.V.として、ふさわしい立場を作ることだ。
『契約』のため“海賊”“補給部隊”連中をアンは殲滅したものの。格下の賊連中を殺し続ければ、危ない“殺人狂の烙印”を押されるだけだ。
かと言って海中の『宝物』を引き上げして、売りさばけば。一時的に儲かっても、強欲連中・厄介な利権に振り回される。
都市ウァーテルの『雇用』『食糧事情』に貢献できる、『干し魚』の生産・販売こそ。
水属性のC.V.アンにふさわしい仕事でしょう。
「まずは『お魚』をさばいてください」
「おう!」「よし、まかせな!」「やってやるぞ!」
『獣肉』の血抜き・解体をすることで、美味しい『食肉』ができるなら。『お魚』も同様に血抜きを行い、さばかなければ美味しくならない。
一応、獣肉と比べ。焼いて煮て干せば、『魚』の臭みは減るものの。そのためには大量の『燃料』『高価な塩』と『時間』が必須であり。
それらを孤児・スラム住民の働き口で、今は使うことはできない。〔少量を従業員の家で使う〕くらいならともかく。盗難・転売他のイロイロなトラブルにつながる、『塩』『燃料』は最低限しか使えない。
「この『お魚』は骨まで取り除いてください。こちらは頭を落として、開きに。そちらはお団子にしますから、きざんでからこねて・・・」
魚の種類を分けて、どのようにさばくか指示を出す。そうして人員を割り振ってから、リーダーにその場を任せ。
「『クリーン』そして『水膜付与』」
「「「「「「おおっ・・!?」」」」」」
衛生のために『洗浄』をかけ。手袋・エプロン代わりに最低限の『水防護』をかける。
「これで手荒れ・衣服の汚れを防げるでしょう。後は任せます」
「わかりました、姐さん。任せてください!」
そうして次々とアンは指示を出し、『術式』でフォローを行っていく。
本来なら調理道具・作業台に流水設備などを完備した。『加工工場』を建設したいところだが。いきなりそんな『遺跡モドキ』を作っても、住民たちから警戒されるだけでしょう。
「『塩水を調整』・・・こんな感じですか。
それではここに『お魚』をひたしてください。
一定時間がすぎたら、引き上げ。『干し掛け台』に・・・」
「わかりました」「承知しています」
「よろしくお願いします」
少し高めの報酬で雇った、『学生』『元魔術師』たちに『塩水槽』を任せる。
『製塩』を行い『食塩』を作るコストはかけられず。かといって海水を直に魚へふりかけては、美味しくない『塩漬け魚』になってしまう。
そのため『干し魚』を作るため、専用の『浄化し、塩分を調整した海水』を作り。よほど魚を漬ける『時間』を間違えないかぎり、それなりの『干し魚』を作れる。そんな水をためた『水槽』を用意した。
『魔術師の卵』『元魔術師』たちには、この『塩水槽』を作り管理できるようになってもらう。
今は〔時間になったら魚を引き上げて、台につるす〕手作業しか任せられない。だが『加工工場』を作るころには、『塩の錬金術』を会得してもらう。
最後にアンは『お魚を干す』場所にやって来て。
「うんしょ、こらしょ!」「・・っ・・ッ!」「えいっ、えいっ!」
子供たちが『板』をふるい風を吹かせる。『干し魚』に風を送る作業所で指示を出した。
「そろそろ、交代して。次の班が風を送ってください!」
「そんなっ!?」「オイラはまだやれるっ!」
「疲れた身体で『風』を送っても、美味しい『干し魚』はできません。
勇者のように、身体を休め。次の作業まで、力をためてください」
アンの言葉に子供たちは、しぶしぶ『板』を置き。身体を休めるため、『休憩場所』に向かう。
そこでは別の子供たちが、読み書き計算を習ったり、遊んでいるわけで。
その移動にはそこそこ時間がかかる。
『液体・固体・気体』
その間にアンは素速く『魔術能力』を『干し魚』にかける。
『干し魚』の中の水分を抜き取り、乾かす。ただし硬くなりすぎないよう『固体』の状態をチェックし続け。
仕上げに湿気を『干し魚』の表面に付与して保湿を行う。塩を含んだ湿気が、抗菌作用と見た目を良く、『干し魚』を加工する。
そんな『加工』を行いながら、アンは子供たちに謝罪した。
〔ゴメンねみんな。売り物になる『干し魚』は、まだここの設備では造れない。
みんなは売り子として働いて〕
『干し魚』を仕上げる乾燥を行うため。子供たちには『板』をあおいで、風を送ってもらっているが。
浜辺の『潮風』ならともかく、人力のそよ風で『干し魚』は乾燥しない。少なくとも短期間で、売り物になる『干し魚』にはならない。
とはいえアンの『魔術能力』だけで加工を行うと、大勢の雇用につながらない。
さらに〔魔女が妖術で、怪奇料理を造っている〕と言われれば、この事業がつぶれる可能性すらある。
だから全て人間の技術で、『干し魚』の製造・加工ができるようになるまで。子供・孤児たちが加工に携わる『作業』『知識』を覚えるまで。
〔潮風代わりに、子供たちにあおがせ、風を送っている〕・・という小細工も必要となる。
〔もっとも製造方法は秘密?だし、食品関係の法律もありませんから。
“食品詐欺”とは違うのですけれど〕
戦争種族C.V.としては、全く問題のない『小細工』とはいえ。汐斗様に侍る乙女としてはアウトだろう。
〔もう少し、別の方法を考えないと・・・〕
「よ~し、オイラが風を送る番だ!」「待ってよぉー^~」「コラッ!走らない!!」
心の底から『風』を送る作業に励む。そんな子供の表情を直視できない。
そんなことを考えながら、アンは思考の海に潜っていった。
ギリシャ神話っぽくない魔物の『冠をかぶったセイレーン』。とはいえギリシャ神話の『力』を考えれば、別におかしなことではありません。特に海の魔物なら、なおさらです。
まずギリシャ神話=アレンジギリシャ神話=ほぼローマ神話のため。ローマ帝国の勢力圏にある文化を取り込むのは当然であり。その中に『冠をかぶった』文化はいくらでもあるでしょう。冠をつけたセイレーンは、そんな文化の『風の神』が魔物に貶められた・・・というのが一つ。
もう一つの可能性として、古代世界で海上貿易を行っていたクレタ島・トロイアの商売相手には冠をつける文化があった。まだ判明してないだけで、古代ギリシャにはもっと広域に文化交流を行い。その一端が『冠をつけたセイレーン』だと愚考します。
実際、『アンドロメダ姫』はエチオピア出身という説があり。『女神アテナ』はアフリカ大陸を含めた、古代の地中海沿岸で信仰されていたとか。さらにトロイア文明から出土した『黄金仮面』の用途について、即答できる人がどれほどいるでしょうか。
ギリシャ神話。それは古代世界で最大の文化圏であり。冠をつけたセイレーンはその一端だと愚考します。