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青色の酒場~ブルーサイレン

 海魔鳥の『セイレーン』。それは姿が定まらない、モンスターの一体です。


 オリジナルは〔かんむりをつけた人面鳥〕が最有力でしょう。その姿は海洋柱を守る将軍にふさわしく。王・宰相や領主の威容を誇る、まさに上位の海魔です。


 ただし冠をつけた『セイレーン』は威厳がありすぎて、活動に制限があるのかもしれません。


 『セイレーン』が登場するギリシャ神話に『オデュッセイア』がありますが。私の知る限り、群れ(・・)で舟に襲い掛かる『セイレーン』に冠はついていません。というか知性の低い『ハーピー』そっくりの群れが、『セイレーン』扱いされています。


 〔故郷に帰還する英雄オデッセアを襲う怪物セイレーン〕とはいえ。海神・海洋信仰をする人々が見たら、激怒しかねない。某コーヒーレストランのシンボルにとても使えない、“海上ハーピー”を『セイレーン』あつかいする。


 それを描いた人は『海神』・『ギリシャ神話』のどちらか両方が嫌いなのか。もしくは『セイレーン』が嫌いな画家が描いたモノを、オリジナルと考えたと愚考します。

 家族イチゾクの恩人であるシャドウの汐斗様と、C.V.のアンは『深い関係』になろうとする。


 そのため上層部(侍女)のシャドウと話をつけ。汐斗様が行きつけの酒場で女給になろうとするも。

 〔厄介なC.V.と関わりたくない〕という店主の意向により。その道は閉ざされる。




 「残念です。『汐斗様の愛妾(ウェイトレス)』として雇ってくだされば。

  一夜限りの関係で終わったかも(・・)しれなかったのに」


 戦争種族(6級C.V.)として戦ってきたアンはわきまえている。異種族間の結婚が必ず幸せになるとは限らない。愛のチカラは意思マリョクを高めるが、無敵の切り札などではないと。


 「悲しいです。一夜だけのアヤマチと許してくれれば。お友達・都市ウァーテルや周辺の人間勢力も、平穏を享受できたかも知れないのに・・・」


 愛のチカラが無敵ではないように。一夫一妻の制度は絶対の安寧をもたらす『法』などではない。

 その『法』によって安定している国でさえ、一部の権力者アクトウは一夫多妻の愛人をかかえており。奴等が女性を侍らせることで、精神を安定させ“凶暴性”を弱める。

 そんな権力者の決断が、まっとうな民草たち(・・)の一生を左右してしまう。そんな理不尽がこの世にまかり通っている。


 もちろん一夫多妻ハーレムにもデメリットはあるが。アンのようなC.V.にとっては“必要悪”だ。


 「だから私は歌を唱う。海を荒れさせ、賊の船を沈めてしまう。『人魚魔鳥セイレーン』の唄を奏で歌う。


  『ブルーサイレン』!!」


 そうして都市ウァーテルの一画に、強力な魔力が放出された。




 『ブルーサイレン』という魔導能力がある。


 『気体()』『液体』と『固体()』の水『三形態』を同時に操り、連動させる。


 『感知妨害マドワシ』『牽制フェイント障害デバフ』と『攻撃』を、水の『三形態』を組み合わせて行う『魔導能力』だ。


 一例として:霧で視界をふさぎ、液体()を地面に走らせ下半身狙い・・と思わせ、『氷』の槍を放つ。


  霧で足下を覆い、『水音』で聴覚を惑わし、身代わりの『氷像』を造る。


 惑わし・障害と攻撃(本命)を『三形態』でそれぞれ分担することもあれば。『感知妨害』に全フリするという使い方もある。

 千変万化な『魔導能力』と言えるだろう。




 「それで・・・?」


 「私は『魔導能力ブルーサイレン』の練習をしていただけ。

  『氷の祭壇』を起点に、『水』『霧』に自分の幻像を映す術式の開発を行っていたのです」


 〔やましいことはしていません。術式の内容を開示したので、とがめられるいわれもありません〕


 都市ウァーテルを囲む強固な城壁。かつての籠城戦に勝利した城壁は、長大に築かれており。

 その上部は下手な道より幅がある。

 そのため一見、見渡しがいいと錯覚されてしまい。『光を屈折』『保護色』等の『隠行・姿隠し』の魔術を使えば、監視兵の『通常視覚』を欺くのは容易だった。


 「貴様ぁーーー!」「おのれぇーー!!」「何者だっ、名を名乗れっ!!」


 「私の名はアン・グリュールブ。6級水属性のC.V.でございます」


「「「「「・・-^ー~;!?」」」」」


 『6級C.V.』の名乗りに、兵士たちの空気が凍り。その瞳に悲壮な決意が宿る。

 そんな中で、彼らを束ねる女シャドウが進み出た。


 「アン・グリュールブ様・・・・・それは私が知っているアン様なのでしょうか?」


 「貴女とは初対面ですね。ですがアンという名の水属性C.V.は、この領域・・で私だけのはずです」


 アンの返答に、女シャドウはわずかに顔をしかめる。だがすぐに表情を引き締め。



 「お目にかかれて光栄でございます。勇壮なるC.V.の『聖魔女』様。


  私の名はアヤメ・姫沙薙きさなぎ。シャドウ一族で侍女頭を務めている者です」


 「「「「「ーー-`^!!!?・:+;!?-~ハハァーーー」」」」」


 城壁の石畳に頭をこすりつける兵士たちに、アンは内心で謝り。


 〔この埋め合わせは、必ずさせてもらいます〕・・・とつぶやいた。



 



 かつて“盗賊ギルド”が支配していた悪徳の都ウァーテル。その攻略に必要な戦力はイリス様お一人で事足りただろう。

 だが占領し・治め・周辺勢力に利益・経済をめぐらせるには、いくつか条件がある。


 『海上封鎖』への対策もその一つであり。ウァーテルを攻撃する前に、イリス様は海賊及び各国の私掠船を迅速かつ秘かに殲滅する必要があった。

 そのため水属性C.V.の拠点と契約を結び。


 水属性C.V.たち(アンの故郷)は海賊狩りを行う、戦力を提供して。

 代わりにシャドウたちは〔次代のC.V.が誕生〕することに協力させられた。


 〔一夜限りの関係を結んだ〕〔種馬となる雄を貸した〕〔男性中心ハーレムの予行演習をした〕


 表現はイロイロあるものの。

 女シャドウの大半は絶対零度の視線を放ち。シャドウの殿方たちは無実の者も含めて、肩身の狭い思いをした。

 “甘い夜”を誰が楽しんだか不明にするため、大勢のシャドウを泥酔させたのだが。

 もし“次”があるなら別の手を考えるべきだろう。平穏のためにも。


 〔まあ私には関係のない話ですけど〕


 姫長の扇奈様やアヤメなど。一部のシャドウは“ある事情”により、その際(・・・)に口惜しい思いはしなかった。


 そしてさらにごく少数のシャドウは、水属性のC.V.たちに本気で気に入られてしまい。


 〔もうこいつ等売り飛ばして、置いてきぼりにしたほうが一族の利益(安全)になるのでは?〕


 幹部シャドウの少なくないメンバーが、そんな誘惑にかられたとか。


 幸い姫長様の英断と、聖賢の御方(イリス)様から御助力いただき。


 水属性C.V.の上層部に不幸な“事故”が発生したことも重なって。

 都市ウァーテルは危機を脱して、現在の状況になった。






 「おの時は多大なご助力をいただき、ありがとうございます」


 「私は私の心のまま、行動しただけです。お礼を言われるようなことはしていません」


 「それでもアン様が信義を通してくだり、無事に陸に帰れた者がいます」


 「お気持ちだけはいただきましょう。ですが双方の平穏を優先して、“あの時”のことは無かったことにしました。これ以上、蒸し返すのはやめましょう」


 〔それは『貸し』を蒸し返して、想いをかなえる気はありません〕・・というC.V.アンの宣言であり。


 〔別の手段で交渉・契約して、絶対・・に想いをかなえてみせます〕・・という乙女アンの決意表明でもあった。



 「そういうことでしたら・・都市ウァーテルを守るシャドウとして問います。

  何故、城壁の上で『魔術開発』などなさっていたのでしょう?」


 「それは・・・」


 アンはアヤメ様に今までのことを話す。ミヤホと契約して“強盗集団”を壊滅させたこと。

 その後、酒場の女給(兼汐斗様の愛妾)として、雇用を求めるものの。


 中途半端にアンを恐れ。事情を知っているであろう(・・・・)酒場の主に雇用を断られてしまい。


 「茫然自失になって、『魔導能力ブルーサイレン』のアレンジ・・・・をしていました」


 「そうですか。『魔術開発(・・)』ではなく、あくまでアレンジ(・・・・)と仰いますか」


 「はい、その通りです」


 アンの言葉を直訳すると〔失恋?の痛手で、夢遊病になっていました〕・・・となるが。



 無論、そんなことがあるわけが無い。


 〔厄介な『術式』を多量に産み出す。『魔導能力』で威圧・脅迫を仕掛けていました〕


 アヤメ様の耳にはこう聞こえただろう。


 魔力を露骨に発するまで、城壁の上で『姿隠し』を行っていた。

 『水の膜』で身体を覆い、『氷片』で光を屈折させて、その映像スガタを細分化して余所に飛ばす。

 さらに少しだけ『霧』を発生させ、監視兵たちの注意を引きつつ『視覚』の分析も行う。


 こんな『姿隠し(ブルーサイレン)』の劣化コピーが広まったら、ロクなことにならない。

 盗賊・邪術士が悪用するのも厄介でしょうが。


 侍女シャドウ(幹部のミヤホ)が、誠実にC.V.との契約を執行せず。

 〔それを確認するためアンが魔術を開発した〕というスキャンダルは、シャドウ一族にとって大きな痛手だろう。普通に信用を傷つける。



 しかし汐斗様の身内を貶めることは、アンの望むところでは無く。

 アヤメ様はそれをよく理解していた。


 「わかりました。私の名にかけて、アン様との契約は誠実に履行(見直し)させましょう」


 「お手数をかけます」


 「こちら(ミヤホ)の不手際ですので(はセイサイします)、お気になさらず」


 〔そもそも勇者・流れ者ならともかく。シャドウが酒場の女給とねんごろ(・・・・)になる前例など、厄介事が確定します〕


 アヤメ様がイロイロと考えておられるようだが。これ以上、それに関わるの気など、アンには無い。


 彼女が望むもの。それは想い人との【普通】の恋愛であり逢瀬だ。


 「良かった・・本当に良かったっ・`;・・!」

 「もうイヤだ。遙和様のような魔女C.V.に関わるのはイヤなんだっ!!」

 「命を惜しむなっ!覚悟をっーーー:・;``」



 まずは勇敢な兵士たちのケアから始めよう。そう考えてアンは思考の海に意識を沈めていった。

 海魔鳥の『セイレーン』。それは『警鐘サイレン』の語源になった、重要モンスターです。


 ギリシャ神話に出てくる大半のモンスターは、神々・人間に敵対的であり。『セイレーン』も船乗りを襲います。


 しかし緊急事態を知らせる、大事な『警鐘』の語源になるくらいなら。もう少しマシな神話があってもいいと考えます。せめて頭の『冠』が何なのか。何故つけられたのか・・・という神話はあってもいいはずですが。


 『海上ハーピー』もアレですが。『海サキュバス』あつかいされている、西洋絵画の『セイレーン』を見る限り。

 〔セイレーンの神話は失われた〕〔まっとうな?『セイレーン』は創作するしかない!〕・・・と感じる今日この頃です。

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