青色の酒場~職業の希望
真面目に誠実に働いている、お役人の方には申し訳ありませんが。
江戸時代の鉱山に法治・モラルを期待する。そんなことは不可能だと愚考します。
とはいえ〔情報封鎖をしている=ロクでもないコトをしている〕と決めつけるのも、乱暴すぎる。
だからと言って〔証拠が出るまで危ない組織を野放し〕にしていたら犠牲者が増大するわけで。
そこで江戸時代に間違いなくあった問題点をあげ。『鉱山』の不穏なことについて書いていきます。
シャドウの汐斗様と結ばれるため。水属性C.V.のアンは自らの心身を『変える』。
『人魚姫』の物語から学び、改良して『メロウトライアル』を編みだし。川と海を行き来する『魚』の『変身能力』から情報を得て。深海にも適応できた心身を、沿岸での活動がメインのそれに『変えて』。
陸で生きる汐斗様に求愛する。少しでも長く、彼を独り占めできる時間を延ばすべく。
アンは『肉食魚』の気概で・・・・・
「いけませんね。水中戦闘ではないのですから。
まずは汐斗様にお礼をして、幸せになってもらう。その中で私との関係を深め、結ばれる。
そのアトのことなど考えても仕方ないでしょう。」
〔私は人間のC.V.・:何処にでもいる水属性のC.V.・:・私は初めて汐斗様にお遭いする〕
色々と無理のある設定を、アンは素人な暗示で詰め込んでいった。
汐斗様はアンの生まれ故郷を救った英雄だ。その功績はある重要な『霊薬』を調合することに貢献したため。温度管理を行う『錬金冷術』を提供してくれたことにある。
『アルケミックコールド』自体は下位の術式であるものの。
〔『凍結・氷結』の攻撃能力を除外すれば、温度管理は容易になる〕
この【奥義】をご教授いただき、アンの家族は助けられ。
相応の【お礼】を渡そうとしたアンの想いは、“情報封鎖”という横暴によって踏みにじられた。
〔“秘密がバレたら一大事よ”〕
そう言って汐斗様の記憶を破壊した、恩知らずには相応の報いをくれてやったものの。
『記憶喪失・封印』ではなく、記憶細胞を破壊した『記憶破壊』を回復する手段はなく。
その後、イロイロ紆余曲折のすえ。
〔やはりカオスヴァルキリーたるもの、強くなければ想い人を守れない〕・・・という結論にいたり。
アンは少しばかり修練をやり直して、今に至る。
「すみません。私はアンと申します。本日はお店の支配人に、お願いがあって参りました。
どうか私を、こちらのお店で働かせていただけないでしょうか」
「ッ!?ー`・ここはアンタみたいな奴が来る店じゃないぞっ・・」
路地の奥で細々と営業している酒場。その店主にアンが話しかけた、返事の第一声はコレだった。
丁寧に礼節ををもって、話しかけ。町娘の服を着て、魔力・気配も抑えた。人間女性への変装は完璧に行ったのに。
「口調・衣服の状態に眼光・・・。いったいどこから突っ込めばいいかわからんが。
この店は酒と料理を楽しむためにある。『水蛇竜』の狩り場じゃねぇっ!」
酒場の主は命がけで、アンを糾弾してきた。アンが人食い・復讐が目的のC.V.ならば、即座に殺されかねない。そんなセリフを放つ老人に対し、アンはとりあえず偽装を放棄する。
「・・・・・私は『ハイドラ』などではありません。少し珍しい『人魚』系のC.V.です」
「ウソをつけぇーーーー!・・・ああ、そういう役を演じているわけか」
「そう言われると、身も蓋もありませんが。給仕の娘として雇っていただきたい。この都市で平穏に生きたいという、意思に偽りはありません」
「平穏・・?m・:まあ、それはありがたい話だな」
〔平穏だと?無理に決まってるだろう〕
アンは店主が飲み込んだセリフを察し、憮然となりかけるも。それを指摘しては不毛と考え、表情筋を『笑顔』で固めた。
「ッ!!;`^ーー」
店主殿は半歩後ずさった。
よほど恐ろしかったのだろう。その額には嫌な汗が浮き出ており。その瞳は絶望の淵をかいま見ている。
アンは〔お店で働かせてください〕と頼みに来ただけなのに。何故、こんなあつかいを受けなければならないのだろう。
〔もしかしてどこかで遭ったことが・・・〕
記憶の海に潜るも、アンと酒場の主は初対面のはず。そもそも戦争種族C.V.としてのアンは、人間を襲ったりしない。
あくまで故郷を守る目的で“海賊船”を沈めた。『濃霧』で姿を隠し、たった数十隻を沈めたにすぎない。さらに報復を恐れ、一人も逃がさなかったはずなのだが・・・
「・・・頼むっ!この年でやっとチャンスを得られた。希望を見出したんだ。
それを壊さないでくれっ!」
「『雇用契約』を結ぶ以上、お互いに利益を享受するのは当然でしょう。
不誠実・横暴なことを行わないかぎり・・・『アルケミックコールド』(の利権)ですか」
「な、何のことだっ!」
店主の動揺が、アンに現状を知らせる。おおかた汐斗様の『アルケミックコールド』を盗み覚えて、料理を作ろうというのだろうが。
調理法など人間の技術を盗み覚えるのは、アンたちC.V.も行っている。ヒトを責めることなどできるはずがない。
『良薬』『魔道具』を造る『錬金冷術』を盗み取ったなら、一言ぐらい言いたいけど。汐斗様を差し置いて、今のアンが言うことではない。
「御安心ください。悪用しないかぎり、術式の流用に目くじらをたてる気はありません」
〔“魔薬”の製造等。ヒトに迷惑をかけたら、海のもくずにナってもらいますけど〕
「・・・--‘^‘^」
アンによる言外の通告は正確に伝わり。酒場の主は必死に何度も首を縦に振る。
同時にアンは考えた。この怯えようで、給仕の娘として雇われるのは不可能であり。
夕方はお酌をしつつ、夜を二階の宿屋ですごす。羽振りのいい船乗り・冒険者たちのような夜の営みは、しばらくできそうもなかった。
「・・・というわけで。C.V.様が店員になるのは、断りました」
「ご苦労さまです、ブラムス殿」
路地の奥にたたずむようにある酒場。その店主であるブラムスと侍女シャドウ様は密会をしていた。
ただし密会と言っても、そこに甘い空気は皆無であり。
強者が弱者に対し、『取引き』の体裁をとった『命令』を行い。ブラムスはその結果をミヤホ様に報告している。
酒場の主が決して話さない口調で、ブラムスは密かな会合を行っているにすぎない。
「お約束どおり、彼らの再就職に便宜をはかりましょう。これからは生まれ変わって、新たな人生を歩んでください」
「ありがとうございます・・・」
ミヤホの言葉にブラムスは平身低頭して、感謝の意を示す。可能ならば『再就職』がうまくいっているか確かめたい。一応『取引き』の報酬が、誠実に支払われているのか確認・監視し続けたいところだが。
ミヤホ様は都市ウァーテルを支配するシャドウ一族の上層部であり。
一方のブラムスは国から見捨てられた『密偵』たちの、とりまとめ役にすぎない。
生殺与奪の権を握っているのはミヤホ様であり。ブラムスにできることは、断れない依頼をこなし。
その『報酬』としてミヤホ様及び、その背後に控える絶対者の『慈悲』にすがるだけだ。
〔国に裏切られ捨てられて、ここで犬死にするか。『取引き』を成功させて未来を勝ち取るのか〕
〔他者の一生を『糧』としか観られない。同族を食い潰す“賊”は殲滅あるのみよ〕
〔だけど私たちは血に飢えた狂犬ではない。それをアピールするために、アナタたちとは降伏条約を結んでもいい〕
〔キミたちを利用して国を滅ぼす?都市ウァーテルを適切に運営すれば、国を買い取れるほどの利権・資産を得られるのに?
まあ薄情者の小国とはいえ、故郷を滅ぼされるのはイヤだよね。
いいよ~。よほど“バカ”な攻撃をしないかぎり。領土と玉座に手は出さない・・と契約しよう〕
〔〔〔〔〔〔〔〔〔〔・・・・・っ〕〕〕〕〕〕〕〕〕〕
〔よろしくお願いいたしますっ・;`〕
要約するとこんな感じの取引き?を結び。ブラムスたち元密偵たちの大半は転職し、新たな人生を歩むことになる。むろん“バカな攻撃をした連中”がどんな死に方をしたか。それを知れば選択の余地などない。
さらにどうしても密偵としてしか生きられない者たちは、ブラムスのように正職+『便利屋』まがいの仕事をしており。
〔故郷の家族に仕送りをしたい〕
〔捨てた祖国とはいえ、不利益になることはしたくない(利益をもたらしたい)〕
〔自分たち密偵を捨て駒にした、上役に復讐したい〕
〔そんなことができるはず無いでしょう〕
〔そうかな?余所はともかく交通の要衝なら、間接的に可能だと思うよ〕
こうしてブラムスたちはシャドウ一族の下部組織として働いている。もっぱら市井の声・景気について知らせるのが役割だが。
シャドウが関わりたくない案件を処理する。厄介な戦争種族の偵察・交渉や【常識の教導】に携わっており。密偵の時より背筋が凍る体験をしたのも、一度や二度ではない。
そんな『便利屋』?として活動しているブラムスは、ミヤホ様から依頼を受けた。
〔汐斗に接近しようとするC.V.様の警戒。可能なら、その行動を遠回しに妨げる〕
「今回は断れたけど。C.V.様は、女給になるのを断念するかしら?」
「それは無いでしょう。自分の能力・魅力に絶対の自信を持っておられます。
今回は様子見の偵察ということで、引き下がっただけでしょう」
栄養状況に加え。清楚系の容姿なアン様は下町で既に目立っている。
そんな女性が求人をしてない酒場に〔雇ってください〕と飛び込んでくるのだ。
〔私は人間ではない・・・+:普通の女性ではありません〕と宣言しているに等しい。
そしてこういう自信家のC.V.は、下手に三文芝居につきあわないのが正解だ。
〔騙されたフリをしていた〕のがバレるタイミングによっては、逆ギレしかねない。〔お情けでダマされていた〕という事実は、C.V.様の自尊心・『破壊の魔術』を大いに刺激する。
「いっそのことアン様は望みどおり女給として雇い。その間、汐斗は遠くに転戦させて・・・」
「C.V.様のことはよく知りませんが。それはバレて激怒するリスクが高いと推測します」
女性の勘は鋭く、『魔術能力』は理不尽の権化だと。ブラムスは骨身にしみている。
“バレない”などというのは、現実逃避の妄想であり。それを魔女C.V.に期待するなど完全な自殺行為だ。
「いかがでしょう。
〔女給になりたければ、『錬金冷術』を会得して試験に合格しましょう〕
そういう課題を出して、時間を稼いでいるうちに対抗策を練る。C.V.様の情報を精査するというのはどうでしょう」
「『遅延戦術』と言えば聞こえはいいけど。その情報収集で『魔術能力』をのぞくのは禁じます」
「よく承知しております。オレもまだ死にたくありませんから」
こんなやり取りで密談は終わり。
その計画は早晩、破綻すると。神ならぬ身のブラムスは、知るよしもなかった。
江戸時代の確実に存在した問題点は二つ。
それは〔浪人・失業者に優しくない〕〔牢番は薄給だ〕の二点です。
つまり〔鉱山が掘り尽くされ閉山になった場合。そこを管理する役人たちはほぼクビになった〕ということ。
もちろん身分の高いコネのある上級武士は、それに当てはまりません。ですが中級以下の武士たちは、上級武士のヘマを押しつけられ。〔閉山するなら損切りすればいいものを、利権に執着して赤字を増やした〕ヘマを押しつけられた。
クビどころか。下手をすると情報封鎖された鉱山で“不審な病死・事故死”したかもしれません。
そしてさらに下級武士たちを絶望させるのが〔牢番は薄給だ〕ということです。
都市部の『牢役人』なら、囚人(+親族・一味)からの“付け届け”がありますが。秘密を守るため封鎖された鉱山で、囚人鉱夫が可能な“付け届け”には限度があり。
閉山になればクビになる下っ端役人たちは、何としても『生活資金』を得なければなりません。そうやって少しでも浪人・役無しの生活をマシなものにする。あるいは上役にワイロを貢いで、次の役職を得ようとする。
こうして『鉱山』を監督する役人たちの、汚職はシャレにならないものとなり。
〔家を守るため〕〔失業に備えるため〕という大義名分のもと。江戸時代の『鉱山』は恐ろしい奈落になったと愚考します。




