青色の酒場~マーメイドウィッチ
明治時代以降に『炭鉱』で栄えた町も、石炭が取れなくなると寂れていきました。そういう歴史を知ってはいても、その知識から学び活かすのは難しいです。
大先生の描いた『武田家』のコミックで、〔金山から金鉱石が取れなくなった〕というエピソードがあります。その結果、イロイロと影響が出るわけですが。
器の大きい戦国大名は、金山奉行をあっさり許したそうです。
しかし様々な書物を読むと。そんな大器の武将は例外的と言っていいほど少なく。暗愚なバカ殿は論外。無能を嫌う戦国の覇王など、非凡なトップも大半が怒る。
〔鉱山は採掘すれば、いずれ鉱石は採れなくなる〕という、自然の摂理を忘れ。
鉱山を担当する部下を締め上げたと、愚考します。
6級水属性のC.V.アン・グリュールブ。彼女は大恩あるシャドウの汐斗様と結ばれる許可を得るため。
侍女シャドウのミヤホと契約し、各地で“強盗集団”を殲滅していた。
都市ウァーテルに侵入されたという大義名分もなく。ウァーテルの勢力圏外で盗賊ギルドの補給担当を襲う。戦争種族C.V.としては、必要なことだと理解しているものの。
汐斗様に侍るものとしては、“蟲を潰している”ような気分であり。
『人魚妖精』の系譜を持つ、C.V.の『風習』を速やかに行い。アンは汐斗様へのアピールを始めたかった・・・のだが。
「申し訳ございません。一族のために『深水泡』の封印を、思いとどまっていただけないでしょうか」
「それはいったいどういうことでしょう?」
問いかけと並行してアンは、ミヤホに対し戦闘態勢に入る。
異種族・異文化を持つ者の付き合いにおいて、『契約』は単なる取引ではない。
契約者を査定する『鑑定能力』であり、【安全装置】を兼ねる。魔人と比べれば、多少の融通をきかせるとはいえ。『契約』の不履行はC.V.にとって宣戦布告に等しい。
ミヤホにその気は無いだろうが。
「一族の『旋風閃』を鍛えるうえで、肺を攻撃する『深水泡』は極めて有用です。
ですので契約通り『深水泡』を荒事に使うのは封印していただき。身体強化の修練でのみ『深水泡』を使用可能にする。もしくは『深水泡』を私たち一族に教授していただきたいのです」
「・・・・・っ」
ミヤホの要求は厄介なものだった。これが〔いざという時に戦うため。強盗狩りを行うため『ディープバブル』を保持しなさい〕と言うならば。“契約違反の論外な要求”と拒否できる。
しかしC.V.は契約違反=即破滅・魔界送還な悪魔では無い。
〔シャドウ一族を鍛えるため。汐斗様と仲間が戦場で倒れるのを少しでも防ぐために『ディープバブル』を保持してください〕
そんな【お願い】を無下に断ることは難しい。『契約』を知っているシャドウの上層部との、関係が悪くなるのはもちろん。【お願い】を断った薄情者を、汐斗様がどういう目で視るか。
惚れた弱みがあるアンとしては、想像するだけで恐ろしい。
「・・・わかりました」
「では・・・」
「『深水泡』を封印することは契約の確定事項です。それを変えることはやはりできません」
「・^・^っ!」
「『契約』の履行は、故郷の仲間も注視しています。
貴女がこの場で述べたことはごもっともな正論でですが。急に契約内容を変えては、故郷の年長C.V.が口を挟んでくるでしょう」
最悪の場合、都市ウァーテルで魔導師団長を務めるクララ・レイシアード様が動くかもしれない。
アンの故郷は直接、クララ様に属する派閥ではないが。規格外の実力者とよしみを結びたい者が、今回の契約改変を理由に外交を仕掛けてくる。
〔汐斗様に求愛したアンが、シャドウの都合で契約を改変された。|偉大なる水属性C.V.《クララ・レイシアード》様には、この不条理をただすためお力添えいただきたい〕
こんな外交が始まれば、アンの求愛はメチャクチャになる。だが汐斗様との結婚を反対するC.V.にとっては一石二鳥であり。それを防ぐため『契約』を改変するわけにはいかないのだ。
「とはいえ汐斗様の番いとして、シャドウ一族の安寧は必須なのも理解しています。
そこで『コレ』をもって、『ディープバブル』の代わりとさせていただきましょう」
「何をっ・・・!?」
『可愛く無謀な人魚の姫 綺麗で優しい拾われた姫 恋に敗れ、愛を貫く淡い姫君
魔女に誘われ、声を失う 仙女に学び、未知と嫉妬と惨劇の宮殿を惑わす・・・』
長い『呪言』をアンは謡う。それは『人魚姫』という悲恋の物語であり。異種族C.V.が汐斗様に求愛するにあたって、学ぶことの多い指南書を兼ねる。
そして水属性のC.V.が『変わる』ための『魔導書』だ。
『・・誰よりも家族を悩ませ、愛された末の娘
姉たちの髪は魔女へとわたり 解呪と流転の剣は闇夜にきらめく
されど破術の刃に血潮はなく 静かな涕泣は狂愛を溶かし 家族を泣かせる・・・』
『人魚姫』は恋に敗れた。声を失い、思慕を伝えられず。想い人の愛を勝ち取れなかった。
『人魚姫』は愛を貫く。未知の陸にある、嫉妬渦巻く貴族の宮廷に行き。王子に侍ることが許された。
家族の甘い愛情を拒み。唄を失い、愛を捨てた“人魚”を作る『邪剣』を捨てた。
これらは海棲C.V.にとって忌避すべき事であり。恋慕の乙女として見習うべき事柄だろう。
だからアンは『人魚姫』を『魔導書』に変える。その程度ができずして、汐斗様に侍る資格は得られない。
大事な愛しい汐斗様。つれない、優しい、鈍い、勇ましい。脆くて賢いーー^;`+・:*
『・・海の泡は失われ 風の唄は温かく だけどワタシは私の歌を奏で続ける [メロウトライアル]』
水属性C.V.アンの心身が『変わる』。
それは神秘の魔術では無く。ただし『神秘では無い魔術』に収まらない。
人間との結婚を成功させた『人魚妖精』の未来を望みつつも。
アンの意思は『変成する様々な魚』の情報を集め、陸地にも適応できる身体を構成していった。
世界に『魚人』は無数にあれど。その数に比べ『変幻の術』を使う魚人は少なく。『龍』『水蛇』や『鯉』など『龍神』及びその眷属を除外すれば。『変幻』の魔術・身体を持つ『怪魚』は特異種だと人々はイメージしている。
しかしそれは誤りだ。川で産まれ、海を回遊し、遡上する様々な『魚』たち。それらは外見こそ露骨に『変わり』はしないものの。中身は『変身』に限りなく近い、魚の群れだ。
海中で活動する『魚』は天敵から逃れる速さ。広大な海で迷わないよう、位置情報を把握する『感覚』が必須ですが。
河に戻った『魚』は急流を登る力が重要になり。海に比べはるかに狭い、河の地形を分析する。天敵の待ち伏せ場所を避け、産卵に適した地形を探す『感覚』が明暗を分ける。
これらの生態はアンにとって他人事ではない。『深淵』とはいかずとも、光届かぬ深海ですごすこともあった。そんなC.V.としての生に別れを告げ。これからは沿岸部・河川で活動する心身に『変える』必要がある。
そうしないと悲恋の『人魚姫』から学ばず。敗れた求愛の物語を繰り返す事になる。
「そのため『ディープバブル』の魔術能力を、私はどうしても捨てなければなりません」
「捨てる能力を〔封印した〕と偽り。『契約』の対価にしたというのですか?」
「お互い様でしょう。『ディープバブル』を限定封印にして使い続ければ。
故郷への未練が大きなストレスと化す可能性があります。それでは汐斗様との暮らしに、差し障りが生じかねません」
アンは『ディープバブル』で強盗たちの『肺』『気管』を攻撃したが。あれは魔術戦闘を知らない、格下の賊だから通用したことのであり。『毒気』を警戒する、一定レベル以上の実力者に通じる『魔術能力』ではない。
よって『旋風閃』を使うシャドウを鍛えるのに、『ディープバブル』が役に立つのはせいぜい数回だけ。シャドウ一族の修行には、もっと別の手段・魔術を考えるべきでしょう。
「とはいえ『強盗集団』の壊滅ぐらいで、汐斗様に侍るのというのも。『契約』とは呼べない、厚かましい話でしょう。
だから私は新たな『魔術能力』を唱います。シャドウの皆さんが戦闘経験を積める。
穢れた“山賊海賊”を蹂躙する、『人魚魔鳥』の叫びを・・『ブルーサイレン』!」
「ッ!!」
『妖鳥』の叫びが響き、『魔性』の霧が突風とともに広がる。
同時に何もないはずの空間に『透明な人影』が浮かび上がった。
「『透明化』の術式ですか。ですが今の私にそれは通じません」
水属性のC.V.にとって、魔力の少ない大半の生物は『水の塊』に近い。よって魔術による『隠行』はもちろんのこと。『隠れ身』も〔『水の塊』がナニかしている〕と見えており。
地上への適応能力を高め、心身を『変えた』アンには万に一つも通用しない。
「おのれっ・:!ーー`*」
「足りない想像力を働かせてよく考えてください。今のオハナシを聞いた可能性のある者を、私たちが生かして帰すか。
そして(『ディープバブル』を代償にに編み出した)『魔術能力』が逃走を許す甘いチカラなのか。よく想像力を働かせてください」
「ーーーーー^`;/・:`*」
人面の怪鳥『セイレーン』。それは警鐘の語源になるほど『声』が有名だが。『鳥』の身体部位には翼・爪があり、飛翔して獲物を切り裂く。さらに『海神』の眷属として泳ぎも得意だ。
「そのため『ブルーサイレン』はセイレーンのように複数態の『水』を操ります。
『気体・液体と固体』の『水三態』。
『霧・魔声』で惑わし。『水気・突風』で動きを封じ。『氷・冷気』の爪でとどめを刺す」
事実上、三連で魔術を放っているに等しく。タイミング・魔力の振り分けに効果対象・範囲をアレンジすれば。3×3種類のバリエーションどころではない。
「シャドウの皆様たちが訓練を行うのに、きっと役立つ『魔術能力』となるでしょう。
そこで『ブルーサイレン』の提供をもって、正式な『契約』とさせていただきたいのですが」
「・・・否はありません」
「お認めいただきありがとうございます。必ずや皆様のお役に立ってご覧にいれます」
そう言いつつも、アンは目の前の女シャドウと争う未来を想像していた。
異種族・異能者のC.V.に契約改変を迫ったのは仕方ない。混乱の源になる都市ウァーテルの今後を考えれば。『契約』に固執しすぎる者を、身内にはできないというのは理解できる。
だけど〔『透明化』で潜んでいた賊を見逃していた〕・・というのは試練としては行き過ぎだ。ミヤホからアンへの、挑発の意思を感じる。
〔まあ今はそのことを追求しません。チャンスの時間は限られていますし〕
こうしてアンは汐斗様に求愛するための、正式な『契約』を結んだ。
江戸時代、徳川幕府は権力をふるって『国替え・取り潰し』を行い。全国の『鉱山』を独占し。そうして莫大な鉱石・資産を得ました・・・・・・・・・・短期的には。
しかし権力をふりかざして強奪し。あげく情報封鎖して密室に近い、鉱山でナニが行われたか。知れたものではありません。
何故なら世の中には“横領”というモノが有り。武士には無駄なプライドがあるからです。
はっきり断言しますが。平和ボケした武士・幕臣たちは、鉱山からの利益を横領した。露骨に金銀を懐に入れたかは知りませんが。
〔『鉱石』を運ぶ、輸送コストを水増し請求する〕〔鉱石を製錬する技術開発の資金を・*〕〔鉱夫を増やす予算を・*〕〔鉱脈を掘り当てるため、特別予算を・*〕
どこかで聞いた“役人・商人の汚職”鉱山バージョンを一通り行い。鉱山役人は、その罪を下っ端の『山師』になすりつける。こうして山師=“詐欺師”のイメージが、江戸時代から昭和の約400年にわたってねつ造され。
〔鉱山のムダな開発・採掘のために、幕府は大赤字を出し続けた〕と考えます。
もちろん金銀山に関わる役人の全員が正直者であれば、こんなことはあり得ません。鉱石の出ない山の『損切り』を行い閉山する。〔鉱山はいつか枯れるもの〕と知っており、閉山を宣言する。身分の低い役人に責任を押しつけない、上役がいたならば。私の考えは間違っているでしょう。
情報封鎖されて、町ができない。山師=詐欺師になっている。江戸時代の鉱山は『妖怪伝承』すら皆無に近い。この状況で〔役人に横領がない〕というのは夢物語であり。児童労働のあった英国の鉱山より、ヒドイと推測します。あちらは一応、炭鉱の『町』とかありましたから。