青色の酒場~内情と外堀
山にある鉱石の種類・埋蔵量を調べ、その情報を朝廷に伝える。領主に協力・士官して鉱山採掘を、『山師』は行っていたという。そういうエピソードを読んだことがあります。
彼ら、もしくは“自称山師”が、出資金を集めて鉱山開発の“詐欺”を行えるのは『明治時代』以後であり。
そんな二百年にもならない近代の炭鉱・鉱山詐欺をあげつらって。数百年もの間、働いてきた『山師』たちを、“詐欺師”あつかいするのはひどすぎる。
私はそんなことを愚考しています。
下級シャドウの汐斗たち。彼らは姫長様から任務の褒賞をいただいたものの。
その金を派手に使って都市ウァーテルの食糧事情を調べる。そんな出世のチャンスに挑戦する気はなく。
最低限、食事事情を調べるため、酒場で働き。社会勉強を行って、お茶を濁すつもりだとのこと。
その酒場を切り盛りするブラムスたちは、シャドウの争いに巻き込まれるリスクを抱えることになるが。都市ウァーテルが陥落した混乱の際、彼らには酒場を守ってくれた借りがある。
ブラムスたち酒場経営者の寄り合いが、彼らの臨時雇いを断るのは不可能だった。
〔いったいどうすればいいんだ・・・・・〕
そして酒場の店主は内心で頭をかかえていた。
『錬金冷術』という魔術がある。汐斗たちにとっては『神秘ではない魔術』であり。【どぶ川のお掃除】に使われる、主流派の『錬金光術』と比べれば。
〔食材・調理道具や皿を冷やすだけのささやかな術式にすぎない〕と汐斗は言った。
“詐欺”である。“嫌味な謙遜”程度ではない。
汐斗の言ったことを鵜呑みにして、『アルケミックコールド』を安易に使えば。一時的に儲かっても破滅してしまう。そうブラムスは確信をもって言えた。
〔こんな利権の大きい『錬金冷術』を酒場で使えるか!!〕
少し包丁と食材に『冷気』を帯びさせる。『付与?』するぐらいならよかったのだが。
ナゼ食料庫や酒樽に『アルケミックコールド』の『結界』をはるのだろう。
〔これで食糧が長持ちします。味もチョット良くなるかも〕
そう言ってはにかむ汐斗はバカ者だ。
食糧の腐る時期・保存の時間は、食に携わる者にとって死活問題であり。昔は腐肉の臭みを誤魔化すために、バカ高い香辛料が使われたとか。
大きな船が食料を運べる、港町ウァーテルの食料事情は良いほうだとはいえ。
『アルケミックコールド』が広まれば。食料の保存期間が飛躍的に伸びるのは、確定事項であり。
それに伴う利権は、莫大なものになるだろう。
例えばしがない酒場オヤジの口を封じて。〔ワタシが錬金コールドを編み出しました〕とほざく、貴族連中が現れかねない。最低でもそのぐらいの名誉と利権を、『アルケミックコールド』は産みだすだろう。
年輩者として、若僧の汐斗にはそういう一般常識を教えてやらねばなるまい。
まったくシャドウ一族とやらは、若者にどんな教育をしているのか。
「おい、汐斗・・」
「あ、ブラムスさん。野菜の『茎』と『マカロニ』を冷やして、ストローを作ってみたんですが。
これを使えば氷を入れなくても、冷えた飲み物を楽しめませんか?」
「・・:^・:アホかっ。酒との相性を考えろ。
ストローなんかでちまちま飲む奴等が、この店に来るかっ!!」
「うっ・・」
「だがジョッキ丸ごとを冷やした。“悪目立ちするエール”と比べればマシだ。
迎え酒とか、ラスト一杯になら使えるか・・?」
「ジャッキは、口がつく『飲み口』だけを冷やしてはどうでしょう」
「それだっ・・?:・`アホかっ。開店前の仕込み中に料理開発をする奴があるかーー~!!」
「すみません、すみませんっ・・」
「まったく・・英雄ブラウニー様じゃあるまいし。料理は一朝一夕にできるものではないぞ」
料理は経験がものを言う。価格を度外視したり、試作品を客に食べさせるようでは。料理人としての経験が疑われかねない。
〔とはいえ面白い試みだな〕
そう胸中でつぶやきながら、ブラムスは今日のメニューについて考える。〔城の主として柔軟な思考も大切だ〕そう考えながらブラムスは汐斗の一歩先を行く、調理法を組み立てていった。
強大な組織である盗賊ギルド。そこにはたくさんの人材・職種が所属しており。この世の表裏、双方から“標的”を貪ることができる。
それはC.V.とかいうアバズレ魔女も例外ではなく。一時、妖術で都市を支配した連中だろうと、攻略法はいくらでもある。特に“お行儀の良い”奴等は外面を気にするもの。
ならば『嫌がらせ』で心を攻撃すればいい。そうしてストレスが蓄積すれば、必ず隙をさらすだろう。後ろから刺せる瞬間を・・--;^*
「え?」
背筋に空恐ろしい悪寒が走る。同時に、チンピラの視界は暗転した。
物事の価値は絶対ではない。状況によって、どなたが使ったか、何を成し遂げたかによって。
その価値は推移し変化し続けます。
『錬金冷術』も同様でしょう。
料理人たちにとって『冷術調理』は楽しい『玩具』であり。
物欲まみれの傲慢・準貴族が弄べば、『錬金冷術』は“呪いの宝石”と化す。
「そして発案者の汐斗様が使えば、至高の宝玉と成る。青く、蒼く、深いアイ色に輝き続けます」
「何者だテメェっーーー!!」「ここを何処だと知ってのことか!」「死ねっ・・!!ーーー!?」
彼女の前で強盗集団がさえずっている。魔力が視えず、魔術を知らず。魔女C.V.がどういうモノが想像力を働かせない。ケダモノたちがわめいている。
「そんなに騒がないでください。私は6級水属性のC.V.アン・グリュールブと申します。
ここには話し合いに参りました」
「・・・話し合いだと?」
「はい。私たちの領域で悲しい行き違いが発生しました。
そこで今後はこのようなことがないよう、話し合いの場を設けたいのです」
そう言いながらアンは発生した“モノ”を転がす。ソレは濁った『水球』の形をしており。
中には下っ端の歪んだ表情が浮かんでいた。
「「「「「・・・ーー`!?」」」」」
「心配には及びません。しっかり生存していますし、思考能力も保全しています。
ただ少しばかり『肺』の中に魔力を出し入れしましたから。少しばかり悪夢に悩まされるかもしれません」
『お酒・タバコやアソビでまぎらわせてください』
アンは宙を踊る水文字で意思を伝え。それにより強盗たちから侮りの色が消える。
彼女が何のため、ここに来たか理解したのだろう。殺気を放ちつつ、無言で武器に手を伸ばし。
『深水泡』
「「「「「「「「「「ーーー^~;`**」」」」」」」」」」
チンピラと同様に『呼吸器』に魔力を送られ悶絶した。溺れ、内側からえぐられ、自傷の『呼吸法』を強制される。
そんな水の地獄から逃れるべく、意識は避難を選択するも。
「魔女の眼前で気絶ができるとでも?それは甘い考えですね」
「「「「「「「「「「・:ガ**^~/ーー」」」」」」」」」」
『回復』『覚醒』の術式によって、心身を強制的に保全される。
世の中には『無詠唱』や『不可視』の攻撃手段があり。そして冬期・寒冷地の『氷雪』を具現化する魔術も既知のものでしょう。
ならば深海にある『深水』を具現化する。酸性で冷たい高圧力の『深水』を、『無詠唱+不可視化』で操る魔女C.V.がいないと。
〔“盗賊ギルド”のヒトたちはどうして想像できないのでしょう?〕アンは不思議でならなかった。
「おおかた“弱肉強食”の言葉に酔って、想像力が退化したのでしょう」
「それは大変ですね。魔術・異能戦において致命的とすら言えます」
アンの背後から情報提供が行われる。だがその存在は強盗集団など問題にならない。アンにとって脅威であり、『契約者』を兼ねる難敵だ。
「このまま『契約』どおり“強盗集団”を壊滅させます。
そうしたら汐斗様と関係を深める許可をいただけるのですね」
「侍女であり上級シャドウのミヤホの名において約束しましょう。標的の“強盗集団”を討ち取り、都市ウァーテルの治安に貢献してくださるなら。
汐斗のハーレムを束ねる正室の座を得る機会を進呈しましょう」
都市ウァーテルから盗賊ギルドを追い出す。莫大な富を産み続ける商都ウァーテルを支配し続ける。それは綺麗事ではすまない、裏の仕事をどうしても行う必要がある。イリス様が嫌う“闇討ち”まがいの殲滅もその一つだ。
C.V.のアンとしては・・・
〔汐斗様の仕事を邪魔するモノは水没させる。余暇を邪魔するモノは深水を大量に飲ませる
命を狙ったモノ・・・ウフフッ、知りたいですか?〕・・・というルールであり。
近い未来・間接的にソレらに該当する。
“盗賊ギルド”に武器・兵糧に資金を提供する“強盗集団”を全滅させることにためらいなどない。
しかし表の世界で生きるシャドウ・騎士たちが、大っぴらにそのルールで動いたら。力なき民には血に飢えた“殺戮者”と恐れられ。“賊”たちは自分たちの悪行を棚に上げて、被害者ヅラするだろう。
金を奪い、ケガをさせて、最底辺の奴隷におとす。自分たちの悪行を“弱肉強食”と言って正当化する。“盗賊ギルド”がどう動くかなど、わかりきったことだ。
そのためウァーテルの勢力圏外で、C.V.アンは通り魔モンスターに等しい活動を行う。
汐斗様や彼女の同胞を直接、襲ったわけでもない。山賊・強盗狩りを行っていた。
戦争種族C.V.としては、必要なことだと理解しているが。〔弱者を潰している〕活動は、汐斗様の番いとして精神的に好ましくない。
「それで・・・あとどのくらい襲撃を行えば、私は『ディープバブル』を忘却していいのでしょう」
「・・・っ」
魔女C.V.としては『深水泡』は使い勝手のいい魔術能力だが。
『アルケミックコールド』で食を支える大役を担う。汐斗様にはべる女性アンとしては、〔ムシを潰した〕凶器の魔術だ。
汐斗様が失った記憶・偉業を考慮すれば。賊狩りが終わり次第、『ディープバブル』は永久に封印すると、アンは決めている。
「・・ミヤホ様?」
「申し訳ございません。一族のために『深水泡』の封印を、思いとどまっていただけないでしょうか」
「それはいったいどういうことでしょう・・・?」
しかしミヤホ殿の意見は違うようであり。アンは自分の意向を通すため、言の刃に冷気をこめた。
実際のところ。性悪の詐欺師・忍者が『山師』を騙り、鉱山詐欺を仕掛ける可能性は皆無ではありません。
しかしそれは勅令・勅使を騙るに等しい。国境を越えて山の調査を行う、権限を持つ。朝廷の役人という面を持つ『山師』に化けたりすれば。
あらゆる勢力から狙われかねない。国境を越えて追われるリスクを抱え、『抜け忍』と同様に追われてしまう。そんなリスクをかかえたいと、考える者がどれほどいるでしょう。
そんな自殺志願者よりも。鉱山開発に失敗したあげく、“人のせい”にしたがるバカ殿や。
どっかの役人と同じように。鉱山からの産出物を“着服・横領に利益の数字をいじって”他者に濡れ衣を着せる。そんな“不届き役人”たちのほうが、はるかに多いと愚考します。