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シャドウボーナス

 戦国時代の『鉱山』は『妖怪』が出てこないほど地獄だった。もしくは“死人に口なし”で、『鉱山の妖怪』が一般に知れ渡ることはなかった。そんなロクでもない妄想をしています。

 それでは江戸時代の『鉱山』はどんなところでしょう?


 江戸時代、『鉱山』は幕府の支配する『天領』となり。少なくとも戦国時代のように、領土争いの原因にはならなかった。“鉱山奴隷”を求めて、奴隷狩りは行われなくなった・・・はずです。


 ですが寺社の参拝客で賑わう『門前町』のように。炭鉱の富で経済が廻る、『鉱山の町』というのを江戸時代に聞かない。

 〔鉱物が出なくなる。鉱山ヤマが枯れて、街が過疎化した〕という話を聞くのは明治時代を過ぎてからであり。江戸の時代劇で『廃鉱』『隠し鉱山』をごく稀に聞い()ぐらいでしょうか。


 そして戦国時代と変わらず『鉱山妖怪』の話も聞かない。というか民衆も娯楽を楽しむ余裕ができ、江戸時代は様々な『妖怪』が伝承・創作されました。


 そんな江戸時代にも関わらず。情報封鎖が戦国時代と同様に行われ、『鉱山妖怪』が出てこない。

 もしかしなくても鉱山の状況は悪化していると、私は妄想してしまいます。

 下級シャドウのウェアル。彼はC.V.エレイラ殿に命じられ、都市ウァーテルへと伝令に走る。

 その道中で、弓兵のみ(・・)の部隊に待ち伏せされ。不審を感じたウェアルは『土』をウァーテルへと持ち帰り。


 その結果、敵勢力が何らかの『邪法結界』を発動しようとしている。シャドウが“穢土”と忌み嫌う、悪辣な邪法を発動するため。その『触媒』があちこちの街道に埋設されているという、結論に至り。


 シャドウと陸戦師団は共同作戦で、それらの除去を行う。同時に“邪法”に関わった密偵たちが、討ち取られ。“穢土”の魔術が“ネクロゾ-ン”という名称だと判明し。

 それに関わった連中は、イリス様(マスター)討伐名簿ブラックリストに載ることになった。いずれ然るべき処分が下されるだろう。


 シャドウ一族を束ねる扇奈・セティエールはそう確信している。




 「それではこれより、こたびの任務における『褒賞』を授ける!」


 「「「「「「「「「「ありがたく、いただきます」」」」」」」」」」



 とはいえ邪法に手を出した者たちに制裁を行うには、それなりの準備が必要であり。その中には中級シャドウのサヘルが関わっている、〔モラッドの街で『お宝探し競技』を成功させる〕など。

 複数の任務を達成することが含まれる。


 当然、それなりに時間を要するわけで。扇奈は〔今回の任務は一応、終了〕ということにし。

 働いた配下たちの労を、ささやかながらねぎらうことにした。



 「姫長様が『報奨』を用意されました。呼ばれた者は、進み出て受け取るように」


 「「「「「ハハッ・・」」」」」


 侍女シャドウ(カヤノ)が名を呼び、進み出た者に扇奈は小袋を渡していく。その中のほとんど(・・・・)には数枚の金貨が入っており。ささやかな贅沢を楽しめるだろう。

 

 そうして全員に小袋を渡した扇奈は、姫長としての仕事にかかる。


 「薬・武具の『素材』を求める者たちには、その『欠片カケラ』を入れておいた。

  『欠片』が求める素材ならば、さらなる忠節に励むがいい」


 「「「ありがとうございます、姫長様」」」


 上級シャドウの権力・人脈?で得た、稀少な『素材』を部下たちに渡す。それはさらなる『力』を求めるシャドウの装備品となり。あるいは“かつての災厄”から癒えぬ傷痕に苦しむ、家族を癒やす『薬』の材料となるだろう。


 そして求めてやまない『素材モノ』を得た。下級シャドウたちの忠誠は高まるだろう。

 喜色に顔をほころばせる部下たちに、扇奈は退出の許可を出す。



 そうして残らせたシャドウたちに向き直った。


 「さて・・お前たちを残らせたのには、理由がある。まずは袋の中身について説明しよう」


 「「「「「「「・・・ーー・:」」」」」」」


 こたびの働きに応じ、小袋に数枚の金貨を入れて渡された。この場に残っている者たち。彼らを悪く言えば〔くすぶっている〕者だ。

 独自の技・術式を編み出したり。異文化の『錬金術』『魔術』や『技法』に手を出すでもない。

 日々、与えられた任務をこなす下級シャドウであり。


 組織の長である扇奈としては、大事な私兵集団だ。




 個々の才能を伸ばし、力を高める。それは社会的にはけっこうなこと。『カオスヴァルキリー』であるマスターにとっては楽しいことなのだろうが。

 姫長の扇奈としては。力を高めた者たちに、次々と独立されてはたまったものではない。シャドウ一族という組織を維持するのが困難になってしまう。


 〔無論、能力のある者は出世させる。相応の地位を与えたい〕


 だが名ばかりの地位を与えたところで、主従どちらも虚しいだけ。

 領地・利権や高額の報酬を伴わない。そんな『地位』に満足できるほど、シャドウたちはお安くないのだ。


 そこで問題となるのがイリス様(マスター)の魔導能力『認識変動アルゴスプリズム』である。

 認識能力のバランスを変動させ、知覚・集中力を強化する。才能・個性を伸ばすのに必要な、感覚の構成ビルドをイメージさせる。『アルゴスプリズム』は間違いなく偉大な『魔導能力』だろう。


 ただし個人の才能を飛躍的に伸ばしすぎて(・・・)。成長した者にふさわしい報酬・利権を用意する時間が足りない。より正確には政敵のイセリナ・ルベイリーが提示する報酬よりも。価値のあるモノを、扇奈が用意するのは困難だ。


 

 そのため安定した給金を払えば、今までと変わらず仕えてくれる。普通の下級シャドウたちは、組織の長としてはありがたい人員であり。援軍となり得る予備兵力だ。

 けっして疎かにしていいシャドウではなく。安易な“血の掟”などで縛るのは論外だ。


 〔そこまで気を使う、必要はないと思いますが〕

 〔もっと一族の忠誠を信用なさるべきです〕


 〔・・・少しばかり考えがあります。ウェアルで試験的に行ってみましょう〕


 側近の侍女シャドウたちはこう言うが。姫長としては、この件で甘えるわけにはいかない。

 事実上イセリナの稼いだ資産を、イリス様を通してシャドウ一族が受け取っている。そんな現状に甘んじるわけにはいかないのだ。


 


 「今回、皆に渡した金貨。それは褒賞であると同時に『軍資金』でもある」


 「「「「「「「・・???」」」」」」」


 だから扇奈は様々なことを知る必要がある。都市ウァーテルや、そこを訪れる商人たち。

 何より男性シャドウたちの求める物を、知って把握しなければならない。


 「今、渡した金貨。それを使って料理・食糧事情を調べることを命じる」


 「料理と食糧について・・・」「我々がですか・・?」「よろしいのでしょうか・・・」


 扇奈の命令に対し、部下たちは困惑していた。その理由はマスターの御下命を遵守しているから。


 〔他人(特に異性)のプライバシーをのぞき見()るような、術式・諜報活動を禁じる〕


 このお達しに従い、シャドウたちは機動性に優れた軍勢となっており。不届きな密偵を返り討ちにして、『尋問』はするものの。対人・対国家への諜報活動は、ほぼ(・・)行っていない。


 「無論、聖賢の御方様(マスター)から許しを得ての行動だ。それに他者の秘密を暴く、術式・活動は今までと変わらず禁じる」


 「「「「「「「・・・・・」」」」」」」


 「私が命じるのは〔『軍資金』を使って、自由に食事を楽しめ〕ということ。


  それによって貴様たちが料理のレシピを持ち帰る。食事の傾向を調べたり、【次】の食事調査につながるコネを作るのもいいだろう。あるいはおまえたちが無価値と判断した食糧事情ジョウホウも、報告書にすれば別の見方ができるかもしれない。


  とにかく失敗を恐れず、都市ウァーテルの食事を楽しむがいい。

  そのために使った『軍資金』は、後日に補填する。さらに有益な情報を持ち帰った者には、追加で報奨金を与えよう」


 「かしこまりました」「姫長様の仰る通りに・・」「褒賞が倍近くになるチャンスか・・・」


 奇妙な任務に首をかしげる者も少なくない。だが〔話は終わり〕とばかり、扇奈は席を立ち。 


 「こたびの論功行賞は、これにて終わります。【次】の褒賞を授けられる日を、楽しみにお待ちしています」


 「「「「「「「ハハァーー!!」」」」」」」


 カヤノの宣言により解散となった。

 江戸時代、鉱山で働かされていた者たち。彼らは罪人が罰として、働かされていたとのこと。

 〔罪を犯した者が、労役を課されるのは当然のこと〕・・と正論をふりかざせればいいのですが。


 江戸時代は〔十両盗めば死罪になる〕〔冤罪・連座で無罪の者が投獄される〕という。現代日本の司法と比べ、かなりヒドイ刑法がまかり通っていました。

 一応〔“連座刑”は八代将軍のときに撤廃された〕と聞いたことがありますが。それで“冤罪事件”が消滅したり、役人が心を入れ替える・・・などということは期待できません。


 以上のことから、江戸時代の『鉱山』も戦国乱世とそう変わらず地獄だった。役人は採掘ノルマを達成するため。御役目を果たすために、“鉱山労働者(ドレイ)”を“合法的”に調達し続け(・・)た。


 〔まっとうに生きる人々にとって、江戸時代の鉱山は枯れたほうが平和になるのでは?〕

 そんな妄想をしています。

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