表裏のカマキリ:竜角鬼
今回も閲覧注意です。
〔鉱山に出没する妖怪が少なすぎるのは、江戸時代以前の鉱山がこの世の地獄だったから〕
かなり厳しい情報封鎖がされていたため、鉱山妖怪の昔話は広まらなかったと愚考します。
まず戦国乱世に『人権』などというものはなく。敗北すれば火付け略奪の憂き目にあう。
となれば『鉱山』の収益で富を得るのが最優先となり。降伏した兵を“鉱山奴隷”にして“使い潰す”ことにためらいなどなかったでしょう。
むしろ“鉱山の秘密を守り、採掘し続けるため。鉱山奴隷を使い潰すのは必要なこと”と考える為政者のほうが、多かったと推測します。
『竜角鬼』というクリーチャーがある。女シャドウの桐恵がアレンジした『竜牙兵』であり。
霧葉の『竜爪獣』が、『竜牙兵』をコストダウンした『蜘蛛』とするなら。
『竜角鬼』は『竜牙兵』の強化を目指したクリーチャーである。
『妖樹』で骨格・外装の大半を構成し。重要な神経系・攻撃手段に稀少な『竜角』素材を集中して使う。
それにより三流術者の魔力でも、何とか数をそろえられる。器用な手指を失い、農作業もできなくなった。戦闘特化の『竜牙兵』・『竜角鬼』が桐恵によって完成した。
つまり何が言いたいかというと。〔『竜角鬼』の完成〕という功績により、桐恵はそれなりの地位を得ており。戦闘力も高いほうで、たいていのシャドウを殺気で黙らせられる。
よって無礼な態度に対し、桐恵は怒ってもいいと愚考する次第だ。
「絶対、死守!何としても導師様をお守りしろ!!」
「ツァイス隊長!」「ウォオオオーーーーー!!!」「時間を稼げっ!命を惜しむな!!」
「・・・・・」
桐恵の目の前で、重騎士たちが悲壮な覚悟を決める。上司・主君たちから『魔導能力』を付与され。必勝と生還が義務づけられた勇士たちが、霧葉姉上を守るために闘志を燃やしていた。
それはとても熱い展開なのだろうが。桐恵の胸中には寒々しい風がふいている。
何故なら重騎士隊は桐恵を“刺客・バケモノ”の類と認識しており。彼女と相対し、馬車にいる霧葉だけでも逃がそうとしているのだ。
「そんなに私は凶悪な面相をしているかしら・・」
そうつぶやきながら、桐恵は頬に片手をあて。目があった重騎士の顔が、恐怖で歪む。
同時に重騎士隊長が号令をかけた。
「ッ!!後列は構えっ!『光弾砲』を準備!!」
「「「「「了解っ!『ライトカノン』の術式準備!」」」」」
「狙う必要はない!面制圧を優先して・:」
いよいよシャレにならない局面が近づく。その瞬間を狙いすまして『影』がさし。
「申し訳ございません、重騎士の皆様。この者は私の妹で桐恵といいいますぅ」
「「「「「「「「「「・・・エエー^~ーーー!!?!」」」」」」」」」」
〔ヨシ、殺ソウ〕
霧葉姉上が誤解を解いたにも関わらず、桐恵の心に殺意がわいてくる。
彼らの本音を表した叫びが〔重騎士たちを無礼討ちしたい〕という衝動につながり。
その衝動を収めるのに、桐恵は少なからず時間を要した。
「「「「「「「「「「「申し訳ございませんでしたーーーーー!!」」」」」」」」」」」
ツァイス率いる重騎士隊の全員が、キレイに整列し。桐恵に対して『土下座』を行う。
〔男性シャドウの文化を、陸戦師団がどこで覚えたの?〕
〔仮にも騎士が行軍中にそんなことして大丈夫?〕
〔救援に来た霧葉姉上・導師に対する礼より深く、頭を下げるのはいかがなものか〕
桐恵としては色々尋ねたい・言いたいことはあるものの。心の底から反省の意を示す、紳士たちに無粋な質問などできるはずも無く。
『桐恵・・』
『わかっているわよっ』
『光術信号』ではなく、視線で霧葉とやり取りをする。
そうして桐恵は中級シャドウにふさわしい口上を述べた。
「私も悪かったです。『姿隠し』を解いて姿を現す位置が、進路を妨害してしまった。
それでは重騎士が、私を敵と間違えたのもやむを得ないこと。ここはお互いに何もなかったということで、水に流しましょう」
桐恵は戦闘専門のシャドウであり、“捕食者”に片足を突っ込んでいる。そんな彼女が下手な駆け引き・外交をしても禍根にしかならない。
よってここは〔水に流す〕の一点張りだろう。
「「「「「「・・・っ」」」」」」「姿隠し・・?」「問題は・:殺気の`^:」「シッ!」
「お許しくださり、ありがとうございます!今後は同じ事を繰り返さぬよう鋭意、努力いたします!」
ヒソヒソ話が気になるが、ここはオトナの対応をすべきだろう。
それに重騎士たちは誠意を見せてくれるとのこと。ならば桐恵への評価など些細なことだ。
「こ~らっ!そんなわけないでしょう」
「霧葉姉上?」
頭に軽い衝撃が走る。それは優しく、ひさしぶりすぎるものであり。
「私たちはウェアルの義姉なんだから。世間はともかく、重騎士・魔導師の評判は気にしないと」
「姉上がそう仰るなら。少しは穏健策をとりましょう」
「ウンウン/『そういうわけだから。“連中”にはとっとと引導を渡しましょう』」
「・・・/『承知しました。竜角鬼には例の能力を使わせます』」
桐恵の髪に付けられた『魔術糸』を通じて、『秘匿会話』をかわす。
笑顔の裏でそんなやり取りをする姉に、桐恵は少し薄ら寒いモノを感じた。
『アラクネ』『マンティス』というバケモノたちがいる。本来なら魔境・迷宮の奥にいるべき“虫”のモンスターであり。
現在は都市ウァーテル周辺の森に出没する。裏街道・密輸ルートを通る者たちを襲う造魔生物だ。“盗賊ギルド”の補給路を襲撃する、シャドウ一族の『使い魔』とも言う。
「・・:ーー^~」「ーー・ーー・:`」「「「・・・・・っ」」」
「生き残ったのは、たったこれだけか・・」
盗賊ギルドの中でも山林での活動をメインとする。主に山狩り・密輸やモンスターへの偵察を行う。山賊とは異なる、山林密偵たちは荒い息を繰り返していた。
何故ならミュルダが頭を務めるチームメンバーたちは、ここ数日で大きく数を減らしているから。
しかも生き残っているのは無傷で五体満足な者たちだけ。『毒』は使わない敵なのに、負傷した者は一人も帰って来られず。
合流地点に集まれた者たちは、蒼白な顔をつきあわせていた。
「隊長っ・・・」
「わかっている。もはや撤退するしかない」
うめき混じりな部下の声に、ミュルダは素早く応じる。
もしかしたら部下は別のことを言いたかった。尋ねたかったのかもしれない。
しかし〔『アラクネ』『マンティス』が猛威をふるい始めた原因。それは『邪法の結界』を敷設したからではないのか?〕・・・などと問われたところで、何と答えればいいのだろう。
〔そのとおりだ〕と肯定すれば、〔不穏な意思あり〕と上層部に睨まれ。
〔そんなことはない〕と否定すれば、部下たちの信頼を失うだろう。密偵でもそうお目にかかれない、惨殺死体をミュルダたちは目の当たりにしたのだ。逆鱗に触れたのか、地獄の門が開かれたのか。いずれにしろ士気は最低で、これ以上の活動は不可能だろう。
何より明白なのは〔激怒した敵の隙をつける、実力などこのチームにはない〕ということだ。
〔敵を怒らせ、挑発に成功した〕などと言えるのは、同程度の実力者で成立する話であり。『使い魔』の能力すら不明な理不尽が、不愉快になれば盗賊ギルドなど蹂躙されるのみだろう。
そんな結論を出すのは、少しばかり遅すぎた。
『『『*\^/*』』』
「ギッーーー^~*」「「「「っ!?ーーー!!」」」」
「散開っ!」
出現と同時に、隙のある者を襲う。突き穿ち、刺し挟み、肉を圧した獲物をたたきつける。
そんな『マンティス』が地中から出現し、部下の足を貫く。ソレは釣り竿が糸・魚を振り回すように狂乱し、貫いたモノを木々の暗闇に投げ捨てた。
「ひっ・・」「ウワァーー!」「このっ・:*」
『マンティス』に挑んだ部下たちが次々と返り討ちにあう。
小さな虫『カマキリ』の鎌を、そのまま人間サイズにした『蛮刀腕』の攻撃力は絶大であり。その刃は槍のように伸び、鎌以上に変則的だ。装甲も硬く、討伐用の武具で攻撃しても通じるかはあやしい。
ダガーは論外で、山刀ごと部下たちは血の海に沈んでいく。
「イヤだっ、こんな所で・/*」
『マンティス』から逃れるべく、部下が背中を見せ。その首筋が木々の間から伸びた、『蛮刀腕』によって切り裂かれる。ナニもいなかったはずの空間から『マンティス』が姿を表し。
その目はミュルダに肉食獣の笑みを向ける。
「いい気になるな、くらえっ『ダルケス!!』」
それに対しミュルダは切り札の『黒刃』を放つ。部下たちが稼いだ時間で、魔力をこめた魔術武具。その飛翔する刃が次々と『マンティス』共を切り裂き。
「「*\*/*」」
「・・なっ^*!?こんなっーー」
「*\^/*」
見えない刃によってミュルダも切り裂かれる。
『トラップマンティス・:・ホーントラップ、ドラゴンホーン*』
異形の『マンティス』が崩れていく。それがミュルダの最期に見た情報だった。
桐恵の『竜角鬼』について:ネタバレ説明
『竜角鬼』はドラゴン素材と『妖樹』を合成した、アレンジ『竜牙兵』です。『妖樹』『木人形』のフレームに、ドラゴン素材の神経系・武装を加えた。ある程度の量産と戦闘特化を目指した、異形?の『竜牙兵』が『竜角鬼』です。
雑兵や『トレント』タイプなどいくつかバリエーションが存在しますが。
今回の『竜角鬼』はカマキリと木の特性を活かした。『拝み虫』と言われる、カマキリの狩りを流用したものです。
カマキリの狩りは本来『待ち伏せ』が基本であり。じっと動かず草葉に擬態して、近づいた獲物を襲うというもの。その姿が『拝んでいる』ように見えるため、カマキリを『拝み虫』と言うとか。
今回の『竜角鬼』もそれに似ており。動きだすまで樹木に擬態・隠行し、敵が攻撃範囲に入ったら襲いかかる。そういうタイプの『竜角鬼』です。
なお彫像のフリをしつつ〔飛んでから襲いかかる〕ガーゴイルと異なり。正体を現しながら、即座に攻撃するのが『竜角鬼』です。
さらに『妖樹』?の特性を活かし。森の樹にまぎれ、木製トラップのように素速く起動する。樹上・幹や地面に隠れ。追い立て役の『竜角鬼』から逃げてきた者に襲いかかる。そういう待ち伏せを行う『竜角鬼』が活動していました。
なお敵リーダーのミョルダを襲ったのは死んだふりをした『竜角鬼』であり。大ダメージを受けると、〔樹に戻ったフリをして〕隠行を発動し。勝ったと思った者の死角から襲いかかる『竜角鬼』となります。
以上、『竜角鬼』のネタバレ説明でした。
さらに世の中には『ノルマ』というものがあり。
ほとんどの戦国大名は絶対の権力を握る『皇帝』ではない。下剋上という配下の謀反に怯える『代表』に過ぎないということです。
その結果、『ノルマ』最優先で鉱山採掘となり。鉱山奴隷を使い潰すのはあたりまえ。奴隷の数が減れば“補充”するために村を襲うか、人買いから購入するか。『鉱山』は奴隷狩りの元凶とすら言えるでしょう。
そして立場の弱い戦国大名は、江戸幕府のような国替えなどできない。つまり敵国から『鉱山』を守る必要があるのに加え。有力な配下に鉱山利権を奪われないよう、神経をとがらせなければならない。
さすがに鉱山を襲撃する配下武将はいない・・はずですが。鉱物を輸送する道に『関所』を作って“通行料”をせびったり。何故か山賊が出没して、積み荷を奪うなどということもあるでしょう。
こんな過酷な鉱山経営?で〔妖怪が出た。怖い!〕・・などという訴えを聞いてる暇があるでしょうか?せいぜい〔妖怪の話が広まると、採掘が遅くなる。酒と“遊び女”をあてがってごまかせ!〕という感じならマシだったと妄想します。




