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20.最上級のシャドウ 旋天の地属性

 〔霧の魔術は何の属性か?〕と尋ねられたら、ほぼ全員が『水属性』と答えるでしょう。

 しかし世の中は混沌としており、『単一属性』を否定するかたもいます。例えば虹なら『光』と『水(or水晶)』の両方を操れないと発生すらできない。


 霧も同様で、発生させるなら水属性だけで十分ですが。連携・実戦で使用となると風の操作は必須であり。敵の対抗魔術を考えれば『熱操作』も欲しいところです。

 盗賊ギルドが支配する、都市ウァーテルの正門は無数の旅人を貪ってきた。門番たちが旅人を捕らえ奴隷に堕とす、地獄の入り口であり。

 先ほどまで戦闘が行われていた、その場所は今や処刑場と化していた。


 「「「-----っ!~-;、*^*⁉」」」「なっ⁉ま、待って、ギャァ‼」


  その理由は、“門番ゴロツキ”たちが降伏宣言を反故にしたから。


 〔奴隷(降伏)の宣言〕をしたにもかかわらず。地に伏していた門番・用心棒たちが突然、起き上がって直立し。そのうちの一人が片手剣を振るうと、扇奈の肩口が裂けたのだ。


 それに対し扇奈は動揺した様子もなく。侮蔑の笑みを浮かべながら、東方曲刀を抜き放つ。


 「フン、それが貴様らの意思ということか。本能レベルで騙し討ちを行う。女には従えぬと考え直した。それとも(盗賊)ギルドの恐怖でも思い出したのかしら?


 いづれにしろ降伏は取り消しということでいいわね」


 「ちっ、ちがぁ‼」



 何かを言いかける。否、明らかに降伏の意思を示そうとする、棒立ちになった連中を扇奈は切り捨てていく。連中はサカナのように口を開閉させたり、全身を震わせて何かを伝えようとしている。

 しかし扇奈は一切それに頓着することなく、彼らを斬殺していった。そうして最後に残った男の手前で納刀する。


 「ヒュッ!ヒュー、ヒュー⁉」


 〔〔〔〔〔何故?〕〕〕〕〕


 周囲の見物人がそう考える間もなく、扇奈は片手で男の喉笛をわしづかむ。そうして酒杯も同然に軽々と持ち上げた。ここまで行うのに経過したのは瞬きの数秒にすぎず。軍用の身体強化すら超えた、異能を使っているのは明白だった。

 それは〔猫がネズミを狩る〕生存競争ですらない。ネズミ捕りの『檻』に捕らわれた“肉塊”を、『虎』が踏み潰す。そんな暴虐だった。


 「さ・て・と」


 「ッ!?」


 短いつぶやき。それはこの場で最強の理不尽が発したモノとして、正門の周囲全体によく響き。


 「先ほど面白いことを言っていたわね。〔薬漬けにする〕とか、“奴隷”がどうとか。

  どういうつもりだったのか詳しく教えてもらえるかしら」


 「-;+*-^~!!!!」


 扇奈が振るう『旋天属性』の基礎は『風属性』であり。それで身体強化を行えば、『聴覚』が研ぎ澄まされているのは当然だった。


 「マスターにお仕えするシャドウとして、興味があるのよ。この町の欲望がどういうモノか?シャドウが戦う相手がどの程度か?

 そして恐れ多くもマスターに牙をむく、無礼者がどんな最期を迎えるのか知りたいのよ」



 質問のセリフとは裏腹に、扇奈は答えを既に確定させていた。

 

 欲望:弱者の生き血をすすり満たされる。商都が産み出す、巨万の富をドブに捨てているモノ

 敵手:弱兵であり。ただ壊滅させるだけではなく、悪徳都市の名と一緒に失墜させるべきモノ

 最期:惨めに苦しんで散ってもらう。マスターの慈悲に寄生する連中など見せしめ用のニクカイ


 狭量で、狂気をはらんだ思考であり。それを理解していても、扇奈はその衝動を止める気はなかった。どのみちイリス様が救いの手をさしのべなければ、絶えていた一族、命と尊厳であり。

 それならばイリスの理想に準じ懸けるのもいい。というより懸けたい。邪魔するモノは破滅・殺戮あるのみだ。


 「ンー、-*~、H-~」


 そして狂信のシャドウ姫長は、己の能力を行使した。 

 


 静音詠唱というものがある。人間では聞き取れない音によって、『呪文の詠唱』を行う。可聴領域を超えた音波によって、魔術を発動させる『技法』の一種だ。

 対人戦闘において、敵に気取られず大魔術を展開できるアドバンテージは大きい。


 無詠唱でもそれは可能だが、制限は多い。無詠唱で発動できる魔術は、術者のキャパシティ数割以下と決まっている。そのため〔得意技の下位術式しか使えない〕など制限があり。もしくは自陣で入念に準備していた、『結界効果』の発動キーを唱える。それぐらいしか人間にはできない。


 それどころか、敵地で『無詠唱』を使うのは多大なリスクを伴う。『無詠唱』は確かに速度に関しては秀逸だ。〔巧遅より拙速〕の言葉どおり、速さは強力な武器である。


 しかし速さ以外は省略されて、無防備もいいところ。『急造の建物』に等しく、構成が雑であり。『魔術干渉』への対策は皆無に等しい。


 人間レベルの『カウンター術式』や『敵性結界』によって魔術が乱されれば暴走・自滅しかねない。

 『神の魔導(システム)』によって『無詠唱』の成功が確定・保護されているなら別だが。この世界にそんな都合のよいモノは、絶対・・に存在しないのだ。

 他にも見物人のふりをしつつ詠唱を行う。口では威嚇をしつつ結界を構築するなど連携・心理トリックの幅は広い。


 具体的にはシャドウの少ない魔力容量キャパシティで、山の息吹・高山病の猛威を都市でふるう。本来、風属性のシャドウ兼業術者に『地属性』の凶悪魔術を使わせるなどだ。

 


 『旋天・地竜角』


 その『術式』によって大地の構成が震える。始めはわずかな振動が起こり。それが『術式』の電磁によって回転しはじめると、砂礫は螺旋を描く『魔槍』と化した。

 古代文明では『do/ri/ru』と呼ばれる。回転する『魔槍』の先端は靴・衣服を易々と貫き、男の体に侵入していく。片脚をに串刺しにして、門番ゴロツキの身体に直立を強いた。


 これが先ほど地に伏していた連中を、強制的に立たせた『魔術能力』の正体だ。風の速さと地の重さを掛け合わせた、『針』であり『地虫ワーム』に等しいモノ。

 それによる『串刺し』によって、扇奈は複数の男を立たせ持ち上げる。


 「さあ、死にたくなければ私の質問に答えなさい。答えないなら。

  貴様が餌食にしてきた奴隷の苦しみを少しでも味わって、散れ!」


 将来の禍根を絶ったとも言う。騙し討ちによって棲息しているケダモノ以下の連中が、〔降伏する〕と考えるほど。扇奈は甘くはない。

 良くて他所に移って奴隷狩りを続ける。普通に腹の底でマスターの慈悲を嘲笑って、復讐の機会を狙うだろう。そんなことを許す気など扇奈には毛頭ない。




 そうして『地竜角』は不届きな奴隷狩り・元門番の連中を生きながらエグッていく。『魔槍』で貫き、『螺旋』の振動で身体内部をかき回し。最期に『地竜角』を分解・飛び散らせ。


 『小飛竜』から回復させ、生かされている“肉塊”を粉々に砕いた。 


 

 というわけで風メインの異能者による、『地属性』の魔術はいかがでしょうか。


 ネタバレ説明させてもらうと。『風属性』で操れる音・電磁の力で砂礫・小石を加工して、手裏剣のようなモノにしたのです。石槍、土壁のような術を扇奈は使えません。あくまで『螺旋角状』のコレだけが、使用可能な『地属性』の術式です。

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