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2.門前での戦い

 門番は優秀な人物がならないといけない重要で危険な職業です。通行人をチェックし、不審人物を押しとどめなければならない。

 特権持ちの権力者、その関係者を素通りさせなければならず。加えて偽物を見破るのは必須事項であり、〔できて当然〕を求められる。


 門をくぐり抜けようとする不審者、モンスターに立ち向かう最前線の兵士にして監察官を兼ねる。

 それが門番という兵士です。

 「くそっ、ちょこまかとっ」


 「へえ。いい腕しているね。よかったらボクの妹のイセリナに仕えない?ちゃんと鍛錬すれば、けっこう出世できると思うよ」


 そんな会話が交わされる。否、一方的なつぶやきがウァーテル正門の前で交わされる。


 長柄のハルバートを嵐のように振り回すバルムに対し、涼しい顔でイリスは回避に徹する。

 素人目にはハルバートをふるうバルムが圧倒しているように、見えるだろう。武器を構えず、魔術を使う気配もない、小娘イリスはやがて追い詰められるはずの戦況だった。


 「逃げるなっ!戦えっ!」


 「そうは言ってもボクは今日、使者としてやって来たんだし。まっとうな門番のバルムさんをたたきのめしたら問題だと思うんだけど」


 だがイリスは巧みなフットワークで壁際に追い詰められるのを防ぐ。その動きは速いというより、攻撃する者の動きを見切り誘導している。バルムがわずかに力をためた、その隙をついて立ち位置を交換するというものだった。見る者が見れば〔跳躍を交えた機動よりはるかに難易度が高い〕と感嘆するかもしれない。


 「戦わないなら失せろっ。消えやがれ!」


 「だ~か~ら~。使者のボクにそんなことができるわけないでしょう。


 『そして扇奈は黙って見てて。この人を切り捨てる気なんて、ボクはないから。それより絶対手を出さないでね。これはカオス・ヴァルキリーとしてのボクの仕事だから』」


 結局、イリスにとってバルムは敵ではなかった。単純な戦力はもちろんのこと。何らかの『仕掛け』によって、ハルバートの斬撃は脅威になりえていない。遠巻きに見る野次馬の一部までもがそう考えはじめたとき、それは放たれた。


 「貫けっ『ワームバイト』!!」


 その呪言とともに飛翔する魔の槍がイリスに襲い掛かる。禍々しい光を帯びた投槍はバルムごと彼女を貫く軌道で飛んできており。


 「ワア、危ない」


 それに対しイリスは一切の回避、防御行動をとらなかった。投げ槍の軌道に身をさらし、視線だけを向ける。それに対し、現状を理解してないバルムも千載一遇の好機とばかりに己の獲物を打ち込んでくる。


 「マスター!!」


 悲痛な従者の声が響き渡る。その瞬間、イリスの鎧を漆黒の光が貫いた。




 ただし何の攻撃力もない空しい光が。肝心の槍本体はイリスに接近したところで軌道を曲げて、何もない空を目指す。それは間抜けな猟犬と同じくらい滑稽なものだった。


 「かっこ悪いよ槍使いのフランシス。同僚を巻き込んでのジャベリンが的を外すなんてしまらないな~」


 おどけて告げるイリスの前で二人の男が固まっていた。一人は背後から飛翔した槍にようやく気付いたバルム。そしてもう一人は槍を投じた槍兵である。


 「仲間を犠牲にして勝利をつかむ。戦場ではやむをえないことかもしれないけど。絶対に成功することではないし、失敗したときのリスクも高い。その覚悟がキミにあるのかな?」


 冷ややかに告げるイリスのセリフにようやく時が動きだす。槍使いは再度の投擲をしようと。バルムは眼前の脅威との戦闘を継続しようとした。

 しかしその動きはぎこちなく先ほどまでの精彩はない。後ろから撃たれる。必中の一撃が空振りするというあり得ない状況に動揺がおさまらないのだ。

 そんな二人の眼前でようやくイリスは剣を抜く。


 「ガハッ!」


 「って!何だそれは」


 「見てのとおり短剣だよ。鎧をまとった剣士だからって絶対に長剣をふるわなくてはいけないということはないからね。

  まして魔術の槍におんぶだっこの弱者に長剣をふるう必要性を感じないかな~」


 そう告げつつもイリスは素早くバルムに膝蹴りをたたきこんで無力化する。別に2対1でも余裕だが、バルムのほうは配下にしてもいい。そんな思惑で沈黙させた斧槍使いをそっと地面に寝かせ。

 それを好機と見てとったのか再び槍が放たれた。


 そしてイリスに届くことなく空中で制止する。


 「何故だ。何故オレの槍が当たらない!」


 「簡単だよ。キミの槍は武術じゃない。槍が核となっている妖術だから。理どころか術式すら理解してない。そんな危ないオモチャがまともに動き続けるわけないでしょう」


 真の魔法ならともかく、ヒトの扱える程度の魔術は絶対でも不滅でもない。物理法則に干渉するものは物理法則の影響を免れることは不可能だ。

 魔術が絶対などと勘違いされるのは、幾つかの“まやかし”と“思い込み”によるものにすぎない。


 「剣による斬撃がさばかれいなされる。五感による感知が惑わされれば思考までも混乱する。それらと同様に術式、魔術武器の『照準・軌道』も他者からの干渉を免れるには対抗措置が必要だよ。


 対抗措置がなく、修練によって研ぎ澄まされることもない。そんな凶器はボクのデザイン・アーツから逃れることはできない。この『アルゴスゴールド』からはね!」

 

 〔魔術関連のものは総じて問答無用で技術者が作ったものより強力。神秘ではない魔術(じゅつしき)、技術が優れているのは量産体制だけ〕

 

 そんな法則はつまらないですし魔術も退化させかねません。そういうわけでデザイン・アーツという異能を考えてみました。固有魔術とは似て非なるものです。

 昔のファンタジーで魔術武器でないと傷つかないモンスターが山ほどいたことに納得いかない者が考えた魔術の牙です。説明は次回に行います。

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