199.表裏の合流
鉱山の守り神、山神の眷属として信仰されるべき『大百足』
しかし現代人のイメージとして、『ムカデ』は気味の悪い虫の怪物あつかいであり。『毘沙門天』の使いと言われても、ぴんとこない人のほうが多いでしょう。
その理由の半分は、ライバルの蛇竜・水神信仰に敗れた・・・と愚考しますが。大先生の事典でまで〔大百足は不気味な生物あつかい〕というのはさすがにおかしい。不自然だと思います。
その理由として『大百足』は風評被害で、信仰を失った。『大百足』を本当に崇めていた人々が、どんなに真摯で誠実だとしても。“まきぞえ”で『大百足』は邪悪な怪物あつかいされたと愚考します。
“穢土”の術式というものがある。大地を穢し水に毒素を含ませ、作物を育たなくしたり。あるいは死者の魔力を歪めて、邪法の結界を作るなど。とにかくロクな事にならない、無差別攻撃の邪法だ。
当然、ソレらへの対応は苛烈なものとなり。
霧葉/桐恵たち姉妹シャドウにとって。〔邪術師が頭目の山賊団を殲滅するなど〕軽い挨拶のようなものだ。これから“穢土”の邪法に関わった連中は、キッチリ地獄を見てもらう。
それはそれとして。可愛い義弟のウェアルが、今回の功績で褒賞を賜るとか。義姉二人として是非ともお祝いしたいところであり。
半ば強引に許可を得たであろう、桐恵の知らせを受け。霧葉たち姉妹は、都市ウァーテルへと疾走していた。
その途中で霧葉はあるものに気付く。
「・・・桐恵、先に行っていて」
「姉上?」
「陸戦師団の重騎士ツァイス殿たちがいる。少しご挨拶をしてくるわぁ」
霧葉の言葉に対し、妹の桐恵は露骨に眉をしかめる。
シャドウの一員である桐恵にとって、C.V.イセリナ様の配下である重騎士たちを政敵と考えているのだろう。そんな重騎士たちに上級シャドウに近い、霧葉が頭を下げに行く。
シャドウ一族を中心に考える桐恵からすれば、いい顔をするはずないのだろうが。
「一族が発展するため、家族を守るためには必要なことよぉ」
「何故です!私たちが本気を出せば・・・」
「少しばかり強い大蜘蛛とカマキリが闊歩するだけ。賊やモンスター狩りなら、それで事足りるけど。
まともな外交・金策や治世を行う時には役立たずよぉ」
役立たずならマシで、足手まといだと霧葉は考えている。自分たち二人だけで生きるなら、それでもかまわない。だが義弟と家族になった現状で、重騎士やその主イセリナ様と険悪になるなど論外だ。
そうして霧葉は疾走を、ゆっくりとした移動に変え。
「防御円陣!『アルゴスプリズム』を賜った、後衛は内側に入れ!!」
「・・---^~ッ!」
「馬車(と中身)はあきらめろ!どうせ守り切れんっ・・」
「了解です、ツァイス隊長!」
都市ウァーテルへと向かう街道。拠点に帰還しようとする重騎士隊に、謎の騎馬隊が襲いかかっていた。
名乗らず紋章もつけていないが、騎馬隊は訓練された動きをとり武装もそろえられている。おそらく“盗賊ギルド”配下の私兵だと推測できるが、連中の正体を分析している場合ではない。
禁術では無いとは言え。『ハンドレッドデイ』『アルゴスプリズム』はどちらも只人にはすぎた御力であり。街道から“呪詛粒”を除去した作業によって、重騎士たちの疲労は深い。
そこに騎馬隊が強襲してきたのだ。初撃をしのいだだけでも、重騎士隊は精鋭と言っていいだろう。
もっとも魔力を絞り出しての、『身体強化』がいつまでも続くはずがなく。
彼らの命は、風前の灯火と言えた。
「横行際が悪いぞ、重騎士!魔女の下僕と化した、己を後悔しながら/^*!?」
『・・アラクネゾーン!!』
詠唱を短縮。その分の魔力を消費しつつ、霧葉の『術式』が発動する。
街道の地面に、無数の『魔術糸』が張られ。まずは騎馬の足を絡め取る。
「おおっ、貴女は!」
「ひるむなっ、たいした拘束では無い!」「ハッ!!」「馬を跳ねさせれば、脱出はたやすい!」
喜色を浮かべるツァイス隊長の眼前で、騎馬隊が『魔術糸』からの脱出を試みる。
それは次々と成功し。連中が怒りの視線を向けてきたところで、霧葉の『連鎖術式』が発動した。
『アラクネゾーン!ゾーンソーイング・・ソーイングアラクネ!!』
「むうっ!?」
「総員、攻撃準備!号令後に逆襲を仕掛けるぞ!」
再び魔力が編み込まれ、霧葉の『術式』が発動する。それに対し、騎馬隊は迷い『術式』の効果を探ろうと試み。
重騎士たちは防御陣を解いて、攻撃準備に入る。失敗すれば部隊が壊滅する攻撃態勢。その動作にチャンスと考えた騎馬隊の一部が動き。
「もらった!」
「かかれぇーーー!」
「「「「「「「「「オオッ!」」」」」」」」」
重騎士たちが攻撃を開始する。疲労と魔力切れ寸前の現状では、どうせ騎馬隊から逃げ切れるはずもない。追い詰められた重騎士たちの、必死が爆発し。
それをいなそうと距離を取ろうとした、騎馬隊の数人が落馬した。
「なっ!?」「バカなっこn/^*!」「ギッ、ガかッ;+*」
『『『ギガントブーツ』』』
「「「「「ッ!」」」」」
悲鳴すらあげる間もなく、落馬した連中が重騎士の長靴に踏み砕かれる。地面が揺れるような衝撃が走り。それにひるんだ者が馬を操ろうとして、地面に受け身も取れずに落下する。自らの軍馬に踏みつぶされるという、醜態があちこちで起こり。
「貴様の仕業か、クモ女!何をした・・どんな妖術を・:*」
「無礼者っ『ランドランダー!!』」
「隊長っ!?そんなっ、ウワァーーッ!」
ツァイス隊長の『甲腕』によって指揮官が討ち取られる。それによってさらに動揺が広がり。『術式』に絡め取られた騎馬隊が、次々と重騎士たちに討ち取られていく。
その劣勢をくつがえす力のある者はおらず。
「導師殿!一人捕えることはできますか?」
「承知したわぁ。『ドラゴンクロウ!クロウアラクネ・・アラクネスリング!!』」
「ヒィっ!?やめろっ、ヤメッ!」
背中を見せた騎乗兵?の後頭部を、『竜爪獣』の異形武具がわしづかみにして、引きずり下ろす。それにより重騎士隊の危機は完全に終了した。
霧葉の『竜爪獣』について:ネタバレ説明
二足歩行に加え、戦闘・農作業の二つをこなす神代魔女の『竜牙兵』。それをコストダウンして『蜘蛛型』クリーチャーを造ったのが、霧葉の『竜爪獣』です。
かつては殺した『竜』の素材(爪・骨や肉)を全て使い。一からクリチャー・異形武具や妖糸を造る魔術でした。
とはいえそれを伝授した義弟が竜爪獣を使いこなす事ができず。霧葉自身も魔力不足から、術式の再構築を決めました。
その結果、『魔術糸』は拠点で製造した物を、主に持ち歩き。
『竜爪獣』は使い魔の『ビースト』/異形の流星錘?武装の『スリング』/魔術の『ブラッド』。
これら三つに大別し、そこから状況に応じて魔術改造していく。そういう術式の流れになりました。
最大の利点として、魔力消費を抑え。使い魔『ビーストアラクネ』を同行させ。武装『アラクネスリング』を携帯すれば。そこからつながる派生術式を素速く・低コストで発動できます。
なお今回、使用して説明のなかった『アラクネゾーン』は、蓄えていた『スリング』『魔術糸』のほとんど消費して結界を構築する。
『ソーイングアラクネ』は『見える糸』で敵の注意をそらし。その間、『見えにくい糸』『地中に潜らせた』糸で、敵集団に『連環の計』を仕掛ける『術式』です。
つまり『魔術糸』は全て霧葉が操っていたわけではなく。敵集団にからめて『二人三脚』『集団連環脚』をさせていました。しかも他者の馬と人をつなぐだけではなく。
A馬の胴とB馬の足を『魔術糸』で結び。その『魔術糸』を柱に見立て、さらに別の魔術糸をからめて人をつなぐという。馬・ヒトと地面(の竜爪獣)を巻き込み、霧葉は大きな『アヤトリ』をしていた。
そういうイメージをしていただければよいと思います。
手の内を隠しておきたい『手札』のため。この場を借りて、ネタバレ説明をさせていただきました。
すみません。筆力がなくて、劇中でスムーズに説明できません。そのため説明会を設けました。
明治時代になり、それまでと比べいくつか改善したことがあります。
そのうちの一つは『鉱山の町』『炭鉱の町』ができたこと。“鉱毒”などの公害もあったとはいえ。『鉱山』によって富が廻り、人々に雇用をもたらした。これが明治時代の重要な改善点の一つだと思うのです。
何故なら『江戸時代』以前に、『鉱山の町』を聞いたことがないから。鉱山の近くに村ぐらいはあったでしょう。ですがそれは単に近くに存在しただけ。
“鉱山の利益を権力者が独占し。利権争いばかりで、民に還元しなかった”
“捕虜・罪人を鉱山奴隷にしたあげく。罪人には濡れ衣を着せられた者もいて、怨念が渦巻いていた”
戦国の世を生き延びるため、必要なことだったのかもしれませんが。鉱山の被害者たちが怨嗟の声をあげるのは当然であり。
『鉱山』の被害者たちが、『大百足』の信仰を嫌悪した。『大百足』を信仰する山の民たちに、〔迷惑極まりない、鉱山の開発などやめてしまえ〕と念じた。そんな妄想をしています。
なお鉱山から利益を吸い上げていたのはあくまで権力者。戦国大名や江戸幕府の重鎮たちであり。
鉱山開発を命じられた山の民は、わずかな報酬でこき使われた。鉱山奴隷よりはマシというあつかいであり。むしろ鉱山の利権争いにまきこまれ、迷惑を被ったと愚考します。




