198.表裏の怪力
日本妖怪の虫、神の使いである虫をあげるとしたら何でしょう。私は『百足』だと思います。
武田信玄の伝令兵が『ムカデ衆』と呼ばれていたとか。検索すると『毘沙門天』の使いにも『ムカデ』がいるとのこと。他にも山の神・鉱山の守り神として『ムカデ』が信仰されているそうです。
もっとも私にとって『ムカデ』のイメージは『ゲゲゲの○太郎』に出てこない。妖怪事典で『不気味な虫』あつかいされている・・・というイメージです。
他にも〔水神の大蛇と戦った〕〔俵の藤太に弓矢で退治された〕というお話しか知らず。
〔ムカデを祀っている神社〕に大変失礼なことを連想しています。
街道を封鎖して、地面を削る。重騎士の部隊で街道に爪痕を刻むという。
旅商人たちがドン引きする作業を行った後で、彼らは少しばかりの休憩を取り。
重騎士たちは再び横陣を組んで、魔力を高める。その魔力は『身体強化』を発動させるためのものではなく。
讃え、祈り、受け止めるための『杯』イメージした。
『魔導能力』を構成する一点から一角に昇華する。一角は一画に、一画は一面・積層へと変じる。『魔導の経路』を構築するための『柱』と成るべく。
重騎士たちは限界を超えて魔力を高め。
『魔力は金に 黄金は魔導の力へ廻り
蔵を満たすは財貨と罪科 されど宝物庫に死蔵はなく ただ欲望の円環が一時休む
そして百の夜に硬貨は潜み 穢れを灼く薪/渇きを潤す柄杓を求める
開放の日よ昇れ ハンドレッドデイーーー』
「「「「「「「「「「ウォオオーーーーー!!!」」」」」」」」」」
〔日照が強まった〕そう感じるのと同時に、イセリナ団長閣下から光属性の『魔力』が照射される。それらは重騎士たちの鎧に蓄えられ。燦然と輝く装甲をまとった軍団を街道に出現させた。
「これより任務は第二段階に入る。命令書を開封せよ!」
「『書筒』を開けます。『光術鍵』および『ランドランダー』!!」
重騎士部隊を束ねるツァイスの号令に従い、副官ボイドが命令書の封印を解いていく。『術式』の鍵に加え、フタを開けるのに怪力を必要とする書筒が開けられ。
「おのれ賊共・・・だが貴様らの策にひるむ団長閣下ではない!
半数はカイトシールドを用意せよ。
残りの半数は術式の準備だ。聖賢女帝様が『アルゴスプリズム』の加護をくださる!」
「「「「「「「「「「っ!ハハァーー『ランドランダー』」」」」」」」」」」
重騎士隊の中でもさらにパワーが優れた者たちが、武具を積んだ馬車へと走る。
その間、残った者たちは精神を研ぎ澄まし。
「・・来臨されます!」
『狩人は獲物の影を 職人は素材の輝きを そして挑戦者は知識巨人の明暗を視る
されど先人の知は林のように 秘密は峰のごとく連なり
両目を黎明と落陽に誘う アルゴスプリズム!!』
『認識変動』の魔術能力が、後衛の重騎士たちにかけられる。
狩人・戦士たちが標的に関連するものを視る際、限定で各種視力が高まり。職人は己の作品に必要な素材を視るとき、高レベルな鑑定・精査を行い続ける。
『アルゴスプリズム』はそういう認識能力を高める、聖賢女帝様の『魔術能力』であり。任務に必要なモノを、条件付きで感知できるようにする。
ただし『感覚強化』では無く、あくまで『認識変動』であり。『動体視力』など現状の任務で使わない『感知能力』が低下したり。茶葉・宝飾など、現行の任務に必要としないモノへの『認識・分析』する力は下がってしまう。
〔実戦には使えない。個人の技能を鍛えるわけでは無く。あくまで急場をしのぐため、“なんちゃって鑑定能力”を工兵に付与する。そんな“神秘ではない魔術”だから〕
そんな謙遜を信じる重騎士・シャドウは一人としておらず。今回の任務でも勝利に必要なものを捕捉すると。この場にいる重騎士たちは誰もが確信していた。
「防陣、一連!カイトシールドに『付与』をかけろ!」
『『『『『『『『『『鎧光・シールド!』』』』』』』』』』
巨漢な重騎士たちの肩までを覆う長大な盾。それらに防御力・重量を同時に増強する『アーマーライト』の術式をかけられ。横一列に並んだ重騎士たちは、それを地面に突き立てる。
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「斜角40!!」
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カイトシールドだったモノが地面をえぐる。そしてできたのは防陣と言うには薄い一列が、さらに隙間だらけの横陣となり。
「これより我が隊は、街道に埋められた“邪法”の触媒を除去する!」
「「「「「「「「「「オウッ!!」」」」」」」」」」
「『アーマーシールド! シールドショベル・:ショベルライン!!』総員前進!!」
ツァイスの号令に従い。重騎士たちの構えたカイトシールドが、街道の地面を削っていく。
先日、メイスの角側で爪痕を刻まれ。もろくなった街道の地面がその力に抗えるはずも無く。
大量の土砂が削られ、横陣の隙間へと誘導されていく。
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「始めます『アルゴスプリズム!対象・呪詛粒』」
『対象・呪詛粒』
そうして削られた土砂の中から、汚染された砂利を『認識』して取り分け。それを封印用の袋につめていく。
力技というか泥だらけの作業だが、不満をもらす者はいない。
イセリナ団長から『ハンドレッドデイ』をかけられただけでも光栄なのに。
ようやく聖賢女帝様から『アルゴスプリズム』を付与されたのだ。
この機会に重騎士の力を示し。ライバルの男性シャドウに追いつき、追い越す。
〔そしていずれは美しいシャドウ姫と・・・霧葉殿、貴女に教えてもらった『三段詠唱』で重騎士隊は益々、強力になる!〕
「その調子だ!総員、呼吸を合わせて進めっ!」
「「「「「「「「「「オオッ!!」」」」」」」」」」
こうして街道は“陰謀・邪法”が起きるはるか以前に、整地され浄化されていった。
一方その頃・・・
「やめろっ、ヤメて、止めテ、ヤメロォ*」「ヒィッ!?」「イヤだァアアーー;+*」
山奥の洞窟で、無慈悲な処刑が行われていた。
処刑人は女シャドウの霧葉であり。罪人は“盗賊ギルド”の山賊・及び邪術士とその護衛たちだ。
『ドラゴンクロウ!クロウアラクネ・・アラクネスリング!!』
投石器の名が付けられた『アラクネスリング』。その形態はヒモの先に錘をつけた、武具の『流星錘』に近い。
もっともヒモの代わりに『魔術糸』を束ねた縄はともかく。錘の代わりに、圧縮・小型化した竜爪獣を取り付けている。ソレはヒトを害するための異形凶器であり。
「ひるむんじゃねぇ!相手はたかだか女一人だ。押し包んで・:^---」
「おいっ、オイッ・:^」
『流星錘』と同様に、こぶし大のアラクネが山賊たちに放たれ。その爪脚八本が肉をえぐり、閉じられかぎ爪となって骨までつかむ。
「二人を捕獲。これより処刑を執行する。
『ドラゴンクロウ!クロウビースト・・ビーストアラクネ!!』」
「「ッ!?ーーー;+・*」」
『流星錘』とは異なる。鍵縄・投げ縄の技で『アラクネスリング』が引き戻され。爪脚に捕まれた山賊二人の重心が崩れる。そうして奴等が痛みの叫びをあげる前に、『人間サイズのアラクネ』を生成し。
霧葉は『アラクネスリング』を造ったばかりのクリーチャーにつなげる。『魔術糸』を『ビーストアラクネ』に牽引させ、山賊二人を洞窟の通路に引き寄せた。
「痛い、イタい、イダ*!?」「なっ、まさかっ・・そん*」
山賊たちがトラップを仕掛けた。侵入者を迎撃し惨殺するため、入念に掘った落とし穴がある。
その通路へと、霧葉は山賊二人を引きずり込み。
「「ーーーーー^;+・:*」」
山賊二人は落とし穴に飲み込まれ、断末魔の叫びが響く。落とし穴の底に、杭・槍の類を設置していたのだろう。『アラクネスリング』を通して、死の痙攣が霧葉の手元に伝わり。
「今だっ、死ぃねー^~-!!」
巨漢の山賊が突進してくる。アラクネスリングを操る『魔術糸』は、未だに落とし穴へと続いており。今の霧葉は丸腰で、『竜爪獣』が手元にないように見える。
おおかたその隙を突こうと考えたのだろうが・・・
「・:*・・へっ!?」
巨漢の腹部に蛮刀のような『モノ』が刺さる。
「なっ・・かっ・:そん・:^*」
臓物があふれる死の確信に、巨漢の表情が歪み。その頭に霧葉が隠し持った『アロー』が刺さる。
それと同時に『竜爪獣』とは似て異なる、『術式』が発動した。
『ドラゴンホーン!ホーンツリー・:・ツリーマンティス!!』
「「「「「ギャァーーーーー!!」」」」」
土で覆われた、洞窟のあらゆる所から『蛮刀モドキ』が生える。それらは山賊たちに重傷を与えながら、その正体を現した。
『『『*\^/*』』』
『竜角鬼』というクリーチャーがいる。『竜爪獣』とは異なるコンセプトで造られた、亜種の『竜牙兵』であり。蟷螂と人型を合成した外見を持つ。
なお『蛮刀』に見えたのは、『竜角鬼』の両腕であり。カマキリの両腕をまっすぐに伸ばした状態だ。そのためカマキリの前肢と同様に、刃にはノコギリ刃があり。
鎌型に『蛮刀モドキ』は形を戻す。獲物の山賊を貫いたまま。
「「「「「ーーーーー^ッ!?;+*」」」」」
そんな『竜角鬼』たちの行動など知らぬげに。細身の女シャドウが静かに現れる。
「姉上、こちらにおられましたか」
「桐恵・・任務中に何の用かしらぁ」
「伝令と伝言をそれぞれ一つお持ちしました。
〔“穢土”への報復を兼ねた、密偵・山賊狩りは中止せよ〕との御命令です」
「そう。ソレじゃあ〔山賊が自ら仕掛けた『罠』で自滅した〕という無様な舞台作成も中止するのかしらぁ」
「はい。近いうちに、代わりの作せ/・」
「ゴホン、ゲフン!!それで伝言のほうは何かしらぁ?」
戦闘力特化のシャドウである桐恵の失言を、霧葉は止める。このアジトにいる山賊は殲滅し、口が無くなるとはいえ。血文字や『ネクロマンサー』等で情報がもれる万が一があってはならない。
そんな霧葉の意向を察し、桐恵は伝言を述べる。
「そろそろ(ウェアルの)褒賞が決まるとのこと。家族としてぜひ参加するようにとの伝言です」
「あのね・・・それは任務を中止してまで、参加するような事かしらぁ」
「良いではありませんか。私たちの任務内容は、大っぴらに褒め称えるわけにはいきません。
その分、(義弟の)褒賞には色を付けてもらいませんと」
「もう・・・しょうがないわねぇ。それじゃあ苦しませずに、とっとと済ませましょう」
「お手伝いします」
「「「っ!?」」」
温かい伝言のやり取りとは裏腹に、容赦のない山賊殲滅が行われる。
そうして死体の処理も徹底して行われ。洞窟は雨宿りにしか使えない窪みと化した。
現代人が『ムカデ』にマイナスのイメージを抱いている理由。その原因は宗派の争いで『水神の蛇龍』に、『ムカデ信仰』が敗れたからだと愚考します。
『火と水の魔術』『竜虎』と同様に、『蛇』と『ムカデ』がライバル関係になっていれば。『ムカデ』のあつかいも、もう少しマシになっていたはずですが。
現状、『ムカデは毘沙門天の使い』などという話は検索して〔昨日知った〕という有様。
〔大蛇と大ムカデが争った〕話もマイナーでしょう。私が読んだのは〔大蛇に加勢を求められた、人間たちがムカデを攻撃し。大蛇のお礼で、その人々は平和な島で暮らしました〕という内容でしたが。
漫画版のアレンジ昔話かなあ・・・と今では考えています。理由は同様の話を全く聞かないから。
とはいえ〔ムカデを信仰する方たち〕には申し訳ありませんが。『水神の蛇』が『山神のムカデ』に勝利したのは当然だと愚考します。
その理由は“鉱毒”“火山からの噴出物”が水源・河川を汚染したら大惨事になるから。鉱山は多大な利益を人々にもたらすとはいえ。水源を汚染したら完全にマイナスです。
加えて奴隷同然に罪人・捕虜を鉱山で強制労働させたら。鉱山もその守り神も人気が下がる。人気以前に“怨み”の対象になり、完全に“邪悪”あつかいでしょう。
これで『水神の蛇』に勝てるはずがありません。『ムカデ信仰』は鉱山の乱開発・鉱夫の虐待が原因で衰退したと愚考します。




