195.伝令の内容
ライオンの胸部より前面・蟻の腹部が合わさった奇獣『ミルメコレオ』
その伝承生は不遇の生態であり。蟻とライオンは食べ物が違うため、『アントライオン』は飢え死にしてしまい。『蟻』は地中から生まれるため、『ライオン部位』は息が出来ず窒息するとか。
端的に言って〔ファンタジーに半端なリアル生態を持ち込むな!〕〔ライオンと蟻の交配は有りなのに、食べ物をリアルっぽくするのは二重基準だ!〕と叫びたいです。
この理屈だと『海馬』『鷲獅子』など、たくさんのモンスターが生存困難になってしまい。だからこそ『アントライオン』はマイナー化した。
極論、全ての『幻想モンスター』にとって、『ミルメコレオ』は敵かもしれません。
C.V.エレイラ様に命じられ、都市ウァーテルへ伝令に向かったウェアル。その途中で長弓・ボウガンを混合編成した、弓兵部隊に襲われたものの。
『摩擦』を操作するバフ/デバフ術式と『旋風閃』を併用し。敵兵を転倒させつつ、蛇体・トカゲの動き行う『旋風閃爪』によって事なきを得る。
そうして弓兵部隊を全滅させたウェアルだったが、完全勝利にはほど遠く。優先順位を定め、決断する必要があった。
1)弓兵の遺体をあさり、彼らの情報を得る。
2)肉食獣が人肉の味を覚えるのを防ぐ。モンスターが屍肉を貪らないよう、遺体を埋める。
3)伝令を優先して、この場を迅速に離れる。
「さてどうするか・・・」
下級シャドウにならば、命じられた『伝令』を優先すべきだろうが。
〔マイペースでかまわない〕・・と言われた、半ば囮役の伝令である。急ぐ必要性の低い『巻物』を運んで、不都合が発生したら問題だろう。
「さすがに全てをこなすのは無理だろう。だったら優先すべきは二つだな」
「・・・・・」
独り言をつぶやくウェアルを、静かに馬が見ている。その言葉を交わせない相方のことを考えつつ、ウェアルは決断を下した。
ウェアルがまず行ったのは、遺体の処理だった。おそらく指揮官・狙撃手だったであろう二名の懐だけを軽く調べ。
それから森の中で数十人の遺体を埋める場所を探す。
「うん、無理だな」
勝手知ったる訓練場の森で、十数人を埋めるならともかく。知らない場所で数十人を埋められる地面を、単独で確保するのは不可能だ。地属性の魔術で『掘削』を行えるならともかく、ウェアルはそんな術式を使えない。
「とにかく十数人は埋めてしまうか。『旋風閃爪』」
『摩擦』をコントロールする術式と『身体強化』を併用する際。自らがスリップ・滑落して自爆したら、大恥というものだ。よってブレーキ・制動を行う手段を複数、用意するのは必須であり。
その中には廃案になった『竜牙兵の爪牙』を、地面・物体に突き立て動きを止める。『竜爪』を予備の武器として使うというのがある。
「・・・・・ッ」
ウェアルはその爪を使って地面を掘る。何も考えないよう、車輪・水車と化した気分で地面に穴を掘り。〔もっと調べたほうがよかった〕かもしれない指揮官・狙撃手を穴に放り込んでいく。これが『迷宮』や戦場なら、亡きがらの処分など考えなくてもいいのだが。
〔たくさん亡骸を貪りました。ついでに街道の新鮮なオニクもつまみ食いしよう〕
万が一にもこんなことを考える怪物がいたら、自分だけの“恥”ですまない。小心者としては少しでもそのリスクを減らしたいところだ。
それに次の“処理”に比べれば、埋めるなどたいした労力ではない。
「やっと終わった・・・」
そうつぶやいてウェアルは墓場と化した林を後にした。『旋風閃爪』を使えば、作業時間のほうは短くてすむものの。作業内容は速やかに忘れてしまいたい。
斑点猛獣は樹上に獲物を運び。他の猛獣に獲物を横取りされないようにするとか。
ウェアルが行ったのは、その模倣であり。埋めきれなかった遺体を木の上に運び、枝に縛り付けた。縛り付けたロープは遺体の服をはぎ取り、ヒモ状にしたものを使う。
予想以上に陰鬱な作業に、〔伝令を優先すればよかった〕という考えがよぎり。
〔鳥・サルのモンスターは襲来するな。木登りができない魔物が、無駄足を踏んでくれ〕
そんな風に『幸運の女神』に祈った。
「ブルルッ・・・」
「まてよ・・・」
『強力な蟷螂』と『知謀に長けた蜘蛛』が脳裏にうかぶ。馬の息がふきかけられ。『虫』やら『スライム』が木に登り、地面を掘り返すリスクに思い至り。
「『風術』の結界で臭いが広がらないようにしておくか」
どうやら魔力は空っぽになりそうだ。寝ながら馬に乗るか、隠れて野宿するか。
あるいは最終手段の“秘薬”を消費して回復を行うべきか。〔できの良い姉たちに頼る〕ことに等しい“秘薬”は、男として使いたくないのだが。
「アレは絶対、調べる必要があるし。どうしようもないな」
そつぶやいてウェアルは結界を作る準備を始めた。
都市ウァーテル。かつて“悪徳の都”と呼ばれていた要衝は、周辺諸国の経済をまわす商業大都市となり。同時に忍び込んだ盗賊・密偵たちが永久に帰ることのない『魔都』と化していた。
その政庁の奥でウァーテルを支配する、C.V.姉妹イリスとイセリナが密談をかわす。
「『錬金光術』にこんなリスクがあったなんてね」
「今になってこのようなデメリットが判明するとは・・・」
その眼前にはC.V.配下から送られた報告書があり。そこにはこんなことが記されていた。
〔水の汚れに比重操作をかける。その術理は『発光』をかけて『汚れを認識・分析』することであり。
その術理を流用して鉱山開発が乱発される。『鉱物を認識・分析』する術式が開発され。
大勢の奴隷・弱者が“環境破壊”で使い潰される可能性があります〕
「偉大なる初代王・魔導師たちは農地開拓を行っても、鉱山開発は行っていない様子。
私たちは〔虎の尾を踏んでしまった〕のかもしれません」
「そうかな?一応、鉱物資源を得ている英雄様も小数ながらいたはずだけど」
「いいえ姉上。〔単独で鉱物を掘削した〕〔英雄の力が無ければ鉱物をえられない鉱床を持つ〕〔もとからある鉱山の問題を解決した・領有を争った〕英傑は少なからずいます。
しかし〔鉱山開発を一から行い、そこで配下を働かせた〕という英傑は皆無に近く。
いるとしても『岩妖精』のように、地中活動が苦にならない『種族』に行わせているようです。『水』を得るのにも苦労している、『人』に鉱山開発を行わせるのは・・・」
文字通りの“生き地獄”を作るに等しい。それが鉱山開発に伴う、汚染で環境が破壊されるか。権力者による鉱夫奴隷の酷使につながるか。あるいは鉱山に潜む巨大モンスターを解き放つことにつながるのか。
『鉱山開発』を行っていないイリスは予測できず。イセリナの閲覧できる資料では、〔“賊”がまともに鉱山開発を行った〕という記載は存在しない。
そもそも辺境の開拓地ならともかく。現状、“盗賊ギルド”が劣勢のウァーテル周辺において、奴等にモラルを期待するだけ無駄なことで。
〔ヒトを活かす〕〔将来的な利益を見すえる〕余裕など平時ですら無い連中だ。劣勢を少しでも挽回しようと、“強行な鉱山開発”を行うのは間違いない。
「困ったね。いっそのこと『ハンドレッドデイ/グローリーゲーム』のどちらかでやっちゃおうか」
「やめてください、イリス姉上。せっかく『商都』ウァーテルが軌道に乗り始めたのです。
ここで“魔力ゴリ押し/愚弄遊戯”を発動したら、まともな商人たちが逃げ出しかねません」
「そっか~。それじゃあボクたちの『魔導能力』を使うわけにはいかないね~」
「・・・・・」
わかりきったこと。何度も話した内容を姉妹は繰り返す。
たとえ善良だとしても、『魔王』の力は一般人にとって恐ろしいものだ。よって下手な『魔王』より強力なC.V.が本気を出せば、ウァーテルはヒトの近づかぬ“魔王城”と化してしまう。
それを防ぐためにイリスは“手抜き”した戦力で悪徳の都を滅ぼし。
イセリナは交通の要衝としての立地を最大限に活かし。陸海の運送・商品相場をコントロールして莫大な利益を得た。加えてその利益を周辺諸国に還元・投資していき。
〔悪徳の都にいた盗賊ギルドは、富を食い潰すイナゴor寄生虫だ〕
〔取引きの『契約』を破った者は破滅あるのみ〕
〔商都ウァーテルが滅びたら。流通網が破壊されて、再び貧しくなる〕
そういう風潮を作り、商都ウァーテルの存在を周辺諸国に認めさせつつある。
その流れを断ち切りかねない『異能・大魔導』の乱用は控えるべきであり。
「とりあえず『光子浄化』による水浄化を会得しなければ。『鉱物の認識・分析』はできないよう、『アルケミックライト』に術式を仕込んではいかがでしょう」
「それは人間を侮りすぎというものだよイセリナ。彼らの執念はボクが仕掛けた術式なんて、必ず解錠してしまう」
「それならわかりやすく。許可無く『アルケミックライト』を使った者は制裁するというのは?」
「駄目に決まっているでしょう。“賊”が喜んで違法に『アルケミックライト』を使うだけだよ。
もしくは冤罪・魔女狩りのネタにされるか。どっかの権力者が『錬金術』を独占しようとする可能性もあるかな」
『『・・・^`、・・!・:・--!?・・・』』
口で意見交換を行いつつ、C.V.姉妹は『積層魔術陣』を構築して『予測演算』を行っていく。
人間の無詠唱より遙かに速い魔力の流れが圧縮され粒子となり。
粒子から線・線から図形・図形から立体の『魔宝珠』が構築されていく。
『天候と相場の予測はこんなところかな。そろそろ野望にあふれた貴族とC.V.が襲来しそうだけど』
『いけません、姉上。同胞C.V.たちの行動予測を行うのは禁じられています』
『同胞ねぇ・・・。不毛な派閥争いをする気は無いけど。ボクたちが支援した本命の伴侶に色目を使うのはやめてほしいかな』
『口』では『強行な鉱山開発』について話つつ、『光術信号』では別なことを二人は話す。その理由はイリス、イセリナのどちらも『並列思考』が可能なためだが。
同時に『アルケミックライト』の流用が二人にとって脅威ではないためだ。魔力量・魔術の技量など、あらゆる面でC.V.姉妹は人間に勝り。加えて『魔導能力』は許可無くコピーを行った者を『蹂躙』することに秀でている。
もし“盗賊ギルド”が『アルケミックライト』を盗用などすれば。連中はその時点で確実に詰んでしまう。ちなみに〔奴隷・配下がやったことだ。オレは知らん〕などという“政治屋”の戯言は一切通じない。
それを可能とするのがイリスの『多眼巨人』であり。イセリナの『準備された術式』だ。
そんな風に傲慢な会議を行う書斎の扉がノックされる。
「扇奈かな。入っていいよ」
「失礼いたします、マスター」
気配・魔力を感知できる者にとって、自陣の壁はマジックミラーも同然に透けて見える。礼節は必要だが、それなりに重要な用事であることを察し。イリスは速やかにシャドウの姫長を迎え入れた。
「伝令を務めたシャドウが気になる報告をしてきました。こちらがその資料になります」
「ん~ウェアル君か。穏やかで『リザード』の術式を使う子だったね」
記憶を引き出しつつ、イリスは報告書を瞬きの速さで読み取る。熟練の『瞳』を持つイリスは『速読術』も桁違いであり。
「・・・いかがなされました?」
「これはシャドウ一族だけの問題じゃすまないかな。
とりあえずウェアル君はモラッドの担当から外す。霧葉と桐恵を呼び戻して、いつでも動けるようにしておいて」
「あの二人をですか?護衛向きのシャドウではございませんが」
「もちろん彼女たちには、得意な『刺客』をやってもらう。
ウェアル君の護衛はアヤメに担当してもらおうか。建前上の理由は『旋風閃爪』を鍛えるためにするとして・・・期間はこの件が片付くまでにしよう」
「・・・ッ!よろしいのですか、姉上。一朝一夕に片付く案件ではないようですが」
「大丈夫。時間はかけずに『ハンドレッドデイ』で引導を渡す。
必要ならば『アルケミックライト』で鉱山開発をさせ(犠牲が出)るのも仕方ないかな」
イリスの言葉に、イセリナと扇奈の表情に緊張が走る。だが即座に平静を取り戻し。
「「承知いたしました姉上/マスター」」
そうしてそれぞれの役目を果たすべく退出した。
〔『鷲』の骨格では軽くて、『獅子』のパワーが出せず。『獅子』の身体では重いし、航空力学的に『グリフォン』は飛べない。よって・・・・・・・〕
〔草食の『馬』に対し、『魚』は肉や海藻を食べる。そのため『海馬』は食事が摂れず・・・・・〕
こんなことを言っていたら、風情も何もない。ファンタジーファンから袋叩きにあいかねません。そう考えれば、『ミルメコレオ』の再現はメカ系で行うべき。あるいは『原典』がメチャクチャ過ぎるので、〔こんな風にならないように〕という一例にすべきだと愚考します。




