194.トカゲの旋風閃
忘れるくらい幼いころ、『巨大アリの群れ』が街を破壊する映画のCMを見た記憶があります。その後、続編や『虫』のパニック映画がレンタルされていないところを見ると。どうやら不評だったようです。
『ライオン』と『アリ』が合体した魔獣?『ミルメコレオ』/『アントライオン』も、同様に不評な幻獣?だったのでしょうか。
『ドラゴン』『グリフォン』に『ユニコーン』など。架空の生き物でも、人気があれば紋章になり。様々な物語に登場しています。設定が突飛というならば。『ミルメコレオ』より『コカトリス』・『バジリスク』のほうがひどいと愚考します。
それなのに『アントライオン』が冷や飯食いなのは。やはり『蟻』の部位がまずいのでしょうか。
C.V.エレイラ様から、下級シャドウのウェアルは伝令を命じられる。
だがそれは〔自分のペースで移動してかまわない〕というもの。“盗賊ギルド”の注目を集める、囮役にすぎず。ウェアルは『馬』を用意し。『竜鱗欠片の術式』で『二足騎竜』を創りあげ。
一頭一体と一人で都市ウァーテルに向かう。
そうして待ち伏せの危険が高い地形に近づき。ウェアルは二つの『術式』を併せて小細工を弄する。
「まずは『つむじ風』。それに『トカゲの術式』で加工した『袋』を被せて・・・」
『馬』に騎乗した『人馬』ごと、収納できそうなサイズの『大袋』を広げ。その中に術式の『つむじ風』を収める。そうして待ち伏せがありそう地形に、その『大袋』を先行させた。
「まあこんなモノに引っかかる奴などいないだろうが。偵察はともかく、罠の一つでもあぶり出せば御の字だろう」
『水風船』ならぬ『つむじ風船?』が進んでいく。マヌケな『案山子?』が移動していき。そうして〔匂いの一つも付けるべきか〕と考えたところで、ウェアルの耳に風切り音が響き。
「射かけろ!どんどん矢を放て。矢がなくなるまで射続けろ!!」
怒声と前後して、山なりに矢の雨が射かけられる。街道の一帯に無数の『矢』が刺さり、林立する草むらが作られた。当然『つむじ風船?』が矢を避けられるはずも無く。
数本の矢が突き刺さったところで、ボウガンを構えた兵たちが狙撃を開始する。その矢じりには術式がこめられていたようで。
地面に刺さったとたんに爆発する。『つむじ風船?』どころか、『矢』の草むらに街道の地面まで何もかも。〔攻撃魔術が着弾した〕としか言いようが無い、破壊の衝撃が街道の地面をえぐり削る。
「・・・・・っ」
〔接近戦では勝ち目がないから、遠距離攻撃を行った〕などと言う気にはなれない。ウェアルの心胆を寒からしめる攻撃が執拗に放たれる。
〔これは・・・逃げの一手だな〕
そう考えてウェアルは踵を返し。馬のアゴールと目があう。
〔・・・・・〕
〔『思考加速』ーーーここで逃げて、オレはともかくアゴールの奴は逃げ切れるのか?そもそも長弓・ボウガンを併用する連携・練度を持ち。『魔術矢』を放つ奴等がオレの小細工に無様に引っかかるか?
そもそも弓の軍団なら・・・〕
先程とは比べものにならない、死の予感がウェアルの背筋をなでる。
〔逃げれば背後から狙撃される〕
そんな未来を幻視したウェアルは出し惜しみすべきではないと判断して。
「やった・・やった、ヤッタ、やってやっ/」
「(トカゲ爪・爪刃::に旋風閃を併せ)『旋風閃爪』」
胸中で『竜鱗欠片の術式』を唱える。眼球に力をこめて『旋風閃』を使う身体を呼び起こす。それは魔術の併用などとは言えない、歪な術式の加算であり。
身体強化を行ったウェアルの局部に、『竜牙兵』の装甲と動力?が重なり弾けた。
「/*たっ?」
喜色を浮かべる指揮官の首を一撃ではねる。その首が地面に落ちる前に、『亜竜の爪』がボウガン兵の隊列を駆け抜け。今度は最小の致命となる一線を喉笛に刻んだ。
「「「「「「「「「「ッ・・・」」」」」」」」」」
「なっ!・・ヒッ!?」
悲鳴をあげることなく、ボウガン兵が血の海に沈み。同時にウェアルは感知の魔力を、逆探知する。訓練ではできなかった、肌を射抜くような魔力を感じ。
ウェアルはその方向に向けて滑走した。
「チィッ!時間を稼げっ・・ワシをまもっ・:!」
獣の蹄・足爪ではあり得ない。蛇体・トカゲの体表を模した、滑らかな靴底がウェアルの身体を滑走させ。風の術式・独特の歩法による加速が、静かに速く小刀を舞わせる。
『旋風閃爪』:もともとは『トカゲの術式』で創った『竜鱗装甲』に、パワーアシストを行わせる。それをまとい、非力なシャドウの『旋風閃』のパワーを底上げしよう・・・という術式だった。
『重騎士』の『身体強化』を取り込み。パワーと速さ両立しようとした『旋風閃光』とは異なり。『竜牙兵』をアレンジして『生きた鎧』を造り。それをまとい、手伝わせることで防御力・パワーを高めたかったのだが。
〔『竜鱗装甲』にアシストさせると、動きが単調になり読まれやすい。格下相手ならともかく。疲労して同格以上の相手と戦う時、致命的な隙を作ってしまうでしょう〕
〔さらに『操作系』の魔術を使う術者・アイテムにコントロールを奪われたらシャレになりません〕
こういう忠告をされたウェアルは『パワーアシスト機能』を断念せざる得ず。
『リザード』のように砂地・沼地や密林に適応する『汎用性』を有し。地味に『摩擦』を操る『竜鱗鎧』をまとって、『旋風閃』を発動する。そういう器用貧乏な術式になった。
「囲めっ、押し包んで:ッ*」「こいつっ、足下をっ・・」「うわっ!?ヒッ、ヒュっ・:」
弓兵たちが潜んでいた森の中。その地面は全てが草で覆われているわけではなく。土・石がむきだしのところもあれば、倒木の枝が折れ散らばっているところも多い。
そこは本来、雑兵の『加速術式』では移動が阻害されるところであり。間合いを詰められた際に、弓兵たちの防御陣地になるはずだった。
「邪魔するぞっ」
「なっ、ひっ!?」「ヌルって・・ヘビかっ!」「ウワァーー!!!」
そんな敵陣・敵集団の中をウェアルは自在に駆ける。弓兵たちの隙間をついて移動するのは最小限でよく。障害物の木々・地面や敵兵に密着して、『摩擦』を減らし滑走する。
逆に敵兵たちは障害物にひっかかり、『摩擦減衰』の術理を理解できず。素人丸出しのタックル?・捕縛術?で同士討ちをしつつあった。
「落ち着け!速さや機動力では勝ち目はない!円陣を組んで防御を固めろ!」
「っ!!」「オオッ!」「急げっ、モタモタするっ!?」
二番目の指揮官かそれとも副官なのか。リーダー格の指示に従い、弓兵たちは甲羅のように防御を固める。
ウェアルの攻撃力で、それを崩すのは容易ではない。
ただし防御を固められればの話だ。
「ぐっ!?」「・・:+*!」「なあっ!?べっ・・・」
あちこちで走る弓兵たちが転倒する。ウェアルが走り、滑走したルートの『摩擦』が減らされたのではない。
ウェアルが接触した者のブーツに『トカゲの術式』をかけ。靴底を『蛇体の表皮』と同様に変化させたのだ。その結果、弓兵たちは氷上・泥の上を気付かず走るも同然になり。
あちこちで受け身もとれず、転倒する者が続出する。
「悪く思うな」
「ガッ!」「「「*`!?」」」「ギャガッ・:!」
無数の骨が踏み砕かれ。それ以上の悲鳴が森の中にこだまする。
そうして間を置かず、その悲鳴も途絶えていった。
『雄鶏』と『ガマガエル』から産まれた『コカトリス』。その『コカトリス』の類似っぽい、親すら不明な『バジリスク』。
上記二体の魔獣に比べれば、『ミルメコレオ』のほうが設定がしっかりしていると思うのですが。人気・知名度は遠く及ばないでしょう。
地中を移動する魔獣として、かなり有望であり。『巨大ミミズ』よりはるかに見た目もいいと思うのですが。
〔無機質で嫌われている『蟻』の半身が、『猛獣』の半身を台無しにしている〕
〔『王』の象徴である『獅子』の前面に、『働きアリ』の後部がついているのが気にくわない〕
こんな感じで『アントライオン』はあらゆる身分の人々に嫌われた。人間を害する魔獣、守護?する幻獣のどちらにもなれず“無視”された。その結果が『ミルメコレオ』のマイナー化でしょうか?
色々と妄想してしまいます。




