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192.今昔:怪火の魔女

 古代世界。アフリカ大陸以外の地域にもライオンが棲息し。もっとライオンの種類がたくさんいたとすると。モンスターよろしく人を襲うライオンも存在した。

 戦死者・敗残兵や旅人を貪るマンイーター(マンティコア)が闊歩しており。それが『ライオンの頭を持っていると伝えられ/だけど像の頭はライオンに似ていない』悪霊の王『パズス』になったと妄想します。


 たとえ古代ライオンが積極的に人間を襲わなくとも。飢えた人間がライオンの縄張りを荒らし。群れから追い出された若ライオンが、獲物を求めれば。古代人とライオンの衝突は必然だと思うのです。

 サヘル殿が追放された冒険者に『錬金光術アルケミックライト』を教えていた。

 【どぶ川のお掃除】に必要な『フォトンクリーン』に通じる術式を教えているのと同時期。




 モラッドの冒険者ギルドは不穏な空気が流れていた。


 〔冒険者パーティーが立て続けに、行方知れずになった〕

 〔借金証文に細工が施され、善良・・な冒険者が罠にはめられている〕

 〔優秀な冒険者を商人が探しており。彼らがパトロンになるのを、誰かが妨害している〕


 そんなウワサがまことしやかにささやかれ。ギルドのスタッフは情報の真偽を見定めるべく奔走し。

 あるいはウワサについて尋ねてくる、冒険者たちの対応に忙殺された。


 そんな冒険者やギルドを横目に、活動する一団があった。


 「今日はこれだけ依頼を達成しました。確認してください」


 「「・・・・・」」


 「・・・少々お待ちくださいっ」


 シャドウと重騎士をそれぞれ一人ずつ。合計二名をC.V.のエレイラが率いる冒険者パーティーが、我が物顔でギルドを闊歩する。さすがにエレイラは仮面をつけているものの、まじめに正体を隠す気などなく。


 渋い表情を浮かべる、周囲の視線をものともせず。彼女は冒険者ギルドを挑発し、圧力をかけていた。そんなエレイラ対し、受付嬢が事務的な応対をする。


 「確認しました。こちらが本日分の報酬になります」


 「‥確かに受け取りました。それではこちらが明日の『依頼』になります」


 「なっ!またっ・・」


 エレイラの出した『依頼書』に、受付嬢の顔が歪む。同時に周囲の冒険者たちから、明確な殺気が放たれた。


 「いい加減にしろよ‥」「こんな事がいつまでも続くか」「・・・ケッ」


 冒険者たちの不満は爆発寸前であり。その理由はエレイラのパーティーが『依頼』を独占しているためだ。

 もちろん通常の『依頼』を独占など、本来ならできるはずがない。ギルドは冒険者パーティーに依頼が行き渡るよう。依頼書の取り合いを行わせ。パーティー1つにつき、基本一日に受けられる依頼は1つだけになるよう調整している。


 しかし例外はいくつか存在する。今回、エレイラが行っているのは『指名依頼』による“偽装”と『包囲』だ。エレイラと貸しのある商会が協力して『指名依頼』を出す。情報を徹底的に集め、〔依頼料を援助するから、通常の依頼を『指名依頼』に替えるよう〕依頼人にコネを使ってお願い(・・・)する。


 当然、『指名依頼』の条件は〔エレイラ率いるパーティーに依頼すること〕となっており。一応、エレイラにもしものことがあった時に備え。〔期限まで依頼が達成できなければ、他の冒険者が依頼を受けてもかまわない〕という保険もかけている。


 「だから実際は〔高額報酬の依頼を一日に複数こなしているだけ〕なのだけど」


 「たいていの者は我々三人が依頼を独占しているようにしか見えない」


 「まあ受付嬢たちは実情を知ってはいますが。この不穏な状況で、冒険者ギルドの慣例を破り続ける。そんな者たちにいい顔はできないでしょう」


 そんな受付嬢たちを見て、冒険者たちは益々〔エレイラたちが依頼を不当に独占している〕と誤認していき。

 不満を爆発させても。情報収集を行っても。あるいは不満を抱え込んで静観しても、エレイラの思惑から逃れることはできない。


 この場合の最適解は〔エレイラたちを無視して、マイペースを貫く〕ことだが。

 様々なウワサが流れ。商人たちが『指名依頼』を利用し、エレイラを通して情報交換を行うことにより。冒険者ギルド()の依頼は減少している。


 こうしてモラッドの冒険者ギルドは、エレイラに翻弄ほんろうされてしまい。






 「これで冒険者の“追放マッサツ”に関して、なかったことにしてもらえるのだな」


 「そんな甘い話があるわけないでしょう」


 エレイラとギルマスのモンブルがグルになって、別の計画を進めていることに誰も気付かなかった。

 エレイラたちの行っていることは『指名依頼』の悪用であり。ギルドマスターなら強権をふるって、阻止すべき案件だろう。だが裏取引のため、強権が振るわれることはけっしてない。


 「この状況で“賊の集団”と協力する冒険者は、不穏分子として退場してもらう。

  その代わり『お宝探し競技』に参加した者たちには、チャンスを提供する。


  そういう『契約』のはずですが」


 「・・わかっている。忘れてなどいない!」


 下位カーストの冒険者が、パーティーメンバーによって追放される。それは〔自由を愛する〕冒険者が、クズ貴族と同レベルな“気ままに横暴を行っている”ということであり。

 冒険者全体の大スキャンダルだ。正義感の強い冒険者たちは、“仲間を裏切るクズ”と断罪を求め。“追放を行っている連中”は〔裏切り者あつかいされてはたまらない〕と、自分たちを正当化するべく手段を選ばないだろう。


 その先にあるのは、冒険者同士の不毛な内紛であり。

 貴族・盗賊共は自分たちのことを棚に上げて、その隙をついてくるだろう。ギルドマスターとして、そんなことを許すわけにはいかない。


 「わかっておられるなら、けっこうです。こちらもそろそろ軍資金が底をつきそうですので」


 「だったらもう・・・」


 「あと一週間は『指名依頼』を続けましょう。

  そうしたら〔荷物運びを安易に追放マッサツした連中のせいで、冒険者の評判イメージが下がった。だから商人たちは信用のある冒険者だけに『指名依頼』を出すようになった〕


  そういうウワサを流して、冒険者たちが『お宝探し競技』に参加するよう誘導します」


 「一週間か・・・やむを得んな」


 こうして裏取引の打ち合わせは終了した。






 数日後、街の一画では・・・


 「けしからん、実にけしからん!」「秘術は隠すべき物だ!」「浅はかな乞食が・・・」


 魔術師ギルドのメンバーが、サヘル殿と元冒険者たちを攻撃する準備をしていた。



 〔食うに困った雑用冒険者が、どぶ川をあさっている〕


 そんな風に彼らを嘲笑していたのも今では昔のこととなり。


 〔“ゴキブリ”“”や“ドブネズミ”が減った〕

           ↓ 

 〔“それら”はどぶ川からエサを得て、卵を産み付けて増殖していた〕

           ↓ 

 〔【どぶ川のお掃除】を行い、悪臭も漂わない(アルケミックライト)彼らはヒーロー〕

           ↓

 〔考え無しに薬品・汚液をどぶ川に流した魔術師ギルドは・・・・・〕



 「いったい何年、どぶ川が流れ。汚水が放置されていたと思っている!」

 「鼻が麻痺していた、愚民が今さら賢しげにさえずるなっ!」

 「奴隷冒険者ごときがヒーローだとっ。ふざけるな、ふざけルナ、フザケ--ーー!」


 最近、(エレイラの行動で)ロクなことがなかった。魔術師ギルドメンバーの不満は爆発しており。タダでさえ少ない忍耐力は、上記のウワサが変化するに伴い底をついた。


 そんな連中に魔術師ギルドを束ねる、自称魔導師エセインテリが偉そうに語る。


 「静まれ!諸君らの言うことはもっともだ。よって奴等には早晩、魔性の災いがふりかかるだろう。

  その後、流れ者な乞食共には身の程というものを教え。魔術師の下僕として“馬車馬”のように働いてもらう」


 「「「オオッ。全ては魔導の真理と共に・・・」」」



 「戯言たわごとはそのくらいでよろしいでしょうか?」


 聞くに堪えないセリフの羅列に、C.V.エレイラの我慢が終了する。『火剣』で扉を切り裂き、彼女はエセインテリ共の巣窟に入っていき。


 「何モっ」


 『怪火の魔犬(フォービィーガルム)×2』


 扉の両端にある壁を起点に高熱の『魔術能力』を発動する。意思なく、動けない壁は『高熱』により溶解し。『フォービィーガルム』の素材と化し、入口を広げる。そうして広がった入口から、大勢の衛士たちが突入してきた。


 「「「・・・・・ッ」」」


 「衛士隊だ!魔術師ギルドは街に汚水を流したあげく。それを綺麗にする善意の者に、暗殺を企てた容疑がある。おとなしくしろ!」


 それは異様な光景だった。『怪火の硬貨(フォービィーコイン)』という幻影術をふるうことで有名なC.V.が、『破壊の炎』をふるっている。〔幻術師=攻撃力が低い〕と言ってもいい常識を覆す。そしてエレイラの『切り札』が披露されたであろうことに、魔術師たちの表情が引きつる。


 「ウワァーーー!」「衛兵ごときがっ・・」「魔術師の意地を見せろ。呪文だっ!」


 『『『ファイアーボっ・・』』』


 呪文を唱えかけた魔術師たちに、衛士の短棍が投擲される。『加重付与』されたそれらは、鉄槌と化して魔術師たちの細い身体を打ちのめし。


 「魔術師の殺傷呪文を確認した。これより魔術師ギルドを“邪法使い”と認定する。

  総員、かかれっ!」


 「「「「「イエッサーーー!!」」」」」 


 「なっ!?」


 それは本当に異様な光景だった。ワイロと権力に媚びへつらい。あるいは死んだ目で、それらに従属していた衛士たちが士気高く任務に就く。魔術師たちに突撃をかける。

 そもそもエレイラが破壊した扉周りには『フォービィーガルム』が控え。その周りには高熱が漂っている。そんなところを『ただの衛兵』がまたいで来れるはずがない。


 「何だっ、いったい何をした!」


 「キサマたちが知る必要の無いことよ。黙って破滅しなさい」


 そのやり取りだけが、エレイラと自称魔導師が交わした唯一の会話だった。




 


 『衛兵』街の治安を預かる、兵士兼役人であり。“盗賊ギルド”の勢力圏において、飼い殺しが確定した。最底辺に近い『役職』だ。

 “賊の飼いイヌ”として公私両面から軽蔑される。そのため結婚するのは難しく。それでも家族を得れば、“盗賊ギルド”の人質あつかいされ。


 何より『子供』の未来まで閉ざされているのが絶望的だ。ワイロと給金をかき集めても、高い教育をさせるには足らず。

 そして“権力と盗賊のイヌ”あつかいされ。平民にまじって生きるのも困難というありさまだ。


 〔オレ、父さんのような衛士になるよ!〕


 そう告げた息子が現実に打ちのめされる前に。余所のはるか遠い街へと、旅立たせるのがモラッド衛士の夢だ。


 

 「だから私は衛士たちと契約しました。衛士たちの名誉を回復させる。子供たちがそれなりに未来を選択できる環境を作ると」


 「・・・ンーーっ!?ンー、ンン!!」


 そうやって衛士たちをたきつけ、彼らをエレイラの私兵にした。“イヌ”ではない。

 エレイラが契約を破れば、迷わずかみつく衛士は“イヌ”とは違うだろう。


 牢獄に拘束された、かつて魔術師ギルドを束ねていた自称魔導師。エレイラはソイツが求める『情報』を教えてやる。『怪火』にひるまず、魔術師に突貫を仕掛けた衛兵がどうやって産まれたのか。


 冥土の土産に教えてやる。


 「無論、遠い未来の“空手形”に、人生・家族の未来を賭けられる者などいません。

  だから当座の報酬を用意しました」


 「ッ!?」


 そう告げてエレイラは老人の背後に回る。そうして人指し指の先に魔力を集束させ、『熱』の点を構築し。


 『焰鐘フレイムベル


 「ッ!?ーーー^*+:・-~~~~~」


 高熱を帯びた指先の術式を、老人の背中に押して当てる。人体の急所・点穴を指先で突き。同時に『熱』の術式が血流を伝って、人体の内部に侵入していく。


 「ヒトっ^`’ゴっl<ーーーっ!?」


 「〔ヒトゴロシ〕と言いたいのですか?心配せずとも、これはシャドウの皆さんに教えてもらった『お灸』という術式です。『点穴ツボ』を刺激して血行をよくする医術を流用したもの」


 「・・・--*;+・・!?」


 「もっとも私の使う『フレイムベル』はしばらく使っていませんので。衛士の皆さんを治療する前に、勘を取り戻したいのです。


  協力してくださいますね?」


 「ンーーー^っ!?ゴォー~ー!!」


 自称魔導師だった老人の内臓に『熱の点(フレイムベル)』が侵入していく。身体の奥底で鳴り始める『焰鐘』に、老人の額から冷たい汗が流れ始め。


 「安心してください。【聖賢イリス派閥】は安易な拷問などしません。

  しっかり『魔鐘ドゥーム』を鳴らして、私もアナタの痛みを共有します」


 「**^・:!?」


 そして老人の汗は凍りついた。






 エセインテリから『暗号・符丁』など、裏社会と取引きを行う際に必要なことをエレイラは聞き出し。自分なりにそれを分析してから、イセリナ(リーダー)にそれを伝えるべく手紙を記す。


 それなりに重要な情報だろうが。C.V.イセリナにとっては価値の低いパズルのピースだ。

 暗号の強度はそれなりに。ウァーテルに手紙を届けさせるのは、冒険者に金貨を払えば充分だろう。


 そう考えたエレイラのもとに知らせが届く。


 「エレイラ様。サヘル殿が『錬金光術アルケミックライト』による薬草探し。及び『分析』を元冒険者たちに、教えました」


 「そうですか。成果はどうでしたか?」


 「それがかんばしい結果ではなかったとのこと」


 「失敗ですか?彼にしては珍しいです・・・」


 その瞬間、エレイラの脳裏に『焰』が走る。現在の不穏な状況で、失敗はデメリットが大きい。

 それなのにサヘル殿・・・否、サヘルが失敗をして見せた理由は一つ。


 「ウェアル殿。お願いがあります」


 「承ります」


 「大至急、ウァーテルに今から書く、手紙を届けてください。それも確実に届くよう。

  予算は問いません。オトリの冒険者・馬車に隊商キャラバン。必要なものがあったら、何でも言ってください」


 「・・・かしこまりました。それでは申請書を・・」


 「そのようなお役所仕事をしている場合ではありません。現状の任務を全て放棄して、『手紙』を運ぶことを優先してください」


 「ハハァ!」


 事態の重要性に気付いたウェアル殿が平伏する。


 『フォービィーコイン』


 そしてエレイラは最高機密を記した『知らせ』を、自分の『魔術能力プライド』で記し始め。


 その足もとにどうでもいい『暗号・符丁』の記録が落ちていたに気付くのは、翌朝になってからになってしまった。

 

 そんな世界において、密偵の活動はリスクがあった。知らない山野に密偵が侵入すると、ガブリとやられる可能性があったと愚考します。

 まあプロの密偵なら訓練やら情報を集め、対策も取るでしょうが。悲惨なのは物見、偵察を行う兵隊でしょう。


 現代戦なら。せめて中世のまともな頭を持つ武将なら、偵察兵は専門の兵を鍛えます。ですがバカ殿や古代の軍隊組織はどうでしょう。


 〔ちょっと足の速い者に偵察を命じる〕


 こんなことをしたら、猛獣の獲物になりかねません。〔人間の足が速い〕というのは、〔ケガをした食獣の足の速さ〕以下なのですから。

 そして〔夜間戦闘〕もシャレにならないでしょう。ライオン、ハイエナなどは夜行性であり。敗残以前に、うっかり部隊からはぐれただけで襲われてしまいます。


 〔夜襲で勝利しても。兵や武将が猛獣に“襲われた”〕となれば。夜襲を指揮した大将は、総スカンをくらうと愚考します。


 よって古代ライオンは人類文明に影響を及ぼした。『邪神パズス』のように、恐れられ敬われたと思います。

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