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19.最上級のシャドウ 息吹の暴威

 たいていの丸腰の人にとって、武装している知らない人はモンスターに等しい。自分を殺す凶器・暴力を持つモノです。

 さらに攻撃魔術を使える魔術師は武装が不明なのに加え。多人数を殺せる怪人に近い。視認できる武装をした人よりも、怖い存在と言えるでしょう。


 彼らが一般人の中で暮らすためには、モンスターを退治するなど。人類社会から必要とされている。あるいは手札をさらして〔理解した〕と誤認させる。〔呪文を唱えている間に攻撃すれば勝てる:弱者にすぎない〕とアピールする。


 そうやって一般人を油断/安心させてから、信頼を築いていくしかありません。


 それも個人ではなく、大勢で何代にも渡って行う。この計画を乱す者は隠遁してもらう。もしくは邪悪な魔術師として、社会的に抹殺されかねません。


 もっともたいていの連中は、社会的に制裁される以前に凶行に走り。暗黒街道まっしぐらなようですけど。

 「さて…貴様らには二つの選択肢がある。

  戦って死ぬか。イリス様に絶対の忠誠を誓い、奴隷となるか」


 『旋天・小飛竜』酸素の少ない空気を操り、術の対象に吸わせる。それにより対象を『高山病』にかからせるという、扇奈の『魔術能力』だ。

 解毒剤が効かないどころか。解毒剤による身体の代謝が、高山病の症状を悪化させる。


 『高山病』すら知らない者たちにとって、悪夢に等しい。


 そんな攻撃を受けて心が折れない者は少ない。いつか復讐の機会を狙うにしても。

 現状は文字どおり死の苦しみを味わい、生殺与奪権まで握られている。ここで抗うのは気骨があるのではなく、無謀な自殺志願者に等しい。そう考えて恭順を叫び始めた門番・用心棒たちを、いったい誰が責められるだろう。


 「「「ヒューッ^:ヒュッ;":ヒュッ!?」」」


 しかし彼らのセリフは片言にすらなれず。空しく舌を震わせるのみだった。


 「何を言っているかわからないわね。命乞いをする気ならば。

  もっと必死に誠意を込めて助命を請いなさい」


 偽りの降伏・謀反への一歩など、扇奈は許さない。冷たい殺気と共に、扇奈はその意思を言の刃と化してふるう。


 しかし何人の者が理解したか。大半の者は差し迫る死の苦しみに悶絶し、扇奈の意思を理解するどころではない。

 そしてかろうじて彼女の宣告を察した者たちも、全面降伏のサインを出すのは困難だった。周囲の空気に干渉されて、そもそも発声できない。加えて高山病・山神の息吹という暴威により。脳に空気が回らず、意識を保つのすら多大な労力を要する。


 扇奈が行っているのは降伏勧告などではない。未知の『風術』による嬲り殺しにすぎず。

 その猛威にさらされている者たちはもちろん。観ている者の大半が、“未知の嬲り殺し”を目の当たりにして表情を歪めていた。




 扇奈の狙いどおりに。


 『『『配置完了』』』


 『狩れっ!』



 『フォトンワード』による光術の秘匿通信が発せられ。その号令によって正門の周囲に鮮血が舞う。同時に小飛竜の再展開によって、永久に意識を刈られた者が続出した。


 その犠牲者は物見高い“野次馬”ではない。野次馬を隠れ蓑にした密偵の類であり。今後のことを考えれば、つぶせる時につぶしておくべき連中だ。

 今は『耳目』の役目を担っていても、いづれは暗殺・破壊工作に必ず関与する。扇奈たちシャドウ一族にとって、滅すべきの敵だ。


 そのため『小飛竜』による見せしめで、周囲の注意をひきつけつつ。扇奈は野次馬の呼気を聞きとり解析を行う。

 そうして規則的な呼吸・芝居がかっている『息』を特定し。配下のシャドウに『光術信号フォトンワード』で作戦指示・指揮を行っていた。

 これが門番・用心棒たちに地獄の苦しみを味合わせた、真相の半分である。



 その目的を達成した扇奈は、今気づいたように白々しく告げる。


 「ああ、うっかりしてたわ。苦しい呼吸をさせていたら、サエズレルわけないわね」


 「「「ハァー、ハァー・・`;--*!ッ/;」」」


 心のこもっていない謝罪と同時に、敗残者たちは空気をむさぼる。単に『小飛竜』を解除したのではない。高山病を治療するのに必要な、『酸素吸入』を行う『小飛竜』を扇奈は展開して。


 それでようやくゴロツキ門番たちは、空気のありがたさを実感できた。


 「それで?返答は?」


 しかし連中が生の実感を得ることを、扇奈は許す気はない。不思議に響く問いかけは、一瞬で正門の空気を凍り付かせる。


 「ヒィッ!」「「「ーー;`^っ!!」」」「こうふぐじます。どうぇいにだりまずっ」


 この場が慈悲なき戦場であることを、心に刻まれた野次馬たちの半数は逃げ散り。残りは腰をぬかしたり、思考停止に陥る。

 そして正門で“物欲”を満たすことに執心していた連中は、ふるえる身体に鞭打ち。

 唯一生存を許されるセリフを絞り出した。




 「降服するのはいいが奴隷は勘弁だな」


 そんな中で、自殺行為に等しいセリフが周囲に響く。


 「・・・ほう?」


 「奴隷になったら家族を守れないし、好奇心も満たせない。

  忠誠は誓うから、一兵卒として仕えさせてくれないか?」


 口調は陽気だが周囲を再び凍り付かせる。その返答に扇奈は目を細める。

 同時にその男が偽バーサーカーのバルムという男だったこと。扇奈にとって絶対の主君であるイリス様が助命した者であることを考慮する。


 「いい度胸しているわね。褒美に念入りに仕置きしてやろう。ありがたく思うがいい」


 そう言いつつも扇奈は捕虜の監禁場所を思案し始める。

 しかし瞬時に断念して、こういうことに特化した部下に命じることにした。




 「た、助かった」


 正門の周辺に倒れ伏した、門番の一人は安堵のうめきをもらした。


 不用心な女二人の旅人・腕自慢の小娘たち。たまにやってくる世間知らずを目の当たりにして。いつものように誘拐して、売り飛ばす算段を立て始める。

 ここは悪徳の都ウァーテルだ。すべてのアマはギルドの財産であり、男の欲望を満たすための“道具”にすぎない。


 「あんな化け物がやってくるなんて・・聞いてねえぞチクショウ・;!」


 ただし男に蹂躙されるのは、あくまで人間の女だけである。“毒婦・魔女”は対象外だ。


 まして『セmテm・ショウヒリュー』とかいったか。解毒剤も効かない『猛毒』をまきちらす。忌まわしい“毒蛇”などニンギョウの範疇ではないだろう。

 そんな危ないモノは、自分が関わることのない。迷宮の奥深くで、冒険者どもと殺し合ってればばいいのだ。


 とはいえなんとか危機は乗り越えた。あとはこのまま地面に伏せて、嵐が過ぎ去るのをやり過ごせばいい。そんなことをを考えていた男の足裏に、刺されるような痛みが走った。


 「痛っ!?」


 そうつぶやいた時には、足の痛みは耐え難いものへと変化する。まるで焼けた槍で貫かれるよう。

 そう感じた次の瞬間に、足の内側からえぐり削る、鍛冶・彫刻の音が響いてくる。


 「なっ!?ぐっ・;`、!イダァ/:*イぃぃ--**」


 視界が真っ赤に染まる。それによって息がつまるはずなのに、口からは清浄な空気が吹き込まれ。

 何故か身体に命をつなぐ、活力が注入されていく。


 その不可思議な現象の答えは男の眼前で嘲笑を浮かべていた。


 「ふうん。まだ立ち上がってくるとはいい覚悟ね」


 「へっ!+!?ハイッぃ~:?」


 地面に伏せていた男の眼前に、あの“黒髪毒蛇”がたたずんでいる。


 〔違う・・チガう*血がぁうっ--そうではないっ!〕


 足を貫いたナニかにより。男はその意思に反して『直立』を強いられたのだ。

 見渡せば男と同様に、人買いを仲介していた同僚たちも立ち上がっている。その光景ははたから見れば、〔不届きものを囲む衛兵〕のように見えなくもない。


 「なっ、『マテ、オレハコウサンスル、ダカラ、ナッ、』っ、っ、っ!?」


 セリフが空しく消えていく。上半身に風がまとわりついて動きを抑制し。その冷たい風によって、先ほどの恐怖が再燃してくる。


 「敵わないと知りながらも戦う。まさに門番モンバンのカガミね。その覚悟に敬意を表し、少し本気を出してあげる」


 その言葉とは裏腹に、“毒蛇女”は男たちへの敬意など微塵もないのは明らかだった。

 存在するのは“女の敵”を見る視線と殺意であり。仇敵をここで抹殺する意図を隠す気すらない。


 『旋天・飛竜爪』


 『呪文』が終わる前に血煙が舞う。〔立たされた連中が殺された〕そう考えた男の視界が高くなり、空気の振動が耳に侵入してくる。


 視界が高くなったのは喉笛をつかまれ持ち上げられたからだろうか。


 「そう言えばオモシロイことを言っていたわね。クスリを打つとかドレイとか。どうするつもりか詳しく、教えてもらいましょうか」


 冷たいという表現すら生ぬるい、殺意の嵐が吹きすさぶ。ソレを正体を理解した瞬間、意識は暴風の中に飲み込まれていった。

 そう考えると無詠唱を使える手練れの魔術師。武装して武術も使える魔術戦士は、術者の弱点がなくなった。一般人にとって、さらに物騒な存在ではないでしょうか。


 それを覆すのはより多大な社会貢献か。特権階級として隔離するのか。あるいは英雄・ヒロインの魅力で惑わすなど。


 色々、知恵をしぼる必要があると愚考します。

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