186.今昔:怪火とシャドウ
アニメ化もされた『古田織部』が主人公のパラレルな日本史。それを思い出して、連想したことが一つあります。
それは〔『服部半蔵』の名字は、何故『服部』となのでしょう?〕・・ということ。
『織部焼』の創始者ある『古田織部』の名前。それは朝廷の官位を得たときにつけたとか。
官位の『織部』は『衣服を織る』『服に関わる』役職とのことですが。茶人武将の『古田織部』が朝廷で衣服に関わることなどあるはずもなく。
『へうげ○の』を読んだ時は、〔芸術家の感性はよくわからないなあ〕で終わってしまいました。せいぜい〔飛躍の時かな?〕ぐらいの感想です。
それに対し忍者?武将の『服部家』は何故、そんな名字なのでしょう?
『宝探し競技』の急なルール変更が行われ。エレイラは参加者の冒険者・彼らを雇っていた商人たち両方に迷惑をかけてしまう。
その償いとして、まともな商人たちにエレイラは借金を返すことにした。
〔債権・借用書を買えるなら逆も有りでしょう。借金を返す権利をC.V.エレイラが買い取ります〕
そう告げて〔(実際に)少額の借金をしていた者〕に代わって、〔エレイラが借金を行った者〕になり。彼女が借金を返すことにより。商人たちは取り立ての手間をかけず、借金の利子も得る。
それをもって冒険者のスポンサーになっていた商人たちへの詫びとして。事実上の借金棒引きにより、負債のなくなった市民から支持も得る。
一方の冒険者たちは、悪辣な金貸しの所業をつまびらかにした。冒険者の借金証文に施された“小細工”を暴き。当然、借金は無効とする。
加えて冒険者ギルドに交渉を仕掛け。数字に弱く、商人に騙されやすい冒険者を、将来的に冒険者ギルドがサポートする。法律・商売常識にうとい冒険者が、詐欺な契約書にサインしないように。彼らの後ろ盾になるよう、エレイラは依頼・脅迫を行い。
それが可能になるまで冒険者ギルドが冒険者の食事・消耗品を格安で販売するよう。エレイラはギルマスのモンブルに強制した。
「あとはこの冒険者の待遇改善は、〔『宝探し競技』に参加した冒険者パーティーの功績によるもの〕と宣伝する。その名声をもって彼らへのお詫びとしましょう」
「・・・どうかお待ちください、エレイラ様」
「何でしょう、サヘル殿」
中級シャドウであり、ウァーテルの歓楽街を取り仕切る。ある任務のためウァーテルとモラッドを行き来している逸材が、エレイラを諫めてきた。
「冒険者が質の悪い借金をしないですむよう。C.V.エレイラ様が〔食糧・備品を格安で販売〕されるよう計画したのはわかります。
しかしこの計画は失敗するリスクが高く。中止を進言します」
「・・それは『宝探し競技』のルール変更に続けて、私に失態を重ねろということですか?」
サヘル殿に対し、エレイラはあえて不快な口調で応じる。それに対しサヘルは怒りを覚悟で諫言してきた。
「無理を申し上げているのは、承知しています。
しかし“盗賊ギルド”の爪痕は深く。一見、平穏なモラッドの街にも、飢えに苦しむ者が少なくありません。
彼らが格安品を求めて、安易な冒険者登録を行えば。不良冒険者が増える。あるいはエレイラ様の失脚を狙う、“賊”の手駒となる可能性があります」
聖賢の御方様を敬愛しつつも、戦争種族の怖さを骨身にしみている。不誠実・裏切り者がどういう目にあうか。実践も含めて教えられているシャドウ一族・陸戦師団のようなモラル??を他者に求めるのは無理がある。
むしろ生きるため。欲望を満たすためにルールの隙間をつき。“オレは頭がいい”と自賛する賊が必ず現れるだろう。
「そういうことなら・・・冒険者を評価する『等級を上げるポイント』。その基準を変えて、『食事・消耗品を購入するポイント』にするのはどうでしょう。
モンスター狩りで評価を高める、トップランカーの冒険者は依頼人から報酬を得て。日々の小さな依頼をこなす下級の冒険者たちは、格安で買い物をできる評価ポイントをギルドからもらう」
「興味深い、仕組みですが・・おそらくうまくいかない。
というか、長期的には破綻の可能性が・・・その・・」
先程までとは打って変わって、サヘル殿の歯切れが悪い。おおかた潔癖性のアマゾネスが不快になる内容なのだろうが。
心配せずともエレイラのパーティーポジションで潔癖でいることは不可能だ。非合法な利権の処理を行ったこともあるし。リーダー・イセリナの縁結び・お膳立てを行うのも、エレイラの役割だ。
〔だから血の気の多い冒険者の男女が色街でナニをやっていても、私は気にしません。
ええ、一切わずかたりとも気にしませんとも〕
「・・ッ!!」
エレイラの意思がこめられた視線に、サヘル殿がわずかに硬直する。
それと同時に、教導の足りてない配下がここぞとばかりに大声を出した。
「ここは我等にお任せください!エレイラ様」
「然り。色男の弁舌などで、問題は解決しない!」
「己の意を通したいなら、中級シャドウにふさわしい力を示してみろ!」
「・・・・・」
「貴方たち・・・」
ケンザたち下級シャドウたちは文官C.V.を何だと思っているのだろう。“戦闘蛮族”でもあるまいし。エレイラがサヘル殿と建設的な議論を楽しんでいるのを、わかっていない。
そもそも〔過ちを犯したら、その後に何を行うかが重要だ〕とセンゴクな覇王も仰っている。
ならばエレイラの失態に乗じようとする連中の動きを予測し、カウンターの罠で嵌め殺す。
『怪火の猟犬』で惑わし、焼いて、エレイラの糧とすれば。うるさい“騒音”も沈黙させられる。
“戦闘蛮族”のように“騒音”でストレスを感じる神経など、エレイラはとっくの昔に失ったのだ。
それをケンザたちに伝えようとエレイラは口を開きかけ。
「いいだろう、相手をしてやる。エレイラ様の下でどれほど、腕をみがいたか見てやろう」
「その大口、すぐに開けなくしてやる!」
「だが時間が惜しい。キサマ等三人で一気にかかって来い」
「オレたちをなめるなっ!この女衒のヒモがっ・・・」
頭の痛くなる会話が交わされる。それを聞きながら、エレイラはこっそり吐息をはいた。
領主の館にある中庭。建物の壁に囲まれた空間で、サヘル殿一人と三名の下級シャドウが相対していた。
「それではこれより模擬戦を始めます。双方、構えて・・始めっ!」
『『『旋風閃!』』』
エレイラの合図と同時に、ケンザたちが『身体強化』を発動する。そうして加速状態に入り、サヘル殿を包囲すべく散開した。
『・・・ッ』
一方の中級シャドウは落ち着いて『術式』を発動する。身体の様子から『旋風閃光』の可能性は低い。そうなるとお得意の『錬金光術』か他の『光術』でカウンター狙いだろう。
「無駄だっ!」「せやっ」「・・・・・ッ」
それに対しシャドウ三人は、迅速に感知の連携を行う。トウヤが『突風』の術式で中庭の空気を入れ換え乱し。キマリが『妖糸』を操り、見えない『光術』を探りからめとろうと試みる。
そしてケンザが二人の護衛を行うという、フォーメーションを組み。
『旋風閃光』
「「「っ!?」」」
その眼前でサヘル殿が余裕をもって『身体強化』を発動し。『感知の連携』が空振りに終わった、ケンザたちがわかりやすく動揺する。
「どうした?動揺している暇などないぞ」
「なめるなっ!」
背後を中庭を囲む壁でふさぐべく、サヘル殿が移動を始める。それが誘いだと理解しつつも、ケンザたちは仕掛けるしかなく。
『妖糸』『手裏剣』がそれぞれ左右から挟撃し、正面からケンザが飛び蹴りを放つ。回避が困難な『鍵鎌』による、広域を削る攻撃がサヘル殿に襲いかかり。
「ぐふぁッ・・」
「っ!?」「なっ・・」「・・?、!?」
ケンザの蹴り足がサヘルの額に直撃する。いい音が響き、サヘルの身体が地面に叩きつけられ。鈍い音が出た。
予想だにしない決着に、呆然となるも。ケンザたちは正気を取り戻し、素早くサヘルに近づいて。
「『火打閃光(フリントスパーク』」
「「「っ!!*?」」」
サヘル殿の身体に設置された、光術トラップにより一番接近していたケンザが耳目を灼かれ。
「このっ!」
『アルケミックライト』
次に『妖糸』でケンザの身体を引き寄せ、退避させようとした。キマリの『妖糸』が『加重付与』でコントロールを狂わされる。それは彼女の両手も封じられたのと同義であり。
「残りはオマエだけだな」
『旋風閃!』
そして一人残ったトウヤが格上に挑むも。
そこから決着がつくまでの時間は、わずかだった。
『織部』と同様に衣服に関する名字の『服部』。
『古田織部』のように官位をたまわったわけでもなく。それなのに初代『服部半蔵』は何故、『服部』を名乗ったのでしょうか?
戦国武将の名字。それは出身地域や先祖にまつわるもの。『木下』のように名字を許されたものの、身分が上の者に気を使った『名字』もあれば。僭称したものや、主君に与えられた『山形』のような名字まで。
その由来は様々ですが。初代半蔵は何故、名字を『服部』に決めたのでしょう。
『服部』の意味が『渡来人で服の技術者』・『朝廷の服に関する役職』どちらを指すか知りませんが。どちらもデメリットがあると推測します。
『服部』の名字が大陸から海を渡って来た『渡来人』を意味するなら。〔余所者です〕と言っているに等しく。技術者を保護する、確固な権力がいない戦国時代では危険ですらあります。
『朝廷の服に関する役職』の場合、無位の主君のほうが身分が低いと見られる。『服部家』より有力な武将から、〔生意気な奴〕と見られかねない。
『初代半蔵』のころは戦国乱世であり。上記のようにデメリットが多い『服部』の名字に決めた、『初代半蔵』は何を考えていたのか。私は首をかしげるばかりです。




