185.今昔:怪火と冒険者ギルド
『アフロディーテ』と『エロース』の二大神格が連結した『双魚座』。
子供の頃と違い、〔『ヴィーナス』は愛欲を司る女神〕というイメージになり。〔それがつながっているのだから昼ドラな星座?〕などとも考えましたが。
普通に『ザイルパートナー』を命綱で結んだ星座でしょう。『リボン』を使うので、昼ドラな妄想をしましたが。古代ギリシャでは男性もリボンをテーピングのように使用したとのこと。
そういうことなら『リボン』を命綱に転用するのも有りだと愚考します。
〔“借金棒引き(徳政令)”の布告を出されたくなければ、少額借金の契約書を持って出頭せよ〕
脅迫に等しいエレイラの命令により、モラッドの商人が集められる。そうしてエレイラのルール的にまともな『金貸し』を行っていると判定した。まっとうな借用書で商売をしている者たちに対しては、エレイラが借金の肩代わりを行い。
一方、冒険者パーティーに金を貸し、『契約書』に細工している連中は真っ青になっていた。
『賄賂』を拒絶され。『契約書』の細工を、金を貸した冒険者の眼前で暴かれたのだ。
「ここまでか・・・」「バカな・・命令ではこれデ・・」「チクショウ-^~~」
“アコギな金貸し”と言えるようなモノではない。借金した者を破産、ないしそれに近いことを行ってきた賊商人たちは、これから余罪を追求され罰せられる。モラッドの街で権力を握る、エレイラに裁かれると思っているのだろう。
〔だけど安直に制裁できるなら、こんな手間をかけたりはしません〕
間違いなく“殺し”を行っている盗賊ギルドのメンバーのメンバーと異なり。“貸しはがし”に近いことを行っている賊商人は、一応『法律』に違反していない。
少なくとも逃げ出した前領主の法治下では合法であり。エレイラが代官になったからと言って“前の法律など知らない。高利貸しは死刑にする”・・などといきなり強行するわけにはいかない。
世間ではそういうのを“独裁者の悪政”と言う。
そんなことをすれば、恐怖した商人たちは逃げ出し。〔C.V.はやっぱり邪悪な魔女だ〕とウワサが広まる。それではまっとうな産業など起こせるはずもない。
だから今はこれで妥協する
「「「・・・・・」」」「ッ!!・*・・」「こいつ等・・・・・」
「冒険者の皆さんには、『宝探し競技』のルール変更で御迷惑をかけしました。そこでこの“不当な借用書”についてお知らせする。
そのことをもって、私にチャンスをいただけないでしょうか?」
「チャンス・・ですか?エレイラ様の力で、この不当な借金を帳消しにするのではなく。
どのようなチャンスを求めるのでしょう」
「確かに私の権力で〔小細工がされた契約書は無効だ〕〔借金も棒引きにする〕と強制するのは容易でしょう。
しかしその程度で皆さんの労力への対価になるでしょうか?」
「それはもチっ・:!?」
「それはモチロン足りないわねぇ」
本来ならあり得ない、借用書の不正を指摘したこと。それで満足の意を示そうとした冒険者が沈黙させられ、がめつそうな武闘家が返事をしてくる。おおかた違約金の類を要求しようというのだろうが。
「その通りです。私の権力が通用するのは、あくまでこのモラッドの街だけ。
それに対し借金で冒険者を奴隷に貶め。その後いいようにこき使う。もしくは亡くなった冒険者のご家族に、故人の証文をつきつけ生き血をすする。
そういう外道たちがこの連中だけとは思えません。皆さんがモラッドの外に行けば。余所に行けば合法・非合法を問わず、理不尽な報復を企てるでしょう」
「なっ!?」「ちょっ・・・」「そんなっ!」「「「・・・・・??」」」
「それに代官の権力は絶対ではありません。もし前領主のような人物が司法を握れば。
再び不当な借金を課せられるでしょう」
実際のところその確率は3割ぐらいか。こんなヘマをした連中は〔トカゲの尻尾〕として切られるだろう。そして暗殺組織はナニモノかに狩られ、壊滅状態であり。間違っても賊商人の依頼を受けられる状態ではない。前領主については論外だ。
もっともどんなクズのチンピラ以下でもヒトを雇い、“呪物”で惨事を引き起こせる。油断すれば足もとをすくわれるだろう。だからここできっちり引導を渡す。
それもC.V.の評判を落とさない正当な手段を行使してだ。
「そこでもう少しだけ、皆さんのお時間をいただきたいのです。“賊商人”たちを連行して、私についてきてください」
エレイラの告げた事実上の命令に対し、逆らえる者などいるはずもなく。
こうして冒険者たちは『傍観者』から、『脇役』へと役割を変えさせられた。
「『依頼』を一つお願いします!」
「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」」
大きな建物の中にエレイラの言の刃が響き渡る。だがそれに応える声はなく。建物の中にいた者は、誰もが呆然としていた。
「返事がありませんね。こういう時は〔どのような内容の依頼ですか?〕と尋ねるべきでしょう」
「っ!?」「・・・ッ`:+;」「・・・、ッ!・・・・・」
エレイラの言葉に受付嬢たちが硬直する。モラッドの街を引っかき回すC.V.エレイラが、大勢を引き連れて来訪し。そのうちの数人は罪人あつかいで拘束されているというありさま。
そんな集団を率いるエレイラから依頼が出されるのだ。どう考えても厄介事の受付を、ギルド職員たちは互いに譲り押しつけあっていた。
そんな『冒険者ギルド』は依頼人からクエストを受けて、冒険者たちに仕事を斡旋する組織の拠点だ。
もっともC.V.たちからは・・・
〔右から左に依頼を取り次ぎ。依頼料を“中抜き”するだけ〕
〔暴行亜人を放置して、邪な妄想にいそしむ異常性癖の巣窟でしょう〕
〔冒険者にペナルティーを課す。だけど冒険者の“ヤラカシ”は知らんぷりの二重基準の集団〕
〔だからと言って潰したら、困ったことになる。厄介な連中だよね~〕
こんな感じの組織として認識されている。武闘派のC.V.からはバカにされており。
エレイラのような財務・支援担当のC.V.からは〔もう少しやりようがある〕と視られている。
そして本日、その〔やりよう〕が示されるのだ。
「どのような御用でしょう、代官のエレイラ様。よろしければこちらの依頼書に、内容を記載なさってください」
「あら、よろしいのですか?」
「・・何がで、ございましょう」
元商人たちが後ろ手に縛られ、数珠つなぎに連行されている。連中をけっして見ないようにしながら、受付嬢が尋ねてくる。
「少し大きな依頼になります。そのため最初からギルドマスターに話をしたいのですが」
「あいにくギルドマスターは多忙でございます。お話はまず私が伺ってから・・・」
立派な態度の受付嬢だ。礼節を守りながら、毅然とした態度で応対する。冒険者ギルドにも誠実な人物がいるということだろう。きっと普段の業務も真摯に行っているに違いない。
だからエレイラは少しばかり現実を告げた。
「そうですか。真面目に商売にいそしんでいる者の中で不心得者がおり。そういう連中があろうことか、冒険者の・・」
「少々、お待ちくださいエレイラ様!大至急、ギルマスを連行してまいります!」
勘のいい受付嬢が瞬時に席を立つ。そうして疾風の速さで責任者を引きずり出した。
「それで依頼とは、どのような内容でございましょう」
「借金で身を持ち崩した冒険者が、盗賊ギルドの私兵と化している。あるいは詐欺の細工がされた契約書で、家族ごと破滅させられている。
それを防ぐために冒険者『ギルド』にはサポートをお願いしたい」
冒険者ギルドの最奥、ギルドマスターの部屋でエレイラはギルマスのモンブルと相対していた。
「〔サポートをお願いしたい〕と言われましても・・・。冒険者は自由な生き物です。
ギルドでその個人の事情に干渉するのはいかがなものかと」
「戯れ言はけっこうです。私が知らないとでも思っているのですか?」
信用などあるはずもない。どこで野垂れ死にして、借金が返済できなくなるか知れたものではない。そんな新米冒険者が借金をできる。その理由は善意・商売人の道義などではない。
冒険者ギルドが戦力を保有するため。有望な冒険者を借金で縛り、コントロールするためだ。
〔冒険者は自由にどこにでも行ける〕・・・などと言われているが。“賊”・モンスターの脅威があるこの世界において、そんなことは不可能だ。
城砦を守る兵が常にいるのと同様に。冒険者ギルドの各支部には、一定の冒険者がいる必要がある。そうでなければ強い怪物・横暴な権力に対抗できない。
〔儲かる狩り場に行きます〕などと言って、冒険者たちが移動すれば。戦力の無い仲介屋は他勢力の食い物にされてしまう。
「私も『戦争種族C.V.』として作戦を提案します。ある程度なら必要悪として『借金による束縛』もやむを得ないでしょう。
しかしそれにも限度があります。不要と判断した冒険者を、借金漬けにして切り捨てる。
“悪徳の都”に事実上の奴隷として、売り飛ばしていた疑いがあります」
「何を言う!しょ・:」
「〔証拠があるのか?〕などと言わないでください。私は元“悪徳の都”を一夜で陥落させたイリス様にお仕える者。
証拠に加えて証人も取り寄せることができます。余計な手間をかけさせないでください」
「・・・・・ッ」
エレイラの高圧的なもの言いに、モンブルの表情が歪む。だが盗賊ギルドに屈し、冒険者を売り渡していた。冒険者ギルドを存続させるためとはいえ。冒険者を裏切っていたギルマスを信用するほど、エレイラはおめでたくない。
「やはり無理だっ!(冒険者)ギルドの通常業務だけでも必死にこなしているのに。
冒険者たちの借金について、相談を受けるなんて。どう考えてもギルド職員たちの手に余る!」
「そうでしょうか?冒険者の生き血をすすり、後ろから刺していた。
冒険者たちの個人情報を盗賊ギルドに売り。散々、甘い汁を吸ってきたギルド職員なら、もっとガンバレルはずでしょう」
「ふざけるなっ!ギルドの職員にそんな不届き者はいない!」
確かに今いるギルド職員たちに不届き者はいない。
しかし昔は盗賊ギルドに情報を流していたギルドスタッフがおり。貴族や大手クランとグルになって、自由に冒険していた者を罠にはめていた。
都市ウァーテルがイリス様に占領された際に、連中は姿を消したが。
〔彼らは他所に異動しました。私たちは知りません〕などという寝言で納得できるはずがない。
〔『怪火の硬貨』/潰そうか〕
「ッ⁉」
エレイラは『幻影コイン』を造りつつ、並列して殺気の焔を放つ。
〔罠にはめられた冒険者の無念。帰らない冒険者を待ち続ける家族の悲哀。そして賊の飼い犬と化した元冒険者に、殺された同胞C.V.の憎しみ〕
「‥!^:*;、!+⁉!!!」
ただし『幻影コイン』を投影するのは、会談を行っているこの部屋ではない。
元冒険者であるモンブルが察知できるギリギリの範囲をなでるように。調度品の影・窓枠の端を『怪火の硬貨』が走り、廊下で魔力の欠片が擦過音を奏でる。
そうやってモンブルの神経・感覚の先端を逆なでするよう『フォービィーコイン』を展開しつつ。
エレイラは妖気をギルマスの眼前で放つ。『不審な気配』を警戒するため、モンブルが五感を酷使するよう誘導しつつ。
その心臓をえぐり焼くイメージで、怨念混じりの邪気を放った。
〔このギルド支部を理不尽に焼けば、ギルド本部も理不尽を理解する。哀れなギルド職員を炙り焦がし、焼き殺せば・・・〕
「ヒィッ・・⁉待て、待ってくれ‼本当に今のスタッフは知らないんだ。信じてくれっ!」
『威圧』とは異なる手段で、心身に過負荷をかけられ。小者がそれに抗えるはずもなかった。
「仕方ないですね。ギルドによる『借金相談』は、必要な技能・ノウハウをスタッフが修得してから(将来、必ず)行ってもらいましょう」
「・・・・・・・・・・・ッ」
「当座は冒険者が借金をしないようサポートに徹してもらう。
懐の寂しい冒険者に、食事・消耗品を格安で提供する。その他各種、サービスを行う程度で、今日のところは我慢しましょう」
「承知いたしました。それでは早速・・・」
この場を逃げるように、モンブルはサポートに必要な準備にとりかかろうとする。
そんな小物にエレイラは穏やかに告げた。
「それと現在、私は『宝探し競技』を開催しています。ルール変更に伴い、雑務が増えました。
冒険者ギルドにはその支援も、協力をお願いするでしょう」
「・・・・・・・・・・ヨロコンデ、手伝わせていただきます」
無論、屈したギルマスに拒否権などあるはずがなかった。
二大神格の化身が連結した『双魚座』。そんな星座の力を使うキャラがいたら、他の『黄道十三星座』との実力バランスが崩壊するでしょう。
ギリシャ神話のとおり『テュポーン』から逃げるため、二柱の神は力を封印して魚に化身した。だから『ピスケス』の星鎧は植物・怪亜人は水の拳をふるう。とても深いお考えだと思います。
とはいえせっかく『双魚座』の『リボン』が気になったので、少しだけ想像してみました。
多神教でも異なる神々は争うもの。〔ゼウスに下剋上を挑んだアポロン〕〔女王神ヘラの姫君たちへの嫉妬〕〔アテナvsポセイドン/アレス〕他にも神々の争いをあげたらきりがないでしょう。
それなのに『リボン』で互いの身体を結ぶのは、深いつながりがある。不埒な邪推ではなく。〔迫害・災害に耐えるため協力した〕という絆イコール『ピスケスのリボン』と考えると。
世界でも稀な『神具』のリボンであり。『黄道十三星座』の中でも、かなり重要な位置を占める。“目立たない星座”というイメージを、ひっくり返すポテンシャルがあると愚考します。




