184.今昔:怪火と借用書
『双魚座』それは『ヴィーナス』と『エロース』の二大神格が変身したのに加え。リボンでお互いを結び、深いつながりをもった。極めて珍しい星座です。
神獣・モンスターで同様なことはありえず。『創世』かそれに近い神話で、『夫婦神』なら似たような『結びつき』がある。〔『死』が間近で、『性』に寛容な神話ならあり得る?〕というエピソードでしょう。
もっとも日本では幼子の『キューピット』が主流ですが。『エロース』は青年の姿を持つ、『ヴィーナス』の養子?の神という面もあり。
メジャーな二大神格が深く結びついた『双魚神獣』は異様とはいえ。リボンは二大神の同盟・信者の交流を示すものであり。昼ドラ・スキャンダルな星座が輝いているわけではないと考えます。
『宝探し競技』のルールを変更する。失格にした上位の冒険者たちに敗者復活戦を行うため。
エレイラは既に行われた『宝探し競技』において、高ポイントを得ている冒険者を懐柔する。事実上の“競技やり直し”に等しい無体を、彼らに認めさせねばならず。
そのために安易な暴力・買収を行うのは論外だ。そんなことをすれば今後、神聖な『契約』も暴力・買収でねじ曲げられる。そんな先例・イメージを作るわけにはいかない。
エレイラとしては冒険者たちに〔どうぞルール変更をしてください〕と言いたくなる。そうなるよう説得するか。もしくは屈服させて、言いなりにしたいところだ。
その前段階として、金貸しを集め。エレイラは少額の借金を肩代わりする。
〔借金を請求し、取り立てる〕権利とは逆のモノ。少額とはいえ〔借金を取り立てられる〕という負債を抱え込み。『速読術』『高速演算』を併用して借用書を適切に処理していく。
ただしエレイラが許容できる商いを行っている『金貸し』だけだ。
C.V.勢力に税金を納める。経済をまわし利益をもたらす民草を食い物にする詐欺師連中には、別の役目を担ってもらう。
「あの~、エレイラ様。私たちは何故、呼び出されたのでしょうか?」
「『宝探し競技』に関して、大事なお話があるということですが」
「そもそも演劇を見せて下さると言われても。舞台も役者も見当たりません」
「もう少しお待ちください(『フォービィーコイン』)」
質問を重ねる冒険者たちの口調は丁寧で落ち着いており。少なくとも表面上は、エレイラに敵対する意思は見られない。冒険者としては穏健なのだろう。
彼らは冒険者としては中堅であり、臆病なくらいに慎重だった。
そうしてトレジャーハンター気分の上級冒険者たちが互いに相争い。『参加証』がわりの『ルビー』を隠した、エレイラの所有物件を破壊してしまい。
トップ冒険者が失格したために、『宝探し競技』の情報を知り。高ポイントを得て、『競技』の上位ランカーとなっている。
「「「・・・・・」」」
〔だけどそれを素直に喜べない。喜べるほどお気楽な性格・状況ではないようですね〕
冒険者の考えとして〔実力で勝ち取ったランクではない。未知のルールで評価ポイントが転がり込んできた〕というのもあるだろうが。
最大の理由は上級冒険者は二重の面でタダではないからだろう。
彼らに依頼した商人たちは少なからず支度金を払っており。その競走獣が上位争いを行うどころか“失格”を宣告された。これで〔健闘を称える。以前と同じ関係を維持できる〕などという甘い話が、あるはずがない。
もう一つは上級冒険者が“情報詐欺”にあっていることだ。彼らは『宝探し競技』の情報を集めるべく、『情報料』を払ったが。エレイラは知力・知識で戦うC.V.であり、あのイセリナのパーティーメンバーだ。“盗賊”・商人と情報戦を行うエレイラが、冒険者の片手間な情報収集に後れを取る失敗はしない。
それなのに経験豊富な冒険者が、〔空き屋で『ルビー』探しを始めた〕のは奇異な話だ。エレイラは〔『ルビー』が参加証になります。それを探してください〕などとルール説明した覚えはない。(178話怪火の狂宴)それなのに勝手に冒険者たちが動きだしたのは、偽情報に踊らされた可能性が高い。
〔そうなると自暴自棄になった。もしくは騙され続けた格上の冒険者から圧力をかけられる。もしくは彼らの依頼主だった商会からも不本意な要求をされている〕
現在の『宝探し競技』で優勢な冒険者たちは、冒険者生命の危機に瀕している。これで幸運?を喜べるはずがない。エレイラたち政経に携わるC.V.にとって『穏健』は立派な評価対象なのだが。それを言っても状況を悪化させるだけだろう。
ならば彼らには『ヒーロー』になってもらい。円満に『宝探し競技』のルール変更を行おう。
そのためにエレイラは言の刃をふるう。
「それでは借金の契約書を見せてください」
エレイラは商人に対して言ったのと同じ内容を、性悪な“高利貸し”たちにも命じる。それに対し、連中はためらいつつも借用書を護衛のシャドウに渡し。
「冒険者の皆さん。まずは契約書を確認してください」
「「「「「・・・・・?ハイっ」」」」」
それをエレイラは受け取らず、まずは呼び寄せた冒険者たちに確認させる。予想外の命令に、彼らは首をかしげつつ従い。
「確認しました」「問題ありません」「こちらもです」「「・・・」」
そんな問題大ありの返答をしてくる。彼らの借金は『複利』計算であり。利息が元金に加算され、雪だるましきに借金が増えていく『重利』と言われるものだ。
しかし計算も法律も知らない。読み書きができれば御の字という冒険者たちは、そのことに気付けず認識できない。
この場に集まった冒険者はパーティーの頭脳派なのだろうが。彼らがこの返答では、他のメンバーはおして知るべしだろう。
「どうやら〔問題無い〕ようで・・」「冒険者たちに書類を見せるとは、変わった趣味をっ・!」
そんな冒険者たちを内心で嘲笑しつつ、“高利貸し”が口を開く。
それをひとにらみで黙らせてから、エレイラは借用書を改めて受け取る。もとより彼女も冒険者が借金の罠に気付けるとは思っていない。それにサインをしてしまった以上、契約書は強制力を持つ。
ただ“借用書の控え”があるかを確認する。冒険者たちが契約書の『二枚目』を保管しているか、念を入れて調べたかった。そして案の定、弱者を食いつぶす連中しか『契約書』をもっていない。
〔だったら容赦する必要はありませんね『怪火の硬貨』〕
魔術能力を発動。そして契約書・インクを『核』にして『コインの幻影』を造り。『核』となった契約書の紙・インクを解析していく。
五感を惑わす『幻影』を造る場合、いくつかの方法がある。メジャーなのは魔術で画板・スクリーンを作り。それに『幻像』を投影しつつ、『催眠』で自他を『幻の世界』引きずり込む・・・と思わせる術理だろうか。
しかしエレイラの場合、『幻影コイン』に熱量・仮初めの重量をもたせる。被術者の『触覚』をも惑わしたい。
そのため『核』となる物体を定め、それに『幻影の殻』を被せて『フォービィーコイン』を発動する。そうして被術者が感知・解析を行うのに応じて、『核』をもつ『幻影コイン』に魔力で熱量・重量を付与する。
そういう術理のため『核』と定めた物体をある程度、分析できる。今回は契約書とインクの鑑定を行い。
「ずいぶんと私をバカにしたモノを見せてくれますね」
「なっ!?」
「これが契約書ですか。贋作作りの初歩ですらない。こんな小細工が通用するとでも?」
「言ってる意味がわかりませんな。これは正式な契や・・」
戯れ言を吐き出す詐欺師の前で、契約書を全員が見えるようシャドウたちに持たせる。そうしてわかりやすく〔『付与魔術』を使っている〕とアピールするための呪文を、エレイラは唱えた。
『怪火よ灯れ 惑いて戻り 物欲の泥で硬貨を造れ!
銅貨は台座へ 銀貨は音叉に 金貨は裁きの鎚と成り マヤカシの火で虚偽を炙れ
フォービィースキャン!』
実際は『フォービィーコイン』のアレンジを、それらしく『スキャン』と言い換えたもの。
だが呪文を耳にした、部屋にいる者たちはその詳細などわからず。エレイラの詠唱で半端な理解を得た、彼らの思考が『フォービィーコイン』を観測していく。
怪火で炙られた“モノ”を真実と錯覚し、思い込んでしまう。その結果・・・
「なんだっ!?契約書のサインがはがれ落ちたぞ・・!??」
最も安っぽい小細工が露わになる。厚みのある紙で契約書を作り。サインを記す箇所を『呪符化』してはがせるようにしておく。そうしたらサインを別な契約書に張り直し。その不当な契約書で取り立てを行う。
その『呪符』が再びはがれ落ちた。
「こっちは契約書の文字が浮かび上がって・・何だっ?文字が消えたり、現れたりしている・・」
〔・・・コイツらは燃やしましょう。一匹も逃がさない〕
特殊なインクで記し、契約書の内容を自在に変える。契約書のチェックをすれば、異常に気付きそうなものだが。書類に馴れてない。“控えの契約書”を持っていない冒険者には充分、通用するペテンだ。
まして“冒険者たちが死亡すれば”残された家族が契約書の詳細を知る術など無いわけで。
たとえ“借金を払えなければ、家族を奴隷にします”と追記されても、それを否定するのは不可能に近い。
「ハハッ・・困った連中ですなぁ。契約書に細工するなど言語道断です。商人とし*;+:`ッ」
「無礼者っ。誰がその汚い口を開いていいと言った?」
「もっ、申しわげ*`ギィ;+・・--」
唯一、魔術の反応が出なかった契約書。それを持っていた“高利貸し”がシャドウの連撃でめった打ちにされる。その契約書は新しいインクの匂いが漂い。その痕跡を消す小細工は、美術に疎いシャドウでも異常を判別できた。
『双魚座』の神話。二大神格が連結したことに比べれば些事ですが。少しだけ珍しいことがあります。
それは『双魚座』が『川』にまつわる神話であること。『ヴィーナス』誕生の神話によれば、〔『美の女神』は海の泡から生まれた〕とあり。『川』を泳ぐ魚になるのは珍しいな~と思います。
鮭やウナギならともかく。『海↔川』を移動する。海/川に関係の深い神様・妖怪でどちらにも登場するのは変わっていると愚考します。
日本で言えば『海坊主』が湖に出現し。『ナマズ』が海で釣れた感じでしょうか?
『水龍神』なら海・川の両方で祀られますが。河川・湖では『蛇』系の龍神で、海のほうは自然現象が『龍』と化した。そんな感じで同系統の『龍神』が海川を行き来しているわけではないと推測します。
もっともギリシャの神が、ユーフラテス川に登場している。そんな『双魚座』の神話は、色々と私の理解の範疇を超えていますが。




