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182.今昔:怪火の競技

昔の日本人は、『肉食』を忌避していました。そういう人々にとって、肉食をする獣はみんな『妖怪』に見えた。『キツネ』は有名ですが、『テン』『イタチ』に『カワウソ』も人を化かす妖怪あつかいしたと愚考します。

 〔アフリカの猛獣が獲物を食べている〕そういう番組を見慣れている現代人が、先祖・・に“迷信にとらわれている”と言うのは簡単ですが。〔肉食を忌避していた習慣〕を考慮すべきではないでしょうか。


 それに日本で肉食獣を『妖怪』あつかいしたのは、メリットが大きいと愚考します。まず安易に獣に手を出し、その爪牙で傷つけられたら。『破傷風』にかかり、苦しみぬいて病死することになります。


 現代なら治療法もありますが。大昔の医術・迷信では『破傷風』は死病どころか、『呪い』あつかいであり。他にも獣からヒトに感染する病があれば、大惨事になりかねません。

 その原因である獣とは、距離をおく必要があったと愚考します。

 C.V.エレイラとドンケル衛士長が会談をしている最中。

 “魔術師ギルド”が押しかけて来たあげく。〔『虹焰結界』をよこせ〕と慇懃無礼な態度で、エレイラに要求してくる。


 そんな連中を“無礼討ち”“門前払い(たたきのめす)”することなど造作もない。だがエレイラは『剣舞』と『怪火の硬貨(フォービィーコイン)』を併用した『舞踊』を見せる。

 さらに『舞踊』が『宝探し競技』における謎解きのヒントであることを伝え。既に開催されている『宝探し競技』への参加を、彼女は魔術師ギルドのメンバーに打診する。


 そうして彼らはエレイラの言葉を受け入れてしまった。




 その数日前・・・


 「頼むぞ〈銀翼竜〉!何としても『宝探し競技』で優勝してくれ!」


 「誰に言っている」「オレたちはベテランだ。任せておけ!」

 「あんたは報酬の心配だけをしていればいい」


 大店の商人が、冒険者パーティーに競技への参加を依頼していた。


 この『宝探し競技』は権力者であるC.V.エレイラ様の取り引き相手を決める。しかも『大商い』のパートナーを決める、大事なものだ。


 しかもパーティーで披露された、『剣舞』『魔術能力フォービィーコイン』を併せた『舞踊』で、宝のヒントが提示されたとのこと。

 パーティーに参加し、その大事な『舞踊』を目の当たりにしたにもかかわらず。


 〔酒が入ってヒントの『舞踊』を観ていませんでした〕

 〔他の商会は真剣に観ていましたが、当店は記憶にございません〕


 事実上、こんなことを言っているに等しくなる。『宝探し競技』で結果を出せなければどうなるか。

 厄介な客、商売敵はもちろんのこと。商会の部下たちにまで白い目で見られてしまう。


 「ア・ナ・タ。まだエレイラ様の『舞踊』を思い出せませんの?」


 「今、思い出そうと精神集中している___」


 「ガンバッテくださいね。期待していますわ」


 何より妻の圧力がひどい。素人が『舞踊』を記憶し、さらにヒントを見出すことなど不可能だ。

 それなのに妻が商会主カクウエの自分に圧力をかけてくる。


 この状態に大店の主たちは金を惜しまず、冒険者パーティーを雇い。






 「冒険者パーティー〈銀翼竜〉。アナタたちに“失格”を宣告します」


 「「「「・・・・・ッ」」」」「何故だぁー~~!!!」


 次々と『宝探し競技』から脱落していた。手玉にとられ、翻弄ほんろうされていた。



 少し頭の回る者たちは、観てもいない『舞踊』からヒントを得ることを早々に断念し。あらん限りのコネを使って『宝探し競技』の情報をかき集め。

 そうして〔モラッドの街にある廃屋・空き屋から、『参加資格』となる『紅石ルビー』を探し出す必要がある〕というルールを知った。


 そして苦労の末、『ルビー』を入手するも。


 「〔他人に迷惑をかけない〕というルールを知らないのか?」


 「『宝探し競技』では特にそのことを強調し伝えている」


 「よって『ルビー』をめぐって私闘を行う。空き屋を損壊するなど論外であり。周囲に不穏な空気をばらまく戦闘行為は“失格”だ」


 「「「「「そんなっ・・・!」」」」」


 審判役のシャドウたちが行う宣言に、あちこちで冒険者の悲鳴があがった。


 「そもそも『宝探し競技』を行うにあたって、この空き屋はエレイラ様が購入している。その持ち物を傷をつけるなど許されない」


 「まして『宝探し競技』が周囲の建物・住民をまきこみ、被害を与える。そんな“狂宴”あつかいされては、エレイラ様のお顔に泥を塗ることになるだろう」


 「そんなことを言ったら、冒険者たちがカワイソウだろう。


  きっと雇い主の商人が〔面子にかけて、手段を選ばず勝利しろ〕と言ったのだから。必死にガンバッテ、勝利をもぎ取ろうとしたんだよな?」


 「そうです。その通りです!」

 「オレは悪くない。悪いのは『ルビー』を横取りしようとした、あいつらだ!」

 「なんだと、貴様らの方こそ・・・」


 この期に及んで、冒険者たちは醜い争いを続ける。そんな彼らにシャドウは笑顔で告げた。


 「冒険者パーティーの銀翼竜、ブレイザーの双方とも失格!」




 


 そして現在・・・


 「このままじゃ俺たちのメンツは丸つぶれだ!」

 「魔女めがっ、冒険者をなめるんじゃねぇ!」

 「やってやる、やってやるぞ!」


 大口をたたいて、『宝探し競技』で結果を出せなかった。優勝・好成績とかいう以前に、失格を宣告された冒険者たち。彼らは雇い主からののしられ。冒険者ギルドや酒場では、同業者に嘲笑あざわらわれてしまい。


 モラッドの街から離れる決断をしていた。居場所がなくなり、夜逃げするとも言う。


 「だがこのままじゃ、すまさねぇ。仕返しに『宝探し競技』を滅茶苦茶にしてやる!」


 「我々も協力を惜しまない。徹底的にやってくれ!」


 そしてそんな冒険者ゴロツキパーティーに賛同するものたちがいた。


 魔術師ギルド。気位ばかり高い魔術師の集団であり。エレイラに『宝探し競技』のヒントとなる『舞踊』を、特別に披露された者たちだ。


 もっとも『舞踊』がヒントとして活きるのは〔本戦が始まってから〕であり。魔術師ギルドのメンバーも、雇われ冒険者ゴロツキと同様に『参加資格』の『ルビー』を探す必要がある。

 

 正確には競技に参加した日時が遅いため、魔術師ギルドは不利な条件で『ルビー』を探さねばならず。

 結局、空き家の探索(正規の方法)で『ルビー』を得られなかった。そのため連中は『ルビー』を他者から奪う。さらにそれをもとに“偽物”を作るという手段で『参加資格』を得ようと試み。


 その結果、全員が『失格』を宣告されていた。プライドの高い連中に下された、『失格』という不名誉の“烙印”。彼らはそのルールが支配するゲーム盤をひっくり返し、屈辱の“烙印”をなかったことにすべく動きだす。



  しかしそれが為されることはなかった。


 「「「「ッ!」」」」」


 アジトの扉が激しくたたかれる。取り締まり・敵襲かと緊張するメンバーの前に、斥候職のメンバーが転がり込んできた。


 「大変だ・・急げっ!!」


 「いったいどうした?このアジトが探し当てられ・・」


 「違うっ!ルールが変わった。『宝探し競技』のルールが変えられたんだっ!!」


 「ハアッ!?」




 〔このたび『宝探し競技』のルールを大幅に変更いたします。それに伴い『敗者復活』の競技を行います。


  そもそも『宝探し競技』はエレイラが行う大商いのパートナーを決めるためのもの。伝説の怪盗のように、器物破損を行い遺跡崩壊を誘発する。狂宴パニック騒動トラブルを催すためのものではありません。


 そのため私闘を禁じる【人に迷惑をかけない】というルールを設けたのですが。『トレジャーハンター』の方々にとって、私闘は行って当然のことであり。それを禁じるルール設定が甘かったと、と判断せざるを得ません。


 そこで商会の方々と協議した結果。金主スポンサーとなってくださる商人、およびその商家が雇った冒険者パーティーで『敗者復活』を行います。


 内容はコイン・ダイスを使っての各種ゲーム。競走・重量あげや拳闘など、知勇が必要な競技に加え。その結果を予想するギャンブルを・・・〕




 「急げーーー!こんなことをしている場合じゃねぇ!!」


 「えっ、あのっ・・襲撃っ」


 「知らん。“襲撃”なんぞ【人に迷惑をかける】イケナイことだろう」


 「そもそもキサマ等は誰だ?会ったこともねえ・・・じゃ薄情すぎるか。


  てめえ等も短気で嫌がらせをするなんて、間違っている。

  俺たちはこの『敗者復活』に賭けるぞ!」


 「「「「オオーー!!!」」」」


 雄叫びをあげて冒険者たちが去って行く。彼らからすれば、危険をおかして“嫌がらせ”をするより。『敗者復活』で信用を取り戻す。依頼人である商人と交渉したほうが、はるかに得だ。


 それにエレイラが『冒険者』のさがを理解を示し。『参加資格』に『ルビー』をばらまいたことは期待がもてる。

 聞いたことのない『参加資格ルビー』をばらまくC.V.(エレイラ)はどれほどお宝を持っているのだろう。こいつと意地でケンカするなどバカのすることであり。


 しっかり『謝罪』したのも高評価だ。


 かくして冒険者パーティー『銀翼竜』は『宝探し競技』へと再挑戦する。まずは元依頼主の商人と交渉して・・・・・。『ルール』も今度はしっかり確認する。というか質問攻めにして、二度と失態を演じないようにしなければ。




 こうして『銀翼竜』は魔術師ギルドのメンバーを置き去りにして。『敗者復活』という冒険に挑んだ。

 しかし近代、その距離が『ニホンカワウソ』を絶滅させた一因だと思うのです。


 『きつね』『いたち』に『てん』と『蛇』。これらの肉食生物は『ネズミ』を食べる。輸入で食料を得られない時代において、農作物を荒らすネズミを食べてくれる『守り神』であり。ネズミの天敵・捕食者(キツネ・ヘビほか)を傷つけることは、“不作にして餓死者を増やす”暴挙でしょう。


 そのためこれらの肉食獣を、無闇に狩ることは制限がかかった。

 〔妖怪を傷つけると祟られる〕〔神の遣いを害するとは何事か!〕という迷信が、安易な獣狩りを止めたと愚考します。


 しかし魚を主食とする『カワウソ』はネズミを襲わず。人と距離があるため、“絶滅”させられたと推測します。

 もっとも現代でもネズミを狩る『フクロウ』を、考えなしに殺し。大事な『樹』が増えたネズミにかじられ、えらいことになった人々がいるとか。その人たちは後日、フォローしたとのことですが。


 先祖の迷信を安易に笑わないよう。〔現代人がいつも正しい〕などと安直に考えないよう、肝に銘じます。

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