179.今昔:怪火の布石
妖怪の『カワウソ』について書きたかったのですが。勘違いがひどすぎなので、設定の説明に換えました。明日、改めて書き直します。
『虹属性』について
『虹属性』を端的に言うなら『器用貧乏』となる。魔術の基本属性は『地水火風・光・闇』の六種類であり。『虹属性』は『地水火風』の四大と『光・闇』双極のどちらか一つを認識できる。五種類の属性を併せもつ『複合属性』だ。
ただし致命的に『魔力量』が足りない。それも魔術を使う『魔力量』だけではなく。『感知』に必要な神経系・メンタルの強じんさにも欠ける。
そのため“蝶・花や人形”に例えられ。〔人間に最も敗北するC.V.〕と揶揄されることすらある。
なお修行・魔術儀式などの後天的理由で属性が増え。一種類の属性魔力が増加した『虹属性』は、以下のように呼ばれる。
地→虹石・水→虹泉・火→虹焰・風→虹旋・光→輝虹・闇→黒虹
もっとも魔力が増加したと言っても、あくまで人間レベルであり。C.V.レベルでの魔力量は、底辺をどうにか脱却したという程度だ。
〔『宝探し競技』で最も功績を挙げた者を後援した商店を、大商いのパートナーとする〕
C.V.エレイラはこんな宣言を行ったあげく。商人たちを集めた『宴』において、『怪火の硬貨』を発動しながら『剣舞を舞い。〔剣舞は『宝探し』の【ヒント】です〕などと言い出す。
それにより商人たちは否応なく『宝探し競技』に巻き込まれた。
〔権力者の舞った剣舞をまじめに見ていない。だから【ヒント】はわからない〕
〔家族・店員が『宝探し競技』に期待しているけど、知ったことではない〕
こんなことを言えるはずも無く。そもそも金蔵に金銀の含有量が少ない“悪貨”が貯められ、それをエレイラに抑えられている。この現状で、商人たちに選択肢などあるはずも無かった。
かくして商人たちの後援・依頼が出され『宝探し競技』が始まり。街中の冒険者・シーフを巻き込んでの『狂宴』がはじまった。
そんなモラッドの住人たちを尻目に、エレイラはある場所を訪れる。
「てめえはっ・・こんな所に何のようだ!」
「このたびは私のワガママで、大変なご迷惑をおかけしました。そのお詫びに訪れた次第です」
エレイラが訪れた場所。それは街の治安を預かる、衛士長の家だった。その周りには衛士たちの家・集合住宅が建ち並び。ウワサの魔女C.V.が訪れたことに、戦々恐々となる。
「・・・都市ウァーテルの話は聞いている。この街でも同じことをする気か?」
悪徳の都ウァーテル。そこは門番との戦闘から始まり、たった一夜でC.V.勢力によって陥落させられた。
そのウワサは衛士・門番たちにとって恐怖の極みであり。衛士長ドンケルとして〔そんなことはしません〕という言質を気休めでもとりたいだろう。
「ウァーテルの盗賊集団に行ったようなことを、今後する予定はございません。アレは一線を越えたため、やむを得ず陥落させたのです。
もっともあんなに賊が弱いなどと、予想外でしたけど」
「・・・・・ッ」
「御安心ください。まじめに職責を果たしている、モラッドの衛士様たちに無体は行いませんので」
「そうか。その言葉を聞いて安心した」
悪徳の都ウァーテルに従属していたに等しい、モラッドの軍事力は低い。どう考えてもC.V.やシャドウに勝てるはずがないのだ。
エレイラの言葉に安堵の空気が広がる。怯えを覆い隠すための、虚勢に近い安堵だが。
「むしろ今回の『宝探し競技』のせいで、衛士の方々には負担をかけています。
お詫びの印として、このような物をお持ちしました」
「・・?見せてもらってもいいか?」
「どうぞ」
書類が一枚と布でくるまれた大きな箱が一つ。
袖の下としては見慣れない物に、衛士長は中味を確認する。
そうして書類を一目見て硬直した。
「これは、いったい・・・」
「正式な書類です。確認してください」
エレイラが持ってきた書類。その内容は〔給金の大幅な増額〕について記されていた。
その理由として『宝探し競技』に伴う、治安の悪化に対応するため。衛士の待遇・訓練内容を見直し、増加するであろう犯罪を取り締まる。
そのために〔給金の大幅な増額〕を行うと書類に記載されていた。
「無論、給金が上がっただけで〔馬車馬のように働け〕。
いきなり〔ヒーローになって盗賊狩りをしろ〕などと言う気はありません」
「なっ!?」
「装備の刷新に住居の改築。ご家族も含めた治療施設の拡充。
何より少しばかり給金が上がっても、物価が上がっては意味がありません。
まずはモラッドの街を安定させてから、着実に衛士の力を高めていきましょう」
「・・・衛士たちを私兵にする気なのか?」
街の治安を守る『衛士』。それは領主の私兵であり、街の鼻つまみ者だ。
〔騎士・冒険者と比べはるかに戦闘力に劣るものの。数と法の力で街の治安・秩序を守る〕
建前ではそうなっているが、そんなことは不可能だ。
貴族・権力者の手先となって、身分の低い者たちから搾取する。衛兵より組織力・諜報能力に優れた、各ギルドの顔色をうかがい。盗賊ギルドからワイロをもらって、奴等の横暴を見逃している。
最低限の治安を守るのがやっとであり。流れ者・飢え死にの瀬戸際で犯罪に走った、社会的な弱者を捕らえて点数稼ぎをする。
悪徳の都ウァーテルの勢力下で、盗賊ギルドと領主貴族の両方から搾取されていた都市群。モラッドに限らず、周辺の街で活動する『衛兵』の存在とはそんなモノである。
「当分の間はそうするしかないですね。
とはいえ悪徳都市が幅をきかせる中で、モラッドの衛士たちは仕事をしていたとリーダーは判断しました。悪いようにしませんし、将来的には自立してもらいます」
悪質な奴隷商人に協力しない。ケンカを放置したり、一方に加担しない。衛兵がそうするだけで、街の治安は劇的に明暗が分かれる。
ケンカに勝って味をしめたゴロツキは、次に強請りタカリを行い。ケンカに負けて負傷した者は、その隙をつかれてチンピラの餌食になる。
それを防ぐ働きをモラッドの衛士たちは行っており。エレイラは期間限定で『私兵』にする価値ありと判断した。
「オレたちに選択肢はないか。この増えた給金の分は働け。
増えた給金以下のワイロを受け取るな・・・ということだな」
「そんなことは言いません。下手にワイロを拒否したら、危ない連中が何をするか知れたものではないですから。急激な変化はリスクを伴いますし」
「・・・??ワイロを受け取ってもかまわないと?」
「はい。私たちC.V.は戦争種族です。ワイロを交えての駆け引きも戦の一つと考えます」
そう言って微笑むエレイラに、ドンケルは引きつった笑みを返し。
「ただ今回、企画した商売に協力してほしい。それも身元のしっかりした、衛士のご家族に協力していただきたいのです」
「キサマぁ・・・」
ドンケルはすごむも、C.V.エレイラと書類に逆らえるはずも無く。
こうしてモラッドの街への『侵略』が、本格的に開始された。
「いいか、てめぇら。ぬかるんじゃねぇぞ!」
「へいっ、お頭!」「一撃離脱。それだけでいいんだ・・」「やってやる、やってやるぞ・・・」
モラッドの街をつなぐ街道の一つ。そこを見下ろす山あいに、数十人の盗賊が待ち伏せをしていた。
その表情に落ち着きはなく。不本意で馴れない山賊稼業をやるはめになった、現状に不満を抱いていた。同時にその仮面で恐怖を押し隠そうと試み、失敗していた。
そんな不甲斐ない配下たちに、シーフロードは改めて行うべきことを告げる。
「もう一度言っておくぞ。別に〔積み荷を奪え〕〔護衛ごと隊商を皆殺しにしろ〕と言ってるわけじゃねぇ。
オレたちがやるべきことは〔積み荷を切り裂き、中味を街道にぶちまける〕
それだけでシーフギルドから報酬が出る」
「「「「「・・・・・」」」」」
「護衛の奴等は〔積み荷を奪われる〕と思い込んで戦うだろう。
その隙をついて、奴等を出し抜いてやれ!」
「「「「「オオッ!!」」」」」
シーフロードの言葉に、やっと配下の盗賊たちが気勢をあげる。当然、シーフギルドの思惑を尋ねる愚か者はいない。下っ端が好奇心を抱いても、口封じで消されるだけだ。
もっとも積み荷が金銀の含有量が低い“悪貨”だと知れば、どうなることやら。“悪貨”の存在を知らしめ、モラッド商人の信用をおとしめる。そうすることで商人たちに接近しているC.V.の流言を広めるとのことだが・・・
「来ました。標的の馬車ですっ!」
「来たかっ。全員、戦闘準備!」
標的が接近したという知らせに、シーフロードは号令をかける。その声に従い、配下たちは弓に矢をつがえ。脚に自信がある者は、肉食獣のように腰を低くして力をためた。
「行くぞっ!」
「「「「「おおっ!!」」」」」
矢が放たれ、その下をシーフたちが駆けていく。それに気付いた、護衛が〔敵襲〕の叫びをあげ。
『『『旋風閃!』』』
言の葉が響き、護衛三人の姿がかき消えた。同時にシーフロードの背筋に冷たいものがはしり。
「なあっ!?」「ぶべっ・・」「ぎっ!?」「バカなっ・・いつの間にこんなっ!?」「ゴッ!?」
先陣を切った盗賊たちが、そろって転倒する。
その原因は足下にはられた一本のロープのせいだろうか。襲撃場所を確認したときには確かになかった。待ち伏せしながら見ていた場所に、突然ロープが現れはられ。それが血気盛んなシーフたちに転倒を強いる。
『『『走踏』』』
「「「「「・・;^*・・!?」」」」」
そして瞬きする間もなく殺された。身体強化・高速機動を行うシャドウ。その靴先が転倒した部下たちの間を走り抜け。『鉈』の傷を刻み、シーフたちを永久に起き上がれなくする。
「キサマ等っ、ウワサに聞く魔女の手下かっ!」
「だとしたら、どうする?『罠』も見破れない、マヌケ盗賊」
「そのノロマな鈍亀の足で逃げてみるか?」
「よせよせ。盗賊ギルドに捨て駒にされた連中だぞ。これ以上、なぶったらカワイソウだろう」
「「「「「・・・・・・・・・・ッ」」」」」
あげく残りの部下たちを愚弄し、挑発して、心をえぐってくる。その暴言に報復を誓うも。
視界の端では隊商の周りに『陽炎』がゆらめき、重装甲の馬車・騎士が正体を現していた。
〔死力を尽くしても、逃走・復讐のどちらも不可能だ〕その予感と確信が、交互にシーフロードの心を侵し。既に戦意を失った部下たちの胸中へと伝播していく。
『旋風閃!』
「あ、アア・・・カッ!?」
〔息ができない〕〔身体が宙に浮いている〕
その思考を最期に、シーフロードの意識は狩り取られた
『魔石』を配置した魔術陣で、魔力の焔を燃やす。そこから魔力の供給を受け、エレイラは地水火風・闇属性の術式五連を多重発動し。さらにそれらを組み合わせ、結界を構築していた。
「お忙しいところ失礼いたします」
「「失礼いたします」」
その詠唱が一段落したところに、シャドウ三名が現れる。シャドウを束ねる姫長の扇奈殿から、借り受けた3人一組みの班。山賊・盗賊狩りに出撃していた仮の部下が戻ってきて。
「報告いたします。御命令通り、賊は衛士に引き渡しました」
「傷を治療し、食事をとらせています」
「これで奴等の足並みが乱れれば、よいのですが・・・」
盗賊狩りのその後について、報告する。C.V.は原則として、盗賊・山賊の類はモンスターと同様に殲滅あるのみだ。
しかし今回は作戦のために生かして、治療まで行っている。その目的は盗賊ギルドの本部と、モラッド支部に『離間策』を仕掛けるため。本部のシーフは殲滅し、支部のシーフは捕虜として栄養のあるものを食べさせる。
そのためにエレイラはケンザ、キマリにトウヤのシャドウ三名に、シーフたちの捕縛を命じていた。そうして盗賊連中が寝返るなら、本当に部下にしてもいいとエレイラは思っている。
「奴等、暴言を吐いて注意を引きつつ、仲間に連絡をとろうとしています」
予想できていたことだが、彼らを従えるのは無理そうだ。
ならばせいぜい踊ってもらい、衛士たちを取り込む“駒”となってもらうおう。
そんなことを考えていたエレイラに、キマリが疑問を投げかけてくる。
「エレイラ様。質問をお許しいただけるでしょうか」
「いいわよ」
「何故、モラッドの衛士にそこまで肩入れをなさるのでしょう。税をとれる商人ならともかく、衛士にこの『結界』まで提供する必要があるのでしょうか?」
キマリの問いに他の2人もうなづく。シャドウたちにとって、衛士は武装役人にすぎず。いつ盗賊ギルドに寝返るか、知れたものではないのだろう。
そんなシャドウたちの疑問に、エレイラは丁寧に答える。
「まず商人たちには、既に破格の扱いをしている。踏み倒されるはずだった盗賊ギルドの支払いを、イセリナ師団長が代わりに払った。
これ以上の優遇は必要ない。この『結界』まで使わせたら“勘違い”してしまう」
モラッドの経済が破綻しないよう、行われた未払い金の肩代わり。それは事実上、商会の『買収』であり。商人にとって大事な『金蔵』を〔魔女C.V.に見せろ〕という命令・暴挙にも、彼らは従うしかない。
そしてモラッドの街を支配するため〔現在、構築している『結界』の恩恵は別の勢力が得るべき〕だ。エレイラはそう判断する。
「それでしたら兵士・騎士や冒険者でもよろしいのではないでしょうか。彼らの戦力は侮れません」
「確かに彼らの戦力は無視できないけど。商売を盛んにするのに必要な、治安の安定には役に立たないわ」
むしろ役に立たないどころか、“害悪”だとエレイラは考えている。その理由は単純に過剰戦力というのもあるが。
まず“略奪暴行”が戦術となっている兵士・騎士は論外だ。自分たちの拠点だから一見おとなしいだろうが。捜査が難航した場合、リスク計算をしないで“強硬策”に出る。“略奪暴行”を正義・任務として行う軍隊は、その馬脚が必ず現れる。
冒険者も同レベルだ。冒険者ギルドの依頼に『巡回警備』『治安維持』が無いのが、その証拠であり。『シティーアドベンチャー』などというものは“山賊・怪物の類が市内で野放し”にならなければ発生しない。
「冒険者が市内で活動しているだけで、治安状況を疑われてしまう。ごく一部の例外はあるけど、治安を良くして街を豊かにする。そのためには『衛士』に投資するのが最適よ」
どこかの国ではこれを“汚職”というのだろうが。ウァーテル周辺の文化圏で、ワイロは交渉術の一つにすぎない。よって外交担当のエレイラは“ワイロ”を忌避していられないのだ。
もっともエレイラはいつまでも、“賊”と同レベルの“袖の下”を渡す気はない。
「まあ見ていなさい。確かにこの『結界』は工作資金・貢ぎ物の一種だけど。“はした金”のワイロを一掃する『魔術兵器』でもある。
これが動きだしたら“故買屋”たちは血の海に沈むでしょうね」
「「「・・っハハァーーー!」」」
艶然と微笑むエレイラに、シャドウ3人が平伏する。そんな彼らにエレイラは『結界』の構築を手伝わせ。さらに『結界』の調整技術を教え込んだ。
『虹属性』を侮るモノ。それは道具をロクに使えず、知識を継承して発展させられない。
控えめに言って愚かな“蛮族”。はっきり言って“サル以下”である。
『虹属性』は多色を見て、認識できる。それは属性縛りのある大半のC.V.と違い、あらゆるマジックアイテムを使えるということだ。その中には魔力を増強・伝導する『指輪』『魔術陣』も多数存在しており。
『虹属性』の魔力不足を補うことなど造作もないことだ。
知識を“窃盗”し、発明者に敬意を払わない。知識の独占に執心して、まともな学舎が存在しない。そういう知識による発展より、不毛な争いが好きな種族の世界ならば。『虹属性』の魔力不足を補うことは困難だろう。
誇り高きC.V.をソウイウのと〔一緒にするな〕と言いたい。
さらに『虹属性』の進化として、『柴虹属性』が誕生した。彼女たちは『毒』を認識する。『霊薬』の材料となる『毒』を解析・記録する賢者であり。異郷・敵勢力による『毒殺』を防ぐ守護者を兼ねる。
『虹属性』それはC.V.ばかりか、世界に幸福をもたらす【希望の種】だ。
妹分のC.V.に“暴行豚”をけしかけられ、キレた魔導師団長のメモより抜粋.




