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178.今昔:怪火の狂宴

『河童』。それは『鬼』『天狗』と比べ、頭からつま先まで異形の妖怪であり。

 〔河童の川流れ〕ということわざが不穏だというだけで、『川辺の民』がモデルと言うのは無理があるでしょう。〔水の事故への戒めとして、『冷たい水』を妖怪化したのが『河童』〕という説のほうが、まだマシだと思います。


 しかし『河童』には『山童やまわろ』という、冬場の形態が存在し。『山童』の伝承を併せて考えれば、『河童』も人間をモデルにした妖怪だと愚考します。

 C.V.のエレイラが赴任したモラッドの街。都市ウァーテルから逃げ出した盗賊ギルドが、未払い金を踏み倒し。あげく商会の金蔵・金庫は金銀の含有量が低い、粗悪な貨幣が貯められているという有様だった。


 この事態を打開しなければ“偽金騒動”が引き起こされ、経済は破綻する。

 加えて〔『錬金光術アルケミックライト』という珍しい術式が、“悪貨”の製造・鑑定逃れに関わっている〕・・・とウワサを流されれば。

 

 イメージダウンは避けられず。『錬金光術』を使っての製造・企画も台無しになりかねない。


 そう考えたエレイラはパーティーを開き。宴もたけなわになったところで、反撃の狼煙をあげた。




 「皆さん、今日はよくお集まりくださいました」


 「こちらこそ、良いお話を聞けました」「ご縁に感謝を!」

 「できれば後日、お時間をいただきたいのですが・・・」


 エレイラという公平感のある権力者が開いた宴で、不届きなことは許されない。

 そのため少額ながらも、まっとうな商取引が行われ。表面上は和気あいあいとした空気に、会場はつつまれていた。


 そんな商人たちにエレイラは本日のメインイベントを告げる。


 「それではこれより私の計画した商いの契約相手を決める。パートナーの商会を選定する『競技ルール』を説明を行います。

  あちらをご覧下さい」


 そう告げてエレイラは『照明』の術式も併用して、パーティー参加者たちの視線を舞台へと誘導する。

 続いて歩きながら、装飾の施された細剣レイピアを抜き放ち。会場の中央に、急ごしらえで作られた舞台へと跳躍した。


 「これより『怪火』を併用して『剣舞』を行います。まずはそれをご覧下さい」


 「「「「「・・・・・」」」」」


 まずは円運動を中心とした剣舞を披露する。片足立ちになり。身体を半回転させつつ、ステップを踏む。細剣はほとんど振り回さず、ため(・・)を作り。見えない怪物を貫くイメージで、威力のある突きを披露する。


 「ほほう!」「「「オミゴトデス」」」「これがヴァルキリーの剣舞・・」


 それに対し、観覧する商人たちの反応はかんばしくない。物珍しさで見ればマシであり。

 追従ついしょうを述べる口とは裏腹に、瞳は酒場の舞姫のほうがいいと告げている。


 まあ財務C.V.の手習い剣舞などそんなものだ。よってエレイラは複数の術式を、並列で発動し。次の演目を始める。



 「『火剣かけん』『炎舞踊えんぶよう』・・そしてっ『準備された術式(シャインマテリアル)』をレンタルして発動」


 「これはっ⁉」「「「・・・ッ;+^」」」「おおっ!」


 細剣に『火の刀身』を被せ、斬撃を交えた剣舞を舞う。同時に複数の『火のムチ』が舞台上を走り、跳ね踊り。

 そこにイセリナから貸与された『シャインマテリアル』の力で光のアートを急造した。

 天井を光が乱舞して、光球が瞬き踊る。時折、展開される魔術陣は、神秘を連想させるシャンデリアと化した。


 「「「・・・/__‘」」」「さすがはC.V.様」「ふうん?」


 火と光属性術式による乱舞はプラマイゼロと言ったところか。魔術に抵抗が無い者には受けたが、妖術嫌いの商人には不評だった。

 商人たちは丸腰なうえに、護衛では攻撃魔術を防げない。そんな彼らにとって、火力ゼロだろうと『幻影火術』は恐怖でしかなく。楽しめないのは当然のことだろう。


 まあ前座としてはこんなものだ。本番・クライマックスの演目をエレイラは始める。



 「それでは皆さん。よく見て、耳をすませ、しっかり認識なさってください」


 その言の葉で、舞台の空気が一瞬で変わった。同時に客の半数がふるいにかけられる。


 『怪しのほむらにして 宝物を計りあざむく灯火 物欲の泥で硬貨を造れ!


  銅貨は走り 銀貨はすずり 金貨はまわり 白金を打ち破る宴を開く


  フォービィーコイン!!』


 エレイラのメイン『魔術能力』が発動する。細剣の先端に焔が燃え、舞台が赤い灯火に照らされる。そうして本気の『剣舞』が始まり、『怪火の硬貨』が発動した。


 “偽金”・“見せ金”に使えない。『幻影コイン』を造り操る『フォービィーコイン』。その魔術能力は観覧者ウォッチャーに知られ認識されている必要があり。


 衆人環視の中で披露すれば、“成金趣味ゲヒンなコインの山”をさらすことになる。戦闘の際、牽制や感知阻害(目くらまし)を行うならばともかく。余興で使うのは『硬貨』を遊び道具にするに等しい。『商人の命(カネ)』を冒涜しているようにしか見えない。


 「なあっ!?」「これはっ・・!」


 ただしそれは〈見えて〉いればの話だ。『銅貨マボロシ』は矢玉の速さで舞台を飛び交い。『銀貨マボロシ』は星のように遠く見えにくい所(テンジョウ)で瞬き、鈴なりの上品な音色を奏でる。


 「マボロシ、まやかし・・それはわかっている」「ぐっ、くっ・・・」「教えられ、確認もした」

                              

 「「「なのにっ!!!」」」


 『金貨マボロシ』がコマの回転をする。球状と化したそれが、『剣舞』にあわせ跳ね踊り。

 魔術陣から出現した白金ハッキンの『巨人硬貨(マボロシ)』を迎え撃つべく。『金輝の魔弾(マボロシ)』となって、白金の塊を打ち砕いた。


 「「「おおっ・・!」」」「やったか!!」「・・・・・っ」


 商人たちから歓声があがる。『怪火の硬貨(マボロシ)』による剣舞の演出と頭では理解していても。

 大資本・ブラックマネーを連想させる『巨人硬貨マボロシ』の白金を打ち砕くシーンは、心にくるものがあるのだろう。

 



 そんな感動する商人たちに、冷水が浴びせかけられた。


 「以上で『宝探し競技』の【ヒント】説明を終わります。皆さんの健闘を期待します」


 「「「「「・・・・・っ?!:*:??」」」」」


 かくして本当の『狂宴』が始まった。






[C.V.エレイラ・ベネチルドの隠した財宝を探し出した者。最も功績を挙げた者を後援した商店を、大商いのパートナーとする。


 参加の資格は無制限とする。虐殺・貴族殺しの重罪を犯していなければ、過去は問わない。たとえ盗賊ギルドに所属していても、軽犯罪なら参加を認める。


 ただし人様に迷惑をかけることを禁ずる。挑戦者どうしのケンカはかまわない。だが人死に・器物破損などの迷惑行為をした者・集団は失格とする。


 なお財宝の在処ありかは、先日の宴で披露した『剣舞』がヒントになっている。剣の向きは方角を示し。ステップは罠の位置・リズムはキーワードの『信号』を表していた。

 他にもヒントがあるので、『剣舞』を見ていた者に尋ねるように]



 こんな布告が出され、モラッドの街は大騒ぎとなる。特に宴に参加していた、大店は滑稽こっけいだった。


 「旦那様、しっかりしてください!」「こうですかっ!?それともこう?」


 「そう言われても、あの時は酒が入っていてな・・・」


 「大まかにでも思い出してください!」

 「そうです。この取り引きが成功すれば、傾いた店も・・・」

 「『剣舞』ができる踊り子に再現してもらうにしても、ゼロからでは無理です!!」


 「わかっとる!思い出すから、うるさく怒鳴るな!!」


 このように使用人にせっつかれる商店はマシな方であり。




 「ア・ナ・タ?実質的に貴族なC.V.エレイラ様が開いたパーティー。

  その席で、身分が上の方(エレイラ様)の出し物を、酒場の踊り子と同じように批評していた。アクビをかみ殺していた・・などということはございませんわよね?」


 「ひっ!?モチロンだ。そんなことあるわけ無いだろうががガッ!」


 「それはようございました。踊りの上手な“めかけ”を囲っているのですから。

  その経験をしっかり活かしてもらいませんと」


 「・・・ッ」


 修羅場というか、人生の危機に陥っている者もいた。




 そして地下酒場の隠し部屋では・・・


 「罠だっ。これは魔女(C.V.)の仕掛けた功名な罠に違いない!!」


 「うるせえっ!てめえらの都合にオレ達を巻き込むなっ!」


 「そうだっ!せっかくのお宝、商売のチャンスを得られる。

  その機会に指をくわえて見ていろっていうのか!」


 盗賊ギルドのメンバーが内輪もめの口論をしていた。


 モラッドで長く活動している盗賊たちは〔罠など破ればいい〕と主張し。

 悪徳都市の息がかかったメンバーは〔『競技』を妨害して、C.V.を攻撃すべき〕と声高に叫ぶ。


 モラッドの街から利益を得て、暮らしている者。ウァーテル奪還が優先で、モラッドの街・経済を潰してでも軍資金を得るよう命じられているモノ。

 両者の主張が交わるはずが無く。一触即発の空気すら漂う、この場を納めるには強権が必要なのだが。


 「おいっ、ボスからの知らせはまだかっ?」


 「連絡は出している。そろそろ返事が来るはずだが・・・」


 シャドウの暗殺を恐れ、幹部シーフは姿をくらましており。ギルドとしての意思決定を行う、重要な会合に出席するのみだった。それでも出席するならマシであり。

 

 今回のように手紙のやり取りだけで、決定を伝えることが増えていた。その腰抜けぶりにモラッドのシーフたちは不満をつのらせていき。


 その不満は一つのしらせで、抑えがきかなくなる。


 「おいっ、聞いたか。C.V.魔女の宝が見つかったぞ!」


 「何っ!?」「もう見つかったのか?」「クソッ、これでは妨害工作はもうでき・・」



 「『火炎の剣』に『紅石ルビー』。その他にも複数ある『火属性』の宝を集めて謎を解く。

  そんな『宝探しレース』の始まりだ!〔1位にならなくても、得た宝は自分のものにしてかまわない〕そんな追加ルールが宣言されたぞ!」


 その言葉に盗賊ギルドのメンバーたちは目の色を変える。魔術のルールで動くC.V.たちから情報を盗むのは難しい。だからこそ『お宝探し』をあきらめ、〔計画を妨害するべき〕という意見も根強かったのだが。


 「こうしちゃいられねえ。お宝はオレ様のものだっ!」


 「待てっ!ボスの指示が来てから・・」


 「ノロマは穴倉にこもっていろ!冒険者どもに出遅れるなど、盗賊の恥だ!!」


 その言葉と同時に、ほとんどのシーフが地下酒場から去って行く。ただでさえC.V.エレイラの護衛シャドウがうろつき、稼ぐのに苦労しているのだ。


 そんな中での『宝探し競技』の開催である。ふところを満たし、盗賊のプライドを満足させ。

 何より勝利すれば、いけ好かない魔女に一矢報いるチャンスなのだ。


 これで動かない盗賊はもはやシーフではない。ゴロツキ・使いっ走りの類だろう。



 こうして盗賊ギルドも『宝探し競技』に参戦した。




 それはエレイラという、魔女が開く狂宴に飲み込まれる。強盗にとっては破滅の一歩でもあった。

 『山童やまわろ』:冬になり『河童かっぱ』が川から出て、山で暮らす状態をさす。


 私が初めて知った『山童』は甲羅を外し、山ですごす『河童』でした。昨今の『山童』の絵・銅像を見る限り、『山の妖怪』『地方の河童』と混ざっており。完全に別な妖怪に見えます。

 

 そんな『山童』の特徴は人間・木こりと取り引きをすること。

 〔山童が仕事を手伝ったら、人間は約束した食べ物を渡す〕という取引を行っていることです。

 〔互いに誠実ならば、継続して行われる〕〔労働力と食べ物を交換する〕こういう公平感がある取り引きを広範囲で行っているのは、日本では『山童』独自のことであり。取り引きの『トラブル』が複数・・種類ある。それは人間同士の取り引きそのものです。


 他の妖怪も人間に贈り物をする話はあるでしょう。

 しかしそれらは一度きりの【恩返し】であり。『魔法の道具』『それに匹敵する富』を贈る【恩返し】は、公平な取り引きではないと考えます。

 無形の『加護』『幸運』は神秘であり。継続はしますが、有形の取引とは違うでしょう。 


 以上のことから。『山童』は取り引きができる民・人間がモデルとなっており。『河童』=『山童』ならば、『河童』も原型となった人間がいると思うのです。

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