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175.金輝のコイン~怪火の街

 〔河童の川流れ〕誰でも知っていることわざですが、不穏な由来があると愚考します。


 例えば〔鬼の目にも涙〕〔天狗の鼻を折る〕はどちらも妖怪が登場することわざですが。

 『鬼=怖い人』『天狗=調子に乗っている人』・・・というようにモデルになった人間がおり。『河童』も『漁師・船頭』などのモデルになった人間がいると愚考します。


 ただし〔川を流れた河童〕は高確率で、死傷・溺れている可能性が高く。『鬼』『天狗』のことわざと違い、不穏な内容だと妄想しています。

 サヘルたちによって、オークの群れが倒され。そこから獲れた『魔石』が市場に流れる。

 大量に売られた『魔石』を素材にしてマジックアイテムを製造したり。それに伴う様々な商売が行われ、その相場で一儲けしようと企む者は少なくない。


 そうしてしばらく時間が経過した後。オークの『魔石』は処分されたというニュースが広まり。

 泣こうがわめこうが勇者サヘルが処分した『魔石』が売られることはなく。魔石の価格が下がることもない。

 こうして『魔石相場』で儲けようとした、連中の大半は大損が確定した。



 「もっとも“大損”で済めば御の字だけど」



 「何故だ、何で予想が当たらない!」    「こんなはずでは・・」

 「負けるかっ!もっと資金をつぎ込んで・・・相場を動かせがきっと逆転を・・・」


 「「「・・・・・ッ」」」



 少なくない者が損切りをできず。店の経営資金を持ち出したり、危ない借金で資金を調達して。

 『相場』の深みにはまり、本業の商売を傾かせていた。



 〔勝敗は兵家の常〕と言う。商人が商いで失敗/成功するのも同様だろう。

 だから財務・経済に関わるC.V.として、エレイラは相場で失敗する人間をとがめる気はない。


 そもそもC.V.としてエレイラはチートの恩恵を受けている。学術・情報量や魔術で圧倒的に有利なエレイラなど、人間からすればまともな商売などしていない。

 

 〔100%勝てるイカサマゲームをしているだけ。万が一にも負ける可能性のある、イカサマ賭け事(ギャンブル)すらしていない〕


 エレイラの商売・魔術能力を目の当たりにすれば、人間はこんな風に考えるだろう。そしてそれは事実である。

 だからエレイラは自己満足のために誠実な商売を行う。羞恥心があるから、人間の商売を安易に潰したりはしない。


 基本的には。




 都市ウァーテルと街道で結ばれた都市の一つモラッド。そこにエレイラはわずかな護衛を引き連れて訪問していた。


 「これは、これはエレイラ様。ようこそ、おこしくださいました!」


 「お務めご苦労さまです」


 「「どうぞお通りくださいませ!」」


 貴族待遇の顔パスで、エレイラは大門を通り過ぎる。それが可能な程、エレイラは都市モラッドを訪れ。同時に都市経済の維持に貢献した、財務・外交官の顔を持つ。




 イリス様がたった一日で悪徳の都ウァーテルを陥落させ。治安を保ち、善政をしいたとしても。

 

 周辺都市・勢力にとって、商取引・契約が反故にされかねない危機だった。


 〔前政権の盗賊ギルド(外道)が結んだ契約など知ったことではない〕

 〔借金に債権?どうぞ逃げ出した盗賊ギルド(負け犬)から取り立ててください〕


 正論であり。略奪暴行が当たり前の侵略者が、呼吸するように行い続けた借金の踏み倒し。それは商会どころか都市経済を破綻させる恐慌に等しく。


 〔悪徳の都ウァーテルを支え、協力した周辺勢力に思うところはあります。

  しかし不実な借金棒引きを行い、商人を破産させたら。間接的な“略奪暴行”を行っているに等しいでしょう〕


 〔その通りだけど。ボクたちC.V.が持っている財宝をばらまく気なの?〕


 〔私たちは黄金古竜と向き合った王ではございません。財宝は見せ金・質草にして、まずは契約書を集める。


  そうして有用な契約はそのまま継続し。グレーな取り引きは七掛け()で支払う。

  “麻薬”や“脅迫”関係は私の『怪火フォービィー』で燃やしましょう〕


 〔それだとエレイラの身が危ないし、もたないよ。

  イセリナ!山賊・暗殺組織が壊滅すれば、奴等の財宝は好きに使っていいよね!〕




 こんなやり取りが交わされ。山賊とつながり、暗殺組織に依頼する“客”の資産も一緒に略奪し。


 エレイラは看板・窓口となって、それらの財宝を有効活用したにすぎない。経済の混乱はC.V.勢力も望むところではないのだ。


 「そんな私たちが『魔石相場』の乱高下を画策するなんて。先のことはわからないものね」


 そんなことを考えつつ、エレイラは商会の門をたたいた。






いくつかの商会に挨拶回りを行う。情報交換・取り引きや注文メイレイを行い。

 路地裏の奥で隠れるように営業している、店の扉をエレイラはたたいた。


 「・・/:+;ッ!?」「ッ・・・;”`^」


 「こんにちは。少しよろしいかしら」


 店員二人が奥でもめる声が聞こえる。それに気付かぬかのように、エレイラは挨拶を行い。


 『怪火の硬貨(フォービィーコイン)


 自らの魔術能力を発動する。火属性で『コイン』の幻影のみ(・・)を造り操る。

 そんな『フォービィーコイン』に火力は無く。被術者を恐れさせるような『怪物幻像ホラー』も描けない。


 「うわぁぁーーーっ!」 「ひぃっ!?」


 それなのに店員二人は悲鳴をあげ。店の奥から焼き出されるかのように転げ出てくる。


 その身には大量の銅貨(フォービィーコイン)がまとわりついていた。



 エレイラの幻術(フォービィーコイン)は魔力消費が低く、火力も無い。そのため窓・扉の隙間から魔力を流し。店内の熱源・魔力(ニンゲン)を標的にして『フォービィーコイン』を発動しても、死傷させるリスクは低い。

 よって“挨拶代わり”に使ったところで問題ないだろう。


 「こんにちは。少しよろしいかしら」


 もっとも店員二人の意見は違うようだが。

 エレイラはそれを気にせず語りかける。それに対して店員の一人は沈黙し、もう一人は愛想笑いを必死に浮かべ。


 「何でございましょう、エレイラ様」


 何とか店員らしい返答を絞り出す。


 「あら?私はまだ名乗っていないですけど。どこかでお会いしたことがありましたか?」


 「・・・ッ」「このバッ・・」


 「アナタたちとは初対面のはずです。この“故買屋”を焼いた覚えはありませんし」


 

 “故買屋”それは“盗品”を売買する店のことだ。

 ちなみにエレイラたちの認識では・・・


 “盗品を金に換えて、盗賊・略奪者の活動を支える”

 

 “盗まれた美術品をスムーズに現金化する。それにより間接的だが、確実・・に盗賊・強盗の活動を活発化させる”


 ウァーテル陥落時に問答無用でシャドウ一族に叩き潰され。周辺都市で活動を復活させた、C.V.勢力が殲滅すべき敵である。



 「『故買』などと失礼な!私たちはれっきとした『古物商』でございます」


 「あら、そうなのですか?」


 「そうです。証拠もないのに『故買屋』などとっ・:!?」


 『フォービィーコイン』


 不毛な会話を打ち切り、エレイラは『怪火の硬貨』を発動する。


 エレイラは戦争種族C.V.であって、証拠を固めてから動く人間の『官憲』ではない。“盗賊の共犯者”と会話を楽しむ趣味など欠片もないのだ。

 加えてパーティーリーダーのイセリナから『故買屋』を叩き潰すように命じられており。

 

 さらに彼女個人エレイラ誓約ルールとして、まっとうな経済に“寄生”する連中には制裁を。間接的だが、確実に“美術品をめぐっての争いを引き起こし”人死にを増やす“故買屋”は殲滅と決まっている。 


 『怪火の火種よ 非業の血をまきとし 物欲の泥で硬貨を造れ!


  銅貨は驟雨しゅううに 銀貨が旋律に 金貨は悪意と化し、欺き暴け フォービィーコイン!!』


 本来、エレイラは『無詠唱』で『フォービィーコイン』を発動できる。だが不届きな“故買屋”に『幻影のコイン』を観測させるため。〔魔術をかけられている〕という不安・恐怖をあおるための、長い『呪文』を唱え聞かせ。


 「チクショウがっ・・死ねぇーー!!!」「まっ・・」


 “故買屋”の片割れが飛びかかってくる


 『呪文』が唱え終わる前に、攻撃しようと考えたのか。あるいは『フォービィーコイン』の連発・・に我慢の限界がきたのか。

 経済担当のC.V.エレイラは見透かす事はできず。ただ効率的に迎撃の火術式を放つ。


 『怪火球フォービィーハウンド

 

 「「ヒィっ+;・:*!」」


 複数個の『怪火』が球状になって、店内をバウンドする。その火力は人の『魔術火球ファイアーボール』にすら劣るものの。

 顔面や股ぐらをかすめ。『フォービィーコイン』と併用されることで、狭い店内を火の異界へと変えていく。『銅貨』が視界をふさぎ、『銀貨』の音が耳を惑わし。


 そうして狂ったようにはね踊る、『怪火球』が悪漢たちの急所に襲いかかった。






 「ひぃっ、ヒィいィィーーー!」「よるなっ、来るなっあっ!?」


 大の男二人が逃げ惑う。誇りも命令された“シゴト”も忘れて、“故買屋”の店舗から飛び出し。

 悲鳴をあげて、恥も外聞もなく助けを求める。


 その姿は不様だが、やむを得ないだろう。『火』を恐れるニンゲンに対し。硬貨の幻術(フォービィーコイン)で五感を惑わし、急所を『怪火』であぶったのだ。

 下級シャドウ・重騎士との模擬戦でも、増長する者の心を折った魔術攻撃である。盗賊ギルドの下っ端が耐えられるはずがない。


 「っ!」「助けてっ、タスケてくださ~い!!」


 だからと言って彼らに助けを求めるのは、いかがなものだろう。


 連中は巡回中の衛士に助けを求め。


 「いったい、どうしたっ!」


 「魔女がっ!そこの魔女がオレの店に火をかけて暴れたんだ!」

 

 「なにぃ!?」


 その言葉に衛士たちが眼光鋭くにらみつけてくる。放火は大量殺人につながる凶行だ。ましてそれを妖術を使う(・・・・・)魔術師がやったとなれば。人食いモンスターが城壁の中に侵入したに等しい。

 

 その緊急事態に衛士たちは短棍をかまえ。




 「ギャピッ!+:*^ゴッ、がっ・・」「な、何をっオゴッ!?ギっ*:`ギャーーー」


 恥を捨て、助けを求めたゴロツキ店員たちをめった打ちにする。

 殺さないよう、急所は外しているものの。その打擲ちょうちゃくに容赦というものはなかった。


 あげくに・・・


 「そのぐらいにしてはどうでしょう」


 「!!、全員打ちかたやめっ!」


 「モラッドの街を守る衛士様ともあろう者が、賊の返り血をあびる必要もありません。

  この者たちは牢に放り込む程度でよろしいかと」


 「「「かしこまりました、エレイラ様!!」」」


 衛士たちは怪火を操るC.V.に完全に従属していた。そこに袖の下を渡す商人の“忖度そんたく”はなく。上官の命令よりも従順に、士気高く動く。


 その異常事態に故買屋の店員たちは心底怯え、震え上がった。

 〔河童の川流れ〕このことわざが不穏だと考える一例は『宇治川の戦い』でしょうか。

 『平家物語』において、源義経が源義仲を討つため戦った。従来の『橋を挟んで戦う』のと異なり。『渡河作戦』を行った戦いです。


 大昔の『平家物語』では〔義仲軍は進軍を妨害するため川底に杭を打ち。さらにそれに縄をはった〕と書かれ。それに対し〔義経軍は川に潜り、縄を切り。勇猛な騎馬武者が先陣争いをした〕とのこと。


 この記述だけならかっこいい『合戦絵巻』で済みますが。潜水技術・装備もなく。治水工事もろくになかった時代、宇治川は激流だと聞き及んでいます。


 何より不穏なのが『宇治川の戦い』は京都近郊の一月・・真冬に行われたこと。


 これだけそろって『河童の川流れ』がない。川底での作業・進軍中に“水難”が全くない。冷たい川の水にふるえる者すらいない。


 いくらなんでも無理がある。寒中水泳でどうにかなるレベルを逸脱していると愚考します。

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