174.金輝のコイン~フォービィーコイン
忍者の使う『水遁の術』と聞かれたら何を、連想するでしょうか?
私なら『水槍』ですが。『水獣』『霧隠れ』に『水放出』など様々な『水遁』の術があり。
仙術・西洋魔術に龍神の神通力など、様々な水の神秘が入り混じった。戦国時代の忍者が使えるはずのない『水遁』の忍術が広まりました。
それはとても【素晴らしい】ことだと思うのです。
ゴブリン・オーク・トロール他の怪物亜人の群れが討伐された。さらにその『魔石』が大量に市場に出回る。
『魔石』の値段が下がり。『魔石』を材料とするマジックアイテム・装備がたくさん作られるようになるだろう。
そんなウワサが出回り。『魔石』の価格が高いうちに売り払い。その金で相場の下がった『魔石』を買い戻す。そんな『空売り』と呼ばれる手法を取ろうとした者たちは、顔面蒼白になっていた。
「何故だ!何故『魔石』が値崩れしない!」
いち早く情報を得て。冒険者たちから大量の『魔石』を買い取り保有している。冒険者ギルドも今回は『魔石』の価格維持・調整をしないという。
そんな情報を得たり。ウワサを信じて確実に楽々と儲けられると夢想していたものたち。
彼らは『魔石』相場の乱高下により、予想がことごとく外れ。損失を補填しようとあがき、ますます資産を目減りさせていく。
その結果イロイロな者が、あちこちに出現した。
「きっさまぁーーっ!キサマのせいでっ!」
「ヒィーーー!!」
イズン村の村長ノクス。その屋敷に目を血走らせたオトコが押しかけていた。
より正確に言い表すと。金・コネの力で〔“暴行亜人”が討伐される〕という情報を早期に得て。
楽して『魔石相場』で儲けようと試み。破産した者が半ば逆恨みして、押しかけて来て、刃物を振り回していた。
「落ち着け!何で恨んでいるのか、せめて言ってくれ!でないと死んでも死に切れん!」
「・・・よかろう。己のなした罪を知り、後悔しながら死ぬといい。
キサマの罪!それはオレ様たちに正確な魔石相場の情報を伝えなかったことだ!!」
〔知るかーー~~~!!!〕
そう怒鳴り返したい気持ちを必死に抑え。ノクスは聞き上手の好々爺を演じる。
丸腰のノクスにとって、刃物を持っているコイツは生殺与奪の権を握る絶対者だ。こんな奴に殺されるなど言語道断であり。
ましてこれから『分割払い』の効果により、冒険者ギルドの支部(仮)ができる。そこから出る利益で権力を盤石にして、ささやかな贅沢を楽しむ。
そんな未来が待っているのに、こんなところで死ぬわけにはいかない。下手に出るくらいで命を拾えるなら、迷わず行うべきだろう。
「そうかソレは悪かった」
「本当にそう思っているのか?」
「もちろんだ。成功を確信した計画が、ウン悪くつまずいてしまう。その無念はよ~くワカルぞ」
「そうだ!オレが失敗したのは運が悪かっただけだ!」
〔そんなわけがあるか!〕
面従腹背でノクスは必死に危険人物の機嫌を取る。その甲斐あって、ようやく襲撃者の放つ空気も落ち着き。
ノクスが胸をなで下ろしたところで、オトコはその正体を現した。
「それで?オレ達シーフギルドの損害をどう穴埋めしてくれるんだ?」
「どうって・・・」
「冒険者ギルドへの『依頼料を分割』するための計画を魔女共が企てていることは知っている。
その詳細を教えろ。それと手付金・トラブルへの保証金も受け取っているだろうが!
それをとっとと・・・」
『怪火の硬貨』
「なっ!?」
「これはっ!?」
大量の銅貨が転がる。銀貨の山がくずれる音が響き。その中を金貨の輝きが時折、見え隠れする。
「ッ!!そうかこれは『幻術』かっ!卑怯な手を・・・魔女よ出てこい!」
「・・・・・」
その口調とは裏腹に。盗賊ギルドの正体を現したオトコは金貨を見逃すまいと、目をこらし。魔女を探すフリをしつつ、硬貨の出所を探そうとしているのが見え見えだった。
そんなカワイソウナ者を見るノクスの視線に対し、強盗は気付く様子もなく。
「こちらへっ!」
「!?」
呑気にシーフを見やるノクスの身体を、女の片手が引き寄せる。村の女たちとは一線を画する、細く柔らかい手指が魅力的だ。
しかしノクスの本能は警鐘を鳴らし。その“手指”に触れられた腕にすさまじい悪寒が走る。
先程、振り回された賊の刃物よりはるかに危険なモノ。それが助けに来た手指の持ち主に対する、ノクスの認識であり。
『欲望の火にして、天秤を回す粒よ 袋に運ばれ、蔵に眠る火種は目覚め
重苦と陽炎の欠片をもたらせ フォービィーコイン!』
「なっ、ぐくっ!!?べっ/;+:*ーー^~--」
ノクスは“幻覚”だと認識した金銀銅のコイン。それが盗賊ギルドの者にふりかかり、積み重なり、押しつぶしていく。
〔もしかして本物のコインだったのか?〕
そう考えたノクスは手近な銅貨をつかみとり。確かな重さと、冷えた感触に実体を感じとる。
「やめておきなさい。ソレに魅入られるとああなりますよ」
その声とともにコインの感触がおぼろげになり、ノクスの手からすり抜けていく。
「カハッ...!タッ;+*-~~^・・・」
そして恐ろしい暴漢だったものが、ナニかの重さにつぶされていった。地面の“シミ”にまではならないものの。胸が圧迫され息ができず、悲惨な最期が待っているのは想像に難くない。
そこに先程までノクスの生殺与奪の権を握っていた悪漢の姿はなく。魔女に呪われた敗北者が断末魔のけいれんをしていた。
「危ないところでしたね。こんなことがないよう、しばらく護衛をつけましょうか」
「・・ハイッ、よろしくお願いします!」
赤髪の魔女が優しく告げる。その言葉に対し、まっとうな村長が逆らう術などあるはずなかった。
『魔術』の系統には『幻術』『幻影魔術』というものがある。
『幻』を操るその術理は〔『芸術』のそれに似ている〕というのがエレイラたちC.V.の考えだ。
理論上、『幻術』はマヤカシで人をあざむき“好き放題”ができる・・・と誤認されている。
だが人の心を動かし、高値がつく芸術作品が少なく。その製作にはいくつか条件を満たす必要があるように。『幻術』で被術者・自他をあざむき、操るためにはいくつか条件がある。
その最低限の条件は『分類』と『努力』だ。
『芸術』が絵画・彫刻・服飾や音楽など様々な『分野』があるように。
『幻術』も映像・存在感・変装や聴覚干渉など『分類』する必要がある。
さらに『画家』が絵のジャンル・技法やモチーフにこだわり、必死に作品を描くように。
『幻術師』も幻影の題材・発動条件や使用目的を限定し、その完成に『努力』する必要がある。
「私の『フォービィーコイン』も例外ではない。
作れる『幻影』はコイン限定で、それを“偽金”として使うのは厳禁となっている。
加えて発動条件に『フォービィーコイン』が『幻影』だと知っている。『幻影』を感知・観測している者がいる必要があり。
注意をひきつけたり、他の『術式』を隠すという使い方しかできない」
『マヤカシ』なのに、他人にタネを知られていなければならない。人をあざむく『幻術』として成立するか、首をひねる『魔術能力』と言えるだろう。
それなのに聞き手のノクス村長はガタガタと震え怯え。臨時の配下である下級シャドウたちの目は死んでいた。
つまらない連中である。こういう時は〔余興のお遊戯のよう幻術ですな~〕と嘲笑うべきだろう。
それなのに人間たちは怯えきっており。
「どうしたのかしら?物欲にまみれていなければ、私の『フォービィーコイン』を見破ることはたやすい。
それともまさか。『無数の金貨』が見えたりしているのかしら?」
「ア・・+:*..・・・カッ」
先程、半死半生にした盗賊ギルドの強盗が横たわり、死にかけている。
その横でノクス村長が自らの未来を悲観し、平伏していた。
〔お慈悲を・・命ばかりは・・どうかお許し下さい・・〕
そんなつぶやきが聞こえるのは、エレイラの気のせいではないだろう。
今までの慣習で“盗賊ギルド”に情報を流していたノクス村長。それはイズン村を守るために必要な行為であり。戦争種族C.V.として、とがめる気など一切ない。
だが盗賊集団がウァーテルを追われたあげく、(イセリナが仕掛けた隠し金の暴露で)不毛な内輪もめを行い。あげく『魔石相場』で儲けようとした連中が、破産しかけていることを知らされ。
ノクス村長は、この世の終わりを目の当たりにしたような表情をしていた。
そんな老人にエレイラは優しく声をかける。
「そんなに借金のことが心配かしら?心配しなくともサヘル様の『分割払い』に協力してくれれば、悪いようにはしない。むしろ今までより、はるかに豊かになるでしょう」
「・・・ありがとうございます」
「ところでノクス村長の家族は何人いるのかしら?私に教えてほしいのですけど」
「・・!ッ;+:・・・--」
どうやらこの場、この村にいない血縁の一人がナニかをやらかした。もしくは盗賊ギルドに所属しており、“連座”で罰せられるのを恐れているのだろうか。
「さて、どうするか・・・」
エレイラは思案する。その後ろには昨今、活躍いちじるしいサヘルを侮辱した。愚かな下級シャドウ三人が、あきらめの表情を浮かべたたずんでいた。
漢字には残酷な由来があり。私はその番組・雑学本も三秒で見るのをやめました。
〔河童の川流れ〕ということわざがあり。意味は〔名人も失敗することがある〕とのこと。
しかし『弘法大師』『サル』と比べ、『河童』は架空の妖怪です。大半の人は溺れている『河童』などイメージできない。昔話を聞いて、『河童』を想像するのも大変なのではないでしょうか。我々が『河童』を思い浮かべられるのは、先人たちが絵を描いてくださったからだと思うのです。
ならば昔の人は『河童の川流れ』を何から連想したのか?
私は哀れな下忍・最下層民だと思います。大雨などで危険になった川から糧を得ていた。敵勢力へ進軍・渡河する際に、命がけで川の情報を調べるよう命じられた。
そんな水遁使いたちが武運つたなく。あるいはバカ武将の無茶ぶりのために“川流れ”になった。それらが〔河童の川流れ〕の由来ではないか?・・・と妄想します。
本当に妖怪ネタなら『鬼』『天狗』が失敗したことわざもあっていい。もしくは〔河童が相撲に負けた・魚を獲れなかった〕程度の表現で、戒めのことわざになると愚考します。




