171.歓楽の街~オークバスター
これから書くのは妄想であり、推測でしかありません。異世界な領主モノ読んで、連想したことです。あしからず。
〔江戸時代において、最大の密偵組織は何でしょう?〕
こう問われたらたいていの人は『お庭番』『伊賀忍者』を思い浮かべる。もしくは八代将軍が連れてきた、紀州の忍者を上げるでしょうか?
普通は忍者=密偵で〔大きな忍者軍団が最大の密偵組織になる〕・・・と昨日まで私も思っていました。
しかし平和な時代に忍者は不要であり。というか腰抜け武士にとって、忍者は恐ろしい邪魔者でしょう。それよりタダ同然で日本全国を股にかけられる、優秀な情報機関があり。
そちらを利用したほうが、江戸幕府にとって得だと思うのです。
切り札の『ワンダーヒュドラ』を放ち、C.V.ルサーナは強力な魔王候補を倒した。
しかしC.V.の感覚はエルダーオークが別の場所に現れたことを感知してしまい。あげくに怪物誘引の呪いをかけられたルサーナは、逃亡することもできなくなる。
「ちょっと待ってろ!!」
そうしてサヘルは術式のアレンジを新たに考える。先人に学び。知識の巨人の肩にのり、つかまり、曲乗りをすることで、他者の意表をつく。他人の知識をツギハギしてつなげるだけ。
器用貧乏のナンパ野郎にできるのは、その程度にすぎない。
そんなサヘルがやったのはルサーナの『多色怪毒』に依存することだった。
毒物を固体・気体に液体へと形態変化を強制する。さらに毒液は流体操作で、ある程度コントロールすることも可能だ。
「『ワンダーヴェノム』×10」
呪いの傷と『光術目印』をオークに刻み。『固体毒液』でオークの魔石を加工して、毒の投石を作り放つ。
『フォトンポイント』の誘導により、毒石はほぼ必中となり。オークの体液は気化して、おぞましい煙をばらまいていく。
「プグッ!?」「オルガァーー!」「ゲッ、ギッ、ゴルッ!」
それにより数十体のオークを死傷させたものの。次第に煙はおさまり、投石によるダメージが減衰していく。
「これは、いったい・・・」
「主様、どうやら今回の魔王候補は、兵士に加護を与えるようです」
「厄介な・・・」
オークの肥満体が魔術の膜で覆われる。その詳細は不明だが、もはやサヘルの小手先な投石術は通用しないだろう。
「いかがいたします?」
「投石が駄目なら『閃光斧』だ。こいつでオークを狩るぞ」
「わかりました。標的への誘導はお任せ下さい」
『錬金光術』で重心を操作する。サヘルの片手斧は使いやすいよう、軽量モドキ・加重をかけ。オークの斧は攻撃を失敗するよう、重心をメチャクチャにしてやった。
そうして十数体のオークを討伐すると。
「ガブラッ、オー~~ッ!!」
「コイツはっ!?」
「斧の柄が、オークの手に吸着・・いえ粘着しています」
これでは攻撃を失敗させて、斧を取り落とさせられない。何より倒したオークの斧を奪えない。
苦労して奪ってもサヘルの手に、斧の柄が粘着などしたら。両刃斧を抱えて討ち死にだ。
「『閃光斧』も破られた。こうなったらトラップで・・・」
「大木の上部を『加重』、根の近くを『浮遊する怪光』で浮き上がらせて転がす・・・という罠ならおやめください。そんな魔力はありませんし、この数のオークを倒しきる仕掛けなど作れません」
「え~~、やってみないと・・・」
「イ・ケ・マ・セ・ン」
まあ『怪物誘引』の呪いがかかったルサーナがいるのだ。トラップができる前に、オーク共が殺到するだろう。
とりあえずルサーナが無事でないと、サヘルが魔導師団長様から確実に制裁される。その事実を彼女が理解していることに、満足するしかない。
そうでも考えないとやってられなかった。
「グルラッ!」「ブオッ、ビッ、ブモラッ!」「「「オオオー~~!!」」」
「包囲網が縮んでいます」
「やれやれ、ここまでか」
あれから、色々と創意工夫を続けてみたものの。ことごとくエルダーオークの付与・改造?の『魔術』によって対策されてしまい。
サヘルの小手先の技は通用しなくなっていった。『閃光斧』はそれなりに自信作だったのだが。その後が続かない。そしてその理由ははっきりしている。
「オークのくせに知識の共有とか反則だろう。まるで器用貧乏への対策みたいだ」
「同感です。そもそも一番強い魔王候補を倒すと、次のエルダーオークが増強化されるなど。
完全に“暴行亜人”の範囲を逸脱しています」
『旋風閃』を使う大半のシャドウなら、『目にも止まらぬ早技』でこの包囲を抜けることも可能だろうが。
『旋風閃』・『ランドランダー』を併用し、『攻撃術式』まで欲張りに使う。『旋風閃光』のスピードでこの場から退却するのは困難だろう。
もっと陸戦師団・魔導師団やC.V.から広く人材を求め。研究・修練が必要だ。
そんなことを考えていたサヘルに、ルサーナが戦況を伝えてくる。
「オークは5人組の班を三組まとめた、15人の小部隊で攻撃してくるようです」
「攻撃魔術への対策か。もう『目くらまし』も通用しないだろうな」
「そうですね」
あらゆる『手札』に対策が取られ。救援・覚醒する力も期待できない。
それなのにサヘルたちが平静でいるのは、【手】が封じられていないから。対策が取られたのは『新技・急造術式』に過ぎないからだ。
「それじゃあ、行くぞ」
「お待ち下さいマイマスター・・ん‘`そして『魔力増液』」
元気が出るおまじないを交わしてから、ルサーナの魔力を受け取る。そうして2人はオークたちが待ち受ける、死地へと向かった。
エルダーオーク。十数体も用意された魔王候補も、今では三体を残すのみであり。『護衛』と『知識保全』を考えれば、残り一体しかいない。暴行魔の亜人たちによる軍団編成は事実上、失敗したと言える。
「オノレっ、ドウシテコウナッタ!」
そうつぶやくヨグスの独り言に答えるモノはいない。何故なら彼がいるのはエルダーオークの『体内』であり。周りのオークはもちろんのこと。寄生して操っているエルダーオークすら、ヨグスのことを“オーク神の遣い”と思いこんでいる。
実際のヨグスの外見は『ナメクジ』と『ゴブリン』を足したような肌色妖魔であり。
「このままでは、オレの身が危ない。何としても賞金首ぐらいは討たなければ」
盗賊ギルドにとってヨグスは下級幹部にすぎない。『魔薬』と魔術儀式で妖魔に変容したときは〔のし上がる力を得られた!〕と喜んだものだが。
寄生して操れるのは“暴行魔の亜人”のみと制限されており、人間には寄生できない。そればかりか定期的に魔薬を服用しないと、人間の意識を保てないという。
こんなバケモノではよくて飼い殺し。失敗すれば容赦なく始末されるだろう。
だから『キ+:”;/書』を読みあさり、知$K^~を蓄え・・・たくワぇ?ーーーッl
『魔王』になって全てのしがらみ、呪縛から解き放たれる。そうすればヨグスはきっと幸せになれるに違いない。
そのためには『賞金首』やC.V.などにつまづいている場合ではない。この必殺の陣形を組んだ、二百体ものオーク集団で殲滅する。
「「「・・・*ッ!」」」「「「「「カッ、ヒュ!?」」」」」「ぴ、ブグッ!」
そんな情念を燃やしていたヨグスの頭に、不快な断末魔が連続して響く。
それも切られ焼かれたり、『病毒』による絶叫とは違う。まるで絞殺され、息ができずに殺された。肥満体で首の太いオークにはまず有り得ない。くぐもった悲鳴をあげてヨグスの駒が倒れていく。
「何事だっ、いったい何が起こっている!!」
無論、忌々しいシャドウ、C.V.による逆襲が始まったに決まっている。それに対し、ヨグスは今までと同様に対抗する魔術・肉体改造をオーク共にかけ。
「「「「「「「「「「ーーー~ッ」」」」」」」」」」 「コォッ⁉」
「ベッ!」 「「「ンーーー」」」
断末魔が途切れない。対抗策が通用せず、オーク共が倒れていく事実に戦慄した。
魔術には様々な派生魔術がある。
信者の集団的無意識を利用する神聖魔術。
物理法則の制限を受けるものの。古代錬金術を知っていれば、物理法則を利用できる神秘ではない魔術
そしてC.V.が行使する最強の【魔術能力】がある。この魔術能力とは固有魔術と誤認されることが多い。
しかし【魔術能力】は血統・一代限りの才能に依る固有能力ではなく。分析・研究されて、大勢のC.V.が使い継承する魔術と成ることも多い。
ならば【魔術能力】とは何か?
「いくぞ、ルサーナ」
「いつでも可能です、マイマスター」
オークの小隊を目の当たりにしたサヘルとルサーナ。小手先の術式をエルダーオークに対策され。
対抗の付与・改造の魔術を使わせ、それを分析した二人は勝利を確信していた。
『神聖ではない理の光よ!巻いて踊り、交じりて動かず』
そのためサヘルは『錬金光術』の詠唱を行う。その目的はルサーナにアルケミックライトを理解してもらうため。長い呪言がゆっくりと術式を構築していき。
『英雄に討たれ、半神を殺めし多色の蛇よ!その形は変化の渦に、その妄執は不変の牙に』
サヘルの詠唱に重なり併せ、ルサーナが『多色怪毒』を発動する。サヘルの詠唱を聞くことで、ルサーナは『錬金光術』の構成を読み取り。
それにより異なる属性・異種族の他人が、違う意図で編み出した術式。本来、交わらない神秘が絡み合い、変成していき。
『『オークバスター!!』』
C.V.の尊厳を破壊し、人間を殺戮し続ける。害獣オークを殲滅するための魔術が完成した。
オークにはいくつか欠点・弱点がある。その一つが常に口を開いていることだ。
より正確には女性を使い潰し、増殖する“暴行豚”はバカ口を開けており。脂肪を装甲と化している重戦士亜人は寡黙に口を閉じている。
『オークバスター』はその欠点を攻撃する【魔術能力】だ。
「プガッ!?」「ゴッ、プゴッ!」「-~~ッ!?」
オーク共に特効・殲滅の術をかける。それにより数体のオークが動揺し、間を置かず呼吸が封じられていく。
そうして苦しみもがく死に体のオークに、サヘルは容赦なくとどめを刺していく。
「ゴルラッ、ラァー~~」「「「「「-~ッ」」」」」
『旋風閃光!』
「ッ!?、プッ、プルラッ-~~」 「「「「「-~・・・」」」」」
同族の危機に隊長格のオークが罵声をあげるも。集団が動く前に『オークバスター』はエモノの口腔に侵蝕していき。
獣欲をまき散らす毒液に『石化毒液』をかけ。それらを吐き出せないよう『錬金光術』の付与で口の中に吸着させる。
オーク共の乾いた口が不自然に膨らんでいき。呼吸を阻害された心身が、恐慌という猛毒に犯されていく。
「バッ、グルーゴッ、ガァーー!!!」
「ほー、大したものだ」
「これがオークジュネラルというモノですか」
その時、奇跡がおきる。悪神の加護か、暴食による覚醒なのか。隊長格のオークが巨大化し、わかりやすい暴力の化身となった。
「ッ!!ーー~+;~*~っ!??、」
「まあ、だからどうしたって話だが」
固体化し続ける獣欲を噛み砕き、飲み込めないのか。【魔術能力】の干渉を解けず、一瞬の平静すら取り戻せなかったのか。
サヘルにとってはどうでもいい。ただ万が一の逆転すら許さぬよう、片手斧でその首を切り落した。
カオスヴァルキリーがふるう【魔術能力】。
これは学問・術理である『魔術』と、異能・感情が融合した。いいとこ取りしたチート神秘である。
『魔術』のように先人に習い、術理を簒奪することで増強されるのに加え。
異能のように、本能的に力をコントロールできる。よほど分不相応な力に溺れない限り、感情の爆発や経験の蓄積などでスキルに覚醒する。
魔力の認識すら苦労する人族にとって、反則というより理不尽・努力を踏みにじる悪夢だ。
何故ならC.V.は人から魔術の術理を学び、奪えるが。〔鳥の飛び方を知っても、同じ術理で人が飛べない〕のと同様に。本能的・思考の根っこが違うという。どうしようもない理由により、人がC.V.の魔術を習っても“劣化コピー”にしかならない。
血のにじむ努力の結晶・長年の研鑽が、瞬時にコントロールを奪われ。より成長・発展した別物の魔術に再構成されてしまう。
これを悪夢と言わずして何と言おう。
「110、111、112・・・」
「-^~ッ」「・・ッ!?」「ゲッ、ギグ+:*!」
『合魔術式』を編み出してからしばらくして。サヘルとルサーナは素速く、効率的にオークたちを狩っていった。
唾液が固まり、乾いたオークの口は血だらけになり。その血はノドをうるおすことなく、凝固して呼吸をふさいでいく。重量のある身体を動かすのに、大量の空気を必要とするオーク共を生き地獄に引きずり込む。
「・・・ッ『オークバスター』」
「「「「「「「「「「・・・ッ!;・ッ」」」」」」」」」」
そしてルサーナが行使する『オークバスター』は、明らかに威力・性能が上がっていた。
空を舞う鳥が、飛翔の技を『本能』により数日・数時間でモノにするように。ルサーナの『オークバスター』は瞬時に10体近くの“暴行豚”を侵蝕し、気道をふさぐ。
そうして窒息しかけたオークの意識は朦朧となり。転倒どころか、同士討ちを始める有様だった。
そいつらにとどめを刺すなど、薪を割るよりたやすく。
「ゴガッ、ギッィー~~ッ!」
「おっと『オークバスター!』」
たまに魔王候補が対策の付与魔術をかけてくるものの。それはほんのわずか命を永らえさせるだけで終わった。
いくら身体強化を行っても。呼吸ができず、空気を浪費すれば窒息する。
毒気・異物が呼吸器に入るのを防ごうと、フェイスマスク系の防御を付与しても。その呼吸穴を認識してふさぐことは、サヘルにとってたやすい。【どぶ川のお掃除】で認識していた、汚れの微粒子はマスクの隙間より小さいのだから。
「プゴッ、パッー-~ヒュッ・・*」
むしろ馴れぬ魔力のフェイスマスクをつけられて、オークは苦しそうであり。サヘルたちはそんなオークを速やかに楽にしてやった。
「この魔力は・・・エルダーオークが同族を見捨てて、逃げ出しました」
「やっとか。どうやら俺たちの勝利だな」
「追って、仕留めますか?」
そう問いかけてくるルサーナは、主様に武勲をあげて欲しいと瞳で告げており。
サヘルはその誘惑に一瞬、魅了されかかった。
「イヤ・・どうやら時間切れのようだ」
「そのようですね」
『無事かっ、生きてるかー~~!!!、援軍に来たぞっおオオーーー!』
山林に増強された胴間声が響き、存在を示す『光弾信号』が打ち上げられる。
このやり方は重騎士たちだから。
「ご無事ですか、サヘル様っ!・・・誰だオマエは?」
「ルサーナと申します。サヘル様に仕える柴虹属性のC.V.でございます」
当然、シャドウたちは重騎士隊より先行しており。追撃は彼らに任せるべきだろう。
それは2人のオーク殲滅が事実上、終わった瞬間であった。
江戸時代の最も有用な情報機関。それは『宗門改』です。『切支丹』をあぶりだすため、全国の寺社が住人の宗派をチェックした制度。
それは天領・諸藩の領地に関係なく『戸籍情報』を集められる。人口から収入まで情報を集めるコストは寺社に押しつけ。幕府は〔切支丹をあぶり出す〕ことを理由に寺社の書類をチェックをすれば良いだけという。
忍者を育て、雇い、諸藩に送りこむだけで莫大なコストがかかり。しかも密偵忍者が死力をつくしたところで、『戸籍情報』を得られるとは限りません。密偵の能力以前の問題として。
バカ殿とその家臣が詳細な『戸籍』を作り、書類をしっかり管理していなければ。どんな腕利き密偵が忍び込んでも、“テキトウ戸籍”しか得られないでしょう。
『宗門改』。それは『戸籍』という重要情報を収集・更新し続ける。密偵忍者の存在意義を変えてしまう、反則制度だと愚考します。




