170.歓楽の街~サヘルとルサーナ
某英雄大戦の『オリオン』は、かなり強力な狩人だとか。正直、神話がアレなので『ヘラクレス』が最強というイメージでしたが。
〔オリンポス十二神の処女神アルテミスと親しくなる〕
これは大英雄ヘラクレスを含め、世界中の英雄を探しても稀有な神話でしょう。〔多情・惚れっぽい神様が、美男美女に手を出す〕という神話ならいくらでもありますが。
〔純潔を尊ぶ処女神〕に並の英雄が接近したら、射殺されて終わりでしょう。
最終的にオリオンは殺されましたが、その偉業は唯一無二だと思うのです。
オークを主体とする“暴行亜人”の群れに対し、サヘルは遊撃を仕掛ける。
その狙いはC.V.ルサーナが大規模魔術を発動する時間を稼ぐためであり。彼女が切り札によってオーク共に大打撃を与えるのは望むところだ。
「ッ!?あのバカっ!」
ただしそれはフォーメーションを組んだ上での話だ。サヘルが前衛、ルサーナが後衛をそれぞれ務め。安全を確保したうえで、オークの群れをおびき寄せ広域魔術を放つ。
断じてルサーナ単独での、ボスバトルを行うことではない。にもかかわらず彼女の魔力は、サヘルですら感じ取れるほど、強大で異質なものに変化していた。
「合流地点と魔力が放出された地点を計測・・・ルートを算出してっ『旋風閃!』」
機動力を重視した『旋風閃』を発動して、ルサーナを探す。オークとの遭遇は極力避けて、知覚を加速してルサーナを探し。
「ルサーナっ!」
「主様・・・」
『猛毒使い』ということになっているC.V.はすぐに見つかった。疲労は明らかだが、戦闘可能であり。ちゃんと合流地点へと向かっている。
〔運悪く魔王候補と遭遇して、倒しました〕という言い訳ができる状態だった。
だが『髪』の艶を見れば、疲労は明らかであり。大事な魔力がごっそりぬけていた。
(C.V.は属性魔力が髪の色に現れる。原則、魔力量と『髪』は関係ないが、稀に影響が表れる時もある。)
これは魔術薬を飲んで回復できるコンディションではない。一応の戦闘はできても、長期戦は不可能だ。
「申し訳ございません」
「何があった!いや、話は移動しながら聞く。退却するぞ」
サヘルは術式の開発・応用を考える研究者モドキであり。『旋風閃光』の加速・怪力を併用するには、ある程度の体力が必要だ。オーク共を倒すにはルサーナとの連携が必須であり、このまま戦闘継続すれば二人とも戦死するだろう。
「“暴行豚”たちの術中にはまりました。私を置いて逃げてください」
「何を言っている。退却する体力ぐらいあるだろう」
「いえ、魔王候補に『警報』の呪術をかけられました。私を連れて行けば、いつまでもオーク共が追ってきます」
「なっ!?」
『警報』:トラップの中でも1、2を争う、厄介なものだ。無数のモンスターを『魔鐘』によって呼び寄せる。犠牲者を怪物の群れによって袋叩きにする、『デストラップ』であり。
おとぎ話にしかない『転移魔術』、アイテムでも行使しなければ、逃れるのは不可能と言われている。
「欲をかきすぎました。エルダーオークを倒せば、C.V.の等級も上がると考え・・・」
「・・・・・ッ!」
ルサーナのセリフを遮り、サヘルは細い身体を抱きしめる。
『分割払い』の利益に執着したのはサヘルであり。オーク討伐を指揮したのも、〔不利になれば退却できる〕と考えたのもサヘル自身だ。
リスクを負うのもサヘル一人であるべきだろう。
「落ち着いてください、マスター。
エルダーオークの魔力量・気配から『即死系』の異能を使ってくることは、予想できました。
ならば魔力抵抗の高いC.V.が戦うのは当然のことです。
そしてどうかこれらの情報を持ち帰り、魔導師団長様にお伝えください」
魔導師団長クララ・レイシアード。『ティアマトの宝珠』を用い、ユリネ様に力を授けたとか。
そしてルサーナにとってはかつての主であり。サヘルの提案した魔術の応用方法によって、面子をつぶされた上位カオスヴァルキリーでもある。
そんな御方の不興をかっている、サヘルの立場は非常に悪い。控えめに言って〔破滅が待っている〕というところか。
「この情報を得れば魔導師団長もサヘル様をきっとお許しに・・・」
「迷わず、その場でオレを八つ裂きにするだろうな」
「・・・・・ハイ?」
「ちなみに一番、軽い処罰だから」
対外的にはサヘルが上位C.V.様の面子をつぶした。『多色怪毒』を消毒・消臭と毒の分析を行う魔術能力として、応用する方法を提案し。ルサーナとその家族たちを長年救えなかったクララ様は、その評価を大きく下げた・・・・・ということになっている。
「俺だって面子のイロハぐらい知っている。しっかりクララ様に応用方法を伝えた。
そもそも人間のオレがC.V.の魔術能力について、リスク計算ができるはずないしな」
〔匂い消しの香水をかけたら、自身の嗅覚が麻痺して匂わなくなった。ただし香水が付加された悪臭はもっとひどくなり、船の向こうにいる敵にまで匂いが届いた〕
笑い話のようだが、そういう『海洋記』をサヘルは読んだことがあり。『猛毒』をあつかう『ワンダーヴェノム』を解毒系の魔術能力にアレンジしても。
〔それを使うルサーナたちが救われるとは限らない。考察・実証実験が絶対に必要です〕と言上した。
これらのやり取りを通して、サヘルはルサーナと知り合い。その後、上位C.V.のパーティーで【マスコット(お気に入り)】を務めていたルサーナから主様と呼ばれるようになった。
その後、クララ様から召喚され。迷わず同行なされた聖賢の御方様が取りなしてくださなかったら。サヘルはかわいい【癒やし要員】に手を出した(断じて否と主張する)“色魔”として処刑されていた・・・という確信がある。
「そういうわけで俺の未来のために、ルサーナが無事に生きて戻ることは必須条件だから」
「ハァ・・・いえ、まさか・・でも、そんな・・・」
ルサーナが動揺する気持ちはわかる。サヘルとしては〔墓まで持って行く〕オハナシだった。
だがこの状況下でルサーナを速やかに説得するために、必要な情報である。
〔やむを得ない緊急処置だ〕と声を大にして言いたい。
「さて、どうしたものか」
これからのオーク討伐について、サヘルは考える。
本来の作戦は、ひたすら遊撃戦を行い。オークがじれて、ない知恵をしぼって狩りの真似事を行うのを待つ。オークが陣形を組み集まったところを、ルサーナの『広範囲魔術』で一網打尽にするという作戦だった。
そのために『光点目印』をオークたちにかけて、その位置・移動を知ることができる『俯瞰視点』も用意したのだが。
「・・・再びエルダーオークの出現を確認しました。邪法でエルダーオークの育成・出現をコントロールしているのは明白ですね」
「強さはどのくらいか、わかるか?」
「先程、討伐した魔王候補と比べれば数段劣ります。
ですが指揮能力はありますので、しばらく経てばオークたちは混乱から立ち直るでしょう」
「そしてこいつを倒しても、エルダーオークが再出現すると・・・」
現状、手詰まりだった。おそらく最初の作戦どおり『広範囲魔術』を放っても、魔王候補のオークを倒しきれず。奴の脅威にさらされただろう。
だが強力なエルダーオークに対し、ルサーナは『ワンダーヒュドラ』を放ってしまい。『広範囲魔術』の発動どころか、長期戦にも耐えられない。
魔王候補を倒されたショックで混乱してるとはいえ、オーク共に切り込むのは自殺行為だろう。
「こうなったら『増魔毒液』を精製して・・・」
「やめろ、ルサーナ!そいつは禁断の果実だ。ちょっと待ってろ!!」
この状況でリスクを負うべきはサヘルである。ただし戦闘力や『魔力量』はあてにできない。
サヘルの戦いかたは既にある魔術を応用する。『知識の巨人』にぶら下がり、曲乗りをして意表を突くことだ。
「・・・・・よし『死霊術戯』を使おう。この日、この場でオークたちに特効を持つ術式をふるう。
ルサーナ!」
「マイマスターのお望みのままに」
「内容ぐらい聞けよ。表舞台には出られなくなる・・・まあ、外聞の悪い術式だ」
「・・ああ。マリーデ殿の術式でございますね」
「・・・・・そのとおりだ」
〔この非常時に、ルサーナから圧を感じるのは気のせい〕
〔余所の術式を考えていることに、C.V.ルサーナが不満を抱くわけがない〕
そう唱えながら、サヘルはルサーナに『得意魔術』のアレンジを説明した。
まずは単独行動をしているオークを襲い。次に魔王候補の邪眼持ちを倒され、混乱さめやらぬオーク3~5体に傷を刻む。
このとき無理に仕留めない。『アルケミックライト』と『特効死毒』の合わせ術式を発動するため。それに必要な『呪いの傷』を刻むことが目的だ。
「プガァ!?」「ゴルラッ!」「オオーー、グッ、ベマッ!!」
手負いの獣を量産していく。それにより一部のオークが闘争心を取り戻し。
それは怒気と化し、集団全体へと広がっていく。
「『ワンダーヴェノム』×10」
「よし、どんどん行くぞ」
オークに限らず『暴行亜人』は充分、強力な魔物である。その急成長ぶりは、成人・訓練に多大なコストを必要とする人間にとってチートでしかない。
しかしそれは〔何のリスクもない〕チートだろうか?
「プッ、ガッ!?」「ロォー~~!!?」「バグラッ!?」
「始まったな」
そんな甘い話があるわけがない。急成長する魔物は『個性』に欠け。肥満体・耐久力で補っているが、本来は病毒に弱い。実際、強力なエルダーオークですら『ワンダーヴェノム』に魔術紋を破壊されていた。
そんなオークたちの体から煙が吹き出していた。
「このような方法があるなんて・・・」
「まあ、悪辣非道な暴行亜人に対してだから、ギリギリ許される『死霊術戯』だ」
『呪いの傷』を刻まれた。『呪いの傷』を必中の目印にして、『ワンダーヴェノム』を付与した『魔石』を投じる。そうしてオークの血液に『毒液気体化』をかけて煙を放出させる。
異臭が漂い、視界が煙でふさがれる。そして事実上、生命力が蒸発していくに等しい地獄が広がっていった。
そんな半神の『英雄オリオン』を殺した。あるいは痛恨のダメージを与えた、サソリは普通の眷属なのでしょうか?かなり不自然だと愚考します。
普通の怪物に傷つけられる程度の英雄を、『アルテミス神』は側におかないでしょう。
これらのことから『さそり座』は『アポロン神』の化身だと推測します。『牛座』『山羊座』に『魚座』はどれもギリシャの神々が化身したものであり。『蠍座』に『アポロン神』が化身してもおかしくありません。
何より〔冬の『オリオン座』は夏の『さそり座』を恐れている〕という説があり。
大英雄のスペックを持つ『半神オリオン』を、そこまで怯えさせられるのは上位神格の化身ぐらいではないでしょうか。
以上、検索した〔さそり座がオリオンの攻撃に失敗した〕バージョンに大反対する。心の狭い者による妄想でした。




