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168.歓楽の街~閃光の斧

 〔ギリシャ神話の怪物の中で、最も目立ちながら日陰の存在であり。鈍重でありながら、神速の一撃を放つ。色々と相反する要素を併せもつ怪物は何でしょう?〕


 そう尋ねられたら、皆さんは何を思い浮かべますか?私は『さそり座(スコーピオン)』です。


 夏の黄道十二星座として天に輝きながら、“刺客”という裏の住人マモノであり。脚は機動性に劣るのに、尾の毒針は狩人『オリオン』を捉え刺す速さを持つ。

 そんな『サソリ座』は色々な面を持つ怪物だと思います。

 オークの集団を全滅・・させることになった、サヘルとルサーナの二人。


 C.V.として魔力の高いルサーナが、オークの位置を前衛サヘルに知らせる。俯瞰視点ケッカイの維持と指揮を行い。

 オークの短所を知り、それを突く技量がある中級シャドウ(サヘル)が前衛を務める。


 そのフォーメーションによって二人一組で行動するオークを狩っていく。




 『旋風閃光!』


 『そのまま直進して、背後を突いてください』


 機動力に優れた『旋風閃』の身体強化をベースに、重騎士の身体強化(ランドランダー)によるパワーを併せ持つ。

 『旋風閃光』で身体強化を行うサヘルは、ルサーナの指示に従い、次々とオークを撃破していく。


 「・・・ッ」「ッ!?ブルゥラッ!」


 とはいえ英雄戦士のように無双をしているわけでは無い。


 機動力に欠け、平衡感覚にも劣るオークの移動ルートを予想する。そうして急造魔物なオークの視界が狭いところを突いて、死角から襲い。仕留めたオークの肥満体を、残り一匹にぶつける。

 そうして動きを封じてから、二匹とも片手斧で始末するという。


 良く言えば遊撃。はっきり言って闇討ちに近い、奇襲攻撃をサヘルは繰り返す。

 イズン村という大事な顧客の安全がかかってなければ、不本意な戦法だった。


 『それにしても、こいつらは何故二匹だけで行動するのだろう』


 オーク共が『行軍』しているなら、もっと大集団で動いたほうがいいはずだ。

 数の暴力を使えば、こんな奇襲を返り討ちにするなどたやすい。


 『おそらく広範囲の攻撃魔術に対抗するためだと思われます』


 『〈ルサーナの魔術能力(ワンダーヴェノム)〉への対策だと?』


 肥満体で二足歩行するオークに偵察兵の技能はない。そこで二人組を捨て駒にして、情報を得ようというのだろう。


 『ワタシの〈多色怪毒ワンダーヴェノム〉では自然への影響ハカイが大きすぎます。

  よほどの事がないかぎり、使う予定は無いのですが』


 『・・・ソウだよなあ』


 同意の返事を魔術通信に送りながら、サヘルは思う。〔そんなことはないだろうだろう〕・・・と。

 サヘルや同胞(C.V.)が危機に陥れば、ルサーナは一切ためらわない。その事実を身をもって知っているサヘルは、〔命をだいじに〕を強く胸に刻む。


 『主様サヘル?』


 『さてと、そろそろ次の標的を教えてくれ』


 『申し訳ありません。私の準備にとりかかりますので、少々お時間をください』


 ルサーナの準備とは、殺傷力・・・の高い『ワンダーヴェノム(猛毒)』を組み立てることだ。


 冒険者ギルドでマリーデと戦っていた時から。正確には人間の領域で活動する際に、『猛毒』という忌み嫌われるモノを乱用するわけにはいかない。それで戦果をあげても、迫害されるリスクのほうがはるかに高いだろう。


 しかしこの戦場にいるのは、サヘルと暴行豚人オークどもだけだ。全滅させるオークは口が無くなり。聖賢の御方(イリス)様に仕える一員として、モンスターの穢れた死体は責任をもって処理する。


 よって通常、消毒液・解毒剤の『多色怪毒ワンダーヴェノム』を使っているルサーナ。彼女が致死毒の『ワンダーヴェノム』を今回、使用してもばれる確率は低く。

 万が一の時は、サヘルが責任をもって〔嫌がるルサーナに、猛毒の使用を強制しました〕と宣言する。そうして全てをかけてルサーナをかばえば、いいだけのことだ。


 『わかった。少し休憩してから、オレ一人でオークを狩る。準備ができたら、連絡してくれ』


 『お一人で、ですか?』


 『大丈夫だ。自分の戦闘力の低さは自覚している』


 ルサーナからすれば〔主様サヘル〕の戦闘力など護身術に等しい。〔スペック的に、人間では勝ち目が無い〕6級C.V.(ルサーナ)にとって、器用なサヘルは守るべき貴人なのだ。


 『でしたら御身を・・・』


 『だがオレには下賜された片手斧アックスがある。これを使えば遊撃ぐらいは可能だ』


 『〈閃光斧〉ですか・・・わかりました。急ぎ〈準備〉いたします。

  くれぐれも御身の安全を優先してください』


 『ルサーナは大げさだな。オレは〔御身〕などと言われる身分じゃ・』


 『大至急〈準備〉いたします。何よりも御身・・の安全を最優先・・・になさってください』


 『ハイ、承知しました』


 忠実なC.V.(ルサーナ)は時々、強引であり。今のところナンパ男(サヘル)が、それに抗う術はなかった。

 


 

 「「「「フゴッ、フゴッ、フゴッ」」」」「ブルバッ、ギィグ!」


 五体一組。四体のオーク兵を隊長格のオークリーダーが率いている。先程まで奇襲で狩れた、野良よりマシという二体一組ステゴマと異なり。こちらは軍団の手足として活動する、れっきとした部隊だ。

 その戦闘力は推して知るべしだろう。


 「お館(イリス)様。与えてくださった武具を使わせていただきます」


 しかしサヘルに緊張はない。配下の技量を十全に活かせるようにと、主君が選別してくださった『魔術の斧(アックス)』が力をくれる。

 シャドウの武具としては珍しい。重量武器の重みが、中級シャドウの凶暴性を解放していく。


 『フラッシュアックス』


 片手斧に魔術光が集束して、放たれる。それは巨大な斧の刃を型作り、輝く巨大な斧(グレートアックス)形成していき。


 「死ぃねぇーー~~~!!!」


 「「「「「ッ!?」」」」」


 サヘルの怒声と共に出現したグレートアックスを見て、オークたちが硬直する。

 パワー至上のオークにとって〔自分より大きい=強者・上位者〕であり。オークの主流武具である〔グレートアックスが振るわれる=上位者による断罪〕のイメージだ。

 そんな恐怖に囚われ動けないオーク兵二体を、サヘルは切り裂き致命傷を与える。



 実体のある片手斧で。



 「「・・・?・・・ッ!?」」「ブブガッ、ゴゥ!」


 古代ゴーレムベースでもあるまいし。サヘルの魔力で魔力の長剣(マジッックサーベル)など形成したら、たちまち魔力切れで昏倒してしまう。

 よって光術グレートアックスは幻灯武具マヤカシにすぎず。オークの度肝をぬいたら、実体のある片手斧をふるう必要がある。


 「どうした?戦闘中に驚いているヒマがあるのか?」


 「ゴォオオ!!!」


 人語は理解できずとも、挑発の意思は伝わり。幻灯武具(大斧)に怯えた、恥をすすぐべく突撃してくる。そうしてオークの重量武器が振り上げられ。


 「『『『錬金光術アルケミックライト!』』』そして『アルケミックライト』を『閃光斧』に付与する」


 「「「バヘッ!?」」」


 踊る武器に翻弄ほんろうされた。大斧の刃に『鎧光(加重)』をかけられ、その重さに驚き。逆に『浮遊する怪光』を付与されたつかが浮き上がり、重い刃が勝手に回る。オークたちは重心の狂った武器(重さ)に翻弄された。


 そんな丸腰以下の『暴行ブタ』などサヘルの敵ではない。


 『旋風閃光!』


 「「「・・・ッ」」」


 そうしてオーク五体が血の海に沈んだ。


 


 サヘルの『アルケミックライト』は不器用だ。色々と作業・成分調整を行えるが、戦闘には使えない。『少ない魔力で何度も使える』代わりに『魔術の必中する効果』を封じる誓約をかけているのだ。


 そのためシーフ・ゴブリンの動きを捕捉できず。トロール・邪鬼巨人の超重量武器コンボウの重心を崩す、出力・強制力はそもそもない。

 しかしオークだけは例外だ。奴等の鈍重さはサヘルの『アルケミックライト』で捕捉可能であり。大半のオークが持つ武器も、重心を狂わせられるサイズだ。


 まして取り回しが困難な斧・蛮刀を力任せにふるっている。そんなオーク共では、重心が狂った武具を取り落とす。動揺して自らや同族を傷つけることも多く。


 「投げ斧」×3


 「「「ギャバッ!?」」」


 サヘルはオークから奪った斧を飛び道具にして、五体集まりのオークを狩っていく。包囲されないよう、外周を削るように襲い続ける。


 「バルアッ!『ファイアーボール!!』


 「おっと、危ない。『フラッシュエッジ』」


 「ブグゥ!?」


 時折、飛び道具・攻撃魔術が放たれ、強めのオークコマンダーと遭遇することもあるが。

 投げ斧・閃光斧にセットした目つぶし術式(フラッシュエッジ)を発動すれば対応できる。視覚の【まばたき】を侮っている、暴力の住人など敵ではない。


 『フラッシュエッジ』で目の見えないオークを、サヘルは次々とほふる。『遮光グラス』の術式を使うまでもない。

 サヘルは目を閉じたまま『アルケミックライト』の解析を行使する。それによりオーク/地面と草木の情報を得ることで、“暴行ブタ(セイブツ)”のおおまかな位置・体勢を把握し。


 「これでっ、ラスト!」


 「ッ!!」


 サヘルは数分間にオークを五十以上も討ち取った。そろそろ魔力量が心もとないし、オーク集団も対抗策をとるだろう。

 ルサーナと合流して『ワンダーヴェノム』による広範囲への攻撃に協力するべきだ。


 そう判断してきびすを返す、サヘルの首筋に冷たいものがはしる。


 「ッ!?」


 「ブルバッ、ガァァーーー!!!!!」


 とっさに飛び退き、元いたところを見やる。そこには巨大な質量が咆吼ほうこうをあげていた。

 知り合いの重騎士よりも重厚な鎧を身にまといながら、オーク兵の鈍重さは欠片も無い。


 「おいおい、マジかよ」


 魔王候補エルダーオーク。悪行を為し、さらなる悪業を重ねるための超暴力を得た怪物が、調子に乗ったシャドウを睥睨へいげいしていた。

 『蠍座スコーピオン』の神話で最も両極端なこと。それはサイズについてだと考えます。


 〔サソリに刺されたオリオンは、海面で休み。それをアポロンに騙された、アルテミスが射殺す〕

 

 こういう兄妹神が関わる神話だとサソリは小さく。サソリ単体で『オリオン』を殺害する神話だと、巨大サソリになるようです。

 もっとも『巨大サソリ』がオリオンを圧倒する神話は、昨今マイナーなようですが。


 〔太陽神ヘリオスの息子。パエトンが太陽を運ぶ戦車チャリオットを暴走させた〕という神話にも『蠍座』は登場しており。〔サソリ座は暴走戦車に乗るパエトンを怯えさせた〕というくだりがあります。

 そのため『蠍座』は人間男性オリオン戦車チャリオットぐらいの大きさがあった。そういうアレンジ神話もありだと思います。


 なお検索した最新『蠍座』の神話は〔オリオン殺害にサソリは失敗・・した〕という内容とのこと。

 それは〔アポロン神の命令を果たせなかったサソリが『黄道十二星座』として天上に輝く〕という神話になってしまい。


 かなり“無理がある”バージョンの神話だと愚考します。神の命令を果たせなかったら『サソリ』は制裁されてしまう。星座になる栄誉は与えられないと思うのです。

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