表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/429

160.歓楽の街~マリーデの傲慢

 北欧神話の主神『オーディン』魔術・策略の戦神として名高い神であり。同時に世界でも類を見ない、『権威』に不安のある主神です。その理由は『オーディン』が持つ槍『グングニル』のため。


 今でこそ英雄大戦のランサーは活躍していますが。ファンタジーにおいて『槍』の扱いは低く。“テキトウ”と言っても過言ではありません。

 その根拠として『グングニル』『ゲイ・ボルグ』以外で、固有名のある槍がどれほどあるでしょう。大半が『持ち主(ロンギヌス)の槍』と言うように、『誰か()付属物』という扱いではないでしょうか。


 『ディルムッド』の双槍は〔双剣なのでは?〕という話があり。

 『ポセイドン』の『三つ叉槍(トライデント)』にいたっては、漁師・海賊の『三つ叉槍』も全てトライデントと呼ばれています。


 これらテキトウ扱いの幻想槍のイメージを払拭するために、印象に残るエピソードが必要なわけですが。『グングニル』は〔フェンリルに通用せず、呑み込まれました〕・・・という有様。

 もはや『ミニョル』『ゲイボルグ』に負けている、『グングニル』を持つ『オーディン』。その『権威』は危ういと愚考します。

中級シャドウのサヘルが冒険者講習を行っていた頃。冒険者たちの心胆しんたんを寒からしめる、ウワサとリスクの【宣告】が行われる少し前の時。



 冒険者ギルドの受付に、女性たちが詰め寄っていた。


 「これはいったい、どういうことかしら」


 「何故、私たちが講習に参加できないの?」


 「納得のいく、説明を求めるわ」


 「・・・・・ッ」


 男たちは半強制参加に等しい講習会からは、何故か女性冒険者たちが締め出されており。


 〔男女合同で行う講習としては問題がある。というか女性には必要ないわね〕


 そんな通達が今朝から出され、女性冒険者たちはギルド受付へと殺到していた。男女混合のパーティーでは男性陣が講習に拘束されてしまい、冒険ができない。女性だけの冒険者パーティーだけが依頼を選び放題になるなんて〔ズルイ〕という主張だったのだが。


 「ですから、私たち【受付】担当者はそのような通達は出していません。

  今回の講習会はギルドマスターの(独断による)指示なんです」


 〔だから私たち受付嬢に詰め寄られても困る〕


 そんな彼女たちの弁明は通ることなく。


 「ハァッ!?そんな言い訳が通ると思っているの?」


 「だったらギルマスを連れてきなさい。そして納得のいく説明をしなさいよ!」


 女冒険者たちの言動は徐々にヒートアップしていき。涙目の受付嬢に限界が来る、寸前で階段から声が放たれる。



 「そこまでにしておきなさい。あんまり大声を出すと、本性が出るわよ」


 「「「「「・・・!!!」」」」」


 その瞬間、ギルド建物内に火花が散り。開戦のラッパが高らかに吹き鳴らされた。






 「誰だ!ギルマスの部屋(二階)でいったい何をしていた!!」


 「何をしていようと、私の勝手よ。貴様たちに報告する義務などないわ」


 「ギルマスッ!ご無事ですかっ!」


 階段から降りてきたマリーデの言葉に、冒険者ギルドは瞬時に臨戦態勢になる。

 ビルナード(ギルマス)の安否を確認しようと、誰何の声があげられ。腕に自信のあるスタッフが、もう一つの階段を上り執務室へと向かう。


 それを横目で見ながら、マリーデは言の刃をふるった。


 「騒々しい連中ね。何かあったら声ぐらい出すでしょうに。そんなことも理解できないのかしら」


 「もしものコトに備える行動を、愚かと笑うの?随分ずいぶんと平和な世界で生きているのね」


 その言の刃が迎え討たれる。このまま斬り合いが始まるか・・・というところでギルドマスターが全速力で執務室から飛び出して来た。


 「何をしている!ギルド内部、冒険者同士の争いは厳禁だぞ!!」


 「「「・・・・・」」」


 「あら、そうだったわね」


 その言葉に女性冒険者たちは一応、矛を収めるもマリーデに従う義理はなく。

 さらなる火種を放り込む。


 「それでは説明したとおり。お美しい女性たちに美肌・色香ツヤに関する講習など必要ないでしょうから。

  しっかりと周知徹底してくださいね」


 「・・・・・オイッ!」


 「「「それはいったい、どういうことです!?」」」


 マリーデの〔女性冒険者に柔軟の講習はしない〕宣言を、ギルマスはとがめ。


 女性陣は誇張でなく殺気を放つ。その中には受付嬢たちも交じっていた。


 「どういうことも何も・・・有()なモノは有()になる。それだけのことですが」


 「それはっ・・・」


 「殿方たちにタダで柔軟の講習をしたのは〈お試し〉だから。

  硬直した身体が、冒険者の活動に支障をきたす状態だから『整体・柔軟』を施しただけよ。いったいオンナ冒険者(パーティーメンバー)はナニをしていたのやら。


  それに身体の柔らかい女性が、男と同様にタダで『整体・柔軟』をしろ・・・などと言わないわよね?」


 「「「「「・・・・・ッ」」」」」


 マリーデの言葉に、冒険者ギルドの女性陣は沈黙する。

 そして同時に、爆発寸前な鍛冶釜のような怒気を貯め込む。正論で誰もが納得できるならば苦労しない。彼女たちの感情は“男たちだけお試し”という不公平を認めるハズが無かった。


 それを目の当たりにしながら、マリーデは思う。


 〔とっとと実力行使に出なさい〕・・・と。


 女であるマリーデは、良人サヘルが不特定多数な異性の肌に触れることが不本意であり。まして『整体・柔軟』で身体の調子が良くなった女どもが、押し寄せるなど論外だ。

 仮に『有料』にしたところで、押し寄せる人数がどのくらい減ることやら。


 そして歓楽街の高級娼婦じゅうにんであるマリーデにとってオンナ冒険者は“敵”でしかない。

 後からやって来た雌ギツネが、活躍する男性冒険者をモノにする。そのせいで娼婦の【身請け話】が、どれほど立ち消えになったことか。“痴情のもつれ”でどれほどの冒険者パーティー(上客)が崩壊したことか。


 それらの所業を棚に上げて、家族を養うため苦界に入った娼婦を“色魔”“病気持ち”扱いする。

 マリーデが力を得た以上、そんな悪女たちの好き勝手にはもうさせない。奴等にはここで破滅してもらう。


 「それではゴキゲンヨウ皆さん。用が済んだので、私はこれで失礼するわ」


 「待ちな・・・」


 「待ってくれっ!いや、お待ちくださいマリーデ様!!」


 オンナ冒険者たちを挑発しつつ去ろうとするマリーデを、ギルマスのビルナードが敬語を述べて引き留める。

 建前として冒険者ギルドは独立組織で、権力の影響を受けていない・・・ということになっており。執務室ミッシツならともかく、衆目の前でギルマスが敬語・頭を下げるのは対外的にまずいのだが。


 単独行動に見えるマリーデを侮った、女性冒険者たちがもめ事を起こすほうが〔危険だ〕と考えたのだろう。仕方なくマリーデはギルマスの顔を立てる。


 「これから混成の暴行亜人ゴブリン・オーク・トロールの討伐が控えている。

  こんなところで争う元気があるなら、討伐でそれを発散しろ!!」


 〔それとも非常時にもめ事を起こして、評価を下げたいのか?〕


 ビルナードの言葉・無言の圧力に、女冒険者たちは渋々ながら引き下がる。数年越しの努力と幸運の集大成である、冒険者ランクが下がることは彼女たちにとって悪夢だろう。これを持ち出されては、たいていの冒険者は引き下がるしかない。


 だがマリーデにとって冒険者テキの評価など知ったことではなく。さらなる挑発で破滅させてやろうと、宣告を行う。


 「お話のところ悪いけれど。今回の討伐依頼に、女性冒険者たちの参加は遠慮してもらいます」


 「「「ハァッ!?」」」


 「何故だ?いったいどういう理由で、私たちのどこが男共に劣ると言うのだ!!」


 「そうですね。まずそんなセリフが出てくる、考え無しなところを私は問題視しています」



 暴行亜人ゴブリン・オークどころか、混成の暴行亜人ゴブリン・オーク・トロールと大規模な戦闘を行う、マリーデ(が依頼人ということになっている今回)の依頼。敗北の許されない『戦争』であり。普段の冒険と異なり、最低限“勝敗後”のことも考えてもらわねばならない。


 他種族の女性を“使い潰して”増殖する、実質モンスターである暴行亜人との戦い。

 若手ルーキーなら敗北しても〔くっコロ〕〔救出されるまで諦めるな〕というやり取りで済むだろうが。この世界の実戦でそんな甘いセリフが入る余地はない。


 “女冒険者たちが囚われる→暴行亜人が増殖する→凶行による惨劇が激増する”


 こういう奈落の連鎖が発動するのみであり。リベンジが行われる確立などゼロに近い。


 「まともな思慮があるなら。こういう最悪の事態を考え、避妊タイサクの一つも考えるべきでしょう。


  それなのに貴女たちときたら〔“不公平”だ“侮辱”するな〕と不満を述べるばかり。いいかげんバカにするのも面倒なのですけど」


 「キサマぁ・・・」


 「なめるなっ!」


 マリーデの侮辱・挑発に対し、激昂した女スカウトがとびかかる。雌豹のような体躯が宙を舞い、マリーデの喉に刃がつきつけられ。


 「売女がっ、護衛もいないくせになめた口っ⁉」


 「危ないっ!」


 『リッパー』


 ドゥーガの刃が振るわれ、それを紙一重のところで避けられる。同時に帽子・外套がいとうが宙に浮かび、真紅の仮面が装着されて『魔竜鬼』の存在を主張する。


 『マスカレイド、リッパー!ネイルズ!!マッドネストリップ!!!』


 「キャァーーーっ!」「このバケモノっ!」「囲めっ、押し包んで倒すぞ」


 「待てっ、落ち着いて話をっ…」


 ギルマスの制止の声も空しく、女冒険者たちは陣形を組む。そうして幽鬼のようにたたずむ『魔竜鬼』カレイドに、攻撃を行おうと構え。


 『フルーレ』


 「キャァッ!」「カハっ⁉」「そんなっ…」


 不可視の刺突によって切り裂かれ、血の臭いが漂う。

 温度によって水が三態に変わるように、術者の感情まりょくによって『魔竜鬼』カレイドは能力が変わる。


 現在の『マッドネス』は戦闘力を重視した形態であり。ただでさえ見えにくい魔力の細剣が、オンナ冒険者たちの肌を切り裂いていく。


 「〔やめろ〕と言っているだろうが!」


 「先に仕掛けたのも、頭数があるのもそちらの方。私は身を守っているだけよ」


 「クソっ・・・」


 ギルマスのビルナードが表情を歪める。冒険者寄りの中立であるビルナードとしては、マリーデの正論に〔ハイ、わかりました〕と言うわけにはいかず。かといって女性冒険者たちに肩入れし過ぎると。講習会をやっているサヘル様とその所属組織シャドウを敵に回し、エルク支部は壊滅しかねない。

 ギルマスとしては冒険者が優勢、というところでこのいさかいを止めたいのだろうが。


 「いいわよ。まとめてかかってきなさい」


 マリーデのセリフを聞いて、女性冒険者たちの目に怯えと殺意が同時に宿る。


 そうして彼女たちは、お互いに感情を爆発させた。

 とりあえず私の勝手なイメージは置いておくとして。

 である『グングニル』は北欧の文化的にも『権威』が下がると愚考します。

 というのも北欧の戦士で上位の者が持つ武具は『剣』であり。『槍』はその次、中級クラスの戦士が持つ武具とのこと。


 せめて神器の『剣』を一振り持っていれば、マシなのですが。『グングニル』以外で『オーディン』が持つのは『杖』というイメージであり。


 星鎧のオーディン像・ローブのように『剣』を持っているならともかく。主神なのに『槍』をメイン神器とする『オーディン』は〔トップではない〕と告げている。私はそんな妄想をしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ