151.金輝のコイン~凶相の瞳
『グリフォン』は何故、『ドラゴン』との人気争いに敗北したのか。某、国民的RPGでは『スライム』に敗れ、なろうでは『フェンリル』に遠く及ばない。
その理由の一つは中途半端だからだと愚考します。『鷲』と『獅子』の合成獣であるグリフォンは、スペック通りなら空と陸の鳥獣王になり得たかもしれません。
しかしその生態は〈岩山で宝を守る。黄金を探す〉というもの。古代中東では『門番』の彫像があり、ギリシャでは神々の車をひく。
どれも犬や馬の役割であり、いくら神の僕だとしても鳥獣王の役割としてふさわしいと言えるでしょうか。せめて戦神・大王の騎馬になっていればよかったのですが。
英雄大戦、シャルルマーニュ十二勇士の騎士アストルフォがヒポグリフに乗っている・・・・・グリフォンに関する伝承はこのぐらいでしょうか。これでは『ドラゴン』どころか『ヒュドラ』にすらネームバリューで負けてしまいます。
ウァーテルの女王として都市を支配する聖賢イリス・レーベロア様。
その血族C.V.であるイセリナ・ルベイリーには様々な役目・役職がある。事実上の宰相として政務を取り仕切る。陸戦師団長として重騎士たちを束ね指揮する将軍として軍務に就く。
そしてイセリナにとって最も重要な役割は財務関連だろう。
政務・軍務は規格外の存在であるイリス姉上が本気を出せば、イセリナなど器用貧乏な文官でしかない。それに陸戦副師団長のガルド、魔導師団長クララならば充分イセリナの代役が務まる。
しかし財務に関してのみは他人に任せられない。C.V.やそれに仕える人間たちは、半神に等しい財力のせいで金銭感覚が麻痺している。にわか成金やボンボンのように無駄な浪費はしない。とはいえ大金の影響、人を狂わせる金の力というものを理解しておらず。
「悪いが今回の件に関しては誰にも任せられない。私が取り仕切らせてもらう!」
「団長閣下の御心のままに」
「いーよ~。イセリナに任せた!」
「財政担当は貴女の役目でしょう。シャドウが口出しする気などないわ」
『扇奈!ここは反対意見を言って派閥争いゴッコをするべきところでしょう』
「・・・・・」
イセリナの予測した反対意見は一切出ず。『高速会話』で“ゴッコ”扱いする侍女シャドウの配慮が、最もイセリナの胸をえぐる。
かくしてイセリナは大きな出費の〈後始末〉をすることになった。
“牛殺し”の茶番から始まった、突然の祭り。都市住人たちに一晩だけC.V.料理をふるまう。酒場の勘定を肩代わりする饗宴は一応の成功を収めた。盗賊ギルドがイロイロと暗躍していたが、全て未然に防ぎ。奴等の戦力を削ることに成功する。
だからと言って、酒場・食堂からの請求書が無くなることはなく。シーフ共からめぼしい戦利品も得ていない。よってイセリナたち財政担当の部署には書類が山積みにされ。
「『速読』『光術筆記』・・・予想はしていたけど。割り増し料金がすごいわね」
「団長のお慈悲をはきちがえる不届き者たち。お命じ下されば、即座に成敗してまいります!」
「「「・・・・・」」」
酒場からの送られてきた請求書の山を前にして、血気さかんな重騎士が過激な意見を述べる。だが知性派な武官たちも似たようなものであり。
〔臨時徴税で今回の出費を補っては?〕
〔山賊・海賊たちから得た戦利品を持ち主に返さず、政庁の金庫に収納しましょう〕
そんな意思をこめた視線を、配下の文武官たちは向けてくる。それなりに魅力的な提案だが、イセリナとしては盗賊ギルドに一矢報いたい。
最低でも狙撃弓兵による、頭目のヘッドショット。あるいは弓英雄の理不尽が降りかかると刻み込みたい。
だからイセリナは微笑みながら配下に自制を命じ。請求書を三つに分類する。
「まず重騎士、シャドウが懇意にしているお店には請求された額に色をつけて払いなさい。
そして魔がさして、多めに請求した店には次の通告する。
〔この売り上げから一年の税金を算出してもかまわないな〕・・・とね」
突然の祭り。しかもタダ酒で店の売り上げは倍増どころではないだろう。だがそれは一夜限りのイベント効果でしかなく。それを基準に税を取り立てられたら破産するのは確実だ。
もちろん夜逃げ・店名変更への対策は既に完成しており。欲にかられ詐欺まがいのことを続ける者にはきつい罰金が課せられる。
「通告だけでよろしいのですか?不届きな割り増し請求を行った者には、その時点で制裁してもよいと思うのですが」
「小官も同意します。略奪暴行を一切行わない我が軍は侮られております。少しは怖いところを見せてもよろしいかと」
都市ウァーテルの政庁で書類仕事に忙殺される文武官が強硬策を提案する。中級以上の重騎士たちは『速読』をほぼ全員が習得しているとはいえ。多言語・誤字にあふれる書類の山にうんざりする彼らはうっぷんがたまっているのだろう。
ちなみにイセリナとしては“牛殺し”で下級シャドウにやり込められ。食料関連で盗賊ギルドの同時多発な攻撃を受け。その怒りは既に頂点に達しており。
「こらこら、怖いことを言わないの」
「「「・・・っ!?・・:*;!!?」」」
「ここに盗賊ギルドを兼業している店のリストがある。今回の礼は奴等にしっかり徹底的に行うのだから。欲張り店主の酒場に意地悪はしないわよ」
「「「サー!イエッサー!!!」」」
配下の重騎士たちが迅速、速やかに了承する。その表情は見てはいけないモノを、目の当たりにしたかのように引きつっており。かくして報復が始まった。
数日後
イセリナは権力者の特権を行使していた。罪の証拠も無いのに、一部の店の経営者たちを自分の屋敷に連行させる。
〔酒の勘定を肩代わりすると言ったが、請求書の代金が高すぎるからオハナシをしたい〕と使者の重騎士たちは伝えたはずだが。
「このっ、離しやがれっ!」「横暴だ!いったい俺等が何をしたっていうんだ!」
殺気だった重騎士の言動から、身の危険を感じたのだろう。酒場の主たちはある者は逃走を試み、ある者は激しく抵抗したとのこと。
そんなギルドの密偵たちにイセリナは優しく声をかける。
「こんにちは、盗賊ギルドの使い魔たち。今日は今までのお礼をまとめてするため、ご足労願った」
「「・・・・・ッ!!」」
それなのに罵声を上げていた、ギルド側の店主たちは一瞬で沈黙する。イセリナはこの場で奴等を殺す気など無い。よって殺気も放って無いのに、賊に組する男共は身体を硬直させる。
そして忠実な部下たちは連中を肉壁にするかのように、関節を極めて動きを封じ。イセリナの視線を遮るように、自らの前にかざした。彼らの目はけっしてイセリナを直視しようとせず。
その態度にさすがのイセリナも傷ついたが。
「ヒッ!?・・・:*;`^」
「・・・・・」
引っ立てられ、肉の盾にされた男の眼球をのぞきこむ。その目を『鏡』にして自分の顔を映す。
“邪悪な魔女”が瞳孔の開いた目で、イセリナを見ていた。
「何でも言うっ!何でも吐きます!!だからっ・・・」
「うるさいわよ。別に尋問のため呼び出したわけでは無い。〔お礼をする〕と言ったでしょう」
「「・・・ッ!!」」
「「「「「・・・ッ」」」」」
部屋の中にいる誰一人、イセリナの言葉を信じていない。やはり魔術に依存した化粧は色々と問題があるようだ。これからはパーティーメンバーのラケルに手伝ってもらおう。
そんなことを考えつつイセリナは言の葉をふるう。
「貴様たちは盗賊ギルドと縁が深い。だからその縁を使ってシーフ連中への使者になってもらう」
「使い・・・でございますか?」
「ええ。盗賊ギルドの貯め込んだ【財宝】をお返しする。そのための使者を、お前たちに命じる」
『鷲』と『獅子』の合成獣であるグリフォン。そのデザインはキメラの中では簡素で、シンプルイズベストと言えるでしょう。実際、紋章・彫像の『グリフォン』はほぼ同じデザインであり、姿をイメージしやすい。人々に広まりやすかったと推測します。
しかしこのデザインはリアル動物とモンスターが混ざった中途半端なものではないでしょうか。
本物の『鷲』と比べ鈍重で、『獅子』と比べ軽量でパワーに劣る。動物好きの目で見ると、鳥獣の王それぞれの“短所”を連想してしまう。
〔もう鷲・獅子のどちらか単体に色を塗ったり、描写の練習をしたほうが良いのでは?〕
私はそう考えてしまい。『グリフォン』の人気・出番は下降の一途になったと愚考します。




