15.下級シャドウ
強い可能性のあるシーフというとスカウト、偵察兵を名乗るシーフでしょうか。犯罪ギルドより治安を向上させれば、店からのあがりもアップするでしょう。そしてそれを狙うシーフ、闇ギルドを撃退していれば戦闘経験も上がり連中から身ぐるみをはぐこともできます。
うっかり海軍・海賊に手を出すと『黒騎士な王』が出てきて壊滅させられますが。
盗賊vsシャドウ。その戦いを言い表すなら〔猫vsネコ科の猛獣ハイブリッド〕という感じだろうか。
盗賊より戦闘力の勝る職業など珍しくもない。だが足の速さ、跳躍力に感覚の鋭さなど。シーフの長所すべてで、シャドウは上を行く。シーフを完全に圧倒する上位互換の存在が、ライオンの狩り以上の連携で襲いかかってくる。
それはもはや戦闘どころか狩りですらない。〔一方的な追撃戦が繰り広げられた〕と言うべきだろう。
たいていのシーフ、チンピラにとって戦いとは私刑か闇討ちだ。大人数で少数を囲み袋叩きにする。あるいは油断している相手に奇襲をかける。それが盗賊ギルドに所属するものの『戦い』だ。
別にそれを卑怯と罵る気はない。綺麗事を言っても戦術・兵法とはそういうものである。『武官・参謀』がそれで知恵者と言われるのは、彼らが権力を使って宣伝しているから。彼らを従える権力者たちの権威・プライドを守るためだろう。
しかし聖賢の主イセリナ様に仕えるシャドウにその戦法は通用しない。
「フッ」
「なぁ⁉」
包囲が完成する前にその一角に拳撃を放つ。たったの一撃で倒れるチンピラを横目に、ライゾウは路地の壁を蹴る三角飛びで屋根の上へと着地した。
「追えっ!逃がすッ⁉」
「逃げるかよ」
そのまま屋根の上から気配と声の発生源に向かってナイフを投擲。何本かは命中したのだろう。気配の乱れと血の匂いが当たりに漂う。
「そこを動くな、この卑怯者めが‼」
盗賊が卑怯とか、この連中は騎士や正義の味方にでもなったつもりだろうか。返答する気の失せる“戯言”を発した盗賊が、屋根の縁に手をかけて登ろうとしている。その上半身が見えたところで跳躍・蹴撃の連続技を放つ。身体強化もかけてないその飛び蹴りは、ライゾウの予想に反して確かな手ごたえをつま先に返してきた。
「降りてきたぞ。逃がすなっ!」
顔面を変形させたシーフが障害となってライゾウの飛距離が落ちる。その体は斜めに落下し反対側の垂直な壁に足だけがついた。そこから壁を駆け上がる領域にライゾウは達していない。
「主様、その御力をっ!『ライト』」
だが無様に落下するほど未熟でもない。ゴロツキのギルドメンバーたちが予測する落下地点をずらしつつ、着地する寸前に術式を発動させる。瞬く魔力によって路地裏に光がわずかに乱舞した。
「馬鹿めが、そんなくだらん魔術にひるむとでも思っていっ⁉」
「無礼者」
盗賊の分際で、イリス様に侮辱のセリフをたれ流そうとした奴を標的に決める。着地のタイムラグなく転がり接近して、足首を短剣で切り裂く。光を目つぶしと勘違いして目をつぶっている雑魚は論外。とっさに腕をかざして防御姿勢を取った者も、死角・予想外の地をはう一閃に切り裂かれてゆく。
「ギャァッ!」「痛いっ、イダイッ‼」
激痛、もしくは物理的に足が使えなくなった盗賊ギルドの連中が地べたを転げまわる。そんな連中を冷たい目で見据えながらライゾウは口を開いた。
「貴様ら下種が主から下賜された光の術式を嘲るなど、永遠に許されることではない。その暴言を後悔しながら死ね」
たかがライト。されどそれは一般人と三流魔術師が使えばの話だ。
刹那の速さで戦う。高速の戦場を駆けるシャドウたちにとって、ライトが作る瞬きは致命的な隙と化す。
そもそも人間がもっとも依存している、目をくらませる効果は思いのほか大きい。何も完全に目をつぶす必要はない。一瞬でも注意をひいて、わずかでも死角ができれば一閃をふるうには充分なのだ。
むしろ呪文だ魔力だと浪費する魔術のほうが、武術との合わせ技には厳しい修行を要する。不可能とまでは言わない。だがライトという基礎の術式をないがしろにして、高みに至るのは人外の勇者・英雄ぐらいだろう。
「もっともこれから死ぬ貴様らには関係ない話だがな」
「ヒッ!」「待てっ、待ってくれ!」「取り消すっ!。さっきの暴言は取りケっ・/:**」
〔命だけは助けてくれ〕
続くはずのセリフは発されることなく、路地裏には静寂が戻った。
シーフにとって足は武器であり、逃げ足は武術も同然だ。敵がいくら強くても逃げれば仕切り直しができる。そうして再戦の時まで復讐の牙を研ぎ続け、絶対的に有利な状況を作る。そうなれば腕利きの戦士、魔術師だろうと等しく負け犬と化すだろう。
「遅いぞ、鈍亀」
「なっ⁉もう、追いつっ、ギャァ‼」
しかしそれは逃走に失敗すれば殺戮される弱者と化す。草食獣にも劣るエサに堕ちることを意味する。悪徳の町ウァーテル。その路地裏・スラムの各所でそんな惨劇が繰り返されていた。
先ほどまで我が物顔でふるまっていた、盗賊ギルドの構成員が狩られ逃げ惑う。前代未聞の光景に大半の者が動揺していた。
それゆえ都市の正門で番兵・用心棒を打ち倒すカオス・ヴァルキリーを名乗る、主従に払われる注意は少なく。シーフたちを狩りたてる要は、単なる盗賊の上位互換職だと誰もが思った。
もっともスカウトがいくら強いと言ってもあくまでシーフの中での話。迷宮・戦場で戦局を左右する特殊部隊には実力で遠く及ばないでしょう。
何よりその練度を維持するのは至難の技。平和ボケしても凶悪化してもスカウトではいられません。
自称スカウトのシーフ・ギャングが多すぎてスカウトシーフは消えてしまったようです。