144.背反の加工所
133話の続きになります。
『河童』の名とは裏腹に。泥亀の甲羅を持ち。蛙の表皮を持つ『河童』は河・川より池や沼の妖怪ではないかと愚考します。
さらに鳥系モンスターでもないのに顔についている『クチバシ』は世界レベルで珍しい過ぎます。鳥以外で『クチバシ』を持つ動物がオーストラリアの『カモノハシ』ぐらいしかいないのと同様に。
『河童』を見た・描いた人たちは、何故『クチバシ』を見出したのでしょうか?
もっとも雄弁な河童に『クチバシ』は無いことも多いですが。
あらすじ
金のため盗賊ギルドに協力するスラムの住民たち。彼らを制裁するためイセリナ・ルベイリーは茶番を企画する。だが茶番の主演である下級シャドウ、ウェアルの言葉により計画は中止され。スラムの住民たちは牛の丸焼き料理と仕事を得ることになった。
しかし牛の丸焼きがタダでふるまわれたことが、ウァーテル正市民に知れ渡り。大挙して押し寄せる彼らの胃袋を満たす。スラム住民を贔屓したわけでは無いとアピールするために、C.V.イリスとその配下たちは奔走するはめになった。
「出てけっ!失せやがれー~~!!!」
ウァーテルの一画。牛を解体して食肉に加工する建物で怒声が響き渡る。その大喝を放ったのは屈強な職人風の男であり。唾まじりの大声をあびたのは、陸戦師団の小隊長ゴルンだった。
本来ならイセリナ団長閣下の配下であるゴルンに対し、平民の職人が怒鳴るなど許されない。身分・戦闘力の両面で上のゴルンが無礼討ちをしても、文句を言えない蛮行を男はやらかしているのだが。
聖賢の御方様が〔略奪暴行の禁止〕を宣言している以上、ゴルンも安易な暴力を振うわけにはいかない。イセリナ団長が数頭の牛、もしくは解体されたばかりの新鮮な肉牛を欲しているとはいえ。
半狂乱で怒鳴る理由を聞いた後でも、無礼討ちはできる。
そう考えてゴルンは優しく語りかけた。
「それで?気は済んだか?」
「ッ!?」「「「・・・・・ッ」」」
「別にタダで寄こせという気は無い。金を払うから生きた牛、新鮮な肉を分けてくれと言ってるだけで。何故、俺たちは罵声を浴びせられるんだ?」
「ヒッ!」「あ、アア・・・」「*:/*--~」
穏便に話しかけたゴルンの努力は実らず。虚勢のメッキがはがれ、怯えの感情が露わになる。
とりあえず現状を理解しない種類の錯乱はしてないようで、一安心だが。食肉加工所で働く者たちはより正確に現状を認識してほしい、とゴルンは思う。
「アンタが。アンタらが悪いんだ!このままじゃ暮らしていけねえ」
「・・・・・」
恨み言を述べる加工所の親方をゴルンは冷めた目で見下ろす。はっきり言ってゴルンの知ったことではない。とっとと店をたたむなり、盗賊ギルドを追いかける。そういう決断をしないから〔暮らしていけない〕などと泣き言を垂れ流すのだ。
畜産業。それも肉牛という巨大家畜を育てることは容易ではない。飢え、疫病に山賊の類が跋扈しているのだ。下手に〈放牧〉などすれば山賊・モンスターに襲われる。たとえ畜舎で育てても、飼料を確保し続け自衛するには権力者との結びつきが必須であり。
悪徳の都ウァーテルの権力者・盗賊ギルドを追い払った団長閣下たちは、高級肉牛の加工所にとって敵に等しいのだろう。牛の畜産と一蓮托生の加工所にとって、閣下の善政は自分たちの生活を脅かす人災でしかない。
「こうして牛、食肉を買うと言っているんだ。それを生活のたしにすればいいだろう」
「ふざけるな!バカにするな!!」
うるさい奴等だとゴルンは思う。
確かに政変の時、商家や工房に配慮する。彼らの生活を支えるために、継続して商品を購入するのは貴族の義務かもしれない。
しかし前の権力者は“卑劣な”盗賊ギルドの複合体であり。聖賢の御方様たちは『戦争種族』だ。
悲劇の主人公気取りの加工所だが。前のお得意様に命じられて、どんな“卑劣”な小細工に協力するか知れたものではない。
そもそも、牛一頭を育てるために飼料を用意し。畜舎の環境を整え、輸送コストをかけて、貴族の食卓にならべる。そんな贅沢に金をかけるくらいなら、他の食糧供給を安定させるのにコストをかけるべき。偽善の人気取りだろうと、ウァーテル市民がお腹いっぱい食べることを優先するのがC.V.という『戦争種族』の計算だ。
「そもそも、アンタらは自分たちで獲物を狩り、解体までやってしまう。牛飼いや加工所に死ねって言うのか」
「・・・・・」
〔今まで盗賊ギルドに媚びを売り甘い汁を吸ってきた。スラムや寒村で餓死者が出て。山賊・怪物に襲われる人々を尻目に、牛の飼料をギルド幹部の力で得てきた。そんな連中が路頭に迷う〕
ゴルンは全く配慮する気になれなかった。自力で経営努力をするか、盗賊ギルドと心中すればいいと思う。まして清貧のイセリナ団長が摂る御食事に〔“賊”と同じ肉料理を出せ〕などと意見する。平民でなくとも無礼千万だ。
「ゴルン隊長・・・」「コイツらなら・・・」「・・・にふさわしいのでは」
“無礼者”に対し、部下たちも殺気を放ち始める。ちょうど【略奪暴行の禁止】を厳命したイセリナ団長の〈先見〉を“甘さ”と勘違いしている者たちが増えており。
そういう連中の肝を冷やすため〈見せしめ〉を用意すべきと陸戦師団員は考えていた。そして都合よく目の前に無礼者がそろっている。
ゴルンの顔が肉食獣の笑みを浮かべ。
『鎧光』
とっさに装甲の術式を発動する。同時に、畜舎の壁を突き破り牛の巨体が突進してきた。
牛の加工所の親方:ギラムの主張
コネもアポもなく押しかけてきたゴルンと名乗る巨漢の騎士。そいつの目には嘲りの色があった。
〔外道な盗賊・山賊にシッポを振るゴロツキ職人〕
その目は雄弁に、そう告げており。〔金と威圧をちらつかせれば従うだろう〕と考えているのは明らかだ。
「出てけっ!失せやがれ-~~!!!」
しかしギラムはこんな脅しに屈するわけにはいかない。その理由は二つあり。
一つは盗賊ギルドが“見せしめ”にする裏切り者を物色しており。ギラムはともかく雇われ作業員や家族の安全を考慮すれば。C.V.軍団が暴力をふるわないかぎり、屈することは許されない。金、威嚇に怯える腰抜け加工所など、盗賊たちは即座に見限る。
そしてもう一つの理由は【秩序】を守るためだ。
下はチンピラから、上は国王まで。奴等の良識にギラムは一切全く期待していない。ギラムが当てにしているのは奴等の『食欲』と『傲慢』であり。
ギラムが莫大な『コスト』をかけて【牛】を育て、奴等の『食欲』『プライド』を満たす。
そうすることで【牛】肉を権力者たちが求め。【牛】肉を用意できない階級は貧しいという風潮を作り維持する。
それでようやく権力者たちは、【牛】を育てられる環境を整えるようになり。飼料を育てる農地を守り、【牛】を輸送する道の整備を行う。
平民100人の命より、自分一人の面子・欲望を優先する権力者。奴等に最低限の治政を行わせるため、【牛】の高品質・ブランド化は必須事項だ。
「それで?気は済んだか?」
そうやってギラムたちが苦労して【秩序】を守ってきたのに。脳筋戦士どもはその苦労をわかっていない。おおかた〔魔物を狩って食べればいい〕とでも考えているのだろうが。その先に待っているのは畜産業の衰退だけで済まない。
〔今夜のメインディッシュのため、下民は魔物を狩ってこい〕と強制する権力者の横暴だろう。その後、人々は魔物に返り討ちにあい、貪り食われる惨劇の始まりだ。それを阻止するため、ギラムたち畜産に関わる者は中立を保ち。【牛】の品質・ブランドを維持してきた。
【牛】を求めて増税・失策が行われ犠牲が出ても、それは【秩序】を守るために必要なコストというものだろう。
『河童』の顔の『クチバシ』は何か?当然、水鳥のクチバシを取り込んだはず。水鳥のクチバシに全く似てない、鋭い『河童』のクチバシもありますが。顔とのサイズ比が5:5もしくは6:4もあり。もう鳥のクチバシではない、『カラス天狗』の創作河童だと考えます。
そんな水鳥の『クチバシ』を河童は何故、持つのか。100%憶測ですが、『河童』=『川の神』の名残だと考えます。『鳥』は神様の使いであり、それは『水鳥』だろうと変わりません。そのため『クチバシ』を持つ『河童』は本来、『天狗』と同格ぐらいに強いはずですが。
昔話の『河童』は皿の水がこぼれて無力化することが多い。『天狗』と比べ、人間に敗れる確率が高い妖怪でしょう。私はそれで『河童』を侮っていましたが。
『河童』のクチバシが水鳥なら。『河童』の頭の『皿の水』は、水鳥が暮らす『ため池』『湿地帯』を表すのではないでしょうか。それなら治水工事(人の知恵)で、豊かな水を利用する→人間が河童に勝つ昔話ができる。そういう流れを妄想します。
同時に『河童を殺す』オハナシの場合。水争いで“屍山血河”ができたり。“鉱毒”で水源を台無しにする歴史を想像しますが。




