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138.歓楽の街~錬金光術の刃

 戦国時代に『鉄砲部隊』を運用するのは有能さの証だと思います。ただしそれは『官位』と比べて、諸刃の剣というリスクを持ちます。


 極論を言えば『官位』は得てしまえばこっちのもの。もちろん献金ワイロは定期的に行わねばならず。〔儀式をするから献金をもっとしろ〕という要求もあるでしょう。それに関しては必要経費、交際費と割り切るしかありません。


 とはいえ『官位』を得てしまえばその『使者』は朝廷のお墨付きを得たようなもの。ある程度、領国をまたいで『情報収集』を行う『使者じんいん』を移動させることも可能でしょう。無位の小勢力を威圧できますし、『官位』を得れば元は取れると考えます。


 しかし『鉄砲部隊』の運用はそうはいきません。あれは恐ろしい諸刃の剣(リスク)です。

 『錬金光術アルケミックライト』の奥義。それは殺法あんさつ活法ちりょうを自在にこなす、人体の『急所を突く』技と似ている。針術・指拳が『急所を突く』前段階として、突くべき急所を【認識】する必要があるように。


 『アルケミックライト』も加重(鎧光)・軽量(浮遊)化と微細微量(化学成分)光術で覆う(コーティング)前段階として。極小・無数の錬金成分を【認識みる】する必要がある。

 そして『光学情報(視覚)』を重視する聖賢の御方(イリス)様の光属性は、従来の『ライト』とは一線を画し。中級シャドウであるサヘルには、その力の一部が下賜かしされている。




 「かこめっ!押し包んで仕留めろ!!」「「「「「・・・ッ!」」」」」


 暗い路地裏で刺客の集団が殺到してくる。たかだか中級シャドウのサヘル一人を襲うのにご苦労なことだが。下級シャドウ一人にすらかなわない、シーフの同類としてはマシな部類かもしれない。


 『旋風閃光』


 だからと言ってサヘルに討たれてやる義理などあるはずもなく。奴らを壊滅・・させるべく強化術式を発動する。シャドウの速さ、重騎士のパワーを併せ持つ身体強化の術式。

 もっとも現時点でそんな万能強化が実戦レベルに達しているはずもなく。『アルケミックライト』を行使するサヘルはそちらも併用しなければならなかった。


 「財貨をもたらす神聖では無い光よ。影を作りし刃をもたらせ『アルケミックライト』!」


 「くるぞっ、光術防御!!」


 「闇のとばりよ・・・」「後ろへっ」「ッ!」『『『ダークバックラー』』』


 対応が速い。目くらましの術式をシャドウ一族は使っていないが、『アルケミックライト』を多用するサヘルの手札が『光属性』だと予想できる精鋭のようだ。

 前衛が闇属性の魔術で防壁を形成し、後衛が曲射の飛び道具を投じるという陣形だろうか。魔力はたいしたことないが、前衛は命を捨てる覚悟なのだろう。サヘルの魔力でその捨て身を打ち破ることはできそうになく。


 「放てっ!」「「「「「・・・ッ」」」」」


 投げ斧、異形短剣と同時に煙玉がとうじられる。逃げるためではなく、サヘルの光術を妨害するためのものだろう。地面を這うように迫ってくる闇の魔力が、殺気とともにその予測が正しいと宣告してくる。


 

 「敵ながらお見事、と言わせてもらう」


 「・・・ッ!?」


 しかし聖賢の御方様が支配する都市ウァーテルの中で、それらは通じない。加えて『アルケミックライト』を〈変化・錬成〉の『魔術』、と誤認している刺客たちの見当違いな対策は失敗する。


 『アルケミックライト(照射)』


 錬金成分を【認識】する一歩目の光が照射される。火力ゼロな『光術』は煙幕の妨害を物量で突破して、刺客たちに到達し『フォトンポイント(目印)』を刻み込む。それはサヘルの手指も同然に襲撃者の挙動・装備を正確にサヘルに伝達し。余波で地を這う闇の魔力を相殺した。


 「「「オオッ!!」」」「「「「「ッ・・・・・」」」」」


 同時に前衛たちの動きを硬直させ、後衛の警戒心をあおる。シャドウや陸戦師団なら火力ゼロの『光術』を知っているが。『光術』ド素人の暗殺者たちでは頭で理解しても、身体は攻撃・・魔術に抵抗すべく魔力を高め。後衛は効果を見定めようと情報収集かんさつを行う。


 中級シャドウの機動性・加速する感覚にとってそれらは致命的な隙であり。


 『アルケミックライト(反射)』


 「これはっ・・・!?」


 魔力の『光』が路地の壁・地面や着衣を『鏡面』にして乱反射する。水面・雪原でなくとも鏡面加工を施せば『光』が反射するのは当然であり。初手に『照射した光』で形成した光の膜(付与)が鏡面と成り。二手・反射しやすい『魔力光』を反射させて、刺客たちの感覚を封じる。


 「何だっ!?」「・・・ッ!」「気配を探れ!「・?・・・ッ!?」「バカなっ!!」


 空気中を漂う匂い成分、空気の振動に流れ。そして体内電流や常時放出している魔力。『気配を感じる』というのはそういう可視化されていない、微量微弱な物質を補足することであり。『五感』を超越した神の感覚に目覚めることでは無い。


 少なくともサヘルや精鋭シーフ程度の次元レベルで超感覚を使いこなすなど、自惚れ(もうそう)が過ぎるというものだ。

 よって『アルケミックライト』の光子フォトンを大量に放出し、それらを乱反射させれば。五感が無意識に【認識】している『様々な成分(気配)』を耳・鼻や皮膚に届かないよう。反射する光子に巻き込んで気配感知をかく乱させることも可能だ。


 「さあ、次で詰みだ。『アルケミックライト(透過)』!!」


 「ここだ、閃光防御!!」「「「「「「「「「「・・・ッ!」」」」」」」」」」


 暗殺者の連中が眼球を防護する。前衛はまぶたを閉じ。後衛や指揮官らしき者たちは顔を闇の仮面(魔力)で覆う。本当にイロイロと研究して模擬戦闘を行ったのだろう。サヘルは本当に感心した。




 暴行亜人(ゴブリン他)が悪知恵を働かせる。ソレと同レベルを目の当たりにしたのと、同じくらいにサヘルは驚いて。

 瞬時にその表情が凍り付く。


 「『旋風閃光』!!!」


 魔力を惜しまず、自らの身体に『加速・怪力』の強化をかける。続けて『アルケミックライト』の『鎧光・加重』をサヘルの装束にかけ、転がる大岩・落石と化して刺客の群れに突っ込んだ。


 「ぴっ!?」「がっ」「「「「「「「・・・ーッ」」」」」」」


 瞼を〈透過〉した光で一時的に盲目と化した、刺客たちの陣形が一撃で崩壊する。断末魔の叫びすら押しつぶし、路地の壁を利用して連中をひしゃげた肉塊に変えていく。


 「なっ、ばっ!?」


 「邪魔だっ」


 切り札のナイフを投じる。極細・透明で『攻撃・・光術』の後押しで加速する、不可視の連鎖はりが頭目を始末したが。今のサヘルに達成感など欠片もない。


 「くそっ、間に合えっ・・・」


 『照射』の感覚が『反射』によって建物の影に拡張された時にサヘルは気付いてしまう。


 監視役のシーフが離れて行くのを。その表情が醜悪よゆうな笑みを浮かべているのを、『錬金光術』の瞳は感知してしまった。


 

 何故『鉄砲部隊』の運用が諸刃の剣なのか。その理由は物価が上昇すること。加えて天下泰平になるまで縮小・捨てることができないからです。“金食い虫”な“呪いの剣”に等しいのが『鉄砲部隊』です。


 『一向宗』のように豊富な資金力、流通路があればマシですが。『浅井・朝倉』のように山間部の勢力は特にそのデメリットがふりかかります。さらに『戦国の覇王』が他家を滅ぼして領地を広げると、今まで『鉄砲・火薬』を購入していた流通路がいきなり“消滅”しかねません。

 まあ消滅はオーバーだとしても。闇商人に値段をふっかけられたり。最悪、織田家に火薬の相場ねだんをコントロールされる。その後は財政難から滅亡への流れが待っています。


 〔それじゃあ鉄砲部隊は縮小しよう〕などとリストラをすれば。人材は逃げ出し、“財政難”の窮状が敵国に知られ。今まで従ってきた、小豪族に侮られ見限られる。


 それが戦国時代というものであり。どんなに有用だろうと『鉄砲部隊』は戦国武将を破滅させるリスクをはらんでいると愚考します。

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