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137.歓楽の街~旋風閃の光

 戦国時代に日本に持ち込まれた『鉄砲』。『種子島』とも呼ばれた火縄銃は、戦国時代に多大な影響を与えた要素の一つです。その影響は多岐に渡るでしょう。


 その中で今回取り上げたいのは『鉄砲』の〈宣伝効果〉について。


 戦国時代、武将たちは朝廷から『官位』を得ることに躍起になりました。役職の給金はもらえず、権限は名ばかりにすぎない『官位』ですが。それを得るためには外交、工作資金わいろに敵地を通り抜けて京都に赴く実力が必要であり。


 わかりやすく実力を示す。あるいは見えにくい実力をアピールするため『朝廷の格付け(官位)』は極めて有用でしょう。

 そして『鉄砲』も同様に戦国大名の力を誇示するツールという面があると思うのです。

 悪徳の都だったウァーテル。そこで聖賢の御方(イリス)様に仕える軍団は、盗賊ギルドの暴力要員を壊滅させてやった。

 だが何事も例外は存在する。そのうちの一つが歓楽街だ。


 〔金の力で人身売買を行うなど言語道断だ。娼婦・男娼たちは解放する!〕


 かっこいい英雄サマならソレも通るかもしれない。


 しかしソレをやったら、最悪の惨劇・殺戮がいたるところで発生するだろう。“契約を破った”ことを理由にして、金を受け取った娼婦の家族たち(・・)は報復される。

 冷たい方程式だが一人を身売りにして他の家族が食いつなぐ。そういう非常手段がとれなくなれば一家全滅するか。無謀な挑戦をしてモンスターの餌食になるか。犯罪に手を染めて、不幸の連鎖が続く可能性は極めて高いだろう。


 そのためシャドウ一族・・・・・サヘルが担当になり歓楽街は現状維持ということになっている。


 ただしそれは〔歓楽街は何でも好き放題にしていい〕という意味ではない。あくまで契約を誠実に守り。【他人に迷惑をかけない】範囲で普通に生きていけるということだ。

 

 盗賊ギルドの裏工作かつどうに協力したり、他人の生き血をすすることは一切許されない。




 「・・・ッ」


 「どうかなされました?」


 「シゴトだ。今後の予定はキャンセルと伝えてくれ」


 サヘルは数軒の娼館を回って錬金光術(アルケミックライト)を使い続け。酒の品質調整(アップ)、限定的な『夜蝶宝飾アクセサリー』に浴場のお湯を清掃する。

 それらの仕事を錬金光術で行い、歓楽街の人気取りをしていた。シャドウの機動力も行使してそれなりの店を回り。


 〔新事業のお祝いで、今夜の酒代は政庁が代わりに払う。ただし風俗業がメインの店にそれは適用しない〕


 そういう不公平な扱いに対し、娼館の不満が噴出しないよう頭を下げ穴埋めをしていた。


 しかしサヘルの視界をよぎったまたたきが、アルケミックライトによる作業の終了を通告する。


 「残念です。これから楽しい夜が始まるのに」


 「?もう、日が暮れているが?まあ休ませてもらって助かった。時間ができたらまた来る」


 「お仕事無し。若様のお休みの日に。私たち(・・)の奢りで来てくださいね」


 「考えておく」


 返事をしつつサヘルは娼館の玄関から素速く通りにでる。そうして雑踏へ消えていった。


 

 

 人通りの無い路地裏。そこに入り込んだサヘルの背後から声が叩きつけられる。


 「「死ねっ、シャドウ!!」」 


 路地裏からの逃げ道をふさぎ、左右から二人がかりでシーフが襲いかかってくる。その襲撃に対し、サヘルは振り向くことなく掌打を放った。


 「「っ!?」」「ッ・・・」


 路地の暗がりしかないはずの空間。だがサヘルの手の平には確かな手ごたえがあり。暗がりから、にじみ出るようにして人影が現れる。


 「貴様っ・・・ァ」

 

 姿隠しの魔術。暗殺者が重宝する隠行であり。おおかた声を上げた二人で気を引き、隙を見せたところで透明な暗殺者が本命の攻撃を行う連携だろう。


 「ひるむなっ」「そうだ、こっちは三方から包いっ!?」


 『旋風閃光』


 複合の身体強化を発動する。

 シャドウの高速戦闘に特化した『旋風閃』。陸戦師団のパワー重視な『ランドランダー』。

 それらを併せ全身強化に近い(・・)『旋風閃光』を発動する。途端に膨大な光学情報がサヘルの頭を灼き始め。


 サヘルは掌打を放った手を握りこみ、アサシンの軽い身体を包囲の一画に片手で投げつけた。


 「・・・ッ」「ギッ」

 「おのれぇーーー」


 怒声をあげつつ無傷の襲撃者が何かを投げる。それは大量の煙を噴出し、同時に攻撃魔術の詠唱が聞こえてくる。


 『ファイァっ、ベっ!?』


 その呪文が完成する前に、サヘルは間合いを詰める。そうして足を振り上げ、術士を兼ねるシーフの顔面を半壊させた。


 「なっ!?」「くっ、どけっ!」


 折り重なった襲撃者二人が動きだす。一人は立ち上がろうとしてもがき。もう一人は動揺しつつも、サヘルの足を狩ろうと短刀をふるってきた。

 だが短刀は『浮遊する怪光(軽量化)』を付与され軌道を乱す。それにとまどう刺客の手首をサヘルは踏み砕き。反対側の足で裏路地の地面を削った。


 「ォォ・・」「ゴォォーー!?」


 地面を削った足の行く先には襲撃者二人が立ち上がれずにおり。悲鳴の有無にかかわらずふきとばされ、斜めの軌道を描き壁に叩きつけられた。

 安直に吹き飛ばして、表通りの者を巻き込んではいけない。奴等はこの場で全滅させる。


「「「・・・・・ッ」」」「「「「ーーーーーー」」」」「かかれっ!!」


 そんなサヘルの意思に呼応するかのように、十数人の刺客が疾走し跳躍してくる。乞食、黒ずくめにシーフの軽装と様々な姿の者がサヘルを包囲して襲いかかり。体術、魔術に隠し武器(暗器)が暗がりでサヘルに殺到しようと構えられ。


 『アルケミックライト』


 「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」


 しかし無数の凶器は見当違いの方向へ軌道を変える。構えられ、放たれかけた毒刃は刺客自身の身体を傷つけ。地に伏した黒ずくめが断末魔のけいれんを始める。

 

 それは『アルケミックライト』による蹂躙の始まりだった。


 

 戦国時代に『鉄砲』を入手する。それは『火薬』を入手する豊富な資金力の証だった。遠国、外国からそれらを入手する伝手を持つ証だった・・・というのは当然のことですが。


 他に着目すべき点は『人材』についてです。

 〔戦闘機の部品で一番高いのはパイロット〕という話がありますが。『鉄砲部隊』を運用するのに『人材』は極めて重要です。火薬の管理に鉄砲の維持整備。そして何より精密武装(てっぽう)を運び、手柄を立てる『訓練』にはすさまじいコストがかかります。


 単に火薬が高額という話にとどまりません。『新兵器』というのは響きがいいですが。それは弓矢のように先人の知識・『権威』がない“実績無し兵器”という意味であり。


 つまり実績のある弓兵を押しのける【手柄】が必要だった。加えて訓練・運用方法をゼロから考えなければならない。失敗したら“高額の火薬を浪費した戦犯”としてあつかわれる。それ以前に貴重な鉄砲を背負ったカモ(おいしくかせげる)として、敵から狙われる。かなり危険な兵種でしょう。


 他にも火薬、鉄砲を横領する身内へのセキュリティも必要であり。『鉄砲』を運用するのはかなり有能な証だと考えます。周りの豪族へにらみをきかせられられる程度に。

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