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136.歓楽の街~今昔:『夜蝶宝飾』

 戦国時代の『山城』は防戦に便利ですが、内政で都市を作るのには向いていない。一長一短あると言えば聞こえはいいですが。


 ある程度の大名にはデメリットのほうが大きい。同盟を結んで(雁首そろえて)も戦国の覇王に敗れた浅井、浅倉、斎藤に六角氏などは山城に頼りすぎた。依存して守勢に比重を置き、攻勢が甘いから滅亡したと愚考します。


 それでも戦国初期なら山城に籠城するのは有効な戦術だったでしょう。ですが火薬が重要になりそれに伴う経済・資金が回り始め。攻め手にも負担がかかる『兵糧攻め』を行うまでもなく。


 補給物資の価格を吊り上げるだけで、山城の維持コストは増大し。そこに住まう大名の弱体化につながったと妄想します。

 『夜蝶宝飾パピヨンジュエル』という術式がある。要は『発光』の魔術に色彩をつけ、宝飾に付与する。 

 宝石に執着しない聖賢の御方(イリス)様に仕え、極東の文化を伝えるシャドウ一族にとって。


 〔心底どうでもいい〕〔光術の修行に使えるかどうか〕


 『パピヨンジュエル』はそういう程度の術式だとサヘルたち男性陣は考えていたのだが。


 「経済の話をしましょう。物の価値についてしっかり(・・・・)学びなさい」


 「「「「「・・・・・」」」」」


 事実上の宰相イセリナ様の講義によってナニをやらかしたか教授された。



 かつて始まりの魔女導師は『合成宝石』を作ったとか。始まりの時代には珍しい、魔術師の物作り。だけど『合成宝石』はたったの一回で終わり。その後、デモン殲滅にまい進したとか。


 かつて単純にそれを〔もったいないなあ〕などと考えたものだが。

 『合成宝石』が大量生産されたら、宝石職人や宝石鉱山の関係者たちが職を失う。あるいは宝石の価値が暴落しかねない。その後に待っているのは血みどろの争いだろう。

 賭けてもいい。高価な『合成宝石』の製造を追い求めれば、呪いの宝石やイケニエ合成が必ず行われる。賢魔女はそれを見透かしていたに違いない。


「そして『夜蝶宝飾(パピヨンジュエル)』はそういう惨劇を引き起こしかねない。


  よって絶対に【戯れ】ですむよう術式に条件を刻みなさい」


 「〈条件〉の設定でよろしいのですか?御命令なら『パピヨンジュエル』は封印いたしますが」


 サヘルたちの中~下級シャドウが行使するのは『神秘では無い魔術(じゅつしき)』にすぎない。本職の魔術師・魔道具を使われれば『パピヨンジュエル』に使用制限を設けても解除されるだろう。


 「歓楽街の住人が既に知ってしまった。それに言っては悪いけど貴官サヘルが思いつく程度のこと。いずれ誰かが似たような『幻術』を編み出すでしょう」


 「ですが・・・」


 「ッ!?」「・・・!!!」「ヒッ」「・・・仰る通り。イセリナ様の仰る通りでございます!!」


 反論しようとするサヘルを周囲の受講者シャドウが押しとどめる。直接的にではない。

 だが怯えた気配がサヘルに沈黙を要求しており。さらにサヘルは気付いてしまった。


 「そういう警戒心があるのはいい。むしろ中級シャドウには必須の思考と言える。

  大事にしなさい」


 「ハハァ!!」


 「まあ今回に限り、私が“もしも”の時に備えてあげる。間接的な殺人者(詐欺師連中)が『パピヨンジュエル』をサル真似して悪用したら。


  奴等には産まれてきたことを後悔するような体験をさせて(生き地獄を)あげるよ」


 瞳が笑っていない。口が三日月を描いている。イセリナ様こんな口調だったろうか。


 そして何より重要なこと。

 激昂した際の聖賢のお・・・・・よしナニも視ていない。ナニも気付かなかった。


 そう唱えてサヘルたちは“詐欺師”の〈殺戮宣言〉を記憶の奥底に封印する。




 こういう厳命を受けてからサヘルは『パピヨンジュエル』を使うようになり。


 歓楽街の住人。小遣い、自由な時間のない女性たちに幻灯おもちゃのアクセサリーを条件つきで提供する。


 1.歓楽街にある建物けっかいの中でのみ発動する

 2.一夜のみで消えてしまう

 3.鏡に映すと幻灯の正体があらわになる


 こういう条件を設定することにより。『パピヨンジュエル』は本物の宝石・アクセサリーに数段劣る幻灯きばらしであることを周知徹底した。所詮はまやかし。いずれ女性たちも飽きるだろう。



 そんなコトを考えていたときもありました。


 「ね~若様~。私の飾りはどうですか~?」

 「ちょっと、くっつきすぎ!今度は私の番よ。ね~♡サヘルの若様~」


 「・・・・・」

 

 女性の買い物は長いというが。現在、それに近い状況に陥っていた。

 凝り性な女性は『万華鏡』のような『夜蝶宝飾アクセサリー』を作り始め。移り気な女性はアクセサリーに加え衣服に『幻灯』の刺繍ししゅうを追加するよう迫ってくる。


 無論、誇り高いシャドウの一員としてサヘルは毅然きぜんとした態度をとり。娘さんたちにガツンと言ってやった。


 「え~い。そんなにいっぺんにできるか!」


 「「「「「ッ!!」」」」」


 「『夜蝶宝飾』、『パピヨンジュエル』『夜蝶宝飾(パピヨンジュエル)』!!


   まずはこれを使って試着しろ。いや、試装?、試飾か?」


 絵の具を調合、ためておく『パレット』のように。サヘルは術式の簡易陣をテーブルや床に描いて数種類の単色『幻灯色彩』を用意する。絵の具?のようなその『幻灯色彩』へ糸やアクセサリーをくぐらせれば宝飾の試し塗りができるわけで。


 そうして娘さんが試し塗りして気に入った品に、サヘルが色彩を定着させる〈仕上げ〉を行う。いちいち『パピヨンジュエル』を女性たちの人数分、使う必要がなくなるというわけだ。




 そうして数時間が過ぎ。


 「あの・・・もう俺、魔力が切れそうなんですが」


 この娼館で一番人気の女性マリーデにサヘルは現在の窮状きゅうじょうを訴える。だがその訴えは聞き入れられることなく。


 「そんないけずなコトを仰らずに。そうですわ!魔術には色事で魔力を得る秘術があるとか。


  どうぞ存分に私を貪ってください」


 「・・・〔そんな術を使ったら、命がいくつあっても足りない!〕」


 女性たちの買い物につきあったに等しい、サヘルはそんな主張をする気力を既に失い。タマシイというものが存在するなら、半分ソレは脱けかけていた。

 こういう時は娼館の主人が止めに入るべきだろう。だが一瞬、扉を開けかけてから姿を見せない(ニゲダシタ)


 「もちろんシャドウの皆様が歓楽街に来られない女性上位(じじょう)は理解しております。

  

  ですからせめて関節の接吻キスをお楽しみくださいませ」


 ガキでもあるまいし、歓楽街の担当になったサヘルにはそれなりの経験がある。マリーデが高級娼婦とはいえ侮られてたまるものか。

 そう考えたサヘルはなけなしの体力・気力を振り絞り。シャドウ一族とC.V.様には絶対できないことを彼女に行ったのだが。


 「これはほんのお礼です。どうぞ心ゆくまで楽しんでください」


 マリーデがそれを拒むことはなく。


 「そんなことを言っても『夜蝶宝飾』は日が昇れば消えてしまうぞ」


 「『一夜の夢』も同じですわ。またいつか私にも『パピヨンジュエル』を楽しませてください」


 「・・・機会があったらな」

 

 こうしてウァーテルの夜はすぎていき。






 「サヘル君は歓楽街の担当をイロイロとがんばってね」


 「・・・・・かしこまりました」


 こうしてサヘルは役職持ちの中級シャドウへ出世した。そして本当に色々と働く。

 

 本当に心底イロイロと頑張り、当番制で『パピヨンジュエル』を使い続けることが確定した。


 時流によって強い勢力に味方する豪族ならともかく。戦国時代の後期に『山城』に頼るのは悪手だと思うのです。

 その理由は様々ですが。一番の理由は『塩』をはじめとした『補給』に関すること。戦国“乱世”において『塩』を作るのは一苦労であり。技術的なことを除いても、膨大なコストがかかります。

 山賊、乱波らっぱがあふれる乱世において。『塩』作りは〈燃料〉〈場所の確保〉に〈輸送時の護衛〉など。倍々にコストが増大していくわけで。海がない、あっても遠い。本拠地の山城に執着する大名たちにそのコストが降りかかってきます。


 もちろん大名、重臣たちは権力の威光(あつりょく)により物資を得ることは可能ですが。下級武士、民草はそういうわけにはいかず。彼らが疲弊すれば戦力・年貢を得ている勢力も結局、弱体化するでしょう。

 戦で治安が悪くなり輸送コストが増大すれば、さらに物価は上がり。重税が課されたり、密偵を兼ねる怪しい商人が潜り込み。そうなれば滅亡まで待ったなしです。


 その代表が“朝倉義景”です。信長包囲網を失敗させた凡将であり。戦国大名では珍しい“財政難”の話を小耳にはさむ武将です。戦で財政難に陥るなら同盟相手の〈浅井氏〉や他の大名も同じはずですが。

 朝倉家だけ(・・)に“財政難”のネタを聞く。塩の価格が高騰して、それに連鎖して他の物価が上がり財政難に陥った。それに有効な対策を取らなかった。そのため“財政難”の話が出てきたと、私は妄想をしています。

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